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6話 ミサーク村

挿絵(By みてみん)



「家が見える、村だ!」

 

 山道を歩いて数時間。俺たちはようやく人家のある場所までたどり着いた。


「長かった……。フォルナに着いてからひたすら山登り……。これでようやく人に会える……」

 

 転生してからの苦労を思い出し、しばしその余韻に浸る。


 山間の村。川の流れに沿うように村がありその周辺はひらけた土地になっていて、畑や家がある。ここから見える限りでは木造造りで、RPGにある中世の西欧風の建物といった雰囲気だ。山道は村に向かって伸びている。


 あの村が目指す村かな。入口の門から左右に丸太を打ち込んだ柵が並んでいて、入り口横に掘っ建て小屋のような建物が見える。検問所の様だ。


 まぁ、魔物がいる世界だもの、門番くらいはいるのだろう。


 とりあえず、門まで行って話をしよう。


『ミナト』


「ん?何」


『リンガ行ッテモ、大丈夫カナ?』


「え?……あ、そっか、リンが入れるか分からないのか」


 ゴブリンは弱い部類の魔物だと思うけど魔物には違いない。村人に拒否されるかもしれない。それにゴブリンといえば気になる事がある。


「リン、ゴブリンの村で人間の女の人を見た事ってある?」


『人間?ウウン、ナイケド』


「雄ゴブリンが人間を連れてきた事はない?」


『ナイヨ、昔、人間が村ヲ襲イニキタ事ハアッタミタイダケド』


 お、おう……さいですか。でも話を聞く限りこの世界のゴブリンは他種族のメスをさらうって事はないっぽいか。それなら少しは安心かな。


 第一、リンは魔物とはいって従魔だし俺にもよくなついている。


 他の人間を攻撃しないよう、話せば分かってくれるはず。ただそれでも魔物だと警戒されて、村に入れてもらえないかもしれない。


「もし、入るのを拒否されたら薬を渡して戻ろう」


『村ニ入ラナクテイイノ?』


「頼まれたのは薬を渡す事だし、誰かに渡せばきっと届けてくれるさ。そんなに大きな村じゃなさそうだし」


 もしこれが大きな町で人を探そうとしたら、えらい苦労するだろう。


 けど目の前に広がるのは、どう見ても小さい村落だ。家もそうない。多分、村人は百人もいないのではないだろうか。


 そういえばこの村、なんて村名なんだろう。そんな事をふっと思った時だった。


「セイルス王国=バーグマン領=ミサーク村」


 脳裏にそう浮かんだ。


 え、なに?何で分かるの?どうなってるの?


 突然の事に混乱する。この名前は何?そう考えたら思い出したように頭に浮かんだ。


 そう、思い出したように。感覚的にはそんな感じだ。


 ……思い出した……なぜ思い出した?俺には前世の記憶はあっても、この村の記憶はないはずなのに。


 自問自答してみた後、ある仮説に至る。俺の魂は俺の物だが体はトーマの物だった。この記憶は前のトーマの物ではないだろうか。


 考えてみれば体の中には脳も当然入るわけだし、記憶が残っていても不思議ではないのかもしれない。


 ……という事はトーマはこの村を知っているという事だ。村人の可能性も高い。ただ、最初にこの村が見えた時には、特に何も浮かばなかった。


 知ってはいるが、完全には思い出せない状態だ。


 これではいくらトーマがこの村の住人で、村の人がトーマを知っていても、スムーズな会話は難しい。自分がトーマだと言っても却ってあやしまれてしまうかもしれない。そうなればゴブリンであるリンに害が及ぶ危険がある。


 この状況をどう切り抜ければいいだろうか。


 「まずは俺一人で様子を見てくる。リンはここで隠れて待っていてくれ。大丈夫そうなら呼ぶから」


 「分カッタヨ、頑張ッテネ」

 

