29)祝勝会① 美味しい時間。
今日の日記
ゼス達と戦った日、上級生に勝利した僕らが校舎へ戻ると、歓声を持って迎えられた。自分のクラスだけではない、1年生全てのクラスからだ。少し恥ずかしかったけれど、手を振って応じた。
翌日はロイ君が率いるブルーシェルの試合があったが、くじ運悪く相手は3年生。
流石に初陣で3年生相手ではどうにもならず、負けてしまった。
そして僕ら、チームキャトラプの2回戦の相手はゼス達と同じ2年生チーム。
僕らは、清々しいほどにあっさりと負けた。
対抗戦は全てゼスのチームに勝つために動いていたから、自分たちでも納得の敗北だ。
それでも今回の対抗戦で2年生チームに勝った1年生チームは、1-Aの1チームと僕らの2組だけ。
チームキャトラプは一躍名前を馳せて、初めての対抗戦は幕を閉じたのだった。
そして今日、対抗戦が終了した翌日はお休み。
僕らは集まって街へと繰り出す。目的はもちろん、絶品だというトッドの店のお菓子だ。
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朝から日差しの元気の良いロドンの街は、相変わらず賑やかで、田舎者の僕はまだ少し慣れない。
それでもみんなと歩いているので、はぐれるような事はなかった。
ご機嫌そうに鼻歌を歌っているのはハナと、ハインツ。
実はトッドの店のお菓子をGETしたら、その足で洋館へ向かう予定なのだ。
2人にとっては満を持しての洋館来訪である。
昨日まで対抗戦が行われていたから、洋館の主人、リンカートさんのスケジュールは確認していない。
ただ、リンカートさんは学園がお休みの日なら大抵いると言っていたからいる可能性は高いと思う。
残念ながら不在だったら、いつもの校舎の中庭でみんなでお菓子を食べよう。
「あ、あった! あそこだ!」ラット君が指差した先は、すでに長い行列ができていて、なるほど人気の高さが伺える。
僕が感心しながら眺めていると、心の中を読んだように、
「しかも、並んでも買えるとは限らないんだよ」とラット君が捕捉してくれた。
トッドの店のお菓子はオーナーのトッドさんが納得した素材しか使わない。
そしてそれはその日の仕入れを見て見ないと分からない。だから、いっぱい売り出される日もあれば、ほんの少ししか店頭に出ないこともあるそうだ。僕らの分は大丈夫かな?
僕が行列にふらふらと並びに行くのを、マリアが袖をつかんで止める。
「ルクス。私たちはそっちじゃないよ。こっち」と、店舗横の細い路地へと連れていかれる。
路地を抜けるとそこは大通りの喧騒が嘘のような閑散とした通りだった。それもそのはず。お店は全て表通りに向いており、この路地にはお店の裏口か、民家くらいしかない。裏口から声をかけるのだろうか?
マリアはトッドさんのお店の裏口には目をくれず、お店から3軒先の路地を挟んで反対にある民家の扉を手慣れたように押し開いた。
「マリア?」僕らがぽかんとしているうちに、マリアは中に入って行ってしまう。
実はラミー先輩から受け取った「引換券」は貴族が買い物するときに使うチケットと聞いたので、その辺を分かっているマリアにお任せにしていたのだ。
一旦民家に姿を消したマリアが、再び顔を出して「どうしたの? こっちだよ」とみんなに声をかける。
マリアに誘われ少し恐る恐る民家の扉をくぐると、、、
「うわぁ!」驚きの声を上げたソニアとハナ。
そこにあったのは、間違いなくお菓子屋さん。お客は僕たちだけだ。
「これは、、、驚いたね、、、この街に住んでいるけど知らなかったよ、、、」リックさんが物珍しそうにお店の中を見聞する横で、
「へぇ、つまり貴族専用のお店ってことか。貴族様様だなぁ」とフランクが思ったことをそのまま口にする。
それを聞いたマリアは怒るでもなく
「うん。分けないと貴族が人を使って買い占めたりしちゃうから、こうやって分けたんだって。こっちは数日前までに予約したお客さんしか買えないから、余ったらちゃんと表の店舗に回されるよ」
と説明してくれた。なるほど、理にかなっている気がする。
「なるほどなぁ」フランクも素直に感心していた。
「それでね、今日の予約は私たちだけだって」
「それってつまり、、、」
「うん。ここにあるお菓子はどれでも選びたい放題だよ! でも、食べきれる分だけね!」
「いやっほう!!」ラット君が歓声を上げる。
みんながあれこれとお菓子を物色しているのをハインツが一歩下がった場所から眺めていた。
それに気づいた僕はそちらに近づき声をかける。
「ハインツは選ばないの?」
「俺はそこまでお菓子に愛がないからね。みんなに任せるさ」
「ふうん」
「それよりもラミー先輩も粋な事するなって感心してた」
「?」
「さっきマリアが言っていたろ、「数日前に予約しないと」って。じゃあ、ラミー先輩はいつこのチケットを用意したのか」
「なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。僕は確かに勝つ自信があると言ったけれど、ラミー先輩はあの言葉を聞いてすぐにチケットを用意したのだろうか。
「ラミー先輩はすごいなぁ」僕が呟くと
「貴族なのに狙撃手だし、結構底の知れないとこ、あるよね」ハインツも同意した。
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食べきれる分だけのお菓子を購入し(と言っても代金はラミー先輩持ちだけど)、学園に戻る前にリタさんの家へと向かう。
留守番していた妹にリタさんの分とお菓子のおすそ分け。
ノリスと少しおしゃべりをして、今度こそ学園へときた道を戻る。
「、、、、こんな所に道があったなんて、、、」
初めて洋館に行くハインツ、ハナ、マリア、ラック君の4人は驚きながらも、小径をついてくる。
「すごい、、、」洋館の薔薇のゲートを見たマリアとハナが、うっとりと口にすると、ソニアが「でしょう」と満足そうに言った。
僕は洋館の2階に目を向けるも、今日は白いドレスの女性は見当たらない。
「こんにちは〜、リンカートさん、いらっしゃいますか〜」
リックさんが声をかけると
「はいはい」と庭の方から声がした。みんなでそこへ向かう。
「あ、リンカートさん、こんにちは! この間言っていた、僕らの仲間を連れてきました。トッドの店のお菓子も持ってきたので、ご迷惑でなければ挨拶させてください」
リックさんが訪問の用件を伝えると
「あら、トッドの店って、あの有名な? 嬉しいわぁ、もちろん大歓迎よ。今お茶の準備をするわ。座って待っていてね」
こうしてささやかな祝勝会は、学園の隅にある瀟洒な洋館でその幕が上がったのだ。




