最終話)オーラン騎士軍事学校の狙撃日記
この物語を愛してくれた、全ての人に感謝を。
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ソニア、僕は今、一番北の村にいるよ。僕の住んでいた南の村の端には山々が壁の様にそそり立っていたのだけど、一番北も同じだった。
やっぱり山が連なって、この国ここまでって言っているように見える。
こんなに距離がある別の場所なのに面白いよね。せっかくだから猟もしてみた。見たことのない獲物が獲れて、村の人に振る舞ったら喜ばれたよ。まだまだ田舎の方ではロザンの人々に偏見も多いから、これですこしでも距離が縮まれば良いな。
手紙には書けないような事も色々起きているから、帰って話すのが楽しみだよ。
この村でしばらく過ごすから、いつものように、村と宿の名前を記しておくね。君からの返信を楽しみにしています。
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ソニア、お手紙ありがとう、マリアの件、ウィラードからも聞いたよ。ウィラードったら毎日「もうすぐマリアが遊びに来る」って指折り数えて待っているんだ。まだ夏休暇までは1ヶ月もあるのにね。
その姿があんまりおかしかったから、ガゼルとシークと一緒になって笑ってしまった。それから前期対抗戦の活躍もおめでとう。みんなも元気そうで何よりだ。
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ソニア、卒業おめでとう。
卒業式には間に合わなかったけれど、もう少しで帰るよ。なかなかベレッタさん達が離してくれないのと、リタさんがここのお酒を気に入ったので長居をしてしまったけれど。
お酒はリタさんが箱で買って送ったから、僕らがお酒を飲めるようになったら一緒に飲みたいな。それまではなんとか1本は死守しておかないとね。
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オーラン騎士軍事学校には恋が叶う木という、有名な伝説がある。有名ではあるが、肝心の木の場所を知っている者はあまり多くない。
目立たぬ場所にある伝説の木の下には今、1人の女性が立っていた。
誰かを待ちわびるように立ちすくむ女性を、春の風がそっと撫でて行く。風に煽られた髪を後ろに流すその視線の先で、こちらへと歩いて来る青年の姿をとらえた。
青年は、女性の前までやって来ると、ゆっくりと微笑む。
「髪、伸びたね。似合ってるよ」
「ありがとう。君も。今度は私が切るからね」
「そうだね。お願いするよ」
「うん」
「ただいま」
「おかえりなさい」
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オーラン騎士軍事学校の旧校舎の2階。そこは本校を代表する伝統の部活、「新聞部」の部室だ。
新聞部は誰でも入部できるものではなく、原則1学年に1チームのみ。1年生で入部を果たすと、2年生に付いて新聞作りのノウハウを学び、2年生になると主力となって新聞作りに携わる。3年生は2年生のフォローだ。
新聞の内容は多岐にわたる。学園内の出来事はもちろん、ロドンの街の情報の充実ぶりには目を見張るものがある。いまや、ロドン市民にも欠かせない街の名物といえる。
新聞部には1学年10名までという決まりがある。
理由は新聞部に引き継がれて来た新聞部のシンボルにあった。10本のメリアノ社製の高級なクラシックペン。このペンは、現在も続く新聞部の礎を作った10名の生徒から、代々2年生の部員に受け継がれているものだ。
このペンを胸ポケットに刺すことは、生徒達の一つのステータスであり、誇り。その誇りを胸に、新聞部から本格的にその道へと進む者もいるほどである。
オーラン騎士軍事学校は国の支える人材育成の場として、確固とした存在感を放っており、今年も学園にはたくさんの新入生がやって来た。
季節は前期校内対抗戦が終わった頃、ソルアル、レムノスとの学園対抗戦の選抜試合、そんな位置付けのイベントが終わり、今年も栄光の新聞部に選ばれた新入生の少年少女が数名、部室に集まっておしゃべりをしている。
「ちょっと! デルウ! 私の買って来たお菓子、勝手に食べないでよ!」
ソバカスの残る栗毛の少女が、赤い髪の少年にプリプリと怒り、
「うるさいなぁ。ちょっと位いいだろ」
デルウと呼ばれた少年は、その菓子をもう一つ摘んで、口へと放り込んで見せて余計に怒りを買う。
「良くないわよ! そのお店のお菓子、買うの大変なんだから!」
「あ、本当だ、デルウ。これは君が悪いよ。これ、有名なH &G本店のお菓子じゃないか」
2人のやり取りを見ながら菓子箱を見た、育ちの良さそうな黒髪の少年の言葉に、デルウは少しだけ目を見開き、菓子箱見つめ、
「え? まじで。美味いと思った、、、いてえ! フィア! 叩くなよ!」
「その程度で済んだことを感謝しなさいよ!」
お菓子を食べられたフィアと呼ばれた少女に叩かれていた。
「まぁまぁフィア、それよりも今日は何か用があったんじゃないのかい?」
2人を取りなす黒髪の少年の言葉に、フィアはようやく怒りを収めて、
「そうなのよ、面白い話を聞いたの!」と椅子に座る。
「お? なんだ、面白い話って?」デルウも身を乗り出すのを見てから、少し勿体ぶったフィアは
「2人は『オーラン騎士軍事学校の狙撃日記』は読んだことある?」
「貴族作家、ノリス女史のベストセラーだろ? この学園に入って来た生徒で、読んだことないやつなんていないんじゃないのか?」
「そうそう、歴史的建造物だから勝手に入るなって言われてるけど、入学したらまずは洋館の小径が隠された入り口、見に行くよね。で、それがどうしたの?」
「あの物語の主人公が使っていた、シリアルナンバー0のカウンターが実在するって言ったら、どう?」
「は? 何言ってんだ、あれは物語の中の話だろ? 本当にあるわけないじゃん」
「だからデルウは想像力が足りないのよ。あの物語には書かれていなかったけれど、この学園には七不思議があって、それを全部解くと、秘密の部屋への扉が開くんだって。その部屋には今も、伝説の銃が飾られているの」
「なんだか怪しい話だなぁ。それ、誰から聞いたの?」
「南部パラディ家のご当主様」
「マジかよ?! 忘れがちだけど、お前も一応貴族だもんな」
「誰が一応よ! たまたまお話しする機会があって、私が『狙撃日記』のファンだって言ったら、内緒だよって、南部パラディ家に伝わる寝物語を教えてくれたの」
「、、、それは急に、信憑性が増してくるね、、、」
「ああ、、、、もし本当だったら、、すげえな」
「でしょう? だからね、、、、」
フィアはそこで一度言葉を切って身をグッと乗り出して2人に提案する。
「私たちで調べてみない? 七不思議」
新聞部のある旧校舎の図書館の窓、どうやって登ったのか、窓のヘリに白い猫が座っている。
白猫は部屋の中で顔を寄せて話し合う、3人の少年少女を見つめながら、少し微笑んで「ニャア」と鳴いた。
〜おわり〜
簡単ではございますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
謝辞、物語の裏話、そして次回作のお話も含めたあとがきをこのあと更新いたしますので、よろしければそちらも。
ルクス達の学園生活は如何でしたでしょうか。ほんの少しでもお楽しみ頂けたのなら何よりです。




