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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
1章 ミサーク村編 

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31話 勝つために



 ミサーク防衛軍を結成したその日の夜、屋敷の玄関に背負い袋を身につけたリンがいた。


「どうしても行くのかい?」


『ウン!』

 

「リンリン、ここに居ても修行はできるわ。一人で修行しなくてもいいのよ?」


『リン、モット強クナリタイ!リン、マダマダ弱イカラ』


「そんな事ないよ。むしろ俺はずっとリンに頼りっぱなしなくらいだし……」


 アニーと別れた後、リンは何やら考えているようだった。どうしたのかと思っていたら突然


『森ニ、一人デ修行ニ行キタイ!』


 と言い出した。


 もちろん、俺やエリスさんは止めたが、どうしても行くと言ってきかない。


 話を聞くと、やはりシャサイに敵わなかった事を気にしているようだった。このままではシャサイに勝つことはできない、一人になって自分自身を鍛えたい。だから一人で修行に行きたい。それがリンの希望だった。


 リンはそう言うが、俺が初めてリンにあった時に比べ、その実力は飛躍的に伸びていると思う。それはエリスさんも認めているところだ。エリスさんの分析ではその成長スピードは目をみはるものでありその実力もゴブリンの中でも中位クラスのゴブリンエースやゴブリンナイトにも匹敵するのではないかとの事。


 俺はそんなゴブリンは見たことないが名前からしてかなり強い部類だろうというのはなんとなく分かる。たしかリンのいた村のトップはゴブリンキングだったはず。「王」までには至らないが相当の実力がある、という事だろう。

 

 しかしリンが見据える相手はあくまでシャサイだ。今はまだ実力的に敵う相手ではないからこそ、少しでもその差を縮めたいという。


 頑なに修行に行くというリンを説得しようとしたが意思は固く、結局最後は俺たちが折れる事になったのだった。


『絶対に強クナッテ戻ッテクルカラ!大丈夫、リン、「ボーエーグンノハンチョー」ダモン!』

 

 そう言って笑うリン。不安だが行くと決まったからにはちゃんと支度を整えてあげねばならない。


 まず武器は果物ナイフ、リンが使うとなぜか切れ味がハネ上がる。服は黒のTシャツ。この二つは魔具ではないかとエリスさんが言っていた。どうかリンを守ってくれ!


 それから背負い袋にポーション、食糧と水。それに傷に効くという塗り薬。あとはカ〇リー〇イトを忍ばせる。リンにこっそり伝えると、とても喜んでいた。リンは俺が持っている食べ物は全て美味しいと思っているようだ。確かに俺が今まで出したもので嫌がった物はない。日本の食べ物はゴブリンの口にも合うようで何よりだ。


「怪我したらちゃんとポーション使うんだぞ!」


「リンリン、危険だと思ったらすぐ帰ってくるのよ」


 玄関先で見送る俺達にリンは笑顔で手を振ると、足をかばうようにゆっくりとした足取りで森へ消えていった。


「……行っちゃったわね」


「……行っちゃいましたね。大丈夫かなぁ」


リンの姿が見えなくなると急に心配になってくる。


「リンリンは今でもかなりの実力よ。街に行ってもそのへんのゴロツキぐらい、リンリンなら簡単にひねれるのに」


「そうなんですか?」

 

 エリスさんは俺達が街に行くと思っている。どうやら今のリンでも大丈夫だと踏んでいるようだ。


「でも、リンリンはきっと強くなって帰って来るわ、そんな気がする」


 エリスさんはそう言うがやはり心配だ。街に行くことが、じゃない。大森林の中で何かあったらどうするんだ、という事だ。


「もし、強い魔物にあっちゃったら……リンは足が悪いし、もし逃げられなかったら……エリスさん、やっぱり俺、連れ戻してきます!」


 森の方に走ろうとした瞬間、背中をバシッと叩かれた。


「あだっ!?」


「しっかりしなさい!あなたの従魔でしょ?マスターであるあなたが信じてあげなくてどうするの!?」


「いや、信じてはいるんですけど、やっぱり心配になって……」


 そんな俺を見てエリスさんはため息をつく。


「もう!どっちかというと今のあなたの方が心配よ。リンリンなら大丈夫。きっと元気で戻って来るわよ。私達ができるのは信じて待つ事。心配しすぎると自分のやるべき事にも身が入らなくなってしまうわ。ミー君だって魔法の訓練があるでしょう?厳しい言い方かもしれないけど魔法を覚えたばかりのあなたにリンリンを気にしてる暇はないはずよ」


