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15話 俺のスキルは逆テイム!?


 「困ったら、まずは初心に帰って自分の能力を確認すること」

 

 俺が悩んでいるのを見かねて、リンを抱っこした母さんが助言をくれたのは、その日の夕食の後だった。


確かに、今までリンとの連携と剣の上達の事ばかり考えていたが、俺のスキルや魔法の事を、母さんに聞いてみてもいいかもしれない。


 ちなみにオスカーは、村の警備当番の日らしく、帰宅は夜遅くになるらしかった。


「実は俺、水魔法と回復魔法に適性があるんです。でもやろうとしても上手くいかなくて……」


「水と回復!すごいじゃない!特に回復魔法は適性のある人が少なくて貴重なのよ」


 パナケイアさんが回復の魔法をくれたのだろうか?でもどうやって回復できるのか、分からないんだよな。


「魔法は詠唱で発動させるの。詠唱は知っている?」


「詠唱すれば魔法ってすぐ使えるんですか?」


「魔法って、体内の魔力と体外の魔力や魔素を集め、練り上げて魔法に変換、具現化させるもの。その際に行うのが詠唱なの。初歩の詠唱が記載された書物は家にもあるわ。でも最初は魔力を集める練習からね。ただ、魔法は個人の得手、不得手の差が大きいの。戦いに使えるレベルまで鍛えるのは時間がかかると思うわ」


もし魔法が使えたら戦闘でも、大きなアドバンテージになるのは確かだ。なんせエリスさんの風魔法で、村にいた盗賊たちを殲滅させたといっても過言ではないし。でも残念な事にすぐに使えるわけではなさそうだ。少しずつでも教えてもらうしかないか。


「スキルは何があるの?」


「えっと、まず『念話』。リンとの会話は、敵に聞かれなくて便利ですよ」


「りんりんとも念話で話しているものね。うらやましいな~。それから?」


「次に『念写』です」


「ねんしゃ?」


「目の前にある風景や人なんかを、瞬時に記憶して絵にできるんですよ」


「瞬時に?本当?」


 写真の事を話してみたがそんなものは見たことがない、との事。どうやらこの世界に写真はまだないようだ。


「ただ、それを記憶しても、人に見せる方法が分からなくて」


「いまいちピンとこないけど、戦闘向きのスキルではなさそうね」


 衛星写真でも撮れれば、地形とか敵の位置が把握できたりするんだろうけど、普通の写真を撮るスキルは、戦闘向きじゃないのかな。でも、この世界にはないスキルだろうから、希少なスキルと言えば希少だし、そのうち出番があるだろう。


「そう、スキルはこれだけかしら?」


「いえ、あと一つ謎のスキルがあって」


「謎のスキル?」


「うん、『同調』っていうんですけど、これが何の事やらさっぱりで」


「同調!?それ、テイマーのスキルよ!」


「えっ?本当?」


「契約した従魔をマスターの意思に同調させて操るスキルなの。それがあれば複数の従魔でも、組織だった戦法が可能になるわ」


 なんと!そんな便利なスキルだったのか!でもトーマに体を乗っ取られた時は、何も起きなかったんだけどな。まあ、練習なしのぶっつけ本番だったから、しょうがないけど。


「このスキルで、リンが危険な突撃をしようとしたら止めることも?」


「可能なはずよ」


「本当ですか!それならリンともっと連携した動きができる!」


 早速試してみたい。リンが俺をかばって死んだりするのだけは、御免だからな。


「もう、あなたばっかりずるいわ、私だってリンリンと話をしたり、一緒に戦ったりしたいのにぃ」


 母さんが拗ねたふりをしたあとに、温かな目でリンを見つめる。本当に従魔が好きなんだな。


「私だって言葉を教えて、リンリンと話せるようになってみせるんだから!ね?リンリン」


 母さんにそう言われて、リンもニコニコしている。


 母さんはなにやら決意したようだ。でも、母さんとリンが普通に会話ができたらリンも嬉しいだろう。周りは人間ばかりだから、俺以外にも話せる人がいれば心強い。母さん、頑張って!