 考えた末、ひとまず俺一人で様子を見ることにした。リンには近くで隠れてもらう。検問所に着く。門の外に人はいない。検問所の中だろうか。


 窓口から中をうかがうと、中年のオジサンが椅子に座って居眠りをしていた。


 見た感じトーマと同じ普通の人間のようだ。


 検問所の中には槍や盾がたてかけられているが、うっすら埃が付いていて最近使われた形跡はない。

 

 田舎の村のようだし訪れる人もあまりいないのかも。じゃなきゃこんな昼間から寝てたりできないよなぁ。目の前のオジサンも小太りで鍛えているようには見えないし、それだけ平和だって事なのかもしれないけど。


 とにかく、このままではラチがあかないので声をかける事にした


「あの~。すいませ~ん」


「……ん?あぁ……すまん、うっかり眠っちまった……お、お前……トーマ……トーマじゃないか!生きていたのか!?」


 オジサンは心底、驚いた表情を見せると検問所を飛び出してきた


 え、生きてた?いや、最近死にましたが何か?


「知らせを聞いた時は、まさかと思ったんだが誤報だったんだな!いや~良かった!エリスさんも喜ぶぞ!」


 オジサンは笑って俺の肩をバンバン叩く。


「すいません、結構痛いです」


「ああ、すまねぇ、早く家に戻ってエリスさんに顔を見せてやらないとな。ほれ、早く行きな」


「あの、俺の家ってどこでしょう?」


「……は?何、言ってんだ、お前の家だぞ?分からないはずないだろ?」


「実は俺、昨日より前の記憶がなくて……どうしてこうなったか分からないんです」


「何だと?お前、まさか……ちょっとそこで待ってろ!オスカーを呼んでくる!」


 そう言うとオジサンは慌てて村の中へと走っていった。明らかに動揺している。


 検問所の前で一人、待たされた格好になったので、情報を整理する。


 考えた末、俺は記憶喪失を装う事にした。トーマの体を引き継ぐ前、トーマは何らかの出来事で亡くなっている。オジサンの話しぶりから、トーマが死んだという情報はここに届いているようだ。


 そして、エリス、オスカー。話の流れからすると、トーマに近しい人物だと思う。両親だろうか?


 どうもトーマの記憶は実際に見たうえで、思い出そうとしないと取り出せないようだ。しかも分かる情報も限定的で分かりにくいし。


 スキルもどうみられるか分からないので、今のうちにキュアポーションの入った袋をマジックバッグから取り出しておく。


 そうして、しばらく待っていると向こうから走ってくる人が見えた。


 今から俺はトーマになりすまし、トーマとして振舞わなければいけない。元々38のオッサンが15歳を装うのだ。違和感ありまくりだが四の五の言っている場合じゃない


「トーマ!無事だったんだね!心配したよ!」

 

 息を切らせて若い男が走ってきた。


 トーマと同じ金髪で背はトーマより10cm程高い。長身で細身のイケメン。これはかなりもてるに違いない。


 記憶によるとこの人がオスカーのようだ。トーマの兄で17歳。優しい性格で、訓練より書物を読む方が好き。でも剣も扱えて実力もなかなかという頼れる兄さん。だそうだ。


「記憶がないんだって?僕の事は覚えているかい?」


「えーっと、オスカー兄さん、ですよね?」


「そう!良かった。ちゃんと覚えていたんだね」

 

「オスカー兄さん、実は俺、記憶が……」


「大丈夫だよ、トーマ。記憶はきっと戻る。トーマの顔を見れば母さんの病気も少しは良くなるはずだよ」


「病気……母さんは病気なんですか?」


「そうか、覚えていないかぁ。母さんは1ヵ月くらい前から体調を崩している。元々は病気なんて滅多にしなかったのに、最近は何度か寝込んだり、回復したりの繰り返しだったんだ。父さんが亡くなってから、残された僕らの為に無理して働いていたから。そのツケが一気に出たんだと思う。御飯もあまり食べてなかったし」


