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27話 決意


『エリスノ目……アノ時ノ、オ姉チャント同ジ。村カラ逃ゲタ時モ、オ姉チャンハ笑ッテタ……「大丈夫、スグニ追イツクカラ。アナタハ先ニ逃ゲナサイ」ッテ。ダカラリンハ逃ゲタ。オ姉チャンハスグ二追イツイテクレルト思ッテ……デモアレハ嘘ダッタ……!』


 辛い思い出なのだろうリンの顔が悲しみで満たされる。リンと初めて会ったときリンは雄ゴブリンに追われていた。リンの姉は身体を張ってリンを逃がしたのだ。


『振リ向イタラ、オ姉チャンハ追ッテ来タ雄ト戦ッテタ。雄ハ、イッパイイタノニ、タッタ一人デ!リンヲ逃ガスタメニ……。エリスノ目ハアノ時ノオ姉チャント同ジナノ!ミナト、エリスヲ行カセナイデ!』


 リンが必死に俺の服を掴んで訴えるその目には涙が浮かんでいた。エリスさんの嘘を見抜いたのはさっきの俺の会話。


「本当にこれでみんな助かるんですね?」


 と言ったとき。あの時、エリスさんは笑って頷いていた。言われてみれば確かに落ち着いた優しい笑顔だった気がする。俺にはよほど自信があるんだな、ぐらいにしか感じられなかったんだけど。


 リンはこんな事で嘘はつかない。きっとエリスさんは自分の身がどうなろうと俺たちを逃がす気なんだ。いや、ひょっとしたら自分を犠牲にして俺や村の人々を救おう、なんて考えてるのか?


 俺の記憶に昔読んだ漫画が浮かぶ。そこには魔物に襲われ絶体絶命となった仲間を救うため、自らの命と引き換えに強大な魔法を放つ魔法使いの姿があった。


 まさか……いや、もしエリスさんが使おうとしている『秘技』が命の危険を伴うものであったら?エリスさんは「この魔法は私の代で終わらせるつもりだ」と言っていた。それが安全で有益なモノであるならそんな事は言わないだろう。可能性はおおいにある。


 ……くそっ、なんて事だよ!あれだけ自信ありげに話してくれたあの自信満々の姿。あれは演技だったってのか!?


『リンハエリスヲ守ルッテ約束シタ!……今度ハ絶対助ケタイ……モウ置イテカレルノハ嫌ダ!!』


 ボロボロと涙を流しながら、声を震わせ絞り出すように言うリン。痛々しい姿、そしてその想いに触れ俺は決意を固めた。


「……うん、そうだよな……。約束したもんな。約束、破っちゃだめだよな。エリスさんが死んじゃったら嫌だもんな」


『……ミナト?』


「助けよう、エリスさんを助けるんだ」


『ミナト……!』


「俺はリンを信じる。俺達でエリスさんとミサーク村を救おう!」


 こちらを見つめるリンに笑顔を返す。リンの涙を見て俺も覚悟を決める。


「俺もエリスさんやオスカー、村のみんなも誰一人犠牲になってほしくない。だからやろう。それにはリンの力が必要だ。協力してくれるかい?」


『ミナト!!ウン!ヤル!絶対ニヤル!リンガエリス達ヲ助ケル!』


 泣いていた顔がぱあっと笑顔に変わり、俺に抱きつく。


『ミナト、大好キ~!』


「ははは、ありがと」


『デモ、ドウヤッテ助ケルノ……?』


 俺を見上げリンが尋ねてくる。


「う~ん、まだ分からないな。まず実行できる作戦を考えて情報収集もしないといけない。まぁ、全ては明日からだ。リンも疲れてるだろう。今日はもう休みな?また明日から頑張ろう」


「ウン、分カッタ」


 リンと共にベッドに入ると安心したのかすぐに寝息が聞こえてきた。


 助けようと言ってみたものの俺には相手を圧倒する力も周囲をなぎ払う強力な魔法もない。


 ……せめて時間がもう少しあれば……。


 いや、もうそんな事を言ってはいられない。すでに事態は動き始めてしまっているんだ。


 とにかくやらなくてはいけない。


 しかし……今の俺に何ができる?何をしたらいい?俺がやれる事はなんだ!?

