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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
2章 ノースマハの街編

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21話 緑の海はすべて芋


「うわぁ……これは……」


「わ~、すご~い!葉っぱだらけだぁ!」


 玄関の戸を開け、飛び込んできた景色に俺は絶句した。


 見渡す限りサツマイモの蔓、蔓、蔓……。


 辺り一面、蔓や葉に覆い尽くされ、地面が見えない。家の周囲にまで侵食しており、まるで緑の海。そして風が吹き、そよぐ葉は緑の波だ。


 いったい何が起きたんだ……?訳も分からず呆然としていると


「……すまんミナト、こうなったのは我々のせいなんだ」


「そういうことじゃ」


 ゲッコウが声をかけてきた。その影に隠れるように、ヌシ様もいる。


「あ、ゲッコウさん!ヌシ様も!我々のせいってどういう事ですか?」


「実はなこのイモを早く成長させてやろうと、魔力増強剤をちょいっと注入してみたんじゃ。そうしたら、この有り様でな」


「魔力増強剤……?そんなものがあるんですか?」


 ヌシ様の話によると、魔力増強剤とは濃縮された魔力でつくられた肥料みたいな物で、注入することで植物の成長を促進させるアンプルのような魔道具らしい。普通の野菜や植物なら成長が早められ、収穫までの期間が大幅に短縮できる、という効果があるようだ。


 サツマイモの収穫を楽しみにしているリンを喜ばせようと、ヌシ様とゲッコウがサプライズとして使ったらしい。


 うん。その気持ちはすご~くありがいんだけど……。


「それにしても、ちょっといきすぎでしょう?こりゃ、いくらなんでも成長しすぎですよ」


 見渡す限りの緑の蔓は壮観ではある。これならきっと地下のサツマイモも成長してるだろう。


「そうなんじゃよ。どうもこのサツマイモとやらは元々持っている魔力、そして吸収できる魔力が極端に高かったんじゃな。いくらこの魔力増強剤が高品質でも、ここまで急激に育つ事はないはずなんじゃが……」


 それを聞いてドキッとした。この蔓の元となったサツマイモは、日本からの持ち込み品のひとつだ。それらは例外なく高い魔力をもっている。


 元々、ここで植えたサツマイモは日本で植えた時より、はるかに早く成長していた。そこに成長促進の魔力を注入したもんだから、一気に成長したという事なのか。


「ま、まぁ、今は原因を考えるよりも、伸びた蔓を片付けましょう!早く蔓を刈り取るんです!」


「そうだな。まだ蔓が伸び続けている。流石にこのままではまずい。ミナト、鎌はあるか?」


「もちろんあります。じゃあ、ゲッコウさんとヌシ様は蔓を刈って下さい。俺はライとラナを起こしてきます」


「分かった」


「ん、ワシも?」


「ワシも、です!!」


「ワシ、ヌシ様なんじゃけど……」


「今は少しでも人手が欲しいんです!ここに居たのが運の尽きだと思って諦めて下さい!」


「やれやれ、ヌシ使いが荒いのぉ」


 マジックバッグから鎌を取り出し、二人に渡す。


 ゲッコウは素早く、ヌシ様はぶつぶつ言いながら蔓を刈り取り始めた。


「リンも蔓を刈ってくれ」


「うん!じゃあ「光刃」でスパスパってするね!」


「ああ、頼んだよ」


 リンが愛用の果物ナイフを抜き、魔力を込める。するとナイフの刃先が輝き刀身が成長するかのように長くなっていき、50センチ程伸びたところで止まった。「光刃」というスキルで攻撃力はそのままに攻撃範囲が広がる。魔力量により範囲は増減するが、この今のリンにはこの長さが一番やりやすいんだそうだ。


「いくよ~!」


 蔓の海に飛び込んだリンは、そのままナイフを振り回す。それと同時にサツマイモの蔓が面白いように刈られていく。リンの通った場所は草刈機を使ったようにきれいな道ができていた。


「ほぉ、あのナイフは魔剣じゃな。リンちゃんはあんな事もできるのか。やはりただのゴブリンではないのぉ」


 リンを見て、ヌシ様が目を細めている。


「ヌシ殿、口より手を動かして下さい」


「ゲッコウ。お主も、もそっと老人をいたわる気持ちをもっても良いのじゃぞ?」


「我々の蒔いた種を刈り取ってからです。いや、この場合、蔓でしたな」


「やれやれ、ヌシもつらいのぉ。ワシはこんなふうに若い連中に邪険に扱われて、やがて枯れていくんじゃな……」


 そんな事をつぶやきながら緑の海を刈り取るヌシ様は、言葉とは裏腹に楽しげであった。

 



