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40話 想いの力



 このままじゃ、リンが死んでしまう!

 

 くそっ、俺には回復魔法の適性があるはずなんだろう!?


 こんな時のためにあるんじゃないのか!? 


「ヒール!」


 そう叫ぶが何も変化はない。


「ヒール!ヒール!」


 何度叫んでも変わらない。


「畜生っ!畜生っ!」


 何が回復魔法だ、何も起きないじゃないか!!


 肝心な時に役に立たない魔法に何の意味があるんだ!?


 なんでもいい、誰でもいい!どうにかして俺の血でも魔力でもリンに送る方法を教えてくれ!リンを死なせないでくれ!!


 その時だった


『ならば応えよう……己の一部とせよ』


 ……!?……なんだ?誰だ!?


 突然、誰かの声が聞こえた。周りを見回すがそれらしい存在はいない。


『従魔を己の一部とするのだ』


 今度ははっきりと聞こえた。耳からじゃない、念話のような頭の中に響くような声。男のような女のような、若いような老いたような。


 声は確かに聞こえたはずなのに、なぜか判別できない不思議な声だ。


 リンを俺の一部に?どういう事だよ!?


 不思議な声が応える。


『お前は見ていたはずだ。お前の記憶。その中に答えはある。……思い出せ!』


 その声を聞いた瞬間、脳裏に過去の光景がフラッシュバックする。


『ミナトノ体ヲ、自分ノ一部ダト思ッテ、動カスンダヨ!』


 これは同調を始めたばかりの頃のリン?……俺の体を自分の一部だと思って……?


 また場面が切り替わる。目の前にエリスさんがいた。


『いい調子ね。魔法を発動させるためには、まず体内の魔力を集めていくのよ』


 これは魔法を覚える訓練か……体内の魔力を集める……。


 その時、脳内に電撃に似た何かが走り抜けた。


 見えない糸が幾本も手繰り寄せられ繋がっていくような感覚。


 ……そうか、これだ!


 一縷の望みをかけ、リンをやさしく抱きかかえイメージする。


 リンは常に俺より俺をコントロールできた。


 何より大切なのは一体感。


 リンは俺の身体をリンの身体だと思って操る、と言っていた。


 俺もそれにならうんだ。


 目をつぶり集中する。リンの身体を自分の身体の一部だと考える。


 頭の先からつま先までリンは俺だ。


 そこに俺の魔力を流す。体内の魔力がめぐりだす。


 俺の腕のを通り指を伝ってリンの体内に流れ込む。


 かけめぐった魔力はそのままリンを抜け、俺の中に還ってくる。その流れはとてもスムーズだ。

 

 ……よし!次は回復のイメージだ。目を閉じ、ひたすらイメージするんだ!


 体外からではなく、体内から血液をめぐらし治療していく。体内の壊された細胞を修復し、治す。すみからすみまで全て!


 頑張れリン、もう少しだ、頑張ってくれ!


「頼む!治ってくれ!ヒール!!」


 魔力と願いを込めて叫んだ。

 

 ……なんだか周囲が明るくなった気がする?


 目を開けると俺達の周囲が明るい。


 いや、何か俺たちが発光してる?


 昼間だというのに何か俺たちだけライトを当てられたように、ほのかな光を放っていた。


 これが俺の回復のイメージ?


