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21話 大海龍ギルメデス



 アライの首領ブリトニーからシーサーペント討伐の依頼を受けた俺達とビアトリス。


 俺達は、シーサーペントとの再戦を期して再び船へと乗り込んだ。


 ……のだが、意気込みとは裏腹に海上で何時間待っても、シーサーペントはあの時から一向に姿を現すことはなかった。


 そして2日が過ぎ、俺達はまだヤツの影を追って海の上にいるのだった。差し当たって討伐する相手がいないなら俺とリンは何もする事が無い。最初はキラキラと輝く水面みなもや魚影群をみてはしゃいでいた俺達も、さすがに段々と飽きてきた。


 ん~っ!と言いながら伸びをしつつあたりを見回すと、アライの町の漁師達の乗る漁船がちらほら見える。彼らが危険なシーサーペントが討伐されていないのに普段通り漁に出ているのには、理由があった。


「アダムス辺境伯から依頼を受けたフリール商会がシーサーペントを討伐する、との申し出をがあり受諾した。沖合で警戒し異変あればすぐに合図を出して報せる手筈になっている為、漁師達は今まで通り漁に出るといい。何かあったらアダムス辺境伯が責任を取るとのことだ」


 そうブリトニーが町の人々に喧伝したためだ。これで万が一、漁に出ている人達がシーサーペントに襲われるような事態になろうものなら、俺達は批判と怒りを一身に受ける事になる。だから何としても失敗は許されない。しかし、高飛車な物言いも美人が言うとあまり腹が立たない。どういう訳なのか。エリスには秘密だ。


 しかも、その討伐費用はこっち持ちときている。ビアトリスさんは割に合わないとぼやいているが、今後の事を考えるとブリトニーに恩を売っておくことは、決して悪い事ではない。うん、そう思っておこう。


 そしてこの後、合流したフリール商会の商船4隻を加え、計7隻になった船団は本格的なシーサーペントの捜索活動に移ることになった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ん〜、何にもないねぇ。向こうで海鳥が飛んでるくらいかなぁ」


 見張り台の手すりから身を乗り出してリンがつぶやく。肩に乗ったブロスも頷いている。ここからは下の甲板よりずっと遠くが見通せる。目が良いリンにはうってつけの役目だ。


「そっかぁ。今日の海も静かなもんだな〜」


 俺達は今、マストの上部に設置された見張り台からシーサーペントを探索している。船の中で一番高い所から周囲を見渡すが、怪しい影は見えない。時々海鳥の鳴く声が聞こえたりして、風も緩やかで海は極めて穏やかだ。周りの残り6隻のフリール船団も今頃、暇を持て余しているだろう。


「シーサーペントを追い払うだけなら最初の3隻でも問題ないが、確実に討伐するとなるとやはり倍くらいは欲しかった。その間は交易もできないし、まったく、割に合わない仕事だよ」


 ビアトリスがそうぼやいていた。


 ……にしてもフリール船団は交易がメインの船だろう。なのに戦闘力がめちゃくちゃ高い。これを戦闘特化にカスタマイズしたら、どんだけヤバイ船団になるんだろうな。


「ん~~!?あれってミナトの言ってた『クジラ』かな!?」

 

 何かを見つけたリンが指をさした。望遠鏡を覗き込み海の彼方を探すと、ずっと沖合に小さな黒い島のような物が見えた。

 

「クジラ?あっ!お水がビューッて噴き上がったよ!?わっ!飛び上がった!バッシャーン!って!すごい大っきい~!あんな大きな魚、リンでも食べきれないかも~!」


「ははは、クジラすごいよねぇ。あのジャンプはブリーチングっていうんだよ。前世でも見たことがある。ホエールウォッチングっていって、クジラを見る為の旅行もあったくらい人気だったよ」


「へ〜!そうだよね、見てると面白いもんね!あ、じゃあ、食べられないのかな?ミナト知ってる?」


「そりゃあ食べられるさ。それに、ひげや歯、骨も使えるんだよ!あんなに大きいのに捨てるところがないくらいだって言われているんだ」


「へ~!そうなんだぁ!ねぇ、シーサーペントが討伐できなかったらクジラ捕まえよっか?」


「ははっ、面白そうだけどまずはシーサーペントを討伐しなくっちゃね」


「そっか~、でもシーサーペントはどこに隠れてるのかなぁ……?」


 しかし、リンの遠目や気配探知にも引っかからないのだからお手上げだ。


「シーサーペントは元々、海の沖合、それも深い所を回遊していると言われている魔物。それに前回の攻撃で深手を負った。傷を癒やす為に何処かの海底洞窟にでも身を潜めているのかもしれないね」  


