14)初めての兵種棟①
03.08.31ハインツの兵種が間違っていたので修正しました。ご指摘ありがとうございました。
今日の日記
昨日までの野営調理訓練は面白かったけどちょっと疲れた。
今日は1年生は半休で、午後から兵種棟でミーティング。僕にとっては初めての兵種棟となる。
少し遅めの朝食を摂って、外に出ると、ソニアがいた。昨日はちょっと元気がなかったから心配していたのだけど、ソニアは僕をみると駆け寄ってきて、リタさんから話を聞いたから、何かあれば私が相談に乗るよと言ってくれた。
多分、リタさんから出された宿題「人を狙撃せずに味方を勝利に導く」という事を言っているのだろう。
どういう経緯でリタさんから聞いたかは分からなかったけど、僕は、ありがとう、困ったら宜しくねと伝えておいた。
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昨日の夜の事。
お茶の準備をしたリタは、少々緊張気味のソニアの前にカップを置くと、自身も椅子に腰を下ろす。
「さてと、ルクスの事で聞きたいと言っていたね?」
「はい。。。。」
勢い込んでやって来たものの、一息ついた事で気持ちが落ち着いたのか、どう切り出したものかと考えているようだ。
そんなソニアを見て、リタは助け船を出す。
「もしかして、ルクスの本気の狙撃を見たのかい?」
そのように言うと、ソニアは大きな目を見開いて
「やっぱりリタ先生は知っていたのですか!?」と言った。やはり予想は当たっていたようだ。
リタはルクスが入学した初日に的当ての実力テストを行ったと聞いたので、早々にルクスの実力は知れ渡ったかと思いきや、確認した教官からもそれなりの実力という評価だったので、少し不思議に思っていた。
ソニアの様子を見ると、やはり今回初めてルクスの本当の実力を目の当たりにした、或いは実感したのだろう。
「まぁ、彼をここに連れて来たのは私だからね。それで、何があったか聞いていいかな?」
ソニアは野営調理訓練で起きた出来事を身振り手振りを加えて話す。
「木の上のあんなバランスの悪い場所で、ルクスは何事もなかったように猪を撃ちました。私は狙って頭を撃ったのという意味で聞いたつもりでしたが、彼は目を狙って撃ったと言っていました。実際あとで見たら、正確に目が射抜かれていました」
そのシーンを思い出したのか、「信じられない、、、」と呟きながら小さく首をふるソニア。
「なるほど、ルクスが狙ったと言ったのなら、狙って撃ったのだろう。私が彼の猟について行った時はもっとすごかった。幻覚でも見ているかと思ったよ」
そう言ってリタはソニアに、ルクスとの出会いの話をする。
ひとしきり話した後で、リタはソニアに提案した。
「偶然とはいえ、私はルクスの実力が知れ渡っていないのは、ルクスが成長するチャンスだと思っているんだ」
そのように伝え、最初の対抗戦が終わるまでは人を狙撃せずに味方を勝利に導くという、今ルクスに出している”宿題”について触れる。
「ずっと隠し通す必要はないし、遅かれ早かれルクスの実力は生徒たちの知るところになるだろう。でも、それまでは見守っておいてくれないかな? ルクスのためにも、君たちのチームのためにも」
自分たちがルクスに頼って成長を止めてしまうかもしれないと言われると、ソニアも思うところはあるのだろう
「分かりました」と力強く頷いてくれた。
「ただ、宿題にはルクスもそれなりに苦労するかもしれないから、そんな時は力になってあげてくれ」
「はい! 分かりました!」先程よりもずっと元気な返事を聞いて、リタはソニアを送り出した。
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兵種棟までは僕と一緒に来てくれたハインツが、狙撃手フロアを歩いていた先輩に声をかける。
「サラース先輩!」
サラースと呼ばれた背の高い人は、こちらを振り向くと
「えーっと、ハインツ、、、だっけ?」
と、記憶を探りながらハインツを見る
「はい。銃撃兵のハインツです! この間はどうも!」
