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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

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47話 無名の英雄



「っ!?ああっ!?」


 王の間に飛び込んだジョリーナが見たのは、禍々しいオーラを放つ新王アーサー。そして、地に倒れたハロルドだった。


「ほぉ。また鼠が一匹、紛れ込んだか」


「はぁ!?誰がネズミよ!そのえっらそうな態度、アンタがリデルとかいうイカれた魔王ね!?」


 アーサーが、いや、リデルが不敵な笑みを浮かべる。


「それが王に対する態度か?下賤の屑は屑らしく地にひれ伏しておれ。お前の背にいるその男のようにな」


「やかましい!アンタこそ、それがお貴族様を養う為にバリだかな税金払ってやってる国民様に接する態度か!そっちこそあーしらに感謝しなさいよ!」


「その思考こそが愚かだというのだ。民衆が日々の生活を安寧に暮らしていけるのは王国という巨大な傘の下に居てこそ。それが普通の事であると貴様らは思い込んでいるだろう?見返りなくして今の安寧は手にする事など出来ぬ」


「はっ!あんたがそれ言う!?なにが傘の下よ!アンタが散々引っかき回したんじゃんか!こんなトコに引きこもってないで見てみなよ!どこもかしこも死人だらけじゃんか!アンタが居ない方がよっぽど平和に暮らしていけてたわ!どっちが愚かよ!」


「では王の存在なくしてか弱き民衆が暮らしていけるのとでも吐くか?否。秩序なき自由はただの混沌。強者が己の欲望を余す所なく具現化でき、弱き者は批難の声すら上げる事を許されず、ただひたすらに搾取される。そのような不条理な世界を望むか?」


「勘違いしないでほしいんだけどさ。あーしはね、別に王を腐したい訳じゃないし。あーしには政治だの世界のじょーせーだの難しい話はサッパリ分かんない。ケド、下の人間に悩みがあるように上には上の面倒事がある、くらいは頭の悪いあーしにだって分かってる。……ただ、アンタみたいに庶民の事を物みたいに、上から見下す貴族どもが何よりキライってだけだし!」


 禍々しいオーラを放つ、リデルがジョリーナを見据える。ハロルドがうめく。


「ジョリーナ……!目を見るな!奴の眼光に威圧されると動けなくなるぞ!」


 その忠告を無視し、魔王の眼光を正面からにらみつけるジョリーナ。しかし、彼女の放つオーラからはいささかの動揺もみられない。


「あーしの人生の目標は、マジ、ラブ&ピースなんだから!!絶対負けないし!魔王だってこの愛は壊せないし!!いい?世界は愛で動くのよ!恐怖なんかであーしは動かないから!!」


 不意にリデルの口角が上がった。


「ほぉ、我が視線に耐えるか。そうか、ククク、面白い。……我が魔王の眼光が効かぬのは二人目……。これは人族の認識をいささか改めねばならぬのかもしれぬな」


「ふははははっ!そうっしょ、そうっしょ?」


「……少しは腕に覚えがあるようだな」


「少しじゃないねっ!この大魔術士ジョリーナさんをナメんなよ!これ見て後悔すんなし!」


 ジョリーナの身体から強いオーラがあふれ出す。


「これでも喰らええー!吹き荒れろ!「トルネード」!!」


 その瞬間、強風が吹き荒れ、風の渦を作り出す。その渦は周囲の調度品を巻き込み、リデルをも飲み込んだ。


 その間隙を突き、倒れているハロルドの元に走りよるジョリーナ。その周囲には血溜まりができている。


「ちょっとハロ様……、ハロルド、大丈夫!?」


「ジョリーナ……どうして……ここに?」


 抱き起こしたハロルドが困惑した視線をジョリーナに向ける。


「どうしたもこうしたも、……アンタを助けに来たに決まってるっしょ!」


「助けに……しかし、転送装置は使えないはず……?ははは、君は一体どうやってここまで来たんだい?まさか空でも飛んできたとでもいうのかい?」


「そんなのどうだっていいっしょ!まったく、ミナト達だけじゃ心配だからって来てみたら、やっぱり一人でリデルの所に向かうなんて。タヌ男に聞いたわ。ハロルド!アンタ、今の自分の状態分かってんの!?」


「もちろん分かっているよ。今の私は自らの遺品に憑依したシャドウさ。でも見てよ、ちゃんと血が流れるんだ。これが生きてるって事かと実感したよ……久しぶりだよこんな感覚は……」