「今日はもう遅いし、スキルや魔法は明日見てあげるわ。明日は訓練もないでしょう?」


 明日は村の防衛設備の点検・強化の日でグラントさんがいない。と言うわけで各自、自主訓練をする事になっていた。俺のスキルや魔法を見てもらうには丁度いい。


 それにしてもグラントさんは忙しいな。ヴィランがいなくなって、村長代理と村の防衛隊長を兼務している。オーバ-ワークになっていないだろうか。俺も何か手伝いたいとグラントさんに言うと、まずは戦力になれるように頑張る事、夜はゆっくり休む事と家に帰されてしまったのだ。確かに体中あざだらけであちこち痛い事この上ない。


 休むのも仕事のうち……。俺とリンは母さんに「おやすみ」と挨拶をして、寝室に向かった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「まず、スキルの有効範囲を確認するわ。同調を発動してみて」


 次の日、俺たち三人は庭に集まった。兄さんは訓練場で村の人たちと自主訓練だそうで、早くに出ていった。


「有効範囲?それって人によって違うんですか?」


「適性や能力、技量、習熟度によって個人差があるの。まずは自分のスキルの現状を知っておく必要があるわ」


 なるほど、同じスキルでもその人、その人で範囲が違うのか。


「分かりました。じゃあリン、スキルを発動してみるから、あそこに立ってくれるかい?」


『ワカッタ』


 リンに5m程離れた場所に立っていてもらう。いよいよだ、息を整えリンを見る。


「同調発動!」


 リンを指さし発動を宣言する。


 1秒、2秒…5秒…変化はない。


「どうかな?リン」


『エ?何モ変ワラナイヨ』


 リンが首をかしげている。


 あれ、失敗?


「うん、ちょっと遠かったみたいね。次はもう少し近く……そう、そのくらいからやってみて」


 どうやら有効範囲には個人差があるようで才能のある人は最初から広い範囲でスキルが使えたりするらしい。とりあえず現状を知るため、リンが反応するまで少しずつ距離を詰めていく。その結果……。


『同調キタヨ、同意スルネ!』


 リンの声。今、俺はリンの目の前に立っている。


 リンとの距離は1m。つまり俺の同調の有効範囲はそれだけしかないという事だ。さらに少しでも離れると同調が切れてしまうようだ。


「大丈夫、訓練しだいで有効範囲は広げられるから。さあ、リンリンに指示してみて」


 俺ががっかりしていたのを感じ取ったのか母さんが明るく言う。うん、そうだ。範囲の事はひとまず置いておいて、まずは同調の効果を確かめないとな。


 同調は発動させると従魔が人語が理解できなくても動かす事ができるらしい。念話は使わなくてもいいようだ。リンに指示を出す。


「リン、その場でジャンプ!」


 リンは動かない。……あれ?もう一度同じ指示を出す。が、やっぱりリンは動かない。不思議そうに首をかしげている。


「……全然動かせない、母さん、何でかな?」


「私にも分からないわ。同調のスキルは発動しているのに……。どうなっているのかしら?」

 

「何か、条件とかあるのかな?リン、何か変わった感じはない?」


『エ?全然変ワラナイヨ?』


 他にもいろいろ念じてみたり、指示を出してみたりしてみたが、結果は同じ。試行錯誤を続けているうちに三人とも疲れてはててしまっていた。


「二人とも、こういう事は難しい顔をしてても上手くいかないものよ。こんな時はね……!」


 母さんが持ってきたバスケットから何かを取り出した。


「アニー特製のクッキーよ!今朝おやつにって貰ったの!」


 村長宅で下働きをしていたアニーは、今も村長宅で掃除や食事の手伝いをしている。今までは雀の涙の給金しか与えられていなかったみたいだが、急に仕事が無くなっても暮らしていけない。そこでアニーやその他の使用人たちも、今まで通り屋敷で働いてもらう事にしたのだ。もちろん適正な額の給金を払って、だ。(資金は逃げたヴィランが、持っていけなかった宝石類や金貨だ)


「二人とも、あそこの木陰に座りましょう。お茶も持ってきたのよ」


『ワーイ!』


 確かに現状では答えが見つからない。気分転換もいいかもしれない。

 