 というビアトリスの言葉通り、いくらシーサーペントといえどあの巨大な火矢ファイヤーアローを食らって無事で居られるはずがない。それにあのどやかましい音響攻撃を受けたんだ。ひょっとしたらあの攻撃がトラウマになって、もう、ここには現れないかもしれない。もしかしたらあの傷が元でどこかで死んでいるかもしれない。それなら俺達が動くまでもなく目的は達成されている事になる。


 でも、それはあくまで希望的な推察に過ぎない。


 俺達は「シーサーペントの討伐」つまり、シーサーペントを倒す、という任務クエストを受けた。俺達はあくまでもヤツを倒す為にこうして海に出ている。


 仮にシーサーペントが死んでいるならその遺骸の回収、出来ないなら確認が必須だ。


 憶測で「シーサーペントは死んだ。もう安心だ」と報告してその後、もしシーサーペントが再び出現して被害が出ようものなら俺達は嘘つき、詐欺師呼ばわりされるだろう。ひいてはアダムス辺境伯の信用が地に落ち、アライの町は王家側に寝返ってしまう可能性がある。それでは困るのだ。


 だから俺達はどんなに待ってもヤツを見つけねばならない。ビアトリスが首領の館を出た時、「やれやれ、厄介な仕事を押しつけられちまったもんだ。維持費だって馬鹿にならないってのに」とため息をついた理由が今なら分かる。だっていつ現れるか分からない魔物の為に船を張り付かせておかなきゃならないんだもの。

  

 更に二日が過ぎ、ビアトリスはある決断を下した。


「ミナト、このままだとらちが明かない。地元の漁師が言うには、この辺の海にはシーサーペントが隠れる事が出来そうな海底洞窟が何箇所かあるようだ。そこをしらみつぶしに探してみようかね」


「分かりました。ただひたすら待つより、こっちから探しに行きましょう!リン、海底洞窟だって。深海でも気配探知けはいたんちっていけそう?」


「うん、洞窟みたいにピンポイントならいけると思う!アイツの気配は覚えてるから!」




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 俺達は漁師に聞いたポイントに船を移動し、一つ一つ探っていくことにした。リンが気配探知で海底を探る。この辺りはそこまで水深があるわけではないようだ。


「リン、どうかな?シーサーペントはいそう?」


「ん〜、大っきな魚はいるみたいだけど、シーサーペントはいないっぽい」


「そうか、ハズレかぁ。どうやらここにもシーサーペントは潜んでないようです。ビアトリスさん」


 あれからいくつかの海底洞窟の探査をしてみたが、残念ながらシーサーペントは発見できなかった。


「仕方がないさ。ああいう大物は本来はもっと沖の方にいるもんだ。ただ、怪我をしていたからあまり遠くまでは行っていないと踏んだんだがね。それじゃ一度食料を補給しに港に戻った方が良いね。明日以降、残りの洞窟を探すことにしよう」


「分かりました。……て、どうしたの、ブロス?」


 リンの頭に乗ったブロスが沖の方にハサミを向けて「シィー!シィー!」と言っている。


「えっ?向こうから何かが来る?ミナト、ブロスが何かがすごいスピードでこっちに向かって来てるって言ってるよ!」


 何だろう?デッキに手をかけその方向を注意深く凝視する。……う〜ん、何も見えないけど?


 と、見張り台から声が降ってきた。


「姐御!沖の方で波しぶきが上がっています!凄いスピードでこっちに近づいています!」


「なんだって!?ヤツかい!?」


「あのシルエット、間違いありません!シーサーペントです!」


「よし、分かった!総員戦闘配備だよ。緊急用の曳光弾を上げな!」


 早鐘が打ち鳴らされ船内に緊張が走る。曳光弾が打ち上げられ、それを見た漁船が漁を中断し一斉に港に引き返していく。それらと入れ替わるように港からは、およそ30隻の警備船団が出港してくる。


「ふん。他所者に手柄を独り占めさせないように、ここぞとばかりに警備船団総出で出港かい。何?ブリトニーも来てるだって?ほぉ。まあ、頭数は多いほうがいいさね。さ、これまでかかった費用を命に替えて海蛇シーサーペントに払ってもらおうじゃないか!ハッハッハ!」


 ビアトリスが高らかに笑う。待ち焦がれたシーサーペントとの戦いだ。絶対に逃すわけにはいかないぜ!


