131)ソニアとお出かけ① 街歩き
今日はソニアとお出かけ、当初約束していた日が最後の七不思議の件でうやむやになってしまった為、新たに約束し直した日が今日だった。うやむやにしたの、僕だけど。
朝、寮を出ると冷たい風が頬を撫でる。今日はことさら気温が低い。
ここ、ロドンの街は僕の住んでいた南の村に比べて雨が少なく、比較的からっとした晴れ間が続くことが多い。
だから冬でもしっかりと晴れているときは、外でもそれほど寒さを痛感することはないのだけど、今日は曇天、寒い。
厚手のコートの襟をたてて、待ち合わせ場所に急ぐ。
待ち合わせは新校舎の図書館。流石にこの時期に外で待ち合わせは厳しいからね。
図書館に入ると温かな空気が僕を包み、僕はほっと肩の力を抜いた。
「あれ? ルクスさん、おはようございます」
声のした方を向けば、そこには妹と同じくらいの年頃の少女が、分厚い専門書を抱えてニコニコしていた。
研究所に所属しているミティアだ。
「あ、おはようミティア。本を借りにきたの?」
「はい。ちょっと調べものがあって」
「お休みなのに? 大変だね」
「いえいえ、そんな、、、でも午後はノリスちゃんと街で遊ぶ約束をしているので!」
先日急速に仲良くなった2人。楽しそうで何よりだ。
「そうか、ノリスと仲良くしてやってね」
「はい! こちらこそ!」
そんな風に嬉しそうに言って、図書館を出て行くミティアとすれ違いざまにソニアが図書館へ入ってくる。
「あ、おはようソニア」
「おはよう、ルクス。今の子は知り合い? あんな子、1年生にいたかしら?」
「違うよ、研究棟の職員でミティアって子だよ。詳しいことは後で説明するから、行こうか?」
「、、、うん。そうね。行こう!」
こうして僕らは連れ立って、学園から街へと繰り出した。
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ルクスと2人で街を歩く私。
道すがらでミティアちゃんと言う子の話を聞く。
ノリスちゃんと色々あったらしい。見たことのない娘と親しげだったから、ちょっとほっとした。
それから少し頭を振る。ダメだなぁ、考えすぎ。考えすぎ。
そんな私の様子を不思議そうに見ていたルクスが、
「どこに行こうか? 行きたいところはある?」と聞いて来た。
「いくつか寄りたいお店はあるけど、ルクスは?」
「僕はソニアの行きたいところでいいよ、あ、見つけられたらだけど、途中でホーランドさんの屋台に寄りたいな。出かけるときに寮母さんから、もし見かけたらってお菓子を頼まれたんだ」
「じゃあお昼時になったら、よくホーランドさんのいるあたりでランチにしようね。ランチ食べながらホーランドさんがくるのを待つのはどう?」
「うん。いいんじゃないかな。そうしよう」
最初に立ち寄ったのは雑貨屋さん。
このお店は一つ一つ木を彫って作った装飾品などが、店頭に並んでいる。
「あ、このペンダントかわいい」
鳥の羽を模した可愛らしい木彫りが、革紐に通されたネックレス。
他にもブレスレットや、置物など、楽しいものが沢山ある。
「へえ、こんなお店、初めて入ったけど手が込んでいるんだねぇ」
「ルクスの住んでいた村にはどんなお店があったの?」
「田舎だったからね、雑貨屋さんが2つと、道具屋さんが2つ。あとは何でも屋さんみたいな人がやっているお店が1軒しかなかったよ」
「へえ、不便じゃなかった?」
「うーん、住んでいるときはそうは思わなかったけどね。大きな買い物はみんな少し離れた街に行っていたし。その街もロドンほど大きくなかったからねぇ」
そんな会話をしながらいくつかのお店を覗き、メインストリートを行ったり来たりする。
途中で入った洋服屋さんでは、ふとした疑問をルクスに聞いてみた。
「そういえばルクス、よく厚手のコートなんて持っていたね?」
ルクスの住んでいた南の村は雪も降らない温暖な気候のはずなのに、ルクスの纏っているコートは仕立てのしっかりとした上等なものだ。こう言ってはなんだけど、雑貨屋さんや道具屋さんでこのコートが買えるとは思えない。
「あ、そうなんだよね。これおじいのコートなんだ」
聞けばずっとクローゼットにしまっていたのだけど、北の街に来るということで念のため持って来たそう。
「かさばるし、いらないかなって思ったけれど、持って来て良かったよ」と笑っている。
おじいさんのコートだったのか。
おじいさん、、、、随分とセンスのいい人だったみたい。
ルクスもセンス、いいのかな?
その次は本屋さん。ルクスは本が好きだ。暇があればちょくちょく図書館にいる。
ルクスは一冊の本を手にとって、買おうかどうか悩んでいた。
「買っちゃえば?」私が促すと
「うーん、欲しいんだけど一冊買うと止まらなくなっちゃうからなぁ、、、場所がねぇ、、、」
「あ、それなら読み終わったら、図書館に寄贈すれば?」
「え? そんなこと出来るの?」
「多分。たまに図書館の本の中に、誰々寄贈って書いてあるの見たことない?」
「言われてみれば、、、よし、今度、司書さんに聞いてみよう。可能なら今度買いにこようっと」
そう言いながら本を棚へと戻す。
そうこうしている内にお昼が近くなって来た。
ラット君の記事にあった、オススメのお店へと足を運ぶ途中、私はふと立ち止まる。
「どうしたの? ソニア」
不思議そうにするルクスに「ごめん、さっきのお店にちょっと忘れ物したみたい。すぐ取ってくるから先に言って座席を押さえておいてもらっていい?」
「うん。わかった。でも一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫、大丈夫! すぐ戻ってくるから!」
そのように言ってルクスを残して私は駆け出す。
そんな後ろ姿を見送ったルクスが、小さく「ふむー」と言っているのが聞こえた。




