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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

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48話 グレースとエドワード



 エドワードがグレース皇女率いるマージナイツを迎え討つ為、ジェンド将軍の陣に到着したのとほぼ同時に、その軍勢が姿を現した。


「確かにあの旗印はマージナイツ!」


 馬上から眺める先、翻る旗はセイルス王国が誇るマージナイツを示していた。そして、その先頭で白馬に跨る騎士はグレース皇女その人であった。


 そして伝令の報告通り、率いる騎士団の大半が徒士となっている。


「メイソン、マージナイツは魔術騎兵隊だ。にも関わらず過半以上の者が騎乗馬を失っている。どうやら、ミナトにかなり手酷くやられたようだな」


「そのようです。ミナト殿の働きによりデンバー軍は危機を脱し、マージナイツは自慢の機動力を失った。戦力的に大きく減じているのは間違いありません。……如何なさいますか?」


 メイソンがエドワードに尋ねる。出撃の号令があれば、いの一番に敵勢に突撃せんとばかりにその目は闘志に満ちあふれている。


「そうだな……」


 エドワードがそう言った時、グレースが動いた。マージナイツを待機させると、なんと単騎でアダムス軍に向かってきたのだ。


「エドワード様、あれは……?」


「この数多の兵の中、単騎でお出ましとは。どうやら皇女様はサシで話がしたいらしいな。メイソン」


 そう目線を送るエドワードの仕草には不安の影は微塵も見られない。立派になられた、とメイソンはひとりごちる。


「しかし、相手はグレース皇女といえど今は敵。罠である可能性も考慮せねば……」


 そうメイソンが言いかけたが、エドワードは少し口角をあげて笑った。


「そういう時の為のお前達だろう?勇敢な皇女の要請に応じねば辺境伯の名が泣く。それに少しはこちらも不当な扱いに対して一言ぐらいは言っておきたいしな」


「御意。ではエドワード様におかれましては、心ゆくまで皇女と「交流」してくださいませ。我らはいつでも動けるようにしておきますゆえ」


「ああ。頼む」


 エドワードもまた単騎で自陣を出、グレースの元へ歩みを進める。両陣営の中間地点で二人は相まみえた。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「……久しぶりですね。エドワード殿」


「久方ぶりにございます。グレース皇女。王城でお会いした以来ですか」


 エドワードが会釈をかわす。


 ……なるほど、戦装束も実にさまになる。兵達が「戦舞姫」と持ち上げる気持ちも分かるというものだな。その堂々とした佇まいにエドワードも心の中で称賛を送った。


 軍人の中で育ったエドワードだが、初めて戦場でその姿をみた彼をおして、グレースの出で立ちは凛々しくそれでいて優雅だ。


 戦時中であり、両者とも完全武装で臨んでいる。身につける具足はそれそのものがかなりの重量であり、これを着込んで戦場で動き回るのは心身ともに過剰な負担がかかるはずだ。グレースは決して大柄ではない。寧ろ、鎧などよりドレスなど煌びやかな衣装を身に纏った方が様になる、と思っていた。


「……エドワード殿、あの時は、よもやこのような日がこようとはとは想像もできませんでした」


「それはこちらも同じ事。まさか我が父が謀叛などあらぬ疑いをかけられるなど思いもしなかったゆえ」


「貴公は実の息子ゆえ、父を庇うのは当然のこと。しかし、新王……セイルス五世はアダムス辺境伯の心の奥底に秘めたどす黒い野望に気づいておられた。その野望は決して成就してはならぬもの。それが現実になった時、セイルス王国は内乱による火の海になる。新王はそれを防ぐために最小限の犠牲、つまり反逆の罪をアダムス伯一人に留める、との思し召しでした」


 兄と共に戦場を駆け抜け、国内最強を謳われたマージナイツを率いる彼女には優雅さとは別の雄々しさも備わっている。これは、以前ローザリア城で会った時には全く感じられないものだった。


 出来すぎた兄アーサー。グレースはその兄を心から尊敬し、その背中を追いかけた。本来、皇女である彼女であれば死と隣り合わせの戦場に出る必要はない。しかし、「戦舞姫」の名の通り彼女は兄と共に戦場に赴くことを選んだ。


 以前、ふと父であるアダムス辺境伯が呟いた事がある。


『彼女がそれだけ兄であるアーサーの力になりたいとの想いからなのだろう。華奢な身体で健気な事よ。しかし、全てを兄を基準にしては、将来困る事にもなろう。常に兄の背中を追いかけ、兄の力になろうと努力する。確かにその心意気は健気で気高い。しかし、それでは王位継承権を持つ者として心許ない。グレースはいずれ、いずれかの王国に嫁ぐ身。その意識を変える事ができねば、そこが彼女の限界となろう』