「あれ?あのシーサーペント何かおかしいよ!?」


 気配を探っていたリンが首を傾げた。


「おかしいって、何か変なのか?」


「うん。なりふり構っていない感じ?まるで何かから逃げてるみたい。……たぶん追われてる!!」


「逃げている?シーサーペントがか?」


 リンにそう言われ、目を凝らして見るがよく分からない。と、近づいてきたシーサーペントの動きが止まった。それと同時に海がにわかにさざなみ立つ。


 なんだ?突然海が荒れ始めたぞ?


「おいあれを見ろ!」


大渦おおうずだ!渦があらわれたぞ!」


 突如、海に大渦おおうずが現れたかと思うと、意思を持っているかのようにどんどんその規模が大きくなっていく。そしてその渦の中心にいたシーサーペントは「ギィィィャアァア!」と喚きながら抗うように身体を振り乱し暴れたが、みるみるうちに水中に引き込まれその姿は消えてしまった。


「な……!どうなってんだ?いきなりシーサーペントが渦に巻き込まれて……?」


「ん?この船、渦にだんだん近づいてないか?」


 戦闘態勢に入っていた水夫達だったが、シーサーペントを飲み込んだ渦が徐々に大きくなっていくのを感じ焦っている。


「まずいね。船が引き波に引っ張られている。このままじゃ私らもあの大渦に飲まれちまうよ!全船、急いでこの海域を離れるんだ!」


 ビアトリスが急ぎ麾下きかの船にエンジン全開でこの場を離れるように指示を出す。向こう側をみるとアライ警備船団の船も脱出を図るべく、帆を全開にあげていた。


 だが警備船団は大渦に吸い寄せられるように中心に近づいている。おいおい、ひょっとしたら引き波に負けてるのか?巻き込まれでもしたら無事ではすまないぞ!?


「ミナト!海の中でシーサーペントを何かが攻撃してるよ!」


「えっ!?シーサーペントを?」


「なんだって?それは本当かい、リン?」


 リンの言葉に甲板に居る全員の視線が集まる。


「うん、ものすごく大っきくって強そうな気配があるよ!シーサーペントはそいつから逃げてたみたい!今も逃げようとしてるんだけど何かが噛みついて逃げられないの!あ、また上がってくるよ!」


 リンの声と同時にシーサーペントが赤く染まった渦の中心から海上に姿を現した。コブラのように海面から鎌首を持ち上げる。自身を再び呑み込まんとするブラックホールの様な力に抗い、なんとか渦から逃れようと必死に身体をくねらせ、傷ついた身体から血を噴き上げながらのたうち回る。


 大渦に抗うシーサーペントの力はすさまじく、波が大きくうねる。船はおしよせる波に翻弄されながらかろうじて転覆を免れる。


「あっ!!シーサーペント!ほらあそこ!」


 大渦がその中心、シーサーペントのはらわたに巨大な魔物が喰らいついているのが見えた。


「な、な、なんだありゃあ!!」


「おい、シーサーペントよりでかいんじゃないか!?」


「なんてこった……あのシーサーペントに噛みついて引きずり込んでやがる……」


 そしてシーサーペントに食らいついた魔物がゆっくりとその姿を現す。その姿に全員が息を飲んだ。


 シーサーペントを上回る巨大な体躯。鋭い鉤爪と水搔きのついた大きな前足、そして、魚のような背びれにトカゲのような鱗に首長竜のような長い首。そして見るものに死の恐怖を植え付ける恐ろし気な目、何物をもかみ砕きそうな凶悪な口……。


 その顔を見て一体の魔物が俺の脳裏をかすめた。おいおい、嘘だろう?あれはどう見てもドラゴンじゃないか!?