 そう思っていると抱えたリンが少しだけ体を動かしたのに気付く。


「リン……?」


 俺の声に答えるようにリンがゆっくりと目を開けた。


「リン!」


『ミナト……?』


「あ……あぁ、リン……リン!!治った……良かっ……た……!良か……っ……!」


 リンに声をかけようとするが、涙が溢れて言葉が出てこない。


『リン、目ノ前ガ真ッ暗ニナッタノ』


「真っ暗……?」


『何モ見エナクテ、寒クテ、怖クテ。リン、コノママ死ンジャウンダッテ思ッタ。ソシタラ、ミナトの声ガ聞コエタノ。頑張レ、頑張レッテ。ダカラ、リン頑張レタ……』


「……そっか……俺の声……届いたんだね」


 リンの話に泣きながら何度もうなづく。


『ソノアト、暖カイモノガ流レテキテ……体ガ暖クナッテ、ミナトノ声ガ聞コエタノ、アァ、ミナトニマタ、助ケテモラッタンダッテ』


「そんなの当り前じゃないか。それよりまだ痛いところはないかい?」


『ウン、モウ痛クナイヨ』


「本当に?本当にもう大丈夫?」


『本当ダヨ、ダッテ、ホラ!』


 俺のひざからぴょんと飛び降りると、ほらね?と言いながら体操をするような仕草をする。


「本当に治ったんだ……リン……俺……」


『ミナト~!』


 胸元にリンが飛び込んでくる。


『ミナト、アリガトウ!』


「リン、良かった、本当に良かったよ……」


 それしか言う事ができず、リンを抱きしめる。リンの匂いがなんだかなつかしく思える。


 この時の俺は気づいていなかった。


 死んだと思っていたシャサイの腕がわずかに動き、口に何かを含んだ事を。


「さあ、村に帰ろ……」


 そう言いかけた時だった。

  

『ミナト!ウシロ!逃ゲテ!』


「え?」


 後ろを振り返る俺の目に、剣を構えこちらに突っこんでくるシャサイが映る。


「バカな!なんで!?死んだはずじゃ!?」


 血にまみれた身体、鬼気迫る表情、その目には狂気が混じる。明らかに普通の状態じゃない。


「ヒャハハハ!てめぇだけは許さねぇ、死にやがれぇぇ!」


 俺は必死に立ち上がろうとした。しかし、立とうとしても身体が思うように動かない。


 その間にも凶悪な殺意を秘めたシャサイの剣先が、容赦なく迫る。


 水の魔弾アクアバレットはもう撃てない。


 木刀は手元にない。

 

 俺にはもう打つ手がなかった。


「ヒャハハハ!!」


 勝ちを確信したシャサイの笑い声が耳に刻まれる。


「リン、ごめん……」


 俺は立ち上がる事もできず、リンをふところに抱いたまま丸くなる。


 もう駄目なのか……せっかくリンが元気になったってのに……せめてリンだけでも……せめて……。


 ……頼む!誰か……誰か……!


 ……助けて!!


「死ねぇぇぇ!!」


 そのシャサイの声が聞こえたとほぼ同時だった。


「ウインドパーム!!」


「何っ!?うぉぉぉ!!」


 シャサイの叫び声と共に、強風が吹き抜け土埃が舞い上がる。


 すさまじい勢いの風だった。俺は飛ばされそうになりながら、リンをかかえて姿勢を低くし必死に耐える。


 風は突然止み、何事もなかったように静かになった。


「リン、大丈夫か?」


 体をゆっくり起こす。


 俺の体の下にいたリンが大丈夫と答えた。何とか無事なようだ。


「今のは何だったんだ?いきなり風が吹いてきて……あ!シャサイは!?」


 慌てて後ろを振りむくがシャサイはいない。


「いったい何が……」


『ミナト、アソコニ……』


 リンが指をさす、と


「ミー君!」


「え?」


 リンの念話をさえぎるように、聞き覚えのある声が聞こえた。


 その声の方向に顔を向ける。


 俺の事をミー君と呼ぶのは一人しかいない。その人は、握っていた杖をカランと地面に落とした。


「……エリス、さん?」


「ミー君!リンリン!」


 その声と一緒にエリスさんが駆けてきた。


 俺はゆっくりと立ち上がった。が。


「あっ!?きゃあああ!」 

 

 感動の再会……のはずが近くまで駆けよってきたエリスさんが、足をもつれさせ勢いあまって前のめりに倒れてくる。


「エリスさん!?」


 慌てて抱き止めるが、そのまま二人とも倒れ込んでしまう。


 倒れはしたが、かろうじて受け止める事ができた。


 エリスさんは俺にしがみついたまま、ボロボロと涙をこぼしている。


「良かった!ミー君もリンリンも生きてた!良かった良かったよぉ!」


「エリスさん……どうしてここに?」


「ププが教えてくれたの……偵察中に村に向かうシャサイと、その先にミナトとリンを見つけたって。あぁ、きっと二人は私の代わりにシャサイと戦うつもりなんだって。でもシャサイは強いもの……このままじゃミー君とリンリンは死んじゃうって……。そう思ったら居てもたってもいられなくなって……」


