34)ルクス、また見抜かれる ③ ラミー先輩は不満。
僕とビアンカの2戦目も僕の圧勝だった。
ルルーさんに呼ばれ、全員が一旦集合する。
ビアンカは額をペイントで汚しながら俯いている。
僕がなんと声をかけて良いか言葉を探していると、ビアンカはキッと僕を睨み、指を指した。
「きょ、今日は負けたけど、次は絶対に負けないんだから! 覚悟しておきなさいよ! また勝負するんだから!!」
ちょっと涙目で言ってきた。。。ビアンカ、こんなキャラだったっけ? まぁ、元気で良かったと密かに胸をなでおろす。
「お、その威勢なら大丈夫だな。「もうやめる〜」とか泣き出さないか心配だったんだぞ!」がははと1人笑うルルーさん。
うーん。ルルーさんはもう少しデリカシーを覚えた方がいいと思うんだ。僕。
とりあえずルルーさんは無視して、「うん、またやろう」とビアンカには無難な返答を返しておいた。
まさかこの翌日に「次の勝負はいつよ!」と言ってくるとはこの時は思いもしていなかったけれど。夏休暇目前で本当に良かった。
「それじゃ、ま、本日のメインイベントだな」
デリカシーという言葉を戦場に捨ててきたであろうルルーさんがサクサクと取り仕切ってゆく。
僕がラミー先輩の方に視線をやると、ラミー先輩は何やら渋い顔で空を見て何か考え事をしていた。
ラミー先輩の様子がおかしい事に皆が気づき、注目が集まるも当人は先ほどから動かない。
「ラミー?」サラース先輩が声をかけると、パッとこちらを向いて「フェアではないな」と口にした。
僕はてっきり先ほどの勝負、特に一回めの遠距離射撃のことを言っているかと思った。
他の人もそう思ったらしく、ルルーさんが
「おいおい、確かに射程距離の違いはあるが、2回戦を見ての通りはっきりとした実力通りだと思うぞ」
と言ってくれた。そのように言われたらラミー先輩はきょとんとした顔で首をかしげ「なんの話ですか?」とルルーさんに聞いた。
「なんの話って、、、お前大丈夫か?」噛み合わない会話の2人。リタさんが助け舟を出す。
「ラミー、”フェアじゃない”というのはなんのことだ?」
「それはもちろん、私のことですよ?」
「、、、もう少しわかるように話してくれるか」
「私は対抗戦とビアンカとの対決と、2度、間近でルクスの対戦を見ています。言うなれば彼の手の内を一方的に見た事になる。対して私はカードを隠したまま。これはフェアではありません」
、、、、、そういうことか。
「そんなこと言ったってなぁ、じゃあ、先にそこのビアンカか、サラースと一戦やるか?」ルルーさんが聞く。
ビアンカはフルフルと首を振る。
「サラースとは、、、何か違う気がします」ラミー先輩がいうと
「やってもいいんですが、僕らは手の内を知りすぎているので、多分すごく時間がかかるかと、、、かと言って手を抜くのもですし」
サラース先輩がちょっと困った顔でルルーさんに答えると、
「これだから動かない兵種は面倒だ! おい、もう、適当な距離をとって正面で撃ち合えよ」
と非常に乱暴な案が提案される。この人ちょっと飽きてきたんじゃないかな?
