11)出席番号20番 ランクール=フランク
今日の日記
なんとなく日記を見返してて気がついた。
チームBの仲間の中で、フランクのことだけ書いていなかった。なんでだろう。
確かにフランクは他の人よりも目立たないと言うか、賑やかなハインツやハナ、聞き上手のリックさんやラット、華のあるソニアやマリアに比べると少々普通なところはある。
極たまにだけど、教官から名前を呼び忘れられることもあるけど、そこまで目立たなわけじゃないと思う。多分。
それにフランクは工作兵。チームには欠かせない大事な存在だ。今日はちょうど、そんなフランクが主役になる出来事があったから、そのことについて書こうと思う。
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「人を狙撃せずに味方を勝利に導いてごらん」
この僕、ルクスは放課後の教室で、昨日リタさんの言った言葉を頭の中で繰り返す。
狙撃しないで味方を勝たせる。つまり猟で言えば僕は追い立て役で、味方のいる方へ、或いはいない方へと相手を誘導しなければならない。どんな風にすれば効果的か、昨日からずっと考えていた。
「、、、、クス! ルクスってば!」
呼ばれているのに気づいて、ハッと顔をあげると目と鼻の先にフランクが顔を突き出していた。
「わぁ! びっくりした。近いよ、フランク」
僕が思わず抗議すると、フランクは呆れた顔で
「何言ってるんだ、さっきからずーーーーーっと呼んでいるのに、気づかないんだから」
「ごめんごめん、ちょっと考え事をしていて。それで、どうしたの?」
「まったくもう。チーム名の相談だったんだけど」
今はチームA、B、Cと呼ばれている僕達だけど、対抗試合までにチーム名を決めなくてはならない。
担任のフォル先生は「適当でいい」と言うけれど、せっかくつけるならかっこいい名前にしたい。
「うーん、、、まだ全然。フランクは?」
「いいのを思いついていたら、ルクスに相談にこないよ」
困った顔で、両手を頭を後ろに回すフランク。
この宿題が出されたのは3日前。一応、練習試合までには決めるようにと言われている。
僕達はとりあえず明日のお昼の時に、意見を持ち寄って決めようと言うことになっていた。
「フランクは器用だから、こう言うのもすぐに思いつくのかと思ってたよ」
僕がそんな風に言うと、フランクは渋い顔をする
「手先の器用さは全然関係ないさ。あーあ、それこそ何か作って持ち寄れってんならすぐにでも出来るんだけどなー」
フランクの兵種、工作兵は隊の中でもかなり特殊な存在だ。戦場を一抱えもある大きな工具箱を背負って走り回る。
箱の中には、罠を作るための機材や、逆に罠を解除するための道具。それから壊れた銃を応急処置できる準備と、怪我をした仲間を治療するための薬などが入っている。
工作兵がいるのといないとでは、戦略の幅が倍ほど違うとも言われているので、どんな小さな単位の部隊でも工作兵が入っているのが隊の基本だ。
僕らのチームの工作兵、フランクは銃を直すのが好きで、、、、好きすぎて学園にやってきた。
「直すのは好きなのだけど、バラすのも楽しいんだよね」
と言う、ある意味では筋金入りの変わり者である。
趣味が銃の手入れと言うだけあって手先の器用さはクラスでも1番だと思う。
ただ、それ以外、例えば大きな箱を持って走り回る基礎体力や、人への治療はてんでダメ。
物を作ったり壊したりすることだけに、あくなき情熱を持った少年なのだ。
教室の中でも、みんなとのお昼でも、隙あらば何かしらを組んだりバラしたりしている。
「きっと他のみんながいいアイディアを持ってきてくれると思うよ」
どちらかと言うと何かに名前をつけるのは僕も苦手だ。フランクに聞かれる前から、正直諦めていたところがある。
それに今はチーム名よりも考えなくちゃいけない事もあるのだ。
「適当だなぁ、まぁ、何も出なければ仕方ないか。。。あ、そろそろ帰らなくちゃ。今日は寮の掃除当番だった!」
と、結局いいアイディアは出ないままに、フランクは慌ただしく教室を出ていった。
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フランクと話した翌日のお昼。
みんなが考えてきたチーム名のお披露目である。
それぞれ思い思いに考えた名前を提案するも、正直決め手にかけるといった印象。
もちろん僕の提案も含めてだけど。
行き詰まった感じになったところで、ハインツが気分転換と言った風に伸びをして
「チーム名もだけど、そろそろ練習試合の作戦も考えないとなー」
となんともなしに呟いた。それをきっかけに話はこの間の偵察の話題に移る。
もちろん偵察後に内容は伝えていたが、作戦はゆっくり考えようと先送りになっていたのだ。
と、僕はいい機会かなと思い、伝えるかどうか悩んでいた事を伝えることに決める。
「その事なんだけどさ、もしかしたら僕の勘違いかもしれないけれど、、、」
と前置きをして、マリアと見た猫をいじめた犯人の話と、僕らが見た対戦相手の騎士の話をする。
僕の話に一番最初に食い付いたのはマリア
「それ! 絶対犯人だよ! 許せない! 絶対勝ちたい!」
と、普段おとなしいマリアが憤慨している
「うん、確かに可能性は高そうだね。しかしそんなことがね。。。」
リックさんがちょっと難しい顔をしながら、腕を組む。
「偵察の時に言ってくれれば良いのに、、、でござる」
ハナとソニアに抗議されるも、僕としても伝えるべきか悩んでいた事を伝えると、なら仕方ないとあっさり引いてくれた。
それぞれ猫をいじめた犯人には腹を立てて、「そんな奴には負けられない」と言う気持ちが伝わってきた。
「よし、じゃあ、やっぱり先に作戦を考えよう!」
ハインツが鼻息荒く皆に言って、僕以外が同意するも、そこに僕が冷水を浴びせる。
「うん、だからさ、練習試合は徹底的に”負け”ようと思うんだ」
みんながポカンとした顔で僕を見た。
最初に抗議の声をあげたのはラット君だ。
「ルクス君、何言っているさ? 本気?」
「うん本気だよ」
僕が理由を説明しようとしたところで、リックさんが「ああ、そう言うことか」と思い当たる。さすが年上。
「つまり、ルクス君が言いたいのは、本番、実際に対抗試合に勝つために徹底的に手札を隠したい。そう言うことかい?」
「そうです。きっと相手も練習試合で負けるよりも、本番で負けたほうが悔しいと思うから」
みんなも、なるほどと納得してくれる。「どんな風に負けたら侮ってくれるかな」なんて、結構乗り気で相談を始めた。
そんな中でフランクがぽそりと「キャトラプ、なんてどうかな?」と呟いた。
「何がだい?」ハインツが聞くと
「チーム名、キャトラプってどうかな? キャットと2-Cの奴らを罠にはめるって意味でトラップを併せてみたんだけど、、、」
「キャトラプ、、、語感はなんかいいね」ソニアは気に入ったようだ。
それからそれぞれが口々に「キャトラプ」と呟いて、自分の中で消化してみる。
「いい、、、んじゃないかな? うん、悪くない気がする」ソニアに続きラット君も賛意を示したあたりで、みんなも「うん、良さそうだ」と納得の顔になる。
そうして僕らのチーム名は「キャトラプ」に決まったのだった。