「……そうですね。マスターの俺がうろたえてちゃダメですよね。俺は魔法の訓練に集中しないと」


「そういうことよ」


 諭されるように言われようやく心が落ち着いてくる。


 リンは強くなった。もう出会ったばかりの頃とは違うんだ。リンはリンで何をすべきか考えた上での結論なんだろう。それにひきかえ俺はオロオロしてばかりだ。


「はぁ……俺がこんなだからリンは自分が実力をつけないと、と思ったのかなぁ」

 

 実際に山賊に襲撃されたとき俺自身はほとんど戦いに参加していない。エリスさんやリンが山賊達を倒すそばでほとんど立っていただけだ。マスターとして頼りないと言わざるを得ないだろう。


「もし、そうだとしてもリンリンはそれを補おうとしてくれている。それにそんなふうに思ってもらえるなんて、テイマー冥利に尽きるわ。あなたは幸せ者よ」


 俺の肩に手を置いてそうエリスさんが笑いかける。数日後にネノ鉱山に向かわなければならないとは思えない程、生き生きと新たな闘志(?)を燃やしている。そんな姿を見ると、「血の解錠」とか夢なんじゃないかと思えてしまう。彼女は彼女で生死に関わる覚悟を迫られているというのに。


「私達は私達で頑張りましょう!さ、明日も訓練よ!ミー君はミー君のやるべきことを全力でやる。分かった?」


「……分かりました。俺は俺の事に集中します。リンのマスターとしてもっと頑張ろうと思います!」

 

「うん、よろしい。頑張ってね」


 俺の言葉に満足したのかエリスさんは笑顔でもう一度俺の肩を軽く叩くと、自分の部屋に戻って行った。


 ふと空を見ると満天の星がキラキラと瞬いている。澄みきった空の中、キラリと一条の光が流れた。思わずつぶやく。


 どうかリンが無事に帰ってきてくれますように。


 どうかエリスさんを助ける事ができますように。


 どうかププがいい報告を持ってきてくれますように。


 前世ではたいして期待もしなかった願掛けだったが、今は本気でそう願わずにはいられなかった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 次の日、リンがいないので俺はひとり、魔法の訓練を続けていた。エリスさんから俺が詠唱ができないので通常の訓練は難しいのではないかと言われたからだ。


「自分のイメージを小さなものから具現化してみる訓練をした方がいいと思うわ。毎日繰り返すことによって消費魔力を抑えられるようになるし、魔力も増強していくと思う……イメージで魔法を発動するなんて、魔法の理から外れているミー君に、私もアドバイスしづらいのだけれど」


 すまなそうにエリスさんは言う。


 とりあえず、自分で工夫してやってみるしかない。


 まず消費魔力を抑える事を考えた。俺の魔法は最初に魔力で水球を生成し、それに威力や効果をつけて成型して、それを発動させる。


 何度か発動させて気付いたのだが、最初に水球を作るだけでかなりの魔力を消費するのだ。


「ならば、魔力で生成するんじゃなくて、本物の水で代用すればいいんじゃないか」


 この理論に基づいて俺は今、川の中に立っている。深さは膝下ほど。緩やかだが冷たい水の流れが足を刺激する。


 ……始めるか。


 まずは深呼吸をひとつ。よし、まずはこの水を吸い上げてみよう。


 呼吸を落ちつけ意識を集中、身体に水を吸い上げるイメージで……。


 すると身体の中に、冷たいものがせり上がる感覚がきた。


……いいぞ、これを成型して……投げる!


 ウォーターボールが発動し、放物線を描いて川の中に落下した。


「いいんじゃないか!これ」


 思わずガッツポーズをする。


 魔力で生成するより、楽にできたという感覚がある。魔力で作った水と性能はほぼ変わらない。それでいて魔力の消費は少ないから、同じ魔法でも使用回数が多くできる


 問題は手元に水がないと駄目って事だな。それに川の中だと動きが鈍るし、第一都合よく水がある場所で戦えるか分からない。


 でもイメージって凄いな。


 イメージが固まって来るにつれ、水球を段々作りやすくなってくる。でも曖昧なイメージの物は上手く作ることができない。俺が良く知っているものの方が魔力の消費も少なくて、するっと作れるようだ。


 ……新しい魔法もこのイメージの力を使えば作れるかもしれない。それにはまず……アレはどうかな?そんなに魔力は使わなそうだし、でもシャサイには通用しないかな……。


 アイツに勝つために作戦は考えた。シャサイ確かに強い。だが戦いに絶対はないはずだ。


 そうだ、こんな魔法はどうだろう。


 目をつぶり意識を集中させる。イメージするのは水道からのびるホース。片手でホースの先を持ち、反対の手で蛇口をひねる。と。


 体の中を何かが通り抜けていく感覚のあとホースをイメージした先から水が溢れだした!