 彼女には男といえばこの優秀すぎる兄しかおらず、他の男を常に兄と比較し、結果的に一切目にはいらなかった。それはある意味、不幸な事でもあった。


「エドワード殿。事が済み、貴公が父の所業を認めさえすれば新王は息子である貴公に速やかに家督を正式に認めアダムス家も存続させるつもりでした。それが貴公は新王に反発し、あろうことか新王に弓を引き、内乱を引き起こした。このような事態、決して許される事ではありません。賢明なエドワード殿ならば理解できぬことではないでしょう?」


「理解できるかですと?ハハハ!これは驚きました。聡明なるグレース皇女のお言葉とはとても思えませんな」


 グレースの言葉にエドワードか゚大声で笑う。だが、そのまなざしは決して笑ってなどいない。冴え冴えとした冷たさを放っている。


「おっと失礼、あまりに荒唐無稽な与太話ゆえ、ついつい吹き出ししてしまいました。……グレース皇女、まさかとは思いますが只今の話、新王が本心からそう言っていると思ってはおりますまいな?」


「本心とは?」


「とぼけないでいただきたい。そもそも新王はこれまで身内であるはずの王族に次々に手をかけ、命と領土を奪ってきた。新王はそれらの領土は全て直轄地とし、自身の権力強化をはかってきた。そして最後に残ったのが我々西セイルス。新王は我が父を謀反人だと断罪した。その嫡子である私をそのまま辺境伯の座に就けておくとは到底思えませぬ。そこまで我ら西セイルスの人間がお人好しの田舎者にみえますかな?新王からすると我らを都合の悪い目の上のたんこぶと思っているようにしか受け取れませぬ」


「なんと!王の真意を臣下が推考するのは不遜。辺境は我が国の防衛の要、西セイルスを軽んじているなどという事はありません」


「口さがない貴族の中には「辺境伯」の名が示す通り、西セイルスに住まうのは学もなく、王族の出と思えぬ常識を弁えぬ当主とそれを有難がる愚かな民衆だと露骨に顔をしかめる者もおるやに聞いております。確かに父は若い頃の所業を知る者達からすれば、そう思われるのも致し方ない事やもしれませぬ」


「……」


「しかし、そのような我らアダムス家であるからこそ愚直に守っている事がある。それはセイルス王国を、そしてセイルスの民を守る事。我が父チェスターは常に民の日々の平穏を願い、そして、王国の安寧に心を砕いていた。そのような父を私は誇りに思っている。私は父には到底及ばない。が、それでも西セイルスの盟主として父の目指した理想の為、邁進する覚悟。この負の連鎖を断ち切らねばならない。もう終わりにしなければならない」


 この国を憂いえる者としては皇女に一言でも言わねばならないと思ったが、熱い思いがあふれ出すのを止めることができなかった。そして、皇女にも本心を教えて欲しいと思った。


「聞いてくれ!俺は貴女には民を虐げるこの現状を憂う心があると思っている。戦の無い安寧の世をつくりたい、今を変えたいと思う心があると思っている。……グレース皇女、あなはこの国をどう導こうと考える?」


「導く?それは私の考えるところではない。私は皇女ですが王に仕える身。王のゆくところに私もおります」


 グレース皇女はエドワードの義憤に対してまだ言葉を選んでいるように感じた。その態度にいら立ちが募る。


「グレース皇女!新王は私からみれば、セイルスの民からの信望は既に失われているように思われます。現に東セイルス、及び旧ナジカ地方では王国に対する反乱が起きている。もう、王の威信は盤石ではない!そしてここに至れば魔王に取り憑かれた新王の治世で、セイルス王国の繁栄は果たされるのか?セイルスの民の為、王国の為、決断を下すのは今だ!何の為に直接私のもとへ出向いたのです?王国の為に来たのだと私は信じていたのですよ!」


 その言葉にグレースの瞳はわずかに動揺をみせた。しかし、その動揺を振り払うかのようにエドワードに向かってはっきりと告げる。


「……私は兄が王位に就くことを幼いころから心から望んでいました。偉大な父を超え、セイルスの民に繫栄と平和をもたらす王になると信じていました。兄、アーサー以外の人物が王になるなど考えられません!誰もが認める王に!民を我らを導く王に!兄は歴代の王とともに讃えられなくてはならないのです!」


「……それが本心ですか?グレース皇女。もし貴女が新王を排し、自ら王座を継ぎセイルス王国を立て直すと宣言すれば我らは協力を惜しまない。即刻この戦いを止め、再びセイルス王国を栄光ある強国に戻す手助けもできましょう」