「お、おい……なんだってドラゴンがこんな所に……」


「ははは……海のドラゴンだぁ?あれは単なるおとぎ話じゃなかったのかよ……」


 呆然とする水夫達。その横でビアトリスが辛うじて言葉を絞り出す。


「まさか、こんなところでお目にかかれるとはね……大海龍ギルメデス……」


 あの巨大なシーサーペントをすら餌にする、海の王、伝説の龍ギルメデスが俺達の目の前にあらわれたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇





「ヤツは死を運ぶドラゴンだ。海で遭遇した人間で無事に生還できた者はほとんどいないと言われている。アタシもお目にかかるのは初めてさ」


「ミナト……強いって!どうする?どうする?」


 てかリンとブロス、君達はなんであの凶悪なドラゴンを見て目をキラキラさせているんだい?あと木刀あいぼう、さっきから俺にガンガン魔力を送り込んでくるのはなんでかな?


 ギルメデスは凄まじい力でシーサーペントを振り回し、遠心力で持ち上げた身体を海面に叩きつけた。その衝撃でマストのてっぺんより高く水飛沫が上がる。そしてとどめとばかりにシーサーペントのはらわたを噛み千切った。


「ギャアアァァッ!!」


 血飛沫をあげ、最後に断末魔の叫び声をあげるシーサーペント。その血で海は真っ赤に染まっている。シーサーペントがなすすべなく蹂躙され、やがて完全に動かなくなった。


 呆然とその光景を見つめる水夫たちにビアトリスの一喝が響き渡った。


「あんたたち、渦に引き込まれないうちにここから離れるんだ!いいかい、ギルメデスを刺激するんじゃないよ!ヤツは今、気が立っている。攻撃の矛先がこっちに向けばただじゃすまないからね!」


 我に返れば流石はフリール商会所属の水夫達。見事な操舵術で渦の中心からゆっくりと離れていく。


「シーサーペントは死んだんだ。あとはギルメデスを刺激しないようにケツを捲って港に逃げるだけさ。大嵐に正面から立ち向かっても沈没するのが関の山だからね」


 あの渦潮うずしおといいギルメデスは水系統の魔法を使えるのだろう。水の沢山ある海はヤツのフィールドだ。どう考えたってこちらに勝機はない。一刻も早くこの場から離れないと!


 フリール商会の船団は大渦から徐々に離れ、港に戻ろうとした時だった。


「姐御!まずいです、警備船団の奴ら、砲撃を始めました!」

 

「ハァ!?何だって!?」


 驚いたビアトリスが慌てて船のデッキに乗り出す。ギルメデスに一番近い警備船が、突然ギルメデスにむけ砲撃をはじめたのだ。撃ち出された砲弾が至近距離に落ち、水柱があがる。ギルメデスの目が警備船団の方を向いた。


「何を血迷ってるんだブリトニー!ギルメデスにそんなもの通用するわけないだろう!タイジ!すぐに合図を送るんだよ!砲撃をやめさせるんだ!」


「おう!!」


 タイジが走っていった。……が、次の瞬間。警備船団から一斉に砲撃が始まる。30隻を超える軍船から次々に砲撃が放たれ、ギルメデスに攻撃を加えはじめた。


 標的を大きく外した砲弾がフリール船団の近くにも落ちはじめる。巨大なドラゴンを前にした為か照準が定まらない。


「アライ警備船団より通信!「警備船の1隻が操舵不能に陥り、大渦に引き込まれそうになっている。大渦を止め、同胞を救うため元凶であるギルメデスに砲撃を開始した。支援されたし!」との事です!」


「バカ言うんじゃないよ!仲間を守るためにと言ったって、あんな玩具おもちゃでギルメデスが倒せると思ってるのかい!?」


 報告を受けている間も目標を大きく外れた砲弾が、間近で着水する。しかし、それを全く意に介さないビアトリス。険しい顔で戦況を睨みつけていた。


 その間もブリトニー率いる警備船団から絶え間なく砲撃が続く。シーサーペントが死んだ今、ギルメデスも一気呵成に倒そうってハラなのか?無理だよ!!


