35)ルクス、また見抜かれる ④ ルクスのターン
「さて、ルクス、準備は良いか?」
妙な展開となった僕とラミー先輩の決闘。リタさんの問いに僕は「はい」と短く答える。
「では、始め!」
リタさんの声で4人の動く的は走り出し、僕は先に設置された動かない的に照準を定める。
「ターン!」ラミー先輩の銃声と違い、軽く小気味の良い音が響くと、すでにラミー先輩のペイントが付着している的に的中して新しいペイントで染める。
立て続けに次。そして次。後ろで見ている限りラミー先輩は動かない的は全て的中させていた。
僕も外す気はしない程度の難易度。僕らにとってはここまでは余興のようなものだろう。問題は動く的。
最後の動かない的、6つ目を撃ち抜くと、いよいよ本当の勝負だ。
僕が放った6発目の銃声から一拍おいて、大通りの左右両方から遠い場所で2発、それよりやや近くで2発の空砲が、手前、奥、奥、手前の順で、
パン、パン、、パン、、、、、パンと鳴る。
申し合わせた訳ではないだろうけれど、先ほどのラミー先輩の時と同じような配置。これは予想通り。
というのも、どちらか一方に偏ったり、似たような距離に位置すればそれだけ狙いを絞りやすくなる。
空砲を撃つ際、必ず顔を出さなければならないというルールがある以上、動く的側としては遠近、左右で散って、狙いを絞らせないのは常套手段だろう。
僕は小さく深呼吸をして、この場所を狩場と考え、動く的を獲物としてイメージする。
音が鳴ったのは、右の路地の角と、その奥の建物の窓際。左は手前の建物と、その奥の屋上辺り。
もちろん動く的はそのまま佇む必要はないので、移動する可能性も考慮しなければならない。
そうなると、地上にいる動く的よりも、動きが建物内に制限される分、建物の中、或いは屋上にいる相手の方が狙うには良い。
この段階で右の路地にいる動く的は狙いから除外。そうすると左サイドの建物内にいる2人の方が効率が良いように感じるが、さっきは右サイドの奥にビアンカがいた。
ビアンカには申し訳ないが、このメンツの中では技術でいえばボーナスキャラのような存在だ。
そのように考えていると、再び、
パン、パン、、パン、、、、、パンと2度目の4発の空砲。
多少の上下はあるが、先ほどの場所から大きな動きはない。
僕は右奥の建物に潜む的へと銃口を向け、スコープを覗く。
3回目の空砲に併せ、僕は引き金を引く。はずれ。
再び右奥に照準を定め、、、、、、その間、僕は左の建物から人が顔を出す気配を探っていた。
本当のターゲットが動く気配を察知して、事前に当たりをつけていた場所へ銃口をすっと動かし、間髪入れずに引き金を引く。
僕を狙うように、こちらに銃口を向けたルルーさんの腕に、ペイント弾が当たるのがスコープから見えた。
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結局僕がHITできたのもルルーさん1人。得点は同じ7点で引き分け。
僕は大きく息を吐き、ぐっと伸びをして、4人が戻ってくるのを待つ。
4人揃ってではあるが、大股で一番先に僕の元へ歩いてくるのはルルーさんだ。
「おいおい、おいおい! やってくれたな! ルクス!」
本気で怒っているのか、冗談なのかは判然としないが、悔しさを隠さぬ表情で僕に詰め寄る。
「なんで私を狙った? なんで私が”狙えた”!?」
つかみ掛からんばかりに僕の鼻先まで顔を近づけたルルーさんをリタさんが「どうどう」となだめる。
「私は牛じゃねえ!」とリタさんの手を振り払ったルルーさんだが、少し冷静になったのか僕からも距離をとる。
「しかし私も聞きたいね。狙うならビアンカか、百歩譲ってもサラースが無難だと思うが?」
リタさんから”狙いやすい”と指名された2人ではあるが、当の本人たちも理由を聞きたそうである。ラミー先輩もだ。
