135)特別任務
今日の日記
今日は2学期の終業式だった。明日からしばらくは休みが続く。
具体的には年末で10日、年明け10日の都合20日間のまとまった休みだ。
夏休暇同様に、学園の生徒が一斉に帰省するため、学園内が閑散とする季節でもある。
僕はこの寒さに妹が辟易している様なら、いっときでも暖かい場所へ、南の村への帰省も考えたが、ノリスが「大丈夫」と言うので、ロドンの街で過ごすことになった。
キャトラプのメンバーでは、
マリア、ラット君、フランクは帰省。
ハインツは「この間帰ったから、いい」と寮に残る。そのように実家にも手紙で伝え済みとのことだ。
身寄りのないライツやレフも同じく帰らない。
ハインツは貴族として色々付き合いがあるだろうにと思って聞くと、「面倒なだけだ。1年くらい飛ばしても問題ないだろう」と言っていたけれど、どうも、ちゃんとした帰省となればレフやライツもついて行かなくてはならない事を慮ったみたいだ。
レフとライツはロドンに来るまで寮暮らしだったから、レムノスに家がない。
ならばハインツの家に身を寄せると言う選択肢もあると思うが、ハインツにとっては信用のおける2人でも、ハインツの家からすれば護衛の任について半年そこらの新参者なので、多分待遇は良くない。それでは折角の年末なのに、なかなか居心地が悪かろうと言うのだ。
「俺たちは適当な宿で過ごすから、、、」とライツが言ったものの、ハインツが首を縦に振らなかった。
もう一年もあれば、ハインツの実家もレフとライツの見る目も変わって来ると思うので、その時に帰るという考えらしい。
地元組のハナとリックさんは普通に家で過ごすそう。
そしてソニアだが、実家との手紙のやりとりで、お父さんよりもお母さんがまだ強く反対していると言う状況が分かり、少々悩んでいたものの、来年の夏休暇には帰る、と言うことで落ち着いたと聞いた。
つまり、チームの大半はこの街で新しい年を迎えることになる。
結構賑やかな年末になるのかもしれないなぁ。
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夏季休暇と同じく、貴族の子息達を中心に帰省の準備でマリア達は早めのお休み。
先日行われた座学の試験では、ハインツもハナも危なげなく赤点を回避して、教室にはどこかのんびりとした空気が漂っている。
今日は午後の終業式を残すのみだから余計だ。
僕はぼんやりと、先日のリンカートさんのところにみんなで行ったことを思い出す。年の瀬の挨拶だ。
その時、年明けに簡単なパーティをするから居残り組はいらっしゃいとお誘いを受けた。楽しみだな。
終業式が終われば、寮でも簡単なパーティがある。
このパーティを終えて、みんなそれぞれの実家に帰るのが恒例だそう。
教室内のなんとなくフワフワした空気を一変させたのは、フォル先生の登場からだった。
先ほど自習と言って何処かに行ってしまったのに、不機嫌そうに帰ってきた。
「おい、新聞部で寮に残るのは誰だ?」と僕らに聞いて来る。
ハインツが代表して
「俺と、ルクスと、ソニアです。あとは街にリックさんやライツとレフとハナはいますが?」
「思ったより残ってるな、、、、全員でも構わないが、特別任務だ。明後日から一週間ほど動ける者を適当に2〜3人選んでおけ」
「特別任務って、、、こんな年の瀬に?」
「ああ。詳しいことは後で話す。行く者が決まったら俺の部屋へ来い」
それだけ言って再び教室を出て言った。
「なんだろう?」僕の言葉にハインツも首をかしげる
「さぁ? どうする?」
「僕は行ってもいいよ」と僕が言えば
「ルクスが行くなら私も行く」とソニアが続く。
「俺も気にはなるからついて行くか」とハインツ。
「ハインツが行くなら俺たちも行くか」とライツが言って、レフも同意。
「私は申し訳ないけれど辞退だね」愛妻家のリックさんは、年末は奥さんとゆっくりするので仕方がない。
「ハナはどうする?」ソニアに聞かれたハナは
「うーん、、、、どうしようでござる。。。一週間くらいなら行っても良いでござるか、、、」
とうわけでリックさんを除く6人が行くことになった。
6人でフォル先生の部屋へと連れ立ってゆくと
「なんだ、、、多いな? 暇かお前ら?」とフォル先生は失礼なことを言う。
「それで特別任務ってなんですか?」ハインツが促すと
「もう貴族の情報筋から聞いていると思うが、年明け早々に休戦宣言がある、、、知っているよな?」
「はい。レムノスの王女の婚約発表に合わせて、と」
ハインツの言葉に頷いてから
「その王女がお忍びでやって来る」
「は?」
「言葉の通りだ。レムノスの姫がこの学園にお忍びでやって来る。ここから北の前線まで視察するそうだ」
「ええ!?」珍しくハインツが動揺した声を出す。
そんなハインツの表情を見ながらフォル先生が続ける。
「無論、先方の護衛もいるし、こちらもお前ら以外にちゃんとした兵を出す。だがな、、、」
「だが?」
「年の近い生徒との交流もしたいそうだ。それで新聞部を指名してきた。お前ら、心当たりはあるか?」
、、、、、あるっちゃあ、あります。
僕の隣でハインツが小さく「最悪だ、、、」と呟いた。
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年の瀬のこの季節、北の国、ソルアルは一面の白い雪に埋れ、人々は静かに春の訪れを待っている。
人通りの少ないメインストリートで、レヴォルフ軍事学校の生徒が雪かきに従事していた。
毎年この時期の朝の雪かきは、住民との友好的な関係構築のためのレヴォルフ軍事学校の生徒の大切な仕事である。
「しかし、よく降るよなぁ、、、」生徒の一人がうんざりしたように空を見上げる。
今は小康状態だが、夜になればまたしんしんと雪が降り、朝には再び雪かきだ。
「まぁ、仕方ないよ。良い体力づくりだと思うことだね」別の生徒が笑いながら愚痴った生徒へ声をかけた。
そんな時通りの向こうから一人の生徒が「おーい」とこちらに声をかけてきた。
生徒たちが何事かと顔を上げると
「ウィラード! ヒュメット教官が呼んでるぞ!」
と、その中の一人の少年に向けて用件を伝えるのだった。




