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5話 アダムス家とバーグマン家



 

 ヌシ様とエドワードの顔合わせが終わり、俺とルカは屋敷の玄関までアダムス伯達を見送りに出ていた。


「ミナト。例の件、可能かどうか下調べを進めておいてくれ。結果が分かり次第、こちらにも報せるようにな」


「はい。分かりました。計画書を策定しておきます」


「うむ、頼んだ」


 パメラの突撃の後にアダムス伯から俺にある計画を持ちかけられ、調査するように命じられた。これが実現すればバーグマン家とアダムス家の関係をさらに強固に繋ぐ事になるかなり大掛かりなプロジェクトだ。俺もまた忙しくなるぞ!


「ミナト、少しいいか?」


 アダムス伯がルカと話をしている間に、エドワードが近づいてきた。そして、ルカに聞こえないように声をひそめる。


「ヌシ殿が、我が父の亡くなった友、英雄ハロルドというのは本当なのか?」


 その問いに俺は頷く。エドワードがここに来たのは()()を確かめる為でもあったのか。


「でも、ただ旧友に会いに来ている訳ではないよ。アダムス伯は西セイルスの未来の為に毎回ハロルドさんと戦略的な議論をかわしているからね。決して息抜きの為だけに訪れているんじゃないのさ」


「なるほどな、道理で頻繁に双子山ここを訪れていたわけか。無駄に遊び歩いていた訳じゃなかったんだな。俺達にも話せない秘事もここでなら出来たという訳か」


「まぁ、かなりヒートアップする事もあったけどね。ただお互いを信頼している親友だということは間違いないな」


「……そうか。身分の差なく、なんの忌憚なく意見を言い合える間柄というのは羨ましい限りだ」


 エドワードにはこれからアダムス家の当主という重責がのしかかってくる。その重圧プレッシャーは政務官の比じゃないはずだ。


「エドも何かあればここに来るといいさ。ここなら話が漏れる心配もない。俺でよければ話を聞くし、俺がワイダに行ってもいいしな」


「ああ、そうだな。当主になって大変になったら愚痴でもこぼしにこよう」


「いつでも歓迎するよ。ここでは身分を気にせず冒険者の友達に会いに来ると思って遊びに来るといいよ。お酒とつまみはいつでも用意しておくから」


「そうだよ!ミナトのおつまみはおいしいんだよ~!お酒を飲まなくってもジュースもいっぱいあるからね!」


「そうか、ミナト、リンありがとう。また来るよ。つまらない愚痴かもしれないが、聞いてくれると心が軽くなるかもしれんしな」


「大丈夫だよ!アダムス伯もハロルドといつもお酒を飲んであーでもないこーでもないって言いあってるんだけど、ラナは「酔っぱらわない時は()()威厳があるのに、飲んだらただの酔っ払いオジサン。ヌシ様も同じだけど」って言ってるんだよ~。だからエドワードも気楽に遊びにきてね!」


 リンの話を聞いたエドが思わず苦笑する。


「ハハハ。リン、俺は親父おやじのような明るい酒にならんかもしれんよ」


「え〜っ?でもお酒って楽しいから飲むんでしょ?アダムス伯が言ってたよ?」


「それは人によるな。中には嫌なことを一時的にでも忘れたくて飲む場合もあるんだ」


「へ〜、そうなんだ」


「エド、そうなる前に言ってくれよ?人間は一人で抱え込める事には限界があるんだからな。潰れる前に一声かけてくれ。仲間を頼れ。信頼しろよ。立場的に難しいかもしれないけど……」


「それはお前も同じだぞ、ミナト。お前こそ一人でなんでも抱え込まずにな?できないことはできないって言ったほうがいいぞ。立場的に難しいかもしれんが」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。立ち位置は違うけど責任を放り投げられないのはどちらも一緒だよね~。


「それもそうか。じゃあ、お互い様って事で。エドも無理せず頑張ってくれ」


「ああ、ではまたな」


 互いに笑顔で握手を交わす。そして、待っていた馬車にアダムス伯と共に乗り込み、去っていった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「……エドワード、まさかとは思うが俺がハロルドとの友誼ゆうぎを温める為だけに双子山に顔を出しているとは思っておるまいな?」


