172)運命の日
前作と合わせて365日毎日更新達成しました!!
やった、、、、やった!!
明日は一周年記念で外伝も更新します!
「はぁ、参ったな、、、」
もうだいぶ見慣れて来た、狭い部屋の天井。僕は未だにこの部屋から脱出できずにいた。
部屋から出るだけなら簡単である。僕と外部を繋ぐ唯一の情報源であるミティアの話では、研究棟内の警備はさほどではないというか、むしろ日が経つほど緩んで来ていると感じているそうだ。
問題は研究棟を出てからだ。研究棟内とは逆に、日を追うごとに学園の警備は物々しくなっており、騒ぎがあればすぐに駆けつけるだろう。
研究棟の背後は森になっているので、そこに潜むことはできるかもしれない。けれど、武器もなく身を潜めたところで、リタさんやルルーさんならともかく、僕にできることなどたかが知れているのである。
そうは言っても学園対抗戦の朝まで来てしまった。
チャンスがあるとすれば、昨日か今日だと思っていた。多分、昨日までにレムノスからはベレッタさんやヴェルガー将軍、ソルアルからはウィラード達がやって来ているはずだ。それにフォレットさんも到着しているだろう。
みんな、僕らがいないとなれば不審がるはずだ。その時ボーマン=デラン=バクスワルはどう出るか。それぞれ一筋縄ではいかない人たちだ。何もしていないとは思えない。解放まで至らなくとも、なんらかの騒ぎが起きるチャンスを、、、僕は待っていた。
、、、のだけど、昨日、そして今に至るまで何も起こらなかった。不安と焦りだけがつのってゆく。
「そういえば、今日は朝食はないのかな?」
どんな時でもお腹は減る。ここ数日はミティアが情報とともに朝食を持って来てくれていたけれど、今日はまだ来ていなかった。何かあったのだろうか、、、
いてもたってもいられず、ベッドから立ち上がったり座ったりを繰り返していると、扉の向こうからわずかに足音が聞こえた。扉越しでも聞こえるということは、大柄な人か、よほど足を踏み鳴らすタイプの人間だろう。小柄でちょこちょこと歩くミティアでは、扉を開けるまで足音が響く様なことはない。
足音が扉の前で止まる。
僕は身構えるが、対抗できる武器はない。せめて、扉を開けた瞬間に体当たりして逃げられる程度の準備はしておく。
「ガチャリ」
鍵が開き、扉がゆっくりと動き始める。
そうして現れたのは
「よう、思ったよりも元気そうじゃねえか」
「ルルーさん!?」
さらに、ルルーさんの後ろにもう一人。ルルーさんの背より顔を覗かせたのはビアンカだ。
「ビアンカ!? なんで君が!?」
そこには少し照れた様に笑う、ビアンカが僕の愛銃の袋を持って立っていた。
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「おうおう、助けに来てやったってのに、お礼もなしか」
どかりとベッドに腰掛けるルルーさんに、僕は慌てて「助けに来てくれたんですか!? どうやって?」と聞く。
「どうやっても何も、このへんにいる警備兵は全部のした」
「のした? 倒したってこと?」
「ああ」
「そんなことして大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃねえだろ。時間が経てばデランの兵士がわらわら集まってくるだろうぜ」ルルーさんは愉快そうに笑う。
「なんでそんな事をまでして、僕を、、、、」
「ああん? 助けに来てもらって嬉しくねえのかよ?」
「いえ、めちゃくちゃ嬉しいですよ。でもこの間の夜、ルルーさん言っていたじゃないですか、公主の命令なら従うって」
僕らを捕えたバクスワルは、公主の命で来ていたはずだ
「ああ、なるほど。別にアタシは今回の件、誰からも命令されてねえからな。関係ねえよ。それよか、、」
「それよか?」
「、、、こっちの方が面白そうだ。お前から、熱烈なラブレターも貰ったしな」
うん、実にルルーさんらしい理由で助けに来てくれた。。。ん? ラブレター?
