20)テスト勉強の時間
今日の日記
僕が練習試合の後に考えた作戦。それをフォル先生にルール違反ではないか聞いたところ、直接的でなければOKとの返答だった。
「何年かに一度、お前みたいな妙なことを考える奴がいる」と言っていたので、僕が初めてではなかったのだ。
フォル先生から許可をもらった僕は、その足で工作兵のフランクと、槍撃兵のラット君に相談を持ちかける。二人とも驚いていたけれど、面白そうだと乗り気だった。
実際にできるかどうか試さないといけないから、みんなに話すのはもう少し先になるかもしれないな。
話題は変わるけれど、もうすぐ夏。
対抗戦が終わったら1ヶ月の夏休暇になるらしい。
ただし、座学の一斉テストの成績次第では補習なんだって。僕は入学には遅れたけれど、夜も頑張って追いつけるように勉強した。妹のためにもリタさんをがっかりさせたくなかったから。
おかげで小テストの成績は良いとまでは言わないけれど、真ん中よりやや上にいる。
キャトラプの中では、マリアとソニアが成績上位の2トップ。ちなみに学年一位はロナ君だ。さすが。
で、補習の危機に恐々としているのが、、、、、ハインツとハナだった。
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「夏休暇はどうするの? 帰省?」
お昼休みに聞いてきたのはマリアだ。
「うーん。南の村には家族はいないし、リタさんや妹の状況によるけれど、基本的には寮でのんびりかなぁ」
僕の妹がリタさんの家に居候している事はチーム内では周知の事実となっている。
というか、初めてリタさんの家に行った後、メンツは違えど2度ほどお邪魔しているのだ。
最初の印象の通りノリスと同年代だったマリアは、妹と随分と意気投合したようだった。
「私も、まだ両親が入学に納得していないところがあるから寮かな」とはソニア。ソニアはリタさんに憧れ、両親の反対を押し切ってこの学園に入学して来たのだ。
「あ、俺も寮だね。ルクス、夏休暇中は釣りにでも行こうよ」
「え、ハインツも寮なんだ? 帰らないの?」
「うち、ちょっと遠いんだよ。帰るのは年に一回くらいでいいよ」
という。なんにせよハインツがいるなら退屈せずに済みそうだ。
「私はこの街出身なのであんまり変わらないですね、、でござる」
ハナはロドンの街に実家があるので、そこから通っている。
「私は妻と旅行に行ってくるよ」とはリックさん。安定した給金も出るようになったし、奥さんを労いたいそうだ。
ラット君とフランクは帰省。実家から帰ってくるように手紙がきているとの事。
「マリアも帰るんだろ?」マリアは国内でも有数の貴族、ベル家のご令嬢だ。実家からも帰ってこいと催促が来ていることだろう。
「うん。それなんだけどね、もし良ければ居残り組のみんな、ルクスや、ハインツ、ソニアちゃん、ハナもうちに一緒に行かない? もちろんノリスちゃんも。なんならリタさんも」
どういう事かといえば、マリアの実家では公主の言とはいえマリアを学園に入れた事を後ろめたく感じているようだ。かつ、マリアのおとなしい性格で、軍事学園などという物騒極まりない学校で無事に生活しているのか、心配で仕方ないらしい。
「セバスさんが定期的に報告を入れているのだけど、、、」
セバスさんとは、この街にマリアのために押さえている一軒家の執事長を勤めている御仁。
綺麗に整えられたひげとオールバックの銀髪がトレードマークのお爺さんだ。
マリアの送り迎えのため、よく校門で待っているので何度か挨拶をしたこともある。
つまり、マリアとしては仲間と楽しくやっていますよという事を両親にアピールしたいのだ。その代わりと言ってはなんだが、旅費や滞在費は全てベル家が持ってくれるそうだ。
「僕はありがたいけど、他のみんなはどう?」
「私も行きたい!」とソニアはすぐに賛同する。
そこで一瞬の沈黙。普段なら真っ先に乗ってきそうなハインツとハナが渋い顔をしている。
「どうしたの?」僕が聞くと
「、、、、とても魅力的なお誘いだけど、、、その前に大事なことがある」
「大事なこと?」
「、、、僕は補習の可能性が捨てきれないという事実だ」とハインツが大仰に両手を広げて嘆息すると、ハナも全く同じポーズで首を振る。。。。
勉強すれば?