「バカね、アンタってほんとバカ!これが……これがどれだけ無謀な事か、アンタなら……大魔術士ハロルドなら、分からないはずないっしょ!?アンタは今、ほぼ魂だけの無防備な存在なんだよ!?器である生身がない状態で直接攻撃を食らえば、それこそ魂もろとも消し飛んじゃうって知ってるはずじゃん!?」


「フッ、さてはセリシアに話を聞いたね?その通りさ。でもね、それでいいんだ。寧ろ、それでリデルを倒せるなら安いものだよ」


 ハロルドは危機に陥り、死と隣り合わせであろうといつもと変わらぬ美しい顔で優しく微笑んだ。


「は?……は!?アンタって人は……!」


 ハロルドを抱きおこしているジョリーナの腕がぶるぶると震える。


「なんだい、ジョリーナ?もう魔力切れかい?」


「……いつもそう!あたしが修行という名の拷問を受けて、泣いて助けを求めていたのにアンタやロイはいつも笑って見てたよね!いつだって余裕あるカンジでさ……!」


「ハハハ……そんな事あったかな?ロイはともかく私はレディそんな粗雑に扱った覚えはないけどなぁ……。それに君の素敵な笑顔に涙は似合わないよ」


「ハ、ロ……」


 その時、黒色の魔力が無数の弾道になり二人に向けて殺到する。


「っ!?「風の障壁」!」


 瞬時にジョリーナが展開した風の壁が魔弾を弾き飛ばした。ジョリーナの視線、その先にリデルが不敵な笑みを浮かべながら立っている。その身体には傷一つ見られない。


「……へぇ、もう抜け出したんだ。ふーん、だてに魔王を名乗ってないってわけ?」


「クククッ。よもやこの程度の魔法で余を倒せると思ってはおるまいな?」


「そうね。できればこのまま逃がしてくれると有り難いけど、無理そ?……よね」


いな。決して逆らうべきではない圧倒的な力の差。ハロルドと共にその身に刻むがいい」


 その瞬間リデルの放つオーラが変化する。形状を変えた魔力が様々な属性を纏う魔弾へとその姿を変えた。火、水、土、風……ありとあらゆる属性のが放つ魔弾が「風の障壁」を撃ち破らんと猛攻を加える。その凄まじい威力に受け止める障壁が悲鳴をあげる。


「ナルホド、属性は選り取り見取りってわけね。なかなかやるじゃない」


「ジョリーナ、もういい。今なら君だけなら逃げれる。だから……」


 その言葉にジョリーナの発する魔力が更に高まる。


「この後に及んで、お前は何を言っとるんじゃあぁぁっ!!」


「……っ!?」


 ジョリーナがハロルドに肩を貸し立ち上がる。と同時に発動した魔力譲渡により、魔力がハロルドの身体に流れ込む。


「どう?立場が逆転した気分は?いつも見下してた弟子に助けられた気持ちは?どうせあんたはかわい娘ちゃんがピンチになった時、どこからともなくやって来て、ヤレヤレ顔であっという間に解決させて、すまし笑顔で「危なかったね、大丈夫かい?」とか歯の浮きそうな台詞を吐きながら手を差し出すタイプでしょ!それが今はそんな子に無様に助け出されてる。しかも、今まで格下扱いしてた女に魔力を恵んで貰ってるのよ。悔しくて情けなくて泣けてくるでしょ!?」


「……いや、悪くない。むしろこんな温かい魔力があるのかと驚いているよ。それに君の背中に自分の身を預けられるなんて、私はこの世で一番の幸せ者だ」


「まったく……こんな時までキザったらしくカッコつけてさ!どうせあんたは自分が死んでみんなを助けるのが自分の美学とか思ってるんでしょ!?アンタ、本当バカ!そんなの全然カッコよくないし!!こんなところで、こんなつまらない死に方をしたらあーしが許さないからね!!」