「それは兄を排斥するということでしょう?」


「はい。彼が居れば後々、禍根を残す事は確実。貴女か……それが出来ないとあらば我が父チェスターを新たな王に迎え、セイルス王国を再び一つにまとめるのです。王位継承権を持つのは今や、貴方と我が父、そして私しかいない。この中で最も王座に相応しいのはグレース皇女、貴方だ」


「今、新王は窮地に立たされている。私は新王を……兄上を救わねばならない。王座は兄上のもの。セイルス五世として名を残すのは兄上です!例え味方が私一人になっても兄上を御守りする。私などどうなっても、後世でどのように言われようといい、兄上の邪魔をしないで!」


 グレースが叫ぶと同時に背後の騎士達が一斉に武器を構える。その覇気は正に国内最強と謳われたマージナイツのものだった。


「……分かりました。その決意、エドワード、感服致しました。そこまでの決意を固められているのでしたら、もはや何も言いますまい。我ら西セイルスは新王アーサーを国王に戴かず!西セイルスが生き残る道はアーサーを……いや、魔王リデルを排除する事。それがセイルス王国の安寧と平和をもたらす唯一の道。例えどのような苦難が待ち受けようと我らは必ず成し遂げる!これが我らの覚悟だ。グレース皇女、貴女も思い通りに、貴女の道を進むが良い!」


 アダムス軍もまた闘気を身体中に漲らせ、臨戦態勢に入った。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「もうじき敵の本陣が見えてくるカネ」


「そこにハロルドとジョリーナがいるんだね。急ごうミナト!」


「ああ。わかってる!」


 カストールを倒した俺達は新王が待つ王軍の本陣に向かって走っていた。王軍を率いる総大将であるリデルのすぐそばだ。本来なら王国が誇る精鋭の親衛隊がうじゃうじゃいるだろう。なのに俺達を遮る兵士はほとんどいない。


 しかし、とてつもなく重苦しい空気と血の匂いが俺の鼻腔を否が応でも刺激する。本陣を目指す道中、王軍の兵士と思われる無数の亡骸が血に伏し、哀れな末路を晒していた。彼等は一様に身体の一部を切断されており、その流れ出す血により大地が赤く染まっている。


「大丈夫カネ?気を確かに持てよ?ミナト」


「ああ、分かってる。大丈夫だ」


 この目を背けるような残酷な景色にも動揺しなくなったのは、俺がこの世界に慣れたからなのか、それとも俺がそういう人間になったのか。いや、そうじゃない。怒りが俺を正気に保たせてくれているんだ。急げ、急げ俺!これ以上こんな酷いことを続けさせないために!!


「ミナト様」 


 不意に声をかけられ、その方向を見ると、見覚えのある装束を着た男。コタロウだった。


「あっ、コタロウ!?どうしてここに?」


「ルカ様の命により情報を集めつつ、ミナト様の後を追っておりました」


「ルカ様が?」


「はっ。「私の方は心配いらない。ミナトの力になってやってほしい」との事。アダムス軍が王軍を討ち破り、王軍は敗走しております。東セイルス軍も我らバーグマン軍、及び北ナジカ軍の奮戦により壊走、敵兵は散り散りになり、もはや軍のていを成しておりません。お味方大勝利に御座います!」


「そうか!これで西セイルスが蹂躙される心配はなくなったんだな!」


 あの大軍勢は逃げ去った。じゃあ、あとはリデルを残すのみだ!


「御意。進軍したアダムス軍はそのまま敵の本陣を取り囲むように展開しております。包囲が完了した後、一気に押し包む算段かと」


「なるほど、大勢で取り囲んで逃げられなくしたあとからゆっくり攻めようって作戦か」


「ねぇミナト。そうするとアダムス軍が先に攻撃するって事?それじゃリン達はリデルと戦えないの?だって兵士がうじゃうじゃいたらなかなか近づけないよ。リン達はハロルドを早く助けなきゃいけないんでしょ?」


 あ、そうか!先にアダムス軍が攻めたら俺達の出番がないじゃんか!困ったな、コタロウをエドワードのところに行かせて総攻撃は待ってもらおうか……?


