127)三回戦④ 対抗戦、決着!
サラース先輩とギリギリの戦いをしていた僕の耳に、試合終了の空砲が届く。
僕らの拠点のある方向からだ。。。。つまり、マリアがやられたという事。
僕は一度天を仰いでから、手にしていた狙撃銃をそっと下ろす。
建物から出て行くと、同じく向こうの建物から出て来たサラース先輩が、手を上げながら近づいて来た。
僕が「おめでとうございます」と声をかけると、「ありがとう」と言いながら右手を差し出し、僕も応じて握手を交わした。
それからふっと肩の力を抜いて
「いや、勝てて良かった。しかし、僕はここに釘付けだったし、決着までの時間を考えると仲間もかなり苦戦したみたいだ。さすが1年最強のチームだけあるよ」
そのように言われて、僕は少々戸惑いながら
「うちが最強なんかじゃ、、、、」と言いかけるも、サラース先輩がその言葉を止める。
「君たち自身がどう考えるかは自由だけど、今回の対抗戦でチームキャトラプは学年NO.1と認識されるよ。それだけうち(イーグル)は強いんだ」
それから言葉を一旦切ってから続ける。
「そして、個人的な対決であれば、、、、、うん。僕の負けかなぁ」と少し眉を下げて言うので驚いてしまう。
「いや、むしろ押していたのはサラース先輩でしょう? 僕の方はギリギリで凌いでいただけです。あのまま時間が経てば、多分負けていたのは僕の方です」
そんな言葉にサラース先輩は首を振って
「いや、”それ”で互角じゃあ、、、、、ね」
と指さすのは、ビアンカから借りた狙撃銃だ。
「君の愛銃、カウンターでの戦いならともかく、正直参ったよ。こんな撃ち合い想定していなかったけれど、それ以上に、こっちにアドバンテージがある戦い方で互角じゃあ、、、、」
「いや、これはサラース先輩を止めるために、、、」
「ああ、だろうね。だからこそ僕は君を倒さなければならなかったんだけど、ま、いい教訓になったよ、そろそろ行こうか? みんな待っているはずだし、そろそろこちらを見ている審判から急ぐように言われそうだ」
僕はまだ何か言わなければいけない気がしたけれど、サラース先輩に促されて集合場所へ急いだ。
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サラース先輩の言う通り、スタート地点にはもうみんな集まっていた。
こちらに気づいたハインツが、軽く手をあげて
「悪い。やられた」と言う。
「いや、僕もサラース先輩に押されっぱなしだったよ」と互いにねぎらう。
聞けば、押されながらも途中まではいい勝負をしていたそうだ。
状況が変わったのは後詰の銃撃兵がやって来てからだという。
その銃撃兵は先行していたソニアを倒して、周辺に敵がいないことを確認してから攻め手に参加した。
僕らの目の前でサラース先輩に肩を叩かれてるビアンカのお兄さん。
シーク先輩こそが件の銃撃兵だった。
軍人家庭に生まれ育ってエリート教育を受けて来たシーク先輩。
ビアンカの家のことを知っていたにも関わらず、恥ずかしいことにそこまで危険視していなかった。
これは、僕らのチームの中では比較的ビアンカと親しいのに、それに気づくことができなかった僕のミスだ。
少し悔しい。
「そろそろ良いか? 整列!」
審判の教官の掛け声で一列に並ぶ。
「チームイーグル対チームキャトラプはチームイーグルの勝利! 互いに礼!」
僕らがお互いのチームに礼を見せると、教官が続ける。
「キャトラプは前2戦に比べて、少々慎重に行きすぎたな。悪くはないが、やはりイーグルの方が地力は上だ。正攻法では厳しいな。煙幕弾のアイディアは悪くないが、今回の場合は折角なら序盤で撹乱に使う方が効果的だったかもしれん、、、、それと、、、」
教官の解説を聞きながら、僕らの後期対抗戦は三回戦敗北という結果で幕を閉じた。
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今日の日記
負けた。完全に力負けだった。
個人対個人ならサラース先輩は僕の勝ちだと言っていたけれど、全くそんな気分になれない。
それなりに頑張ろう、ゆるく行こうというのが僕らの持ち味だと思っていたけれど、ここまで来たら勝ちたかった。
やっぱり愛銃で勝負するべきだったろうか?
教室で実況を聞いていたビアンカからは「中距離の狙撃銃も持っておけば?」と勧められる程度には戦えていたようだけど、やっぱり愛銃の方が性に合っている。
明日はサクソンの試合、明後日は決勝だ。
どこが優勝するのかは見当もつかないけれど、まずは明日のサクソンの応援を頑張ろう。
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後期対抗戦の6日目。
サクソンが率いるアールクラッシュと、ゲラーを破った前期対抗戦3位の3年生のチームとの対決。
二回戦で3年生チームを破る大波乱を起こしたサクソン達だったが、ゲラーのチームも破った相手は一枚上手。
やはり僕らのように、地力の差で押し込まれて最終的に負けてしまった。
それでもキャトラプと並んで大躍進を遂げたアールクラッシュは、1年生の教室の窓から大きな拍手を持って迎え入れられたのだった。
ただ、サクソン本人は
「くそっ」と5〜6回くらい言ってしまうくらい、教室に戻って来てからも不機嫌全開だったけれど。
さらに翌日、決勝戦で優勝したのはチームイーグル。
サラース先輩やシーク先輩の活躍もあり、イーグルは対抗戦連覇という華々しい結果で有終の美を飾った。
手に汗握る決勝戦、勝負が決まったときは僕らも万雷の拍手を送った。
こうして一週間に渡る後期対抗戦は終わり。あとは学年末の座学のテストが終われば冬の長期休暇に入る。
気がつけば年の瀬はもうそこまで迫っているのだ。