「ガァアアア!!」


 突然、耳をつんざくような咆哮と共に、水柱の中から青い弾丸のようなものが発せられた。それは凄まじい速さの巨大な水球。瞬きすら許さない速さで飛来した水球は暴力的な威力をもって攻撃中の警備船をいとも簡単に貫通する。その直後、警備船は爆発をおこし炎上をはじめた。


「このままじゃ警備船団は全滅だ。仕方がないね!タイジ!全砲門開け!ギルメデスの注意をこっちに引き付けるんだよ!」


「がってん!全船、全砲門開け!……てー!!」


 警備船団壊滅の危機にビアトリスはフリール船団が囮になる事を決断した。7隻の船から巨大火矢ファイヤーアローが放たれた。火矢はギルメデスの背後に襲いかかり、その身体に次々と突き刺さる。異変を感じ振り返ったギルメデス。その口から凝縮された魔力が練られている。


「攻撃が来るよ!魔力障壁マジックバリア展開!」


「「魔力障壁マジックバリア展開!!」」


 瞬時に魔力でできた障壁が船を覆う。そこにギルメデスが放った水球が被弾した。一発、二発、三発……!その衝撃で命中する度に船が大きく揺れる。


「くそっ、一発一発がなんて威力だい!?このままじゃこっちまでやられちまうよ!」


「姐御!魔力の消費が激しすぎでさぁ!魔力障壁マジックバリアはもってあと数発ですぜ!」


 ビアトリスの焦燥が俺達にも伝わってくる。


「ミナト!リン達であのドラゴン倒そうよ!そうしないとみんなが危ないよ!」


 リンが決意のこもった声で訴える。


「うん……そうだな!俺も、もうそれしかないと思う!」


 いつもの俺なら躊躇しただろう。でもこのまま座してギルメデスの攻撃を受け続けたらみんなが危ない!それなら俺達のできる事をやろう!


「何だって?あんたたちだけでギルメデスを倒す!?寝言言ってんじゃないよ!」


 俺の提案をにべも無く却下するビアトリス。でも俺も引くつもりはない。


「このままじゃ、みんながあのギルメデスにやられてしまうでしょ?だからあいつは俺達が引き受けます!」


「でもここは陸地じゃない、海の上だ。どうやってヤツに近づくつもりだい?渦は消えたが、まさか泳いでいこうってんじゃないだろうね?」


「もちろん違います。今の俺ならやれます!それに、もしこの場にハロルドさんがいたら、きっとこう言うと思うんですよ。「おっと、なかなか手強い敵が現れたね。まぁ、ミナト達なら大丈夫。今から行ってヤツをパパッと倒してきてよ!」って。もし、このまま何もせず全滅したら何を言われるか分かりませんから」


「まぁ、確かにあの男なら言いそうだ。ハロルドはあんたを深く信頼しているからね……でも本当にやる気かい?」


 ビアトリスが俺の目をじっと見つめる。その瞳は俺の決意をはかっているようにも感じられた。そのまま少しの時が流れる。


「……分かった。何か考えがあるんだね?どのみちこのままじゃ壊滅的な被害は免れない。頼むミナト、ギルメデスを倒しておくれ。でも無理するんじゃないよ!」


「はい!」「リン達に任せて!」「シィー!」


 俺達が力強く頷くと不意にフッと笑みを浮かべるビアトリス。


「よし!みんな、よく聞きな!今からミナトがギルメデスを倒しに向かう!私らは全力でミナトを援護するよ!」


「おう!……ミナト!姐御にそこまで信用されてるなら大丈夫だろう。気をつけていけよ!」


 少しの間とはいえ、同じ釜の飯を食った仲間たち、タイジをはじめ乗組員の声援を背中に受けて船のデッキに手をかけてから水面を見下ろす。結構高低差がありそうだ。


「ミナト、大丈夫?」


「もちろん。もうイメージはバッチリだからね!」


 そしてデッキに足をかけて……思いっきり跳ぶ!


 船から飛び降りた先は一面の海の上。このままなら当然海にドボンだ。意識を集中させイメージする。


 ……水は土……水面は地表……。足に魔力が集まり、着地した海面が地面のように硬質化する。


 そして俺は水没する事なく水面に降り立った。


「行くぞ、『水走り』!」


 ギルメデスに向かって怒涛の勢いで水面を駈って走りだす。蹴り出す力に魔力を上乗せし一気に加速。木刀を構え、ヤツとの距離を縮めていく。


 近くで見るとやはりデカい!でもそんな事は分かりきった事だ!


「ギルメデス!お前の相手は俺達だぁー!!」


 青白いオーラを纏い、魔力によりあり得ないほど自重を増した木刀がギルメデスの身体に重く強烈な一撃を叩きつけ、戦いの火蓋が切って落とされた。








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