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 

 家に戻った俺は、まだ寝ていたライとラナを起こす。事情を話し、作業を手伝ってくれるように頼んだ。


「分かりました、すぐに支度をします!」


 寝起きでもハキハキと返事を返し、寝巻きを着替え支度をするライに対して……


「……眠い……お腹減った……朝ごはん……」


 布団から顔だけを出し、眠そうな目でボソボソと呟くラナ。


「まずは外を片付けてからね。街の人が来る前にやっとかないと」


「……お肉」


「朝から肉かい?まぁ、いいけど仕事の後でね」


「……ヨーグルト」


「分かったよ。用意するから」


「……ハチミツ」


「ああ、ハチミツをかけるのか。了解」


 そこまで要求してからようやくもぞもぞと起きだすラナ。


「……ん~、ミナト~、着替えさせて~」


「それは自分でやろうね。はい、着替え」


「……む~、けち~」


「自分の事は自分でやらないと。さっ、みんな外で作業してるからラナも早く来るんだよ?」


「……は~い」


 最近は毎朝こんな感じだ。ラナは朝が弱いのかなかなか起きられない。そしてここでの生活に慣れてきたラナは来た当時とは逆に今度は何かにつけて、俺を頼るようになっていた。


 どうやら本来はこういう性格で、それはライに対してもそうだったらしい。なので彼からは「あまりラナを甘やかさないようにして下さい」と言われている。まぁ、最初の敵意むき出しの頃に比べたら今の方がよほどいいので、ついつい甘やかしてしまう俺がいるのだが。


 ラナを部屋に残してライを伴い、外に出ると……。


「おおっ、すごい!もうあらかた終わってるじゃないか!」


 家の前まで迫ってきていた蔓は、あたり一面、きれいに刈り取られていた。一本、一本が苗のような状態にになり地面に落ちている。向こうの方ではリンが残った蔓を刈り取っていた。


「うは~、こりゃ人間芝刈機だな」


 いや、リンはゴブリンだから、「ゴブリン芝刈機」か。とにかくすごいスピードだ。



挿絵(By みてみん)



「ミナトー!だいたい終わったよ!」


 そして刈り取りが終わったリンが戻ってきた。


「ずいぶん早く終わったね。ありがとうリン」


「うん!切った蔓はどうするの?いっぱいあるけど」


「全部集めよう。切ったやつにも使い道があるからね。さて、もうひと頑張り!ゲッコウさん達も切った蔓を何ヵ所かに集めて下さい」


「ああ、分かった」


 ようやく支度を済ませたラナも合流し、俺達は手分けしてリンが切った蔓を集め、いくつかの山にした。それらはすべてマジックバッグにしまっておく。


「ふむ、ミナト。切った蔓は何か使い道があるのか?」


「サツマイモって蔓を植えておけば育つんですよ。ちょうど苗状になっていたから誰か欲しい人がいればあげようと思って」


「ほぉ、サツマイモとやらは苗からできるのか?種芋は必要ないのか?」


「ええ、肥料も最低限でいいし、育てるのも簡単です。それに何より甘くて美味しいですし。たくさん収穫できるし、芋類だから一時的な主食としてもいけますよ」


「ふむ、まるで救荒作物きゅうこうさくもつじゃな」


 救荒作物とは、凶作で小麦や米の収穫が落ち込んだ時にも比較的、安定して収穫できる作物の事で日本だとひえあわ、ソバ、ジャガイモ、そしてサツマイモもそうだ。


「そうですね。俺はサツマイモがジャガイモみたいに麦が不作だった時の代替食料の一つの選択肢になれば、と思ってます。あ、でもこれだけ急激に育つ蔓だとまずいか……」


「それは心配せんで良い。魔力増強剤の効果は一時的なものじゃ」


「そうなんですか?」


「うむ。……ところで肝心のサツマイモはどこにあるかのぉ?あれだけ蔓が育てば実である芋も育っておるのではないか?」


「そうですね。育っているなら土の中ですけど……何か、このサツマイモ、蔓が勝手にあちこちに根を生やしてるみたいです」


 サツマイモって次々と根が増殖する性質なんてあったっけ?ヌシ様の魔力増強剤で、一時的にスーパーサツマイモ(?)にでも変化したのか?どっちにしろ蔓を刈り取ってしまったから、芋がどこにあるか分からないぞ……。


