2)遅れて来た新入生①
学園の見取り図も掲載しますので、今後の参考にご覧いただければと思います。
今日の日記
今日、初めてクラスメイトと会った。同じような年の子達ばかりかと思ったけれど、大人も、妹くらいの年の子もいて少し戸惑った。
騎士軍事学校は国中から色んな人が集められるかららしい。ただ、僕くらいの年頃が一番多いようだ。
ちなみに入学式に間に合わなかったのも僕だけじゃなかった。まだ1年生で数人、来ていないそう。
クラスはC組に決まる。
小さいのにとても手の込んだ彫刻の施された、金属製の胸章のCの文字が少しかっこいいなと思った。
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オーラン騎士軍事学園は北の戦地に近い、北部最大の街、ロドンの中央にある。
ロドンの街の中心にどっかりと円形の敷地を持つ、とても大きな学校。
どのくらい大きいかといえば、小さな町がすっぽり入りそうと言えば伝わるだろうか?
貴族の館よりも優先され、この街の一等地に広大な敷地を有することが、この学園の地位を象徴している。
この僕、ルクスの住んでいた南の村より気温が低い。妹が風邪を引かないか少し心配しながら、寮母さんに連れられて食堂にきた。
食堂をきょろきょろと見回した寮母さんは、僕と同じ年頃の少年に目を止める。
「ああ、ハインツ! ちょうど良いところにいた」
ハインツと呼ばれた少年はライ麦パンをくわえたまま、首だけ伸ばしてこちらを見ている。
「今日からアンタとおんなじ、1-Cに入る子だよ。色々教えてあげておくれよ。それからフォル先生のところへ連れて行ってあげておくれ」
首を伸ばしたまま、モグモグモグと口を動かし、最後にゴクンと飲み込むと
「それじゃあ、こっちにおいでよ!」と手招きしてみせる。
身長は同じくらい。金髪をおかっぱに切り揃えたハインツは、人懐っこそうに手前の席へ座るように促した。
「ちょっと待ってて!」そういうとハインツは僕の分の朝食をとって来てくれ「食べながら話そう」と手渡してくれた。
「僕はハインツ、ミュリアル=ハインツ。君は?」
「フルト=ルクス、宜しく。ルクスでいいよ」
「ルクスね、分かった。俺のことはハインツでいいよ。お、その得物はロングライフルだね。それじゃ、ルクスは狙撃手かな?」
「うん。僕を誘ってくれた人は狙撃手向きだって言っていた」
「やっぱりね。俺は銃撃兵だよ。同じ銃仲間、仲良くしよう」ハインツの差し出した手を僕はしっかりと握り返した。
朝食を終えて、ハインツに連れられた僕は寮を出る。寮と校舎は屋根のある廊下でつながっていて、雨の日でも傘がいらなくて便利だ、なんて話を聞きながら廊下を進んでゆく。
ふと視界に入った正門からも、学生と思しき人たちが沢山校舎に向かっていた。あとで聞いた話だけど、裕福な家や家族のある人は街に家や部屋を借りて通っているそう。
校舎は淡い白の漆喰で統一され、明るい雰囲気が漂っている非常に大きな建物だ。これも全体で見ると施設の一部分だとハインツに聞いて驚いた。
キョロキョロしながら、それでもハインツから逸れないようについて行くと途中で見知った女性が向こうから歩いてくるのが見えた。
「あれ? リタさん?」
向こうもこちらに気づいたようで、笑顔で手を降りながら近づいてくる。
「今日から漸くだな。ちゃんと勉強するように」
そんな風におでこを小突かれながらも
「リタさんはなんでここに?」と聞く。
「私はこの学園で教鞭もとっているんだ。君の妹の事もあるし、しばらくは後進の育成の方に力を入れようと思ってね」
「そうだ、ノリスは元気?」
「ああ、楽しそうにしていたから安心しなさい」
リタはそれだけ言うと、それじゃあ、またな。と颯爽と歩き去って行った。
リタの後ろ姿を見送っていると、ハインツが肩をガッとつかんで「ルクス! ザラード先生と知り合いなの!?」と聞いてくる。
その勢いに少々気圧されながらも、
「う、、うん。僕を誘ってくれたのがリタさんだけど、、、」
と伝えると、「いいなぁ〜〜〜〜〜〜〜」と廊下に崩れ落ちるハインツ。
リタさんはあまり学園にいることはないけれど、美人でカッコよく、学生の憧れの先生の一人なのだそう。
階級も結構偉い人だったみたい。
村にいた時は、確かに昼はピシッとしていたけど、夜になるとお酒を飲んでグダグダだったので、なんか意外。
ハインツが気を持ち直すのを待って、僕たちは再び歩き出す。
「ここだよ、失礼しまーす」
ハインツに続いて準備室と書かれた部屋に入ると、中には髪はボサボサ、服はヨレヨレの中年男性がソファに反り返って書類に目を通していた。リタさんとのギャップがすごい。
「フォル先生。新入生のルクス君を連れて来ました」
ハインツに言われて今そこにいる事に気づいたと言った風に、ルクスたちの方を見る。その目は鋭く、右目の上には大きな傷がある。
「ああ、そういえば今日だったか、、、確かリタの推薦だったな」
ルクスを上から下まで見ると、「しばらくその辺に座って待っていろ。ハインツは教室で待機だ」それだけ言うと、フォルは再び書類に目を落とす。
「それじゃあルクス、また後で!」とハインツが部屋を出て行くと、気まずい沈黙だけが残った。
僕が目についた椅子に座って大人しくしている。その間フォルはしばらく書類を眺めていたが、小さく舌打ちしてその書類を投げ捨てた。
「よし。じゃあ行くか。ついて来い」
若干不安の残る先生の後ろ姿を追って、僕は1-Cの教室の扉の前に立つのだった。