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「見捨てないでくれよー、おいてかないでくれよー」「ござるー」
というハインツとハナの悲しい叫びを受けて、僕たちは急遽2人のために勉強会を開くことになった。
授業が終わり、図書館に向かう。
この学園の図書館はちょっと変わっている。夜間は施錠される校舎の門の外側にあり、24時間学園関係者なら誰でも利用できる。
図書館だけ別棟というわけではなく、僕らの寮から校舎に向かう際、校舎内にはまず図書館と夜間警備室、それに夜間にロドンの街を警備する兵士たちが使う休憩室と仮眠室があり、その先に夜間は施錠される校舎の入り口があるのだ。
夜間の主目的はやはり警備に出る兵士たちのためだ。
夜は長いし、巡回するのは現役の軍人と学園の3年生の混合。軍人の定番の時間つぶしといえばカードだが、さすがに貴族もいる学生相手の賭け事は難がある。あとは筋トレくらいしかやることないため、時間つぶしの一環として、新校舎が建てられた際にこのような配置になったそう。
さらにいえば、流石に軍事学校というべきか。新しく開発された最新技術が反映され、理屈はわからないけれど図書館および、休憩室、警備室は夜、ランプがなくても昼間のような明るさを確保している。
僕も眠れない夜に興味本位に利用したことがあるけれど、深夜帯でも意外に利用している人が多く、静かで贅沢な時間がそこにはあった。一瞬で気に入ってしまった僕は、休みの前日の夜などは図書館で過ごすことも多くなっている。
そんな図書館に集ったキャトラプのメンバー。
まずはハインツとハナの苦手な授業、得意な授業を聞くも、どれも満遍なく芳しくないらしい。
正直2人ともそこまで勉強ができないようには見えないけれど、と思っていたら原因は単純だった。
2人とも座学の多くを寝て過ごしていたのだ。授業聞いていないんじゃあ、そりゃあテストもどうしようもない。
「なんで夜ちゃんと寝ないのさ」ラット君が小さな声で口にする。
「いやー、ninjaは夜こそ本来の力を発揮するので、私も夜の訓練に勤しんでいるのでござるよ、、」
こちらも小さな声で申し訳なさそうに言うハナ。
「そうそう、夜だってそれなりに忙しいのさ」
ハナに乗ってくるハインツだが、ソニアに睨まれて大人しくなる。
「じゃあ、結局聞いていなかった授業の復習をすれば、テストでもそれなりに点を取れるんじゃないかな? みんなのノートを見せてあげるだけでもだいぶ違うかもしれないね」
リックさんが助け舟を出すと、ハインツとハナは黙って手を合わせてみんなを拝んだ。
ハインツとハナが黙々とみんなのノートを書き写している間、僕たちは思い思いに好きな本を読むことにする。
マリアは動物のイラストが入った図鑑を持ってきて真剣に眺めている。
リックさんは料理のレシピの本を持ってきて読んでいる。
ラット君も料理本を見ていたが、こちらは別の理由だろう。
フランクは銃の構造の本。もう読まなくても頭に入っていそうなのに楽しそうに読んでいる。まぁ楽しそうならいいか。
僕は何か物語でも読もうかと本棚を物色していると、ソニアが本棚の角に身をひそめるようにして向こうを伺っている。
僕も気配を消して近づき、ソニアの後ろから様子を伺うと
「嘘だろ」
「本当だって」
と、声を抑えながらも言い合う声が聞こえる。
「この学園の七不思議、学園の奥の、、、、」
「洋館の幽霊、、、」
「ただの噂だろ」
「ほんとうだって!」
そんな言葉を交わしているようだったが、途中でうるさいと教官に注意されたようだ。
不穏な会話をしていた2人は、教官に謝罪してどこかへ行ってしまった。
「、、、なんだろうね? 今の?」
僕がソニアに話しかけると、ソニアは僕が後ろにいるとは気づいていなかったみたいで
「きゃっ」と悲鳴をあげる。
それを聞きとがめた先ほどの教官がこちらを睨むので、僕たちは慌ててその場を離れるのだった。