「ジョリーナ……」


「カッコよく死のうなんて思わないで!困った時は素直に周りに頼んで!こういう時は素直に「助けて」って言うの!いい!?」


「……ああ。かわいい弟子の頼みは断われないなぁ。その芯の強さ。君は私の英雄だ。いやぁ、ジョリーナ。君は私と離れてから、ますます素敵になったねぇ……」


「えっ!?……って、こっ……あうっ……!!」


「ハハハ、すまない。……ジョリーナ。私はもう動けない。私を助けて……くれるかい?」


 ハロルドの笑顔の奥の真摯なまなざしにジョリーナはほっとすると同時に満足そうに頷いた。


「……りょ!最初から素直にそう言いなさいよ。ま、この英雄ジョリーナさんにどーん任せるし!いくわよ!エアフロート!」


 ジョリーナがハロルドの身体がエアフロートによって僅かに浮き上がる。こうする事で身体を背負ってもほぼ重量がない。動きがほとんど阻害されないのだ。


「魔王リデル!自分の国民を散々苦しめてなにが王よ!庶民の苦しみ、このジョリーナさんが代表して分からせてやるわ!」


「クククッ、良いぞ。その気迫、実に良い!さぁ、全身全霊を賭け、全力で向かってくるがいい!」


「へっ!今日のあーしはさいっこうにキレてんだ。ジョリーナさんの愛のパワーナメんなよ!!」


 リデルに勝るとも劣らぬオーラを解き放つとジョリーナは魔王に立ち向った。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 一方その頃、西セイルスの主力エドワード率いるアダムス軍は快進撃を続けていた。友軍であるバーグマン軍の怒涛の攻勢を皮切りに平原の中央線を突破し、勢いそのままに王軍を東へ東へと押し込んだ。


 王軍は新王アーサーの正規兵群だ。その装備や練度は王国の持つ軍隊の中でも際立って高いはずだった。ナジカ王国との戦争に勝利し、東セイルス平定においてもその軍事力を遺憾無く発揮し、連戦連勝を重ねる王軍が西セイルスに対して「戦闘経験の乏しい西の片田舎の軍隊」と嘲笑する空気が漂っていた事は想像に難くない。要は士気が緩んでいた状態だったのだ。


 しかし、片田舎の軍隊と見くびっていた西セイルス軍は王軍を前にしても全く見劣りはしなかった。


 なぜか。西セイルスを束ねた盟主、アダムス家の前当主アダムス辺境伯はこの日が来ることを予め予期しありとあらゆる手を打っていたのだ。くせ者と揶揄された彼はその狡猾さをいかんなく発揮し、王都より迫る刃を弾き返す算段を立てた。自らの命さえその計画の一部にしたのだ。


 新王アーサー、いや魔王リデルが放った大魔法でさえも賢者セリシアの展開した魔力結界により、防がれた。


 彼女セリシアはかつてセイルス五英雄と讃えられた伝説の冒険者パーティ「鋼の翼」の一人。その英雄達は軒並み西セイルスにつき、西セイルス軍を陰に日向ひなたにとサポートしている。彼らは歳を重ねても英雄は英雄だったのだ。


 そして、この戦場でも新たな英雄の名が全軍の兵士達に刻まれた。


 英雄ミナト。彼は王軍が誇る最強部隊マージナイツに挑み、たった一人でその猛攻を凌ぎきり、さらに追い返したのだ。彼に従うのは一匹のゴブリンのみ。しかし、彼等は自力でマッドゴーレムやマッドスネークを創り出し、マージナイツをも翻弄し、敗走へと追い込んだ。


 その様子を聞いた西セイルスの兵士達は沸き立ち、王軍は恐怖した。それが西セイルス側を優勢に傾ける一端を担う事になった事は誰もが疑いようがなかっただろう。


 エドワード率いるアダムス軍は破竹の如き勢いで王軍の本陣に迫ると自軍を二つに割った。距離を取りつつ、新王の本陣を南北から包み込み包囲する目論見だ。まるで大蛇が獲物を飲み込もうと大口をあけたように。


 全軍が整然と歩を進める。その間も片時も警戒を怠らない。アダムス辺境伯が鍛えに鍛えた自慢の勇将達は勝ちに驕らずそれぞれが自らの任務に邁進している。


 その進軍を見守るエドワードに親衛隊長のメイソンが馬を寄せてきた。


「エドワード様。兵の進軍、とどおりなく進んでおります。間もなく全軍、予定通り布陣を終えましょう」


「分かった」


「我が軍の攻勢により王軍は崩壊状態にあります。にもかかわらず王の本陣は今だ動いてはおりません。布陣中も敵陣からの攻撃もほぼありませんでした」


「そうか。しかし、相手が相手だ。まだ何を仕掛けてくるか分からないからな。迂闊に近づくのは危険だ」


「勝敗はもはや決したと見て間違いないかと。王軍はすでに潰走し大半が逃げ去りました。ここで我らが四方から一斉に攻め寄せれば新王を容易に捕らえることができましょう」


 父にも絶大な信頼を置かれていた親衛隊長に向け、不敵な笑みを浮かべるエドワード。


「どうやら俺を試しているなメイソン?敵は新王の皮を被った魔王だ。この後に及んで奴が未だ陣を保っているのはそれ相応の理由があるはず。敵の罠にうかうかと自分から足を踏み入れる事ほど愚かな真似もないぞ」