「い、いや、安心して下さい。なんとか生きてますから!ほら、リンもこの通り大丈夫だったし!」


 かたわらでリンがウンウンと頷いている。


「作戦通り山賊を壊滅させて、「血の解錠」の儀式は出来なくしました。俺もリンも無事だったから、だから泣かないで!」


 実際はあんまり大丈夫とはいえなかったけど、結果的にリンも俺も大丈夫だった!だから終わりよければ全て良し……だよな!


「もう、二人共、ムチャばかりして……でも本当に生きてて良かったわ……」


 倒れたままエリスさんにもう一度ギュッと抱きしめられる。


 エリスさんの体のぬくもりを感じながら、生きててよかったとしみじみ思った。体はボロボロ、魔力も限界まで使って、もう倒れ込んでしまいたいくらい疲れていたが、そんな疲れも吹き飛ぶくらい幸せだ。

 

 でも、これは俺一人の力でやり遂げたのではない。色々な人達に助けてもらえたからだ。そう、トーマにも助けられたんだ。あいつに魔法を教わったからシャサイを倒す事ができた。きっとエリスさんを守る事ができて喜んでいるだろう……。今度また会う事ができたら礼を言わないとな。


 そして、リンを助ける時聞こえたあの声……。あの声がなかったら、リンを助ける事ができなかった。あの声は一体何だったのだろう……?


『ミナト、オスカーガ来タヨ』


「オスカーが?」


 見るとミサーク村へ続く山道からオスカーが、それに続いて三人の村人が姿を現した。


「母さん!どうしたんだよ!突然飛び出してって……あれ?トーマ?」


 俺とエリスさんは慌てて立ち上がって手を振る。オスカーが駆けよってきた。


「トーマ!無事だったんだね!良かった!」


「はい、なんとか無事でした。この通り生きています」


「ああ、何よりそれが一番だよ。それで奴は!?シャサイは!?」


 そういえば、シャサイはどこに……?


「二人とも、あそこよ。多分気絶してるわ」


 エリスさんの指さす木の根元に、シャサイが座り込んでいる。


 吹っとばされて木に激突したようだ、剣は離れたところに刺さっていた、首がガクンと下を向いている。


「気を失っているうちに捕縛しましょう。オスカー、ロープはある?」


「え?慌てていたから用意が……」


「ロープなら俺が持ってますよ……よっと。はい」


 マジックバッグからロープを取り出しオスカーに手渡す。ロープはガレキ集めしていた時に、手に入れた物だ。


「助かる。じゃあ、みんな」


 オスカーが村の人に声をかける。


 そういえば、再び俺を攻撃してきたシャサイの様子がおかしかった。目が血走り、顔がいびつにゆがみなんだか正気の人間のそれではなかった。気絶していたとしても、注意した方がいいだろう。


「エリスさん、実はシャサイと戦った時に……」

 

 その時の状況を話すとエリスさんは、少し考える仕草をした後


「それはおそらく狂人化していたのね」


 と言った。


「きょうじんか、ですか?」


「狂人化すると、常人ではありえない力を発揮することができるの。その上昇幅は強化スキルを上回るわ。気分が異常に高揚して痛みも感じなくなる。ただ身体には過剰な負荷がかかるし、使用後の反動も大きい。冒険者として再起不能になる人もいるくらいなの」


「そんなスキルがあるんですか?まるで危ないクスリみたいですね」


「スキルじゃないの。あなたの言う通り、狂人化はある薬を飲む事で発動する。でもそれは裏の世界で流通する闇の薬なの。主に裏の世界の人間が使用するものだけど、時として戦場で使われることもあるわ。もちろん冒険者ギルドからも使用を禁止されているの」