「ええと……あそこの下……何かが光っているような気がするんです。そこを掘ってもらえませんか?」


 ライが地面の一画を指差して言った。


「え?ライ、場所が分かるのかい?」


「はい。多分、ですが……」


 ライの指摘した場所を掘ってみると、大ぶりのサツマイモが顔を覗かせた。


「わぁ、すっごくおっきい!それにいっぱいあるよ!」


 イモを掘り出し、リンが歓声をあげる。


「……これがサツマイモ……」


 ラナがサツマイモをじっと見つめている。


「ここと、あそこと……まだまだたくさんあります。辺り一面に広がってます」


 ライは目が見えないはずだが、彼の指差す先の地中を掘ると必ずイモが見つかる。どうしてだろう?


「ライや。お主、もしや「魔力探知」がつかえるのではないか?」


「魔力探知?」


 魔力探知は文字通り魔力を探知するスキルだ。


 このフォルナに存在する物質は、保有量の違いはあれど全て魔力を有している。魔力探知は使い込むことでその物体がもつ魔力を正確に感じる事ができるようになる。


 似たスキルに気配探知があるが、生き物以外の物質の魔力も感じ取れる魔力探知の方が、スキルの難度が高く使える者も少ないのだ。


「い、いえ、そんな!僕はそんなすごいスキル持っていません!」


 慌てて否定するライ。


「確かに今はスキルと呼べるほどの精度はない。しかし、素質はあるようじゃ。ライや、魔力探知ができれば周囲が見えるようになるぞ。目から見える視界とはちと違うが、普通の人間と何ら変わらぬ生活が送れよう」


「本当ですか!?」


「うむ。目から情報が得られぬなら魔力で得ればよいのじゃ。魔力探知を使いこなせればそれも可能になる。どうかな?お主がやりたいのなら習得の修行を施してやってもよいぞ?」


「本当ですか!……あ、でも……僕は……」


「素晴らしいじゃないか。修行をつけてもらいなよ、ライ」


「でも、僕はミナトさんの……」


「新しくスキルを覚えるのも仕事のうちだ。ヌシ様、そんな訳で俺からもお願いします」


「ミナトさん……」


「ほっほっほ、分かった。引き受けよう。これから頑張るんじゃよ?」


「はい!ありがとうございます!ヌシ様、ミナトさん」


「でもまずは芋掘りを頑張ろうか!まだまだ沢山あるんだろう?」


「はい!、あ、あそこからも魔力を感じます!」


 気合いの入ったライが示した場所を掘っていくうち、辺りは収穫したサツマイモが山積みになっていた。けっこう範囲はあったがリンやラナも頑張ってくれた。いや~、サツマイモを収穫するのは楽しいね~!




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「よし、ひとまずこれまでにしよう。みんなお疲れ様でした!」