 ワイダへと向かう馬車の中、アダムス伯がエドワードに問いかけた。


「はい、わかっております父上。ハロルド殿はセイルス王国の英雄、我が家臣達に相談できない事もあのかたにならばおありになるのでしょう」


 そうエドワードが答えるとアダムス伯は、その力強い眼差しで息子をまじまじと見つめる。


「それもある。確かにハロルドとの談合は大切だ。しかし、決してそれだけではないぞ。よいか、さらに大きな目的は常にバーグマン家をアダムス家の指揮下においておく事だ」


「バーグマン家を……?」


「エドワード。バーグマン家の戦力はいかほどか分かるか?」


「はい。伝え聞いた所によれば、正規軍は二千。そこに新たに三千を超える騎士団が加わったとか。総数五千の兵力ならば西セイルス軍の片腕となりましょう」


「それは一面的な見方だ。よく考えてみよ。今のバーグマン領には「鋼の翼」のメンバーがほぼ揃っているのだぞ」


「あ……」


「分かったか?年月は経ったと言えども、英雄の実力は伊達ではない。今だ一人一人が強力な戦力よ。まず、ビアトリスのフリール商会は王国でも屈指の資産と経済力を有する。そしてベルド。彼は実家がガルラ王国の両輪と言われるような大貴族だ。更に卓越した鍛冶能力により、バーグマン軍の質の向上に貢献している」


「確かにバーグマン軍の兵装は非常に優れておりました。それは上級の兵から末端の兵にまで。セイルス王国内でもあれほどの装備を運用できる領主はそうはおりません。それが可能なのは彼が全面的にバーグマン家に協力しているからでしょう」


「うむ。最後にセリシアだ。彼女自身も優秀な術士だが、特筆すべきはマージナイツの創設者だという事。マージナイツに直接、接触はできなくなったが彼女に心を寄せる隊員はいまだ多いと聞いている。そして現在、彼女はバーグマン軍の指導にも当たっている。これが意味することが分かるか?」


「バーグマン軍はいずれマージナイツにも劣らない戦力を有する。……そして彼ら英雄をまとめているのがヌシ殿ことハロルド殿というわけですね」


「ああ。彼らが領内にいるというだけでもバーグマン家には正規兵とは別に数千、いや万の味方がいるようなものよ。我々にとっても頼もしい限りだが、さらにあの家にはそれを上回る存在がいる」


「ミナト……ですか?」


「そうだ。彼が世にでるのと同時にバーグマン領の発展が始まった。ネノ鉱山再開に始まる数々の政策によりバーグマン家は短期間で類を見ない程の成長を遂げている。それだけではない。ヒュプニウムの発見やガルラ国王との盟約などは彼なくしては成し得なかっただろう」


「確かに、ミナトはあらゆる方面で我々が驚くような成果をあげ続けています」


「ミナトの存在が西セイルスにとって大いなる助けになっている。ガルラ国王から最新の兵器を導入するなど、俺ですら不可能であっただろう。ミナトはそれをたった一人で成し遂げた。その貢献は西セイルスでも比類ないものだ」


「さらにミナトの指揮下には手足のように使える騎士団リビングアーマー諜報部隊シャドウがいますからね。ゆえに、その主君であるルカ殿を手放すな、というわけですね」


「それがアダムス家の、いや西セイルスの行く末を左右する事にもなろう。リンをはじめ、ミナトの従魔達も強力ゆえな。だから、俺も双子山では安心して寛げるというわけよ」


「それほど、双子山あそこは警備がしっかりしているというのですか?特に気配は感じませんでしたが……」


「そうよな。それほどミナトのシャドウは優秀という事だ。耳目衆じもくしゅうというらしい」


「耳目衆……」


「最近、敵のシャドウを見ぬであろう?あれはハロルドと協議の上、耳目衆を西セイルスの各地に配置しているからよ。それにより王家のシャドウ共はコネーハ山脈を越えられん。無念だが現状では我がアダムス家の諜報部隊より、個人ミナトが所有するシャドウの方が優秀なのでな。近い将来、バーグマン家はワイダと並ぶ経済力と軍事力を有する家となるだろうよ」


「それは敵にしてはならぬということなのですか。父上……それとも……」


 エドワードの呟きには応えず、車窓からバーグマン領の景色を眺めるアダムス伯だった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「……ふぁーっくしょい!」


「あれ?ミナト君、風邪でもひいたの?」


「え?いや、そんなことはないですけど。ははは、誰かに噂でもされてるのかな?」


「も〜、そんなことよりミナト君!なんで最初から言ってくれなかったのよ~!大変なことになるところだったじゃない!」


 アダムス伯達が立ち去ったあと、パメラは頬を膨らませてそう言った。


「ライが止めていたのに会議室に乗り込んできたのはパメラさん、あなたじゃないですか!?」


「だって、まさか出席してたのがアダムス辺境伯だなんて思わないわよ!ううっ!あの時は「テイマーズギルド、始まったばかりで終わっちゃったかも……」って思ったわ!」


 ははは、そりゃ西セイルスのトップ会談に乗り込んで会議を中断させたうえ、意気揚々とテイマーズギルドの説明をまくしたて、挙げ句にアダムス伯をオジサン呼ばわりしたんだからねぇ。普通だったらパメラは死罪。テイマーズギルドは解体の憂き目を見ただろう。