 それってまさに麻薬じゃないか。シャサイはそんなものを使ったのか……。


「きっと持たされていたんでしょうね。最後の切り札として」


「だとしたらエリスさんが来てくれなかったら……」


「意識をこっちに向けさせて動きを止めよう思ったんだけど、魔法が効くとは思わなかった。ミー君が風殺の腕輪をシャサイから取り返したの?」


「風魔法が効かなくなるあれですか?いえ、俺は取り返してませんよ?」


「そうなの?じゃあ、なぜなのかしら」


 その答えはシャサイを捕縛してから分かった。


 風魔法を無効化する風殺の腕輪はシャサイの左腕にあった、しかしその腕輪は大きくへこみ貫通していた。


 もちろんこれは俺の撃った魔法によるものだ。


 俺の魔法をシャサイがとっさに腕輪でとめ、結果腕輪は破損し、それによって腕輪は機能を失ったようだ。


 しかし腕輪が防波堤になって威力が減衰し、致命傷までには至らずシャサイはかろうじて生き延びた。しかし、そのおかげでエリスさんの魔法が通用するようになった、という事らしい。


 そして現れたタイミングも絶妙だった。もし、エリスさんの到着がもう少し遅れていたら俺達もどうなっていたか分からなかった。


「そういえばエリスさん。さっきの魔法は?」


「ああ、あれね。「ウインドパーム」。風の壁をぶつけて相手をつき飛ばすの。普通なら少し後ろに押される程度で魔法そのものにはあんまりダメージはないんだけどね」


「それがあれですか?かなり吹っ飛んでますけど……」


 ぱっと見、10mは飛んでいる。ひと一人をあそこまでもっていけるものなのか……ウインドパーム……ゲームで言えばノックバック効果のある魔法、みたいなものか?とてもその程度の威力には見えないんだけど……。直訳で風のてのひら……というか、相撲の突っ張り?


「最大の魔力をこめたから。そのくらいしないと私に注意が向かないと思って」


 あんなのをまともに食らえば、俺達も飛ばされていたはずだ。


 シャサイのそばにいたのに大丈夫だったのは、それだけ魔法の精度が良かったと言う事だろう。さすが風魔法のエキスパート。魔法さえ効けばシャサイでもあんな風になってしまうのか。


 気絶したシャサイにオスカー達が手際よくロープをかけていった。


「母さん、こんな感じでいいかな?普段よりもガッチリ縛っておいたけど……」


「ご苦労さま、オスカー」


「でもあれだけの怪我をしているし、もう心配ないんじゃ?」


「甘いわ。どれだけのダメージを負っていても、どんな奥の手を隠し持っているかわからない。こういう輩に情けは禁物なの」


「うん、そうだね」


この場で取り押さえたのはシャサイの他、俺が倒した山賊3名、こいつらは後で村に移送し、その後ノースマハの街の警備隊に引き渡すらしい。


深い傷を負い、さらに身ぐるみはがされほぼ裸に近い状態で、幾重にも縄で縛られる様はあわれだが、確かにシャサイは腕が立つし、まだ何を隠し持っているか分からないから用心するにこしたことはない。


シャサイはヴィランを殺害し、村人を脅迫しエリスさんをさらおうとした罪人だ、この処置はやむを得ないだろう。それでも、申し訳程度の止血と応急処置はとられている。


 俺達にしてもかなり危ない戦いだった。俺もリンも命を落としてもおかしくなかった。それでも何とか勝利で終わることができた。


 俺達より数段強かったはずだ。それでも辛うじて勝つ事ができたのは俺達が必死に情報を集め、作戦を練ったから。そして、奴に『油断とおごり』があったからだ。


 俺達を取るに足りない者だと侮っていたことが敗因なんだよ。シャサイ。

 

 ……それにしても、シャサイは倒したが、ダニエルがこのまま鉱山の利権をあきらめてしまうとは思えない。もしかしたら、また誰かを差し向けてくるのかもしれないな……。


 その時、うう……とうめき声がシャサイから漏れた。


「目を覚ますわよ。警戒して」


 俺達が注視する中、シャサイの殺意と狂気をはらんだ目が開いた。











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