「うん!楽しかったね~!」


「たくさん収穫できて良かったです!」


「……疲れた」


「うむ。このように皆で力を合わせて働くのも、楽しいものだな」


「肉体労働なぞ、久々じゃったわい」


 みんな思い思いの返事を返す。サツマイモを収穫し終え心地よい疲労感を感じる。


「ワシなんて見よ、頑張りすぎてすっかり腰が曲がってしまったぞ」


 ヌシ様が腰の辺りをとんとんと叩く。


「曲がるも何もヌシ様の腰は元々でしょ?」


「ほっほっほ。ミナト、お主も言うようになったのぉ。山に入る時は、幻を見ないよう気をつけるんじゃよ?」


「えーっ!?ヌシ様、脅さないでくださいよ~!」


「そうだな。ミナトは少し精神を鍛えねば」


「ゲッコウさんまで!もう勘弁して下さいよ!」


 俺とヌシ様との掛け合いに自然と笑い声が起きる。


「……ミナト、お腹減った」


「ああ、そうだね。せっかくだからサツマイモを焼いて朝ごはんにしよう!ヌシ様もゲッコウさんも是非食べていって下さいよ」


「そうじゃな、せっかくなのでご相伴に預かろう。サツマイモの味も気になるしのぅ。そうじゃな、ゲッコウ?」


「そうですな」


 と言うことで俺達は、まずサツマイモの調理をはじめた。


 テーブルと人数分の椅子を用意した後、コンロを置く。そして大きい鍋に石を敷き詰めて卓上コンロに火をつける。


 石が熱くなるまで熱したら、収穫したばかりのサツマイモを置き、蓋をしたら一時間ほど焼くだけ。これで美味しい石焼き芋のできあがりだ。


「これは「卓上コンロ」というのか。ずいぶん便利な魔道具だな」


「これがあれば冒険がぐっと楽になるじゃろうな」


 ゲッコウ達はコンロに興味津々だ。リンが得意気に使い方を説明しているのがなんだか可笑しく、微笑ましかった。


「……ねぇ、ミナト」


「何だい?ラナ」


「……サツマイモ、固い」


「え?だってまだ焼けてな……って、何で生で食べてるの!?火を通してからだよ!」


 何とラナは、生のサツマイモをそのままかじっていた。そりゃ固いわ。


「……だって、トマトは生で食べるし」


「そりゃトマトは生で食べるでしょうよ。これはちゃんと火を通さないと!」


「……奴隷の時は芋を生で食べた……腐ってたヤツもあった」


「そうだったのか……。でも俺はそんな物は出さないからさ。もう少しの辛抱だから待ってて。きっとラナも気に入るから」


 ラナなだめつつ、一時間後程待ち……。


 鍋の蓋をあけると、ふわっとした湯気と適度にしんなりしたサツマイモが姿をみせた。それと同時にみんなからおーっ、という歓声が上がる。


 串を刺してみると抵抗もなくするっと突き刺さった。うん、ちゃんと火も通ってる。


 鍋から取り出し、布にくるんでみんなに配る。


 真ん中を割ってみるとほわっとした湯気とねっとりとしたサツマイモの断面が姿を表す。これぞ美味いサツマイモって感じだ。


「それじゃ食べようか。熱いから気をつけてね」


「うん!」


「いただきまーす!」


 みんながサツマイモを一口、食べてみると


「アフアフッ!あま~い!」


「あまっ……すごく美味しいです!」


「……熱い!熱い!ライ……!フーフーして!」


「ほう、これは……」


「うむ、美味い。これがサツマイモか……」


 どうかな?みんなの表情からすると好感触のようだけど。


「すごい濃厚な甘さですね!こんなの食べたことありませんよ!」


 ライが感嘆の声をあげる。


「ははは、そうかい?」


「ミナト、これはどこの芋なのだ?私も色々な場所に行ったがこのような芋は初めて食べたぞ?」


「え?えっとですね……この芋は……」


 ゲッコウに聞かれて思わず返答に窮した。


「……そう!以前に極東きょくとうのとある国から来たという旅の人と知り合いになりまして、その人から譲り受けたんです」


極東きょくとうというと東の果てにある国と言うことか……」


「はい!俺も詳しいことは教えてもらっていません!」


 このサツマイモも日本からの持ち込み品であるが、前世の事についてはトーマからあまり公にするのは止めておけ、と言われているのだ。


「……ミナト……もう無い」


 ラナが悲しそうな表情で俺の所へやってきた。作った焼き芋はいつの間にかきれいになくなっていた。


「あ、ああ。もう全部食べちゃったんだ。じゃ、俺のをあげるよ」


「……嬉しい……このイモ、好き」


 そう言ってまた嬉々として食べ始めた。


「ヌシ様、どうでしょう?サツマイモは受け入れられますかね?」


「そうじゃな。この美味さに加えて、この甘さじゃ。間違いなく喜ばれよう。これならば貴族連中にも受け入れられような」


「貴族にもですか?」


「うむ。甘さは贅沢の象徴じゃからの。特に貴族は甘い物には目が無い者が多いゆえな」


「まぁ、貴族がどうこうより、まずはここに来る人の間食として出してみるつもりですよ。欲しい人がいれば苗を植えてもらうつもりです」


「そうじゃな。何にしてもこの芋が早く広まるとよいのぉ。ワシもこの芋が気に入ったぞ」


「ヌシ様に気にいってもらえてよかったですよ」


 ヌシ様にも太鼓判をもらったし、さっそくここに来る人にサツマイモの蔓を配ってみよう。


 朝食のあとラナから肉とヨーグルトをくれと言われた。焼き芋を食べたじゃないかと言ったら「別腹」と返された。リンよりよく食べるなぁ……。


 そしてもう一つ、この時、俺はまだ気づいていなかった。ヌシ様が魔力増強剤を注入したのはサツマイモだけではなかった事を。


 後日、双子山に巨大な大木が姿を見せた。そこにはたくさんのリンゴの実が成り、さらにその枝に絡み付くように伸びた木から葡萄が鈴なりになっていた。


 サツマイモを含めたこれらの奇跡。訪れた人達は後に「女神パナケイアの祝福」と呼ぶようになるのである。








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