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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

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49話 ミナト、王を撃て!



 空間に亀裂が入ったと感じた直後、本陣を守っていた結界がはじけ飛ぶ。そして、あろうことか閉じ込められていた膨大な魔力が爆散し凄まじい暴風と化した。


「ヤバい!みんな伏せろ!」


 咄嗟にリンを抱きかかえて、防御魔法で身を守りながらうつ伏せに屈む。その頭上を凄まじい暴風が吹き抜ける。風だけじゃない。石や砂、そして本陣に置かれていた木箱や武器、様々な物資を内包した嵐だ。


 この結界内に無防備に侵入しようものなら身体を引き裂くような風の刃と飛んできた飛来物によってあっと言う間にミンチにされただろう。おお、こわっ!


 ……と、砂嵐が襲い視界が遮られた中で、俺はかすかに砂塵に浮かぶ二つのシルエットをとらえていた。


 くそっ!無事でいてくれ!ハロルドとジョリーナなら大丈夫だよな!?あんなに、あんなに強力な術士なんだもんな!この強力な結界をぶち破るくらいの魔法は二人の力なんだよな!?どうか、どうか生きていてくれ!!


 やがて、砂嵐は弱まり、風が収まるとそこに立っていたのは、傷だらけの身体でハロルドを背負って尚ただ一人の敵を睨みつけているジョリーナ、そして禍々しい魔力をまとい、ジョリーナの視線に臆することなく悠然と立っている新王リデルだった。


「ジョリーナ!!ハロルド!!」


「ジョリーナ大丈夫!?ハロルドをこっちに!」


 崩れ落ちそうなジョリーナとぐったりとしたハロルドに駆け寄る。


「……ミナト……?ようやく……来たの。ま、あーしだけでもチョー余裕だったけどね……」


 強がって笑顔を見せるジョリーナ。ただ、その笑顔は震えていた。見るからに痛々しかった。衣服は裂け、身体は傷だらけだ。息も絶え絶え、かろうじて立っているといった様子だった。


「話はタヌから聞いたよ。魔王相手によくここまで……!」


「……フフン、あーしの実力をなめてもらっちゃ困るわ。それよりハロルド大丈夫そ?回復魔法かけられるならお願い……ハロルドからかけてあげて。へへ、ミナト……あーし、ちょっと疲れたかも……」


「ああ、わかった!君のおかげでハロルドが助かったんだ!こんなに強いなんて……本当にジョリーナはすごいよ……」


 こんなに苦しそうなのに笑うジョリーナを見て俺は泣きたくなった。


「うん、すごいよジョリーナ!」


「へっ……とーぜんよ……ちょ、ミナト何泣いてんのよ……キモ……」


 そう言ってまた笑うジョリーナ。魔力を限界まで絞り出したその顔は蒼白になり、血の気が失せている。


「さぁて……これからが本番ね。あーしとアンタ達で……アイツをぶっ倒すか」


「いや、もう魔力も残ってないだろう?後は俺達が引き受ける。ジョリーナ、ちょっと休んで俺たちの活躍を見ていてくれ」


「そーだよ!バトンタッチだよ!リン達に任せて!ジョリーナ!」


「へへっ…自信満々じゃん。なら、そうさせてもらおうかな。……頼んだわよ」


 そう言うと立ったままフッと意識が途絶えるジョリーナ。倒れそうになる彼女をしっかり抱きとめる。


 気を失い、肩で乱れた呼吸をしている。よく生きていたなというくらいだ。限界を超えてなお戦い続けていたんだろう。


 ……一人でハロルドさんを守って魔王(リデル)に挑んだんだ。よく頑張ったな、すっごいよジョリーナ。


「コタロウ、ジョリーナを安全な所へ運んでくれ」


「御意」


 コタロウにジョリーナを託す。そして、ぐったりとしているハロルドに声をかけた。


「ハロルドさん!大丈夫ですか!?」


 声をかけるとゆっくりと目を開けるハロルド。


「……ミナト。ジョリーナは?」


「無事です。コタロウに託しました」


「そうか、よかった」


「ハロルドさんは大丈夫ですか?」


「ははは、ごらんの通りさ。リデルを倒そうと乗り込んだ結果が無残に返り討ち。挙句に教え子に助け出されてこのザマだ。本当はもう少しやれると思っていたんだけどね……。こっちは肉体が無いけど奴だって所詮人間の体を乗っ取っているに過ぎないんだからね……。ああ、情けないところを見せてしまってすまない……」