 自軍が敗走状態に陥った際、真っ先に考えるのは「主君をいかにして落ち延びさせるか」だ。例え戦いに敗れても主君さえ無事なら、再び再起をはかる事が出来る。逆に、主君が討たれてしまえば如何に有利な状況でもその時点で敗北が決まってしまう。


 そのぎょくたる新王が撤退せず、その場にあり続けるのは何らかの罠を仕掛けている可能性がある。大勢は決した。これ以上、無駄に自軍の損害を出すのは西セイルスのみならずセイルス王国にとってみても何の益もない。元々、自分達は同じ国の人間なのだから。


「ははは、そうですな。私が軽率でした。……しかし、エドワード様も段々と御父上に似てこられましたな」


「それは戦術的な事か、それとも性格的な事か?俺は父上を反面教師にして今まで生きてきたつもりなんだがな」


 そう言って困ったように肩をすくめるエドワード。似ていないと思っていた父子がふとする仕草や表情、その行動の端々にやはりその血の近さを感じるとメイソンは思った。


 偉大な辺境伯として名高いチェスター様の不在に対する不安がその血を分けた子である()()()()()()()()()()()()()()()()()という存在を探している訳ではないと断言できる。ならば、チェスター卿の不在がエドワード様をひとまわりもふたまわりも成長させていたのだと気づき感慨にふける。


 あの忌まわしき即位の儀での事件以前はチェスターとエドワード、二人の父子に仕えたメイソンは若干の不安があった。


 西セイルスの賢公とよばれた偉大過ぎる父を持つエドワードがその重責に耐えられるか、だ。


 父のアダムス辺境伯が当主としての力量が抜きん出ていたのは確かだ。それに加えて物事に当たっては清濁併せ呑むことの出来る器量も備えていた。


 メイソンの見たところエドワードは当主としての力量は申し分ない。父に対して若干の劣等感は持っているものの、それは当主としての経験を積み自信を深めていく過程で払拭されていくだろう。自国の民に対しても父の行っていた政策を踏襲し、これまで目立った暴動は確認できていない。


 それは西セイルスが新王側ちゅうおうと干戈を交える事になった時も変わらなかった。その事実は民衆がエドワードが西セイルスの新たな盟主として認めている事を意味する。


 そして、今回の戦いでメイソンは自らの懸念が杞憂だったと思った。決断に若干迷いはあるがそれは経験不足と若さゆえ。それら足りない部分を補うのは我ら家臣の役目だ、と


 王都では、『新王は身内すら手に掛ける非情な御方だ』という風聞が広まっている。本来は身内であるはずの王族を次々と粛清した事で『何故、国内で同じ国の民同士が殺し合いをしなければならないのか』といった不平の声も上がっており、現に併合した旧ナジカ地方では民衆による蜂起が頻発し、東セイルスでも主君を殺された王族の旧臣の反乱が起こりつつある。


「新王は人を弑逆しすぎた。恐怖で人を抑えつければ反発する。それが抑えきれなくなればその何倍もの報いが我が身に返ってくる。人は他人から受けた恨みはなかなか忘れられないものだ。例え即位前の功績が比類なきものであろうともここまで自国の民を苦しめてしまってはな……」


「御意。既に民衆の心は新王より離れつつあります。旧ナジカ地方もいつまでもつか……」


「魔王リデル……奴はそれすら意に介していないのかも知れん。奴の最終目的はこの大陸の統一だろう。今は反発されようと、圧倒的な力さえ手に入れればそのような下々の声など簡単にかき消されるからな。そのあとには上には何も言えない魔王による絶対的な支配国家しか残らん」