「は、はわ〜〜!お、お許しください〜!!」


 ヌシ様から事情を聞いた途端、さすがのパメラも先程までの威勢はどこへやら、床に頭をつけての平謝りに一同苦笑するしかなかったもんな。


「まぁ、いいじゃないですか。結果的にアダムス家とバーグマン家の両方から、支援をしてもらえる事になったんですから」


「そう、それよ!まさかルカ様が登録者になってくださるとは思わなかったわ!名誉会員になってもらえたらいいな、とは思ってたけど、ミナト君が「会員番号の1番は開けておいて」って言ってたのはルカ様になってもらう為だったのね!」


「ええ、ルカ様もテイマーですからね。きっと協力してくれると思ってましたから」


 テイマーズギルドに登録する際、登録者に番号が割り振られる。基本的には登録した順だが最初の「1番」は開けておいたのだ。ルカは「パメラやミナトを差し置いて、私が1番でいいのか?」と言っていたけど俺たちが「「是非!お願いします」」と懇願するとなんとも嬉しそうに了承してくれた。これでバーグマン領、領主自らのお墨付きだということを喧伝けんでんできる訳ですよ!


「それによ!アダムス辺境伯様にも御助力が得られるなんてね!これで将来、ワイダにもギルドを作る算段が出来たんだもの!これは凄い前進よ!夢みたい……!!」


 なんとテイマーズギルドに関してはアダムス伯の協力で、居城があるワイダにもギルドの用地を確保してもらえる事になった。これで西セイルスにも大きな拠点が二つできたのだ。


「ああ……、なんてことかしら。つい先日まで遠くにある夢だとばかり思っていたテイマーズギルドが今はもう、現実にある。今まで従魔の為に頑張ってきたけど、ずっと上手くいかなくて……」


 パメラが呟く。その声は心なしか震えていた。


「誰も話を聞いてくれなくて、何度も何度も諦めかけたわ。……でもマスターの為に頑張る従魔達を護るために諦めきれなかった。「従魔は悪いこじゃない!人の為に自分の命をかける子もいる。不当な扱いを受けるべきじゃない」って伝えたかった。従魔の地位を向上させたかった」


 そう言ってパメラが俺の方を向く。その目には涙がうかんでいた。


「私は今まで霧の中を彷徨ってるみたいだった。でもミナト君、君に会えて一気に視界が開けたの。……これは夢じゃないわよね、ミナト君?」


「ええ、もちろん現実ですよ。ギルドを設立出来たのはパメラさんの情熱の賜物。パメラさんの熱意があったから俺もやろうって思えたんですから。パメラさん、これからも従魔をもっと受け入れてもらえるように頑張りましょう……って、おわっ!」


 そう言いかけた俺にパメラが泣きながら抱きついてきた。


「ミナト……君、ありがとうねぇぇ~!うえ~んっ」


 俺に抱きついたまま泣きじゃくるパメラ。きっと今までの想いが溢れ出して感情がコントロールできなくなってしまったんだろう。


 ポンポンと背中を軽くたたいて、よしよしと声をかけながらなだめる。エネルギーの塊みたいなところは本当に子供みたいなパメラ。長いこと頑張ってきたんだよね。うんうん。


 しばらく泣いて落ち着いたパメラ。俺にずっと抱きついていたことに気づいたのか、急に赤くなって「あああ~っ!ごめんなさいっ!私っ!」って叫ぶと俺を突き飛ばした。どうして!?


「さぁ!まだテイマーズギルドの歴史は始まったばかりよ!これから栄光の未来へ向かって突き進むんだからね!ミナト君!これからも一緒に頑張っていこうね!」


 何かを振り払うように気合いを入れたパメラと共にテイマーズギルドが併設された双子山の役所へと向かった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「だから言っただろう。ミナト達の会議が終わるまで待てと」


「だってリッキー、カードができたからすぐにミナト君に見せたいと思ったんだもん!私の従魔なのに、なんでついてきてくれなかったのよ!」


 ここは双子山にあるテイマーズギルド。パメラの抗議を呆れながら聞き流しているのは彼女の従魔でハイオークの戦士リッキーだ。


「どうせ、止めてもムダだっただろう。それならいっそ突撃して叱られたほうがいい薬になると思った」


「ひどっ!それでも私の従魔なの!?私の性格を一番わかってる相棒のあなたが私を止めずに誰が止めるのよ!?」


「魔物が現れたならそうしてやる。今回は命の危険もなかったしな」


「ある意味、魔物に遭遇するより大変だったわよ!」


「何度注意しても聞かないのだから、一度、痛い目にあった方が分かるだろう?」


「ぶ~!リッキーなんて嫌いっ!莫迦ばかばか……」


 ふと、パメラをあしらっていたリッキーが俺の方を向いた。


「そういえばミナト。冒険者ギルドのギルドマスターがお前を探していたぞ。早く行った方がいい」


 えっ!?クローイさんが?またギルドに何かあったのだろうか??



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