「おそらく心配いらんカネ。アダムス軍も大魔法の恐ろしさは解っている。自軍が壊滅したにもかかわらず、なぜ大将である新王が逃げずに留まっているか、何か罠がある。そう考えるはずカネ」


「なるほど。じゃあアダムス軍はしばらくは遠巻きに包囲するだけに徹するはずって事だな!その隙にハロルドの所へ行こう!」


「うん!リン達の出番だね!」


「ミナト様、さらに北で動きが。マージナイツがこちらへ向かってきております」


「マージナイツ!?てことはグレース皇女が来たのか!」


 マージナイツは元々平原の北方面でデンバー子爵軍と戦っていたが、俺とリンの奮戦で退却させたはず。まぁ壊滅させたわけじゃないから、まだ戦える兵士がかなりいたんだな。


「このままいけばおそらくは包囲を始めたアダムス軍とぶつかる事になりましょう。すぐには新王の元にたどり着くのは難しいかと」


 確かにな。アダムス軍がマージナイツを食い止めている間に俺達が先にハロルドを助け出そう!


 いよいよ、敵の本陣も近づき倒れている兵士も更に増えていく。ハロルドはこれだけの数を倒し、さらにリデルに戦いを挑んだのか。しかも、シャドウ化というハンデまで負って……。


 待ってろよ!ハロルド!


 リデル!お前の好きにはさせないからな!俺達が、みんなが手塩にかけて築いたバーグマン領は、そして西セイルスは絶対に渡さん!


「ミナト!あそこ!」


 リデルが待つ本陣のすぐそば。無数の兵士の亡骸に混じり、見覚えのある一体の魔獣が横たわっていた。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ロイ!」


 倒れていたのは深手を負ったホーングリフォンのロイだった。


「……ミナトか。良かった間にあったようだな」


 近づくとゆっくりと薄目を開けるロイ。全身に深い傷を負い、傷口の至る所から鮮血が流れだしている。


「そんな事より、大丈夫なのか!?」


「すごい血だよ!早く治療しないと!」


「我は大丈夫だ。早くハロルドの元へ行け!一刻を争うんだ!」


「こんな状態で放っておけるか!大した時間じゃないから、治療させてくれ!」


「そうだよロイ!じっとしてて!」


 このままじゃ命が危ない。ロイに触れると魔力を高める。するとブロスが俺の頭のてっぺんに登り両腕のハサミを高く掲げた。


「いくぞ……ハイヒール!!」


 ロイの身体がキラキラと温かなオーラに包まれ、傷が塞がっていく。


「むう……これは大したものだな。あれほどの傷が……」


 塞がった傷口をみてロイが感嘆の声をあげる。


「傷は治癒したけど出血した血はすぐには戻らないからな。無理はしないでくれ」


「魔力さえあれば充分だ。これで再びここを護る事ができる。感謝するぞミナト。さぁ、先へ行け。この魔力結界の中にハロルドとジョリーナ、そしてリデルがいる」


 俺の前に巨大な半円型の結界が横たわっている。これがリデルを護る様に本陣をすっぽりと覆っているのだ。


「これが魔力結界なのか?」


「そう。それも飛び切り上等のなカネ。大魔法でも破壊できんくらい頑丈カネ」


 へぇ〜、じゃあセリシアさんが発動させた大結界と同じ感じか。あれはめちゃくちゃ魔力が必要だったけどこいつもそれくらいの魔力を注ぎ込んでいるのか。


「外側からの魔力は効かんカネ。その代わり内部から外部への魔力も通さんがな。要は隔絶された空間なのカネ。ただ侵入は自由にできるから安心するカネ」


「でも変だよ?なんか中が全く見えないんだけど」


 リンの言う通り、内部は結界内が砂塵で全く見えない。てか、砂に混じって大きな岩や木、それに武具や木っ端まで入り乱れてるんだけど!?いったいどうなってるんだ?


「それはジョリーナが風魔法を使っているからだ。中に踏み込んだ途端、強烈な風で吹き飛ばされる。気をつけて入れよ」


「ジョリーナ!?あいつこんな強力な魔法をつかえたのか!?」


「そうだ。もし、結界がなければ周囲の物体も風圧で吹き飛ばされていただろうな」


 へええ~!ジョリーナってはいつの間にこんな魔力を鍛えたんだよ!ハロルドといい、ロイといいどんなスパルタだったんだよ!そりゃあ毎日泣き叫びながら逃げ出すことばかり考えるよねぇ!


 ……ん?この結界、なんか白い線が入ってるぞ?


 俺が見つけた結界に入った「白い線」。それらは急激に広っていく。まるで衝撃を与えたガラスのように。……この光景、見覚えがある!!


「まずい!結界が壊れる!みんな伏せろ!」


 咄嗟にリンを庇い、地面に伏せる。その直後、結界が砕け散り、鼓膜が破けそうなほどの爆音と凄まじい暴風が砂塵を巻き上げ頭上を走り抜けていった。




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