 トーマの父親って亡くなっていたのか。


 母さんが病気と言っていたから、トーマが薬を渡したい相手は、トーマの母親でほぼ間違いないだろう。


「兄さん、薬の事なんですけど……」


 オスカーに薬を渡そうとした時


「オスカー、持ってきたぜ!」


 離れたところから男らしい声が聞こえた。


 いかにも戦士という感じの、がっしりとした体格の男が走ってきた。手に何かの入った瓶を持っている。


「すいません、グラントさん」


「いいってことよ、それより早くトーマにかけてやれ」


「そうですね。トーマ、少し冷たいけど我慢して」


 オスカーは瓶を受け取ると、ふたを開け、俺の頭から中に入った液体をかけていく。結構冷たい。そして瓶が空になった。


「……うん、良かった。大丈夫みたいだね」


「兄さん、これは?」


「これは聖水だよ。主にアンデッド退治に使うんだけどね」


「お前が死んだって情報が入ってから、死んだはずのお前が現れた。しかも記憶がないってんだ。ひょっとしたらアンデッド化してたんじゃないかって思ってな」


「えーっ!?、俺はアンデッドじゃないですよ!」


「ああ、分かってる。一応念の為ってやつだ。悪かったな」


 そう言って、グラントさんは笑った。どうやらアンデッド化の疑いは晴れたようだ。この世界にはアンデッドもいるんだな。やっぱり魔物がはびこる異世界だ。


 ちなみにグラントさんは村の警備隊長で村を魔物や盗賊、夜盗から守る仕事の責任者らしい。現在は事情があってその任を解かれているが、村人からの信頼は今なお厚い。短髪でオスカー程の背丈、そして、はた目からも分かる鍛え上げられた肉体。……これは頼れそう


 昔はトーマの父、アゼルも過去に隊長をやっていてその際、グラントさんはアゼルから手ほどきを受けていたらしく、師匠と弟子のような間柄だった……と、トーマの記憶が教えてくれた。


「それでトーマ、薬がどうとか言っていたような気がしたけど……まさか、手に入れたのかい?」


 オスカーからの問いに答えるため、袋からキュアポーションを取り出す。


「あ、はい。これです」


「ほ……本当に手に入れたんだ……すごいよ!トーマ!これで母さんの病気も治る!これならヴィランに頼らなくてもいい!」


 「おいおい、マジか……キュアポーションていやあ、とんでもない値段のシロモノだぞ。トーマ、一体どうやって……」


 オスカーもグラントさんも驚きを隠せない……ていうかヴィランて誰だろう、医者かそれとも薬師とか?


 どうやって入手したか、なんとも返答に困る質問だ。女神様からもらいました。なんて信じてもらえるか分からないしなぁ……ここはやはり


「それが、どうして俺が持っているか記憶がないんです」


 これで逃げる事にした。


「ふーむ、覚えてないか。覚えていないなら仕方がないけどな」


「すいません」


「別に謝る事じゃない。そのうち思い出すかもしれないしな」


 グラントさんは信じてくれているようだ。


「トーマ、本当に覚えていないのかい?」


「はい、俺の記憶がはっきり残っているのは昨日からで、その前の事は……」


「でも、僕の名前は覚えてたよね?」


「覚えていたというか、思い出した、という感じなんです。オスカー兄さんもグラントさんも顔を見てはじめて思い出した。という具合で……」


 嘘は言っていない。トーマが知っている人なら、記憶から引き出すことができる。かなり断片的だけど。


「うーん。ひょっとすると発見された状況が、関係しているのかもしれんな」


「俺が死んだと報告したのは誰なんですか?その時の状況は分かりますか?」


「言ってもいいが……大丈夫か?生きていたから言うが、気持ちのいい話じゃないぞ?」


 グラントさんが俺とオスカーを交互に見る。きちんと聞く覚悟があるか、という事だろう。


 オスカーを見ると頷いている。


 よし。


「お願いします。何か思い出すヒントがあるかもしれませんし」


「……分かった」


 グラントさんは一呼吸おいてから話し始めた。







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