「何言ってるんですか!?……あなたはきっと刺し違えてもリデルを倒そうと思ったんでしょう?それは決して情けなくなんかありませんよ!すぐに回復魔法かけますからね、ちょっと待っていて下さいよ」


「いやぁ、君もジョリーナも実力は申し分ないね。もう私の出番はないなぁ。だからね、私に回復魔法は必要ない」


「必要ですよ!!もうっ!駄々っ子みたいなこと言わないでください!」


「違うよ、ミナト。君のすべての魔力は奴を倒すために使うんだ。そして倒した後で余った魔力があったら私を治しておくれ。それぐらいの間は待っていられるよ。ハハハ、何を泣いているんだい?さあ、行っておいで」


「はい、わかりました!ロイ!俺がヤツの注意を引きつけてる間にハロルドさんを安全な所へ!」


「分かった。必ず連れて行く」


 ハロルドをあの暴風を辛くも凌いだロイの背に預ける。


「西セイルスの未来は君達にかかっている。アイツの過去の妄執を断ち切ってやるんだ。まあ私もひとの事は言えないんだけどね」


 そう軽口をたたくハロルドの魔力は、出会ってから今まで感じていた中で一番弱まっていた。まるで命の火が消えていくように少しずつ小さくなっている……。それでも俺達はハロルドに背を向けた。だからこそ俺達は勝たなくては!負ける訳にはいかないんだ!


 ハロルドを背中に乗せたロイが離れていく。


「……さて。待たせたなリデル」


 リデルに向き直る。奴はハロルド達が戦線離脱する間、俺達のやり取りを邪魔することは全くなく、ただ、冷笑を浮かべ見守っているだけだったのだ。


「ほう、誰かと思えばいつぞやの小僧ではないか。まだ生きておるとはな」


「おうよ。お陰様でな。あの時の礼を返しに来たぜ」


「クククッ。あの時におめおめと何処かへと逃げ帰って命拾いしたのだから、今、また折角の命を無駄にすることもあるまい?」


「せっかく拾った命だからこそかすのさ。しかし、攻撃せずに待ってくれるなんて、随分気前がいいんだな。攻撃の機会はいくらでもあっただろ?それが王者の余裕ってやつか?」


「フッ。か弱きものどもが必死に足掻いているのだ。最後の時間くらいは与えてやるが王たる者の役目であろう?」


「はーん、そうかい。ありがとよ!でもな、その余裕こそが足をすくうんだって後悔することになるんだぜ!」


「王は後悔なぞせぬ。なぜなら余が行う事柄全てが正しいからだ」


 うわっ、この上から目線!何で行うことすべてが正しいんだよっ!どういう精神構造な訳!?だからこいつ嫌いだ。この戦いだってそうだ。人の命をなんだと思ってやがる。単なる数字みたいに扱いやがって!


「ふざけんな!お前らが絶対に正しいなら、今こうして戦いなんて起きてねーんだよ!なめた事をほざいてんじゃねぇ!」


「わずかな先の事しか考えられぬ小物には分からぬと思うが、これは我がセイルス王国が真の強国になる為に必要な過程。権力にしがみつく邪魔者を排除するには多少の痛みはつきものだ」


「これが必要な過程だぁ?一つ言っといてやる。自分の意思で最も人を殺した奴のはな、暗殺者でも連続殺人犯でもない。欲という悪魔に取り憑かれたお前のような権力者だ!断言するぜ。お前がいる限りこの国が良くなる事は絶対にない!」


「ならばお前が変えてみるがいい。できるものならな!」


 ここまで多くの血が流れすぎた。言われなくてもやってやるさ!