人懐こく挨拶をするハインツ。ハインツのコミニュケーション能力は本当にすごい。
「ああ、こちらこそ。それで、今日は何?」
ハインツはそこで僕の背中に手をあて、一歩前に出させる。
「こいつ、ルクスっていうんですけど、入学が遅れていた狙撃手です。サークル長に挨拶させてもらえますか?」
「ああ、そういえば遅れてくる新入生の話は聞いていたな。ルクスっていうのか。よろしく。副サークル長のデド=サラースだ」
「フルト=ルクスです。よろしくお願いします!」
僕は元気に挨拶をしてサラース先輩と握手を交わした。
「じゃあ、僕は銃撃兵の定例会に出るから、これで」
それだけ言って別れるハインツの背中越しにお礼を伝えて、サラース先輩の後について歩く。
上空から見ればH型の建物の、1階のフロアの半分が狙撃手のフロアだ。
他の兵種もそれぞれ所属人数に関係なく、各階の半分のフロアを占有スペースとして充てがわれており、余った部屋は物置などに活用されているそうだ。
「ところで、ルクス、君は随分年季の入った袋を使っているね」
おじいちゃんから引き継いだくすんだ深い緑の銃袋を見て、サラース先輩が興味深そうに目を細めた。
「祖父から貰ったんです。中の銃も。入学初日に教官から「カウンター」という、古い型のロングライフルだと聞きました」
「へえ。じゃあちょっと珍しいものだね、、、先に言っておくのだけど、狙撃手のサークル長は少々珍しい銃が好きな人でね。君の銃にも過分に興味を示すと思うのだけど、、、、、悪気はないから、それだけは覚えておいて」
何やら不安になる事を言いながら、すらりと伸びた長い足でさっさと進む。
サラース先輩は少し進んで、ある部屋で立ち止まるとノックをして
「ラミー、いますか?」と声をかける
中から「どうぞ」という女性の声が聞こえた
返事を聞いて扉を開けると、中はそれほど広くない部屋だが綺麗に整えられており、歴史を感じさせる本棚が威厳を漂わせている。
中央のしっかりとした木製の机に肘をついて座っているのは、淡い金色の髪をショートに整えた美人。
「そちらは?」
クールな言いようで僕に視線を向けるその女性に、サラース先輩が
「新入生のルクスだよ。ほら、遅れてくる子がいると顧問が言っていたろ?」
「ああ、そういえば」
と立ち上がり、カッカッと小気味良い足音を響かせながら僕の前に立つと
「3-A、キンダー=ヴィア=ラヴィトーミーヴィアだ。狙撃手サークルのサークル長をしている。名前が長くて覚えにくいからな、ラミーでいい。よろしく」
そこまで一気に喋って、颯爽と手を差し出す。僕は少々戸惑いながらも
「1-C、フルト=ルクスです。南の村の出身です。宜しくおねがいします」と返して握手をする。
ラミー先輩はうむ、と満足げに頷くと再び席に戻ろうとして、ピタリと止まる。
その視線は僕が担いている銃袋に釘付けだ。
「、、、、時にルクス、君の銃は、一般的なものではなさそうだが、、、」
「はい。祖父から譲り受けたもので、カウンターと呼ばれる狙撃銃、、、」
と僕が言葉を終わらないうちに
「カウンター!! あの、35年前に誕生しながら今尚、量産品ではとても敵わぬ有効飛距離を誇るゼナー工房の名作! しかし繊細に過ぎるその仕様は撃つ者を選び、一時は狙撃手泣かせとまで言われた、あのカウンターか! 確かカウンターは全部で50しか作られずに、どこかにシリアルナンバーが隠されているというが、なんと、稼働できる完品を見るのは初めてだ。なにせ、ただでさえ数少ないカウンター使いといえば、おいそれと見せてくれとは言えないベテランばかりだからな! さあ、早く! 焦らさないでその姿を見せてくれ!!」
物凄い早口でまくし立てるラミー先輩に僕は若干の恐怖を覚えつつ、サラース先輩に助けを求める。
「言ったろ? ちょっと珍しい銃が好きなんだ。そのせいで貴族なのに狙撃手をやってるんだ。悪気はないし、丁寧に扱うからちょっと見せてあげてくれる?」
いつもの事だ。と言わんばかりの態度に、僕は小さくため息をついて銃を肩から下ろすのだった。