「やった!成功!」


 川の水を吸い上げ、ホースの先端から水を出す。やっぱりやったことがある事はイメージしやすいな。これから更に指先を強く握りホースの先を小さくすれば……。


 すると溢れ出た水が勢いよく発射され遠くにまで届くようになった。


 もしこれを強化できれば遠距離からでも攻撃できるんじゃないか!?やった!俺もやれば出来るじゃん!と、自画自賛していたら、水がぱたっと止まってしまった。


 あ、ありゃ?


 もう一度イメージしてみたが先程まで勢いよく流れていた水がまるでウソのようにうんともすんともいわなくなってしまった。


「あれ、変だな。あ、それなら蛇口の方をひねれば……」


 今度は蛇口をひねり水量を上げるイメージを思い浮かべた。しかしやっぱり水は出ない。


「おかしいな。さっきは上手くいったのに……」


 どうしてなのか、と指先を顔に向けた途端、


 ブシャァァ!!


「あぶぁ!?」


 止まっていたはずの水が突然勢いを取り戻し俺の顔に放出されたからたまらない。


 その勢いに重心が後ろに走り俺は慌てて足を踏ん張ろうとした。が。


「アワァ~!?」


 水中の苔のついた石に足を滑らせてしまう。慌ててバランスを取ろうとしたものの、時すでに遅し。片方の足は空中を蹴り上げ、視線の先は空に浮かぶ雲をとらえた俺は、某米兵よろしくサマーソルトキックを決めていた。


 踏ん張りの利かなくなった身体は重力に任せ、そのまま後ろ向きにダイブ!


「あばばば!ぐぶぁ!」



 俺は両手をバタつかせなんとか姿勢を起こそうとする。が、水は容赦なく俺の衣服にまとわりつき動きを阻害する。ヤバい!このままでは溺れる!何とか何とか掴まるもの!と、必死にもがく俺の右手の指先が底の石に触れた。あれ?浅い。


 意識が急速に明瞭になり俺は暴れるのを止めた。身体が水中に浮き川の流れを感じる。


 ……はぁ、何をやってるんだ俺は。


 水の底に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。こんなことは冷静であれば簡単に対処できたはず。驚きと焦りのせいで余計な体力を使ってしまった。さっき水か出なくなったのもきっと集中力が足りなかったのかもしれない。顔に向けた途端、いきなり水が出たのはイメージがしやすかったからか?昔、そんなアニメが大好きだったからか?おのれ、俺の記憶の〇ムとジェ〇ー!


 それにしても水魔法の使い手が、水で命を落とすなんてシャレにならん!それを今、身をもって体験した。


 本日の教訓「人は30センチの水でも溺れてしまう!」


 ほんと気をつけないと。そうだ、よく漫画や小説で水の玉を相手の顔に纏わせて窒息させる、なんてシーンがあったな。いつかそんな場面があるかもしれないな。漫画とかではどうやって対処してたんだっけ?


 まあいい、大切なのは「こんな事もあろうかと」という心構えと準備とシミュレーションを重ねる事。焦りはなんて事も無い事をミスに変えてしまう。あくまで平静に冷静に、だ、と自戒を込めてそう思った。


 さっきの「放水の魔法」はもう少し改良できそうだ。今の段階ではウォーターボールと一緒で、牽制くらいにしか使えない威力だもんな。でも「投げる」という動作を省略しても遠くに飛ばせる事ができたのは大きな収穫だ。これにもう少し、決め手になるようになるものを付加できれば……。


 しかし、魔法にばかり時間を割いてもいられない。シミュレートした作戦の準備の方も抜かりなく行わねばならないからだ。


 その為に時間を見て森や川で必要なものを集めてきた。集めた物資はマジックバッグに入れていく。マジックバッグの容量は不明だがどんな大きなものでも簡単に入る。どれだけ入るのかは不明だがかなり膨大になっているはず。


 俺のスキルの詳細をパナケイアさんにいろいろ聞いてみたいが、あの女神様はエリスさんの夢には現れたのに、俺の所へは出てこないよなぁ。たまには来てほしいよ。まぁ、俺も選定者の仕事は全然してないけど。


 そんな思案を、水びたしのまま川に立っていた状態でやっていたおかげで、すっかり身体が冷え風邪を引きそうになってしまった。


 あとアニーに見られていたらしく何をやってるのか尋ねられた。ひとりでバタバタやっていたので泳ぎの練習でもしてるのかと思った、との事。「今度、泳ぎ方を教えてあげるね」とも言われた。解せぬ。


 そんなこんながありつつ、残された時間で作戦を形に変えるべく訓練と準備に明け暮れているうちに、あっという間その日はやってきたのだった。








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