 



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 部屋をノックする音で目が覚める。


「トーマ、起きてる?僕だ。入るよ」


 ……?あれ、日差しが……いつの間にか朝になっている?俺は目をこすり体を起こす。どうやら考えている途中で寝落ちしたらしい。部屋の戸の前にオスカーが立っていた。ゆっくりと立ち上がり彼の元へ歩く。


「あれ?兄さん。昨日の会合も遅かったみたいなのに……朝からどうしたんですか?」


「どうしたじゃないよ!母さんから聞いたよ。こんな時に村を離れるって本当かい!?」


 オスカーの表情が硬い。そういえば昨日の夜中、何か言い争う声が聞こえたような気がしたな。


 確かに俺は村からギルドに手紙を持って行く。だが詳細まで話すつもりはない。平静を装い、答えた。


「はい。街へ行くのは本当です。エリスさんから用事を言いつかりました。近いうちに村を出るつもりです」


「村を離れるって事は……もしかして……大事な時に母さんを助けられないかもしれないって事だよ?それを分かって引き受けたのか?それに道中には見張りがいる。どうやって街へいくつもりなんだ?」


「それは何とかします。絶対に村に迷惑はかけません。それにエリスさんは策があるって言ってました。俺はそれを信じてますから」


「策なんて……!!止めても母さんは一人でネノ鉱山に向かうというし、こんな時にトーマは村を離れるというし……おかしいよ!本当にお前はトーマかい!?以前のトーマなら母さんの側を離れなかったはずだ!」


 ズキッと胸が痛んだ。


「すいません……こんな時に。あと一つ、申し訳ないですが俺を防衛隊のメンバーから外して下さい。俺を頭数に入れないようお願いします」


「!?」


「俺にはやることがあるんです。俺にしかできない事が。だから防衛隊と一緒に戦う事は出来なくなりました。すみません」


「それは本気で言っているのか?」


「はい」


「お前は母さんを守ることよりも、街へ行くことの方が大事だと言うんだな?」


「……はい」


「……分かった。もういい。好きにしろ。僕は一人になってもこの村を守ってみせる……!」


 一瞬、怒りとも侮蔑とも思える表情をしてオスカーは部屋を出て行った。


『良カッタノ?ミナトモ村ヲ守ル為ニ動クンダッテ、言ワナクテ』


 いつの間にか横にいたリンが聞いてくる。


「いいんだ。これで防衛隊に入らず自由に動ける時間を確保できたし。全てが解決すればオスカーも分かってくれるさ。それにエリスさんが旅立つ前までにこっちも作戦を進めていかなきゃならないからね」


 エリスさんにも策はあるのだろう。でもそれはきっとエリスさんの犠牲の上に成り立つもののはずだ。薄々オスカーもそれに気づいているんじゃないだろうか。だからといって俺が村に残ったとしても恐らく状況は好転しない。


 だから俺は俺なりのやり方で動く。


 エリスさんに頼まれた任務に乗じて俺は俺の作戦を遂行するつもりだ。これは村の人達はもちろんエリスさんにも知られてはいけない。知ればきっとエリスさんに力ずくで止められるだろう。


 でもこんなところでエリスさんを死なせるために、トーマは薬を取りに行ったんじゃない。俺達だってこんなことでエリスさんを失うために頑張ってきたんじゃない。シャサイなんかに奪われていい命なんてどこにもないんだ。


  ……助けよう。絶対に。


 見てろよ、トーマ。俺が必ず救ってみせるからな。


 脈打つ胸に手を当てて、俺は、そう誓ったのだった。







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