3)遅れて来た新入生②
僕の担任になるフォル先生が教室の扉を押すと、きぃ、と小さな音がして開く。すると隙間から漏れ聞こえていたざわめきがピタリと止んだ。
「入れ」
フォル先生の言葉に従い入室した途端、ルクスに生徒の視線が集中する。村でこんなに注目された事はないから、ちょっと緊張する。
「えーでは、今日からこのクラスに入るルクスだ、ルクス、挨拶を」
フォル先生の簡素な紹介の後を受け、ルクスは一度深呼吸をしてから
「フルト=ルクスです。南の村からきました。えーと、兵種は狙撃手です。よろしくお願いします」
とぺこりと挨拶をすると、まばらな拍手と「よろしくー」と言うハインツの声が教室に響く。
「席は、、、空いているのは3つか。その窓際でいいだろう。そこに座れ」
窓際の前から三番目の席に座り、ロングライフルを立てかける。
と、横から小さな声で「よろしくね」と声をかけられて振り向くと、栗毛の可愛らしい娘が微笑んでいた。
「よ、よろしく」ちょっとドギマギしながらなんとか返事をして、名前を聞こうと思ったところでフォル先生が教壇で喋り始めた。
「さて、今日からのルクスは流れを見ておけ。ソニア、隣の席だから色々教えてやれ。座学に関しては自習で追いついてもらう。とりあえず今日は分からなくてもノートに取っておくことだ。訓練の方は、、、見学だな。それから、チームだけは決めておかないとな。。。。」
「はい! せんせー、俺んところ狙撃手欲しいでーす!」元気に声を上げたのはハインツ。
「そうだな、人数的にもそれが良かろう。ではチームBに入れる」
ルクスのあずかり知らぬところで、次々と話が進んで行く。少々困惑気味に聞いていたが、隣のソニアと呼ばれた少女から
「私もチームBだから、一緒だね」
と声をかけられたのでチームBも悪くないんじゃないかなと思った。チームBがなんだか分からないけど。
その後、午前中はとにかく必死になって黒板に書かれた文字をノートにとった。そうしているとあっという間にお昼休みになる。昼食は寮母さんがお弁当を持たせてくれている。
「ルクス! チームのメンバーを紹介するから一緒にお昼食べようよ!」とのハインツのありがたい誘いにより、僕を含めた8人で中庭に移動。
それからみんなで輪になってそれぞれ自己紹介。
「ルクスは今日は覚えなきゃいけないことが多いから、名前は追い追い覚えてくれれば良いよ」
との言葉に甘えて、順々に覚えていこう思う。
「それで、チームって?」
ルクスの質問にはみんながこぞって教えてくれる。良い人達で良かった。
みんなの話を要約すると、この学校では全員チームとサークルに所属しなければならないらしい。
まずチームは各クラス内で7〜10人程度で構成される擬似小隊のこと。様々な兵種とともに訓練することでお互いの適性を知ることが主目的で、合わせて小隊として団体行動を学ぶ場となっている。
大体1クラスで3チーム作り、年に二回あるチーム対抗戦の成績が良いと、通常より高い階級で卒業できる。
上位階級で卒業となれば箔がつくため、多くの生徒が対抗戦の優勝を大きな目標にしているのだとか。へえ。
「まぁ、俺たちはそれ程ガツガツしてないチームだから、勝てたらラッキー、くらいだよ」
ハインツがサンドイッチを頬張りながら言った。
そしてもう一つのサークルだけど、これはもう所属が決まっている。こちらは各兵種で強制加入となるので、僕は狙撃手のサークルだ。
チームと違い、こちらは同タイプの兵種の切磋琢磨や、有用なパーツの情報共有などの相互関係を目指したもので、基本的に縛りはゆるい。
同じ兵種同士仲良くやっていこうねと言う感じらしい。
学園としては各兵種で上がってくる要望や、技術的な不満を把握できると言う側面もあると教えてもらった。
「ま、サークルの方は部長に挨拶だけしておけば、あとはたまに集会があるくらいだよ」
こちらもハインツがまとめてくれた。
その後は僕の田舎の話などで盛り上がり、初めての昼食はなかなか良い感じに終わりを迎えたのだった。
、、、教室から、ちょっと不快そうに見つめるクラスメイト達を除いては。
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午後は実地訓練がメイン。僕は見学。
座学よりも訓練にこそ重きを置いている本学園では、訓練場が広大な敷地の半分を占める。
その日の訓練で僕たちが連れて行かれたのは、第二平坦訓練場と呼ばれるところ。
ここは長方形の平坦なグラウンドとなっていて、雑木林を挟んで前後左右それぞれ6つの同じ訓練場が並んでいると教えてもらった。
訓練の教官はフォル先生ではなく、筋肉質な老兵と言った見た目の教官だった。
その教官が「さて、では、、、」と言いかけたところで、「先生! 宜しいですか」と手を上げる生徒が。
ルクスはまだ話したことのない、身なりの良さそうな少年。僕よりも少し年齢は上かもしれない。
横にいたハインツが「げっ、サクソンがまた何か余計なこと言いそう、、」と苦い顔をする。
「なんだね? サクソン君」
指名されたサクソンは立ち上がり、なぜか僕を見てニヤリと笑う。
「今日は新入生がいますので、彼の実力を見せてもらうのも今後のためになると思います」
と宣言するように声を張る。
「、、、、うむ。確かに一理あるな」と言った老兵教官はルクスを見る。
そこに畳み掛けるようにサクソンが続けた
「はい! 教官、せっかくなのであの的を狙ってもらうのは如何ですか」
指差したのは広い訓練施設の一番端にある的。
老兵教官は少々考えたのち、
「狙撃手ならば、いずれはあの位の距離も当てねばなるまい。よし、試しにやってみなさい」
そう言って僕に準備を促した。
次回、狙撃!