 リンが嬉しそうに俺を見た。その時だった。


 俺はその場に座り込んだ。その背中にリンがのぼってきて、いつもの肩車の格好になった。


「えっ、あれ、何で……?」


「どうしたの?トーマ君、立ち眩み?大丈夫??」


 混乱している俺を、母さんが心配する。


「今、体が……体が勝手に座ったんです」


「勝手に?」


「そうなんです!俺の意思とは関係なく、まるで誰かに操られているみたいに!」


 俺の話を聞き、攻撃をしている敵がいるかも、とリンが肩から降りて、キョロキョロと、あたりを警戒する。しかし、それらしいものは見つからない。


「……まさかとは思うんだけど」


 俺の様子を見て、母さんはしばらく考えた後、口を開いた。


「トーマ君が指示するんじゃなくて、リンリンがトーマ君に指示してみてほしいの」


「俺がリンに……じゃなくて、リンが俺に……ですか?」


「そう、とにかくやってみて」


 何だかよく分からないが、俺はリンにお願いしてみた。


『分カッタ!ヤッテミルネ』


 そうリンが返事をした途端、俺の体は、俺の意思と関係なく歩き出した。リンを中心に一周して止まる。


『リンノ周リヲ歩イテッテ、念ジタヨ!』


 えっと、つまり……これは……。


「このスキル、俺がリンを操るんじゃなくて、俺がリンに操られるスキルみたいです……」


 俺の言葉に母さんが、うーん……と悩みながら言った。


「まさかとは思ったけど……それなら、もう一つ確かめたいことがあるの。いいかしら?」


「何ですか?」


「リンリンが同調をする時に聞こえる声が、何と言っているのか正確に教えて欲しいの」


 リンに説明すると、リンは分かったと言い、その言葉を正確に教えてくれた。

 

 その声は……


『ミナトが同調を求めています。同調させる事に同意しますか?』


 だった。


「同調するじゃなく、同調させるだったんだ……つまり、リン「が」同調する、のではなく、リン「に」同調する……」


「お願いして操ってもらうスキルって事ね、本来なら逆なのに。ふふっ、変わったスキル。これじゃ、リンリンがマスター様になっちゃうわね」


 母さんは笑いをこらえようと口元を抑えている。あまりにへんてこな事実に、俺も困惑を通り越して笑いそうになった。操ると思っていたスキルは全く逆の効果だったのだ!


「従魔に操られるテイマーって……そんなテイマーいる!?なんの冗談だよ、従魔にお願いして「操ってください!」なんてさ!」


 俺がそう言った途端、母さんがこらえきれずに吹き出してしまう。


「想像したら笑っちゃった。ごめんねトーマ君!」


 多分、リンが俺に命令しているところを思い浮かべたんだろう。母さんは笑ってしまった事を、恥ずかしそうに謝ってくれる。その仕草も可愛らしい。


「それにしても普通の「同調」とあなたの「同調」、なんで効果が逆になっているのかしらね?」


 それは俺も知りたい。なんで俺の同調は効果が主従入れ替わるんだろう?テイムしたのに逆に操られるんなら、「逆テイム」じゃないか。

 

「うーん、関連があるかどうか分からないけど、俺の同調スキルは、ステータスに「固有スキル」っていうのが付いていて……」


「固有スキル!?」


 それを聞いた母さんの顔色がサーッと変わった。え?俺、何かまずい事を言ってしまったのか?


「母さん、顔色が悪いよ、ひょっとして体調が……?」


「ううん、何でもない、何でもないわ」


 母さんは首を横に振るが、その顔はこわばっていて、何でもなさそうそうにはみえない。


「ごめんなさい……。やっぱり急に体調が悪くなったみたい……。家に戻って休んできていいかしら……?」


「大丈夫?俺、肩かすよ!やっぱり病み上がりで無理していたんじゃ……」


 付き添おうとすると、母さんは大丈夫だからと俺を制止し、おぼつかない足取りで屋敷に戻って行った。


『エリス、ドウシチャッタノカナ?』


「分からない……」


 だが、俺の同調に「固有スキル」がついていることを伝えた時、顔色が変わった……。この固有スキルには何かあるのだろうか?だが、ここで考えていても答えは出ない。 ひとまず、母さんも心配だし、オスカーにも伝えておいたほうがいいか。


 俺とリンは、オスカーのいる訓練場に走った。








やっとタイトル回収できました

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