「リン、行くぞ!!」


「おっけい!ミナト!」


 ぐっと膝を曲げ、身体を落とす。そして……。


「うおぉぉっ!!」


 魔力を足元に集中、そして一気に解放させる。それによって得た推進力で瞬時にリデルに肉薄する。


 愛刀を振り下ろすその刹那、リデルの口元に笑みが浮かんだ。リデルが自身の腰に帯びた剣を抜く。


「おらぁぉっ!!」


 リデルめがけ居合抜きの一撃を放つ。だが渾身の刃は身体に届く直前、ヤツの剣により止められた。


「ほぅ、その得物は魔剣だな。しかも相当な業物。……フッ、面白い」


 俺の攻撃を受け止めたまま、リデルが笑う。力で押し切ろうとするがいくら力を込めても動かない。


 リデルの持つ抜き身のその刀身がマグマのように深紅のオーラを帯び赤く輝く。足元から紅蓮の炎が沸き立ち、その焔が巻き付くようにリデルの身体を昇っていく。それはさながら炎の竜のようだ。その炎の渦はどんどん力を増し、ヒュプニウムの鎧を身につけているのに焼け付くような熱気が伝わってくる。


 これは……まずいっ!


 危機感を覚え後方に飛ぶ。と今までいた場所に炎の渦が巻き起こった。


 うひぇっ!あそこに留まってたらあの渦に巻き込まれてたわ!あっぶね!


 リデルを見据え木刀を構える。ヤツのオーラ呼応するかのように俺の木刀あいとうが冷たく青く輝く。俺の身体を青いオーラが包み込む。それは冷たく、そして熱い。


「クククッ、よい反応だ。良いだろう、では余が直々に相手をしてやる」


 鞘を投げ捨て、流れるような動きリデルが剣を構える。それは俺を倒すまで決して鞘に納めぬ、というヤツの意思表示か。


「小僧、来い!」


 その瞬間、俺の身体は地を蹴り宙を舞った。一気に距離をつめ、リデルに肉薄する。


 近づきざま、連撃を放つ。青い機動が弧を描き、斬撃が迫る。時を同じくしてリデルが剣を振るう。ガキッ!と音を立て、衝突した刀身から火花のようなオーラが弾けた。


「ぐっ!?」


 声をあげたのは俺の方だった。今まで戦いで感じたことがなかった衝撃がびりびりと腕に響く。


 くっ、この程度っ!なんて事はない!


 さらに追撃。やつの剣の動きを見切り一撃をたたき込む。しかし、それらは一瞬の剣さばきによって受け流された。


 ちっ、速い!そして隙が無い!


 受け流す動きも無駄がないし、なにより素の筋力がめちゃくちゃ強い。元々アーサー皇子は軍を率いて連勝してきたフィジカルと指揮能力に優れた優秀な皇子。そのアーサーの身体を自分のものとして完全に動かせるのか!魔王の知恵と、鍛え抜かれた皇子の体なんて最強のハイブリッドだぜ!


 くっ!でも俺にはリンがいる!反射神経と戦闘能力は負けちゃいない!


 ああ、それにしても踏み込んでも隙一つ見せない。そして、ヤツの剣もまた、最強クラスの魔剣だろう。腕にこれほど響く衝撃は今まで体験したことがなかった。


「大丈夫か、まだいけるか!?」


 木刀あいぼうに魔力を送る。もちろん!と言わんばかりに刀身が青い輝きを増し、俺の意思に応えた。


 よし、ここいらで一発かましてやる!


「リン、アレやるぞ!」


「分かった!」


「喰らえ!水の連射弾(アクアバレット)!!」


 リデルに向けて数十発の魔弾を放つ。奴が魔力の防御壁(マジックウォール)を展開し、魔弾を防ぐ。


 よし、ここだ!!