と、それまであまり言葉を挟まずに経緯を見守っていたリタさんが、改めて提案する。
「では、ちゃんとした対決はまたの機会として、ここは、そうだな。お互いに挨拶代わりと言うことで、こんなゲームはどうだ?」
リタさんが提案したのは、目標となる的を10個設置して、それを同じ場所から撃って何発当たるかと言うもの。
10箇所のうち4つは動く的とする。
「どうやって動かすんだ?」ルルーさんの問いには、「暇なのが4人いるだろ、ここに」とルルーさんを指差す。
開始と同時に射程範囲内で動き始める。ただし僕とラミー先輩は動かない6つの的を最低でも一回ずつ狙わなければ、4人を撃つことはできない。また、動かない的がポイントに加算されるのは1回のみ。2射目はノーポイントとなる。
逃げる4人は建物内に入ってもいいが、合計4回、顔を出して僕らに向かって空砲を撃たねばならない。
ただし、4回連発はダメ。常に移動する必要はないが、1回ずつ間を開ける事。それと、プレイヤーが6発撃つまでは空砲を撃っても無効だ。
そして4回空砲を撃てたらその人は逃げ切りとなる。
「思いつきだから荒いところもあると思うが、ざっくりとはこんなルールだね。どうかな?」
「ふーん、思いつきにしちゃあ、面白そうじゃねえか。うまくいったら今度授業で使ってもいいんじゃねえか?」
ルルーさんが気に入り、ラミー先輩からも異論はなかったので、急遽、リタさんの考案したゲームでポイントを争う事になった。
なんだか妙な事になってきたなぁ。
動かない的はリタさんが用意してくれた。それを教官の2人が、適当な場所に設置する。建物の窓を開けた先など、教官としての経験からか、絶妙な場所に設置するあたりは流石だ。さらに2色のペイント弾を用意して、どちらが当たったか分かるようになっている。
「よし、準備できた」リタさんとルルーさんが戻ってくる。先攻は本人の希望でラミー先輩。さっきのフェアじゃないと言うのを気にしているみたい。
いよいよゲーム開始だ。
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「開始!」の掛け声とともに、リタさん、ルルーさん、サラース先輩、ビアンカの4人が走り出す。
サラース先輩とビアンカは機動性を考慮し狙撃銃ではなく短銃を装備。
すっと構えるラミー先輩の銃は、やはり普通の狙撃銃ではない。
銃身は僕の愛銃と同じく、量産品よりもやや長め。最大の特徴は銃の一番後ろの部分、銃床と呼ばれる部分に、折りたたみ式のつっかえ棒がついている。
つっかえ棒を伸ばすと、体を後ろに預けることもできる。自分の足に1本足して、3本の足で支えるような感じだ。
そして、それだけ支えが必要ということは、、、
ラミー先輩が引き金を引くと「ダンっ」という音が響き、1つ目の的に命中する。
僕の銃の「ターン」という音よりも重い。支えがあるから、もしかしてと思ったけれど、やっぱり威力重視の狙撃銃だ。
かなり癖がありそうな銃だなぁ。
そんなことを僕が思っているうちに、動かない的はすでに5発が撃ち抜かれ。残りは1つ。
この1つも確実にHITさせると、いよいよ動く的相手となる。
早々に「パンっ」と乾いた音がしたのは、大通りの右手の建物。
次いでもう少し手前の左の建物からも空砲がなる。
これ、4人相手はかなり難しいぞ。みんな隙あらば空砲を撃つから、1つに狙いを絞っている間に切り抜けるエネミーが出てきてしまう。
かと言って、空砲をいちいち追っていては、展開に追いつけない。
ラミー先輩もその事には気づいて、狙う相手を絞る方向にシフトしたようだ。
ビアンカには申し訳ないが、一番のねらい目は1年生のビアンカ。次いでサラース先輩。
あたりをつけた相手がリタさんかルルーさんだと、狙撃する難易度が跳ね上がる。
すでに全員1発づつ空砲が鳴っており、それぞれの居場所は大体把握できた。どの空砲が誰かはまだ分からないけれど。
ラミー先輩は、一度スコープから目を離すと、ぐるりと周囲を見渡し、再び狙撃体制に入る。狙いを絞ったようだ。
その間に再び全員が2発目の空砲を打ち終える。
狙っているのは一番遠い右の建物の屋上だ。一瞬の沈黙の後、人影が現れると同時に「ダンっ」と重い音とともに、模擬弾が放たれる。
外れた!
3度目の空砲が3発聞こえる、そして4人目。左奥の窓から顔を出す人影に、再びラミー先輩の銃が火を吹く!
これも惜しくも外れ。
ついにエネミー側は最後の4発目。その時だった。再び屋上へ銃身を向け待ち構えていたラミー先輩の弾丸がエネミーの1人を撃ち抜いた!
残る3人から4発目の空砲が鳴ってゲーム終了。ラミー先輩の最終得点は合計7点となった。
一旦全員集合。狙撃されたのはビアンカだ。
「これ、結構おもしれえな。動く方は得点を上げた方がもっと面白くなるかもな」
ルルーさんはかなり気に入ったようだ。
「その辺は、調整が必要だろうな」リタさんも手応えがあったらしい、本当に授業で使うかもしれないようなことを話している。
「さて、一旦ちょっと休憩したら、次、やるか!」
ルルーさんが僕を見る。次は僕の番だ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日7時ごろの更新予定で人物、用語辞典をアップします。
特に読まなくても本編に影響はありませんが、お暇な方はどうぞです。




