13)森で調理実習っ! ②
ソニアがなんだが顔を赤くして下を向いている。
初めて獲物を取る事が出来たから嬉しいのかな? 僕も初めて獲物を捕ったときは嬉しかったもんな。わかるー。
しばらく動けないほどプルプルして喜んでいるソニアはそっとしておいてあげて、、、と思ったその時、バタバタと鳥が一斉に飛び立つ羽音がした。
「!?」
神経を研ぎ澄ませて、気配を探る。。。大型の獣の良くないやつだ。怒っている。
「ソニア。こっちに。あの枝に乗ることはできる?」
未だ俯いたままのソニアの手を取り、手近なよじ登れそうな木に連れて行く。
突然のことに戸惑った風のソニアだったが、僕の真剣な顔を見て表情を改め、こくりと頷いて枝に手を掛けた。
手を貸しながらソニアを木に登らせると、もう一つ上の枝へと移るように指示を出す。ソニアが上の枝に移ったのを確認して、僕はライフルを取り出しながら、先ほどまでソニアがいた枝へとよじ登った。
「ルクス、急にどうしたの?」不安そうに口にするソニアに、「静かに」と指を口に当てる。
気配は近い。僕はライフルの準備をする。木登りが得意な獣じゃないといいけど。
少しの沈黙。相手も警戒している。
息を潜めていると、ガサ、と獣が再び動き出し、こちらに顔を覗かせた。
およそ80メートル先、大型の兜猪だ。
文字通り頭蓋骨が分厚く、兜を被っているかのように硬い。正面からでは額で弾丸も弾くため、猟師泣かせの相手だ。しかも攻撃的な性格で、敵とみなすと突撃してくる。相手が木の上に逃げても、そのまま木に体当たりをして相手を落としたり幹をへし折ったりもする。
「っ」その巨体にソニアが思わず声をあげそうになるも、ギリギリで飲み込んだ。うん。良く我慢してくれた。
兜猪はまだこちらには気づいていない。何か気になる匂いでもあるのか、しきりに地面に鼻をつけて動かしている。
僕は静かに狙いを定める。兜猪を一撃で仕留めるのなら、狙いは目だ。
ズレれば怒り狂った兜猪がこちらに突進してくるだろう。僕だけならともかく、ここにはソニアもいる。それはまずい。
僕は気持ちを落ち着かせる。心の中で水面をイメージして、波紋が静まるのを待って。
ターン
軽い音を響かせて放たれた弾丸は、兜猪の右目を正確に貫く。
ビクンと一度体を痙攣させた兜猪は、ゆっくりと横倒しに倒れていった。
「ふぅー」
兜猪が動かなくなったことを確認した僕は、大きく息を吐く。
距離はそれほどでもなかったけれど、ソニアがいる分、久しぶりに緊張する射撃だった。手にじっとりと汗をかいている。
あ、いけない。ソニアに声をかけてあげないと。僕がソニアの登っている枝をみると、ポカンとしたまま兜猪を見つめていた。
「ソニア、もう大丈夫だよ。降りよう。落ちないように気をつけてね」
僕の言葉でようやく我に帰ったソニアは、ぎこちない動きで兜猪に指をさして
「ねぇ、、、ルクス。。。今のは狙ったの?」
と聞いて来た。
「もちろん。兜猪は目を狙うのが一番確実だからね」
「、、、、、うそ、、、そんなこと、、、、」
信じられないという風にゆっくりと頭を振るソニア。そんなに難しくはないんだけどな。
ソニアに手を貸して地面に降りると、僕は急いで兜猪と、先程獲った鳥の血抜きに入る。
まだちょっとぼんやりしているソニアに、
「ソニア、リックさん達のいる拠点の場所はわかるかい? これは僕一人じゃ持って行くのは大変だから、リックさんかハインツを呼んで来てくれないか」
「あ、、、うん。大丈夫。じゃあちょっと行ってくるね」
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今の、一体、なに?
いくら狩猟で生活して来たからって、あんなこと出来るものなの?
でも、初日のマトは外していたし。。。
ソニアは混乱しながらとにかく拠点へと急ぐのだった。
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ソニアの話を聞いて、リックさんとハインツ、2人ともやって来てくれた。
ハナとマリアはもう戻って来ていたので、そのままフランクとラット君のいるキャンプ地へと移動してもらったそうだ。
下処理を終え、木の棒に四肢をくくり付けた兜猪を3人でえっちらおっちらと運び、ようやくキャンプ地へ戻ると、待っていたチームのみんなは歓声で迎えてくれた。
「すごいね! これ全部食べるのかい!」特にラット君は食べ出のある獲物を確保できた事で、とても嬉しそうだ。
マリアはあまりの巨体に少々驚いてしまったようで、遠巻きに眺めている。
「俺、ちょっと食材チェックの教官を呼んでくるよ。これじゃあ持って行くのも大変だ!」
と行って走ってゆくフランク。フランクが戻って来るまでは、どうやって獲ったの? などと僕は質問責めにあう。
ソニアはそんな様子を静かに見つめていた。
やって来た教官は呆れた顔で獲物を見つめる。
「、、、確か、このチームのフルト=ルクスは元猟師だったか。。。これは君が?」
「兜猪は僕ですが、こちらの鳥はソニアが獲りました」
ソニアが何か言いたそうにしたが一瞬躊躇して、口をつぐむ。
「、、、そうか。他に獲ってきた物も全て食べられるものだな。素晴らしい。君たちのチームが一番だ」
そのように言われて、みんなそれぞれ隣にいるメンバーとハイタッチを交わす。
「でも教官、兜猪は流石に食べきれないので、他のチームにも分けてあげたいのですが、余れば他のクラスのチームにも」
僕がそのように言うと、教官は首を振る。
「実際の戦場では正しい判断だが、今日は現地で食料を調達するのは各チームの大切な経験だ。食料が確保できないチームは翌日、空きっ腹を抱えて、必死で食料を探すことも大切な勉強なのだ。だからそうだな、、、、」
教官はちょっと考えてから
「うん。君たちが今日食べる分だけ取り分けなさい。残りは私が買い取ろう」
「え、教官達で食べるなら残りはあげますけど、、、?」
「いや、ちゃんと買い取ることにしよう。君たちはきちんと成果を出した。それに対する報酬が出るのは当然の事だ」
その教官はニヤリと笑って、銀貨を数枚取り出すのだった。
翌日も僕らチームキャトラプは無難に訓練をこなし、高評価を受けて野営調理訓練を終えることになった。
懸念された料理がちょっと練習不足な2人も、料理できる組のフォローでそれなりの物を作り上げて一安心だ。
ソニアがちょっと元気がなかったのは気になるけど、僕たちは意気揚々と学園に戻ることになった。
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学園に戻ったのは、もう日もくれた頃。
私はみんなと別れると、急ぎ教官室へ走る。
幸い、リタ先生がいる教官室からは明かりが漏れていた。まだ、いる。
扉の前で深呼吸をして、息を整えてからノック。
「はい」
リタ先生の声を聞いて、ちょっと緊張しながら入室する。
「おや? ソニアじゃないか? 今日は野営調理訓練じゃなかったのかな?」
ちょうど仕事が終わった所だったのか。肩の力を抜いてのんびりとしたリタ先生が聞いて来る。私はそれには答えずに意気込んで前へ詰めた。
「リタ先生! 聞きたいことがあります! ルクス君のことです!」
ちょっと驚いた顔をしたリタ先生は、少し笑ってから私に座るように進めてくれるのだった。