「いっけえええええ!!、裂波斬れっぱざん!!」


 振り抜いた瞬間、衝撃波が発せられた。地面を引き裂き、巨大な青い波刃はとうが怒涛の勢いで襲いかかる。水龍ギルメデスをも倒した水の刃は魔力の防御壁(マジックウォール)を粉砕し、地を切り裂く水の衝撃波がリデルに殺到する。しかし、リデルは動かない。その口に笑みが浮かんだ。


 ……笑った?


「フンッ!!」


 水の刃が届く瞬間、リデルが剣を薙いだ。水の刃と炎の剣が交錯し、衝撃を受け止める。


 嘘だろ、裂波斬を正面から受けやがった!?


「ハァァッ!!」


 気合と共に振り抜いた剣が水の刃を打ち砕いた。くそっ、ギルメデスを真っ二つにした必殺の剣をまともにくらっても尚、平然としてやがる。どういうことだよ!?


「ハハハ!いいぞ!その動き、実に良い。余に挑まんとするからには、この程度の実力を持っていてもらわねばな!」


 嘘だろう!?カストールなんて比較にならない。数段上だ!あああ……こいつめちゃくちゃ強い!


「ミナト、アイツ凄いね……」


 リンの想いが伝わってくる。でも、それは恐れや恐怖じゃなかった。


「凄いよ!アイツ強い!でも絶対に……絶対に!倒してやるんだから!!」


 熱い、燃えたぎるような闘志。強大な敵に対する恐怖、恐れは全くない。以前、ヤツから強烈な威圧感を感じ、動けなくなった。身体がすくみ、何も出来なかった。


 でも、今のリンは……いや、今の俺達は違う!


 俺にはリンがいる。どんな時にも諦めない。強く、優しい心をもった最強の相棒。


 魔王だろうが、国王だろうが関係ない。大切なものを奪おうとする奴等は許さない!必ず守りきってやる!!


 相対するリデルを睨み、再び構えをとる。俺の裂波斬を凌いだリデルが口を開いた。


「なかなかの攻撃だった。あの時とはまるで違う。かなり鍛錬を積んだようだ。それは素直に認めよう」


 ぐぬぬ。こいつ、どこまでも上から目線で見下しやがって!


「ではこちらかもいかせてもらおう。派手に踊るがいい」

 

 踊る……だって?


 リデルが何事かを呟く。


地を駆る火竜(ランナーズ·ボム)


 次の瞬間、俺の気配探知が多数の気配を捉えた。


 なんだ?……何かが地中から……?リデルから発せられた無数の何かが一斉にこっちへ向かってくる。


「っ!ミナト、危ない!避けて!」


「なっ!?」


 リンの声に咄嗟に横へ飛ぶ。次の瞬間、ドン!という破裂音と共に立っていた地面が爆発した。


「なんだ!?爆発!?」


「まだ来るよっ!」


「うわっ!」


 避けた先でも新たな爆発が起き、地面を抉る。 


「くそっ!きっとこれは誘導式の魔力爆弾だ!俺達の気配に反応して追ってくる!」


 かわしても、かわしても次々に殺到する魔力爆弾。踊るってこの事かよ!いったいやつの魔力はどんだけあるんだ!?


「ミナト!危ないっ!」


「なにっ!?」


 いつの間に!?ヤバい、魔力爆弾に気を取られている間に間合いに入られた!リデルの振り抜いた一撃が俺に迫る。


 ヤツの放った斬撃を辛うじて木刀で受けとめる。……が。


「拙いな。「また」気配探知が疎かになっているぞ?」


「……っ!?」


 かつてリデルとの戦いで刺し貫かれた傷跡がうずく。


 ちくしょう!完治したはずなのに。嫌な記憶を呼び起こしやがって!


「余に逆らった事を後悔するがいい!」


 リデルの持つ剣に力が籠る。くそっ!支えきれないっ!


 ぐぐぐぐぐぐぐうっ!


「ハァッ!!」


「うわぁぁっ!!」


 リデルの振りぬいた剣をまともに受けきれず、その衝撃で俺の身体もろともふっ飛ばされた。


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