僕は仕方ないと少しため息をついて、「あくまで僕の考えなので、実際の動きと合っているかわかりませんよ?」と前置きをして、ルルーさんを狙った理由を話し始める。
まず、前提として奥に行ったのはビアンカとサラース先輩なのは間違いない。狙われやすい2人は当然、狙撃難易度の上がる遠距離に場所を確保するはずだ。
次に気になったのは空砲の間隔だ。ラミー先輩の時から空砲はほぼ、パン、パン、、パン、、、、、パンという間隔だった。最初の2発は間髪なしに。そのあと一拍して一発。それから結構空いて、最後の1人。
最初の一発はリタさんかルルーさんだ。理由は音が鳴った場所が手前、奥、奥、手前だったのが一つ。加えて最初に撃った人は狙われやすいことを考えれば、経験豊富な2人の教官のどちらかと考えるのが自然。
1発目の空砲にすぐに反応したのは多分ビアンカ、次がサラース先輩だと思う。これは余裕のない順。
で、僕は1発目はリタさん。最後に遅れて撃っているのはルルーさんと踏んだ。
理由は簡単。ルルーさんは生徒のフォローよりも、目立つのを好みそうだから。一番最後にわざと遅れて音を出して遊んでいるようにすら見えた。
自分はここにいるぞ、というアピールみたいな感じ。
その上で、僕が一番狙撃しやすい相手を考えると
ビアンカは先ほどの対戦と、ラミー先輩の弾にも当たったことでかなりの警戒心を抱いている。警戒した小動物は巣穴から出てこない。
路地にいたリタさんは、移動範囲が広く、なおかつ僕の実力を高く買ってくれている。しなやかでスピードがあり、警戒心の強い猛獣。これを狙うのは大変だ。
サラース先輩は僕を、というよりもラミー先輩の腕は十分に認めている。そのラミー先輩が指名した僕に対する警戒心は決して低くないだろう。獲物としては狙えなくもないけれど、あぶり出すには策がいる。
残るルルーさん。獲物としてはリタさんクラスの猛獣であることは間違いない。だけど、僕のことを一番「舐めてくれている」のは彼女だ。
リタさんに話を聞いてはいたけれど、まだどこかに余裕を見せている。現に彼女の空砲の鳴る場所は2発目も、3発目も同じだった。
恐ろしい猛獣でも、警戒していないのであれば、
狙える。
一応フリとしてビアンカを狙うそぶりを見せた僕に、ルルーさんは後半、ほんの少し緩みを見せた。「やっぱり狙いはビアンカか」と。そこを突いたのだ。
「、、、と、ルルーさんを狙ったのは、こんな理由ですけど?」
僕の話を黙って聞いていた、リタさん、ルルーさん、ラミー先輩、サラース先輩、ビアンカ。
「こんな短い時間で、、、そんな事を考えていたのかい?」サラース先輩が呆れた声を出す。
「はぁ、でも、ラミー先輩の時も見ていましたから。後攻の僕の方が有利でした」
そのようにいうと、どこからともなく忍び笑いが聞こえ、それが次第に大きくなってきた。声の主は、、、ラミー先輩だ。
「、、、、ラミー?」心配そうにサラース先輩が声をかける。
ひとしきり笑って、目尻に溜まった涙を拭くと。清々しい顔で「私の負けだ」と言った。
「え? いや、同点ですよ?」
「いや、ビアンカには悪いが君の言葉を借りるなら、仕留めた獲物の”格”が違う。これは、私の負けだ」
「え? でも」僕がなにか言いかけた時に、ルルーさんが僕の首に腕を回して
「ラミーがそう言っているんだからお前の勝ちだろ! 私を狙撃したんだからな!」
そう笑い、こうして奇妙なゲームの勝者は僕となったのだった。
一学期編はここまで!
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明日から夏休み編更新です
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