「そのような世界、少なくとも某は御免被りたいものです」


「それは俺もだ。おそらく奴は死など恐れてはおるまい。そのような存在を相手に我らは勝利を得なければならないのだ」


「理がわかる人間なら幾らでも対処ができますが、狂人相手となると一筋縄ではいきませんからな。……しかし、そうなると気になるのは我ら西セイルスが勝利した後の事です」


「……それは「アーサーの次の王」の話か?しかし、それはタブーの中のタブーだ。滅多な事は口にしないほうがいいぞ、メイソン」


「御意。しかし、敢えて申します。私は是非チェスター様に王座に就いて頂きたいと切に願っています。なぜならそれがセイルスの民にとって一番の幸福であると確信しているからです。リデルにより引き起こされたこの戦いにおいて王国の国力は大きく損ないました。人心も動揺し、民の心も少なからず離れてしまう事になりましょう。この危機的な状況においては、傷ついた王国を一刻も早く復興し、民の不安を解消させる事のできるカリスマをもった存在が必要。それに最も相応しいのはチェスター様をおいて他にはないでしょう」


「……ふむ。俺も此度の一件で改めてそのしたたかさ、そして用意周到さに舌を巻いた。まさか自らの死を偽装し、新王のみならず我らまで騙し通し、王城を占拠するとは。やはり当代一の食わせ者だ。我が父ながらその手際には背筋が寒くなる。……ただ、父上は王座には就く気はあるまい。それは息子である俺が一番よく解っている」


「しかし、それによりセイルス王国が滅亡してしまっては元も子もありません。チェスター様は聡明な御方。必ずやご決断して頂けるものと確信しています」


「そうだな。ただ、全てはこの戦いに勝利してからだ。父存命の情報も敵が我らを油断させる為の偽情報とも限らん。まずは目の前の難事を片付けることに集中しようではないか」


「そうですな。まずは目の前の難事を解決してから皆でじっくりと語り合うと致しましょう」


「うむ!我々は必ず勝つ!西セイルスは、いや、セイルス王国は俺達が守るのだ!!」


「御意!」


 と、メイソンが頷いた時、先行していた物見が戻ってきた。


「エドワード様に御注進!敵の本陣周辺に多数の死傷兵を確認。兵士共の逃亡が相次いでおり、組織だった反撃がとれない状態にある!さらに本陣近くで魔物の姿を目撃したとの事!」


「魔物だと?もしや早くも血の匂いに誘われたか。……いや待て。それはもしや、人間の肩に乗ったゴブリンの事か?」


「いえ、グリフォンだと聞いております。頭に角が生えた魔物で近づく者を片っ端から攻撃しているとか。私自身も攻撃を受ける恐れがあったため遠目から様子を窺う事しかかないませんでした」


 グリフォンと聞き、エドワードはピンときた。


「そうか。それはおそらくバーグマン家の手の者によるものだ。味方であるゆえ安心せよ。無闇に近づこうとしなければ問題はない。報告ご苦労だった。下って休め」


 伝令を下がらせるのと入れ替わるように、また新たな伝令が飛び込んできた。


「ん?お前はジェンド将軍麾下の伝令か。北方面で動きがあったのか?」


「はっ!将軍より伝令!北より敵勢!その数、およそ一万との事!我が軍に向かい進軍してきております!」


 マージナイツ接近の報を聞き、脇を固める諸将が色めき立つ。


「やはり来たか。我らの包囲を阻止せんと動いてきたようだな。敵はマージナイツで間違いないか?」


「はっ。旗や装備品からマージナイツで相違ありません!しかし、その大半が歩兵であるとの事。その先頭にはグレース皇女と思われる人物がおりました!」


「そうか。ならば間違いないな」


 しかし、マージナイツは魔術騎兵隊のはず。その機動力と絶大な魔力がマージナイツの強さの根幹だ。その大半の兵が徒士かちになっているという事は機動力が著しく減退している事を意味している。


「エドワード様。北方面は先の豪雨により泥濘の地となっていると聞いております。ミナトはそれを利用しマージナイツを退けたと。おそらくはその際に機動力たる騎乗馬を喪失したのではありませんか?」


「どうやらその様だな。王国随一のマージナイツといえど、機動力が削がれた今ならば恐るるに足らぬ。ジェンド将軍に伝えよ、俺もすぐに北方面へ赴く。警戒を怠るな、とな!」


 伝令に命じた後、命令を待つメイソンを見る。


「グレース皇女がやって来るのであれば、俺が直々に出向かねばなるまい。戦舞姫の戦ぶり、間近で拝見しようじゃないか」


「はっ!このメイソンどこまでもお供いたします!」


 メイソンの言葉に力強く頷いたエドワードはグレース率いるマージナイツを迎え討つべく北方面へと馬を走らせた。








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