26)対抗戦② ルクスの狙い
対抗戦の開始の合図となる空砲が鳴る。
音を聞いて北の通りから実戦エリア内へと走り出した僕ら。
「じゃあ、予定通りに」と言って僕はマリア達と早々に別れる。
みんなは前回陣地とした所とは、違う場所に拠点を構えるはずだ。
「ルクス、気をつけて」「うん。ソニアも」
ソニアと並走していた僕は、目印にしていた場所で別方向へと向かう。
前回の練習試合同様に、木の上に登り相手チーム、ジェンティスの動きを探ろうとする。
ただし今回は、狙撃のしやすさ重視で登る木を選んだ。
スルスルと木を登り、丘の方を見渡すと、ジェンティスの面々が前回同様に北西の丘へと向かっている所だった。
ここまでは予想通り。
相手チームが練習試合同様の場所に布陣してくれるかは、最初のポイントだった。僕らの中では結構勝率の高い賭けだったけど。
僕らは前回ボロボロに負けているし、1年生チームは多くが森の中の陣地を取る。
なぜなら見晴らしのいい場所だと同学年同士ならともかく、2年、3年生相手に守り切れるだけの戦力がまだ無い。
敵は僕らに突撃系の兵種が少ないことも知っているから、わざわざ同じ土俵に立つ必要はないと考えるはず。
で、あれば丘のどちらかに布陣する可能性は高いし、前回の様子をみればゼスという騎士は連携よりも保身を選ぶタイプだったから、一見安全そうに見える北西の丘に行くのではないかというのが、僕たちの総意だ。
そして彼らは案の定、丘への布陣を始めた所。僕はライフルを準備しながら、敵の動きを見ている。
流石に練習試合と違って守備に銃撃兵を1人置くかなと思ったけれど、布陣が完成した彼らは、前回と同じように騎士と守備の重装兵、実質非戦闘員の工作兵を残し、全員が丘を駆け下りて行った。舐められてるなぁ、僕たち。
駆け下りて言った4人の銃撃兵、遊撃兵、それに2人の槍撃兵。
僕たちが注意しておきたいのは、槍撃兵の2人。重装兵は槍撃兵の攻撃でのみ撃破認定となる。
これは重装兵には通常の弾丸は通りにくいが、槍撃兵であれば破られてしまうという実際の戦場に即したものだ。
で、予想よりも早くマリアが発見されてしまった場合、僕らの重装兵はリックさん1人。2人掛りで槍撃兵に攻められるのは厳しい。
ただ、槍撃兵は総じて速度はないので、うまく誘導できれば時間は稼げるはずだ。
僕は未だに様子を見ながら息を潜めている。
と、背の高い草が生い茂る草原の中から、ピョコリと顔を出すものが。ハナだ。
「いたぞ!」敵の生徒の誰かが叫ぶ声が、風に乗って小さく聞こえてくる。
ハナはしまったという風に慌てて森の方へと駆けてゆく。前回僕らが陣取った方向だ。
何の疑問も持たずに、敵は獲物を見つけた腹ペコの狼のように、ハナを追って駆けてゆく。
「かかった!」僕は木の上で小さく快哉を上げた。
ハナは囮である。このままハナを追いかけてゆくと、ハインツとラックくんが待ち構える死地へと引き込まれるのだ。
もちろんそこにはマリア達はいない。
数は3対6と圧倒的に不利だが、僕らの狙いは時間稼ぎ。6人をその場に足止めできるのであればそれでいい。
そのための罠も工作兵のフランクが仕上げてくれているはずだ。
再び風に乗って、タン! ターン! と銃声が耳に届く。始まったな。
それから少し時間をおいて、僕はゆっくりと丘へ向けて銃を構えた。
スコープからは敵の騎士、ゼスの呑気な表情が見える。僕はスコープを横へと動かして、丘の斜面、何でもないところへ向けて一発の弾丸を放つ。
パーン!!
僕の放った弾丸が地面に吸い込まれると同時に、丘の中腹で、中型のペイント弾が弾け、ペイントが派手に飛散するのが見えた。
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練習試合の夜、僕が思いついた作戦。それが実行可能かどうか。
その日僕はいてもたってもいられず、思いついた足でフォル先生のいる教務員室へと走った。
幸いフォル先生はまだいて、足を投げ出して椅子に座り、天井を見上げてぼんやりしていた。
こんな時間に来た僕がいう事ではないけれど、やることがないのなら帰ればいいのに。
「こんな時間に何の用だ?」
僕は夜間の訪問の非礼を詫びると、そのまま勢い込んでいくつかの質問をする。
その勢いに押されたのか、少々不機嫌そうだったフォル先生も、質問にはちゃんと答えてくれた。
1つ。槍撃兵が使う中型の魔弾、および対抗戦で使用されるペイント弾は、僕の使うペイント弾で撃ったらどうなるのか?
答えは「その場で爆発する」だ。1つクリア。
2つ。そのペイント弾は地中に埋めて数日持たすことは可能か?
答えは「本来の魔弾同様に、1日くらいなら持つだろう」とのこと。魔弾は時間が経つと魔力が漏れて霧散してしまうのだと初めて知った。
でも、1日持つならOKだ。2つ目、クリア。
3つ。対抗戦前に『罠を仕掛けて』おくことは、ルール上可能か。
ここまで聞いたところで、フォル先生も僕が何をしたいのか理解したようだった。
「何年かに1人、お前みたいな妙なことを考える奴がいる。答えはYESだ。模擬戦とはいえ戦争だぞ? 情報戦もしかり、地形戦もしかり。自分たちに有利になるための奇策、上等じゃないか」
と珍しく機嫌が良さそうに笑う。
「ただし条件がある。試合終了後、仕掛けた罠は全て撤去すること。それに当日立ち会う審判の教官には伝えておくことだ」
それならば何の問題もない。
僕はラット君とフランクと相談して、対抗試合の前日に、地雷をフィールドに埋めることにしたのだ。
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なるべくペイントが空中に飛び散るように、筒の中にペイント弾を込めるという工夫をフランクが考えてくれたおかげで、普通に着弾するよりも派手にペイントが飛び散り、ゼス達が慌て始める。
さぁ、反撃開始といこうじゃないか。