そう言って取り出した便箋は、僕がミティアに託し、ホーランドさんからベル家に渡されるはずの手紙。なんでルルーさんが?
「研究所のちびすけが、妙な動きをしていたからつけた。そしたら菓子屋のにーちゃんにこれを渡したから、貰った」
貰った? 奪い取ったの間違いではなく?
「中は見たけどな、あんまり面白そうじゃなかったから、アタシは動く気がなかったんだ。いまいち状況がわかんねえからな。その嬢ちゃんに話を聞いて、気が変わった。そいつに感謝しておけよ」
そう言ってルルーさんはビアンカを見る。ビアンカはまだ入り口に立ったままだ。
「ビアンカ、ありがとう。でも、大丈夫なのかい? それに対抗戦の準備は、、、」
「対抗戦には私は出ないわ。怪我ってことで代わってもらった。サクソンとロイ君は監視もあるから動けないけれど、それで私だけは自由に動ける様になったから、、、、」
ビアンカがここにいる理由はわかった、けれど、ビアンカには家のこともある、今回の件に関わらないと決めていたはずだ。そんな僕の気持ちを汲んだ様に、言葉を続ける。
「ルクスが疑問に思う気持ちもわかる。けど、私もあれからずっと考えていたわ。私にとって軍人とは何か、家とは何か。それで、、、、決めたの」
僕は黙って次の言葉を待つ。ビアンカ少しうつむいてから、強い光を含んだ目を僕へと向け
「私の考える軍人は、バクスワルみたいなやり方は納得できない! それに、私は私の友達を助けたい!」
そう、決然と宣言する。
「ビアンカ、、、ありがとう」
僕が少し泣きそうになっていると、ビアンカがここまでの経緯を教えてくれた。
僕らを助けると決めたビアンカは、昨晩から旧校舎に忍び込んで、新聞部の部室で暖を取りながら夜明けを待ち、なんとか助ける方法を探してウロウロしていた。そこを、ぶらぶらしていたルルーさんに見咎められたのだそう。
ルルーさんに事情を話す様に迫られ、ビアンカは半ば自分も捕まると覚悟しながら、泣く泣く状況を伝えたところ
「何だ、やっぱりあいつら、おもしれえことやってんじゃねえか。アタシを仲間外れにしやがって」と言いながら協力してくれたそうだ。
ちなみに研究棟へは文字通りの正面突破。全員ぶん殴って気絶させて中に入り、「協力すれば良し。敵対すればぶっ飛ばす」という非常にシンプルな理念によって、この研究棟はルルーさん1人に制圧された。。。本当に人間かな?
そんなルルーさんが僕らの会話に横から口を挟む。
「おう、青春しているとこ悪りいんだけど、あんまりのんびりしてらんねえぞ、これからこの研究棟で籠城戦だ。急いで準備しろや」
そうだった。のんびりしている場合ではないのだ。僕は「ちゃんとしたお礼は、また、あとで」とビアンカに伝えて、愛銃を受け取る。「あ、これも一緒においてあった」と、スリングショットも持って来てくれていた。なんでも研究棟の一室に保管されていたそうだ。
「上の階に捕まっている奴らは、ミティアってちびすけが助けに行った。アタシらは他の独房も開けてから上に戻る」
その様に言いながらぞろぞろと狭い部屋を出る。僕は気絶した状態でここに連れ込まれたので、部屋の外に出るのは初めてだ。通路は思ったよりも長く、僕らが立っているのは一番奥まった方だ。他のみんなはもう少し階段寄りの方に独房が点在しているそうだ。つまり一番奥の僕の部屋から開けてくれたのか。
「さて、じゃあ行くか」
ルルーさんの後ろについて、みんなを助けに行こうと気合いを入れた時だった。
「ニャア」
背後からネコの鳴き声が聞こえた気がする。こんな場所で?
僕が後ろを振り向くと、一番奥の突き当たりにある部屋の扉がほんの少し開いていた。
そして扉の隙間から
白いネコのしっぽだけが、僕を誘う様に、ゆらゆらと動いていた。




