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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
5章 セイルスの闇編

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10話 ダンシング☆ブロス



「もうよい。処刑人、始めよ」


 アーサーの無慈悲な声が靜寂の刑場に響き渡った。即座に眼の前にある断頭台に、拘束された身体を固定されるオスカー達。


「兄ちゃん!オスカー兄ちゃん!!」


 衛兵に押さえつけられながらも必死にオスカーの名を叫ぶトビーの声が、耳に入ってきた。


『トビー、さよならも言えずにこんな事になってしまってごめんよ。君と話していると小さい頃のトーマといるようで嬉しかったんだ……。ありがとう』


 トビー、マリア……。ああ、そしてセイン。僕と一緒にいた君に嫌疑がかからなくて本当に良かった。


 オスカーの処刑が決まった後、千騎将であるセインが伝手を使って最後に何をして欲しいか、と差し入れと共に連絡をくれたのだった。オスカーはすぐさま返信を書いた。自分の処刑が終了し、ほとぼりが冷めてからでいい、自分の部屋にある貴重な本をミサーク村に届けて欲しい、と。あの本があれば、竜神川の護岸工事やしっかりとした橋をかけるのに役立つはずだ。


 収監される時にクリスティーヌも奪われたが、セインが保管しておいてくれていた。それも一緒にミサーク村に送ってくれるはずだ。


 出会ってから短い間だったのに、とても良くしてくれたことに感謝しかない。セインの貴族らしからぬ人柄や酒場での泣き上戸なところを思い出し、不思議と笑みが漏れた。


 それは恐怖を通り越した現実逃避だったのかもしれない。


 自分が王都に来たのは何の為だったか?王都で技術を学び、生まれ育ったミサーク村の皆が幸せに暮らせるようにする為だったのではなかったのか?


 母さんを助けたことに後悔は全くない。その事で罪があるというのなら寧ろ喜んで受けてやる、そんな気持ちだった。母エリスはどうやら無事に双子山に戻れたらしい。だが、この姿を見せたらどんなに悲しむか。今、この場に居ない事に安堵していた。


 その一方で無念さもこみ上げる。ミナトやヌシ様からは王宮に近づくのは止めておけ、と言われていた。やはりそれは正しかった。技術を学ぶにはそれしかなかったとはいえ、忠告を無視したばかりに全てが無に帰してしまった。彼とはどうやったらミサーク村が豊かになるか、皆が幸せになれるか、それこそ毎日のように話し合った。時には言い合いになることもあった。それもまた楽しく懐かしい日々だった。


『ミナト……ごめんよ。もう僕は君の役に立てそうもない。母さんは君が幸せにしてくれると信じてる。ミサーク村を、皆を頼んだよ』


 処刑人がオスカーの横に立つ。その手には巨大な大剣が握られている。周りを威圧するような禍々しい装飾が施された不気味な剣だ。


 処刑人がゆっくりと大剣を持ち上げる。飾り付けられた装飾が最期を告げるかのように不気味な音をたてる。群衆から息を飲む声なき声が聞こえてきた気がした。ここに至りオスカーも覚悟を決め、目を閉じた。


『ああ、もっと生きれたら、まだまだ色々な事をやりたかったな……』


 カサカサ……カサカサ……


 ……ん?オスカーの耳に奇妙な音が聞こえてきた。


 思わず目を開ける。すると一匹のツチガニが、オスカーの眼前を音を立てながら通り過ぎていった。


「え?……ツチ……ガニ?」


 なんでこんな所に?と不思議に思った時だった。


 カサカサ……カサカサ……


 再び地を這う音が聞こえてきた。しかもそれは一か所ではない。ありとあらゆる方向から聞こえてきたのだ。


「きゃーっ!!」


 突然、群衆から叫び声が上がった。それを皮切りにあらゆる場所から声が上がる。


「な、なんだこりゃ!?」


「ツチガニ!ツチガニが!」


「わぁっ!やめろっ!登ってくるなぁ!!」


 パニックを起こし騒然となる人々。その原因はすぐに分かった。


 数え切れない数のツチガニが刑場に突如現れたのだ。地面にボコボコと穴が空きツチガニが次から次に湧き出してくる。その総数は全く分からない。土色の甲羅で地面が瞬く間に埋め尽くされていく。処刑場にもその土色の波が容赦なく押し寄せる。ツチガニ達は何かに取り憑かれたのように人々に近づくとその身体を登ろうとする。


「なんだコイツは!?よせ、やめろ!」


 慌てて払いのけようとする処刑人。しかしツチガニが次々と群がってくる。


「登ってくるな!うぁあああ!」


 遂に大剣を取り落とした処刑人はその場から逃亡してしまった。その間にもガサガサと音をたて、次から次へとツチガニがやってくる。断頭台の周囲の石畳も土色の絨毯によって見えなくなった。


「ツチガニ……?いったいなんでこんな事が……」


 断頭台に固定されたまま事態を飲み込めず呆然としているオスカーに、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。咄嗟に声のした方向に視線を向ける。そこにはこちらに向かってくる黒装束に身を包んだ人影がいた。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 オスカー達の刑が執行される少し前……。


「オスカーの気配は……まだ感じない。大丈夫かな?オスカー」


「多分ギリギリまで投獄されてるんだ。来るのは刑執行の直前だと思うよ」


 リンが気配探知で周囲を探っている、広場には公開処刑を見ようと沢山の人が集まってきているようだ。


「オスカー達を見世物にするつもりなんだよ。集まった人達に王に逆らったらこうなるぞっていう、見せしめの意味があるんだと思う。もちろんそんな事はさせないけどね」


「うん!ミナト、絶対オスカーを助けようね!」


 力強く頷くリン。刑場の施設内。様々な道具が置かれている倉庫内に俺達は潜んでいた。拷問用と思われるありとあらゆる器具があり、股裂きの三角木馬、針のたくさんついた人型の棺桶、洗濯板のようなギザギザの凹凸がついた石の板と重しなどなど……。


 使い方がなんとなく分かるだけに、おどろおどろしさがより一層増してくる。そんな倉庫内の一角にあった空の道具入れに前日から潜り込み、様子を窺っている。


 潜入中、普段は罪人を処断するため活躍するであろう、この禍々しい器具達を取りに来る人間は居なかった。英雄の処刑という大々的なイベントを間近に控え、他の刑の執行が止まっていたからだ。


 潜入メンバーは俺とリン、コタロウだけだ。三人とも忍者の忍び装束を身に着けて、戦国時代の武士が着けていたような面頬めんぼおをつけ素顔を隠している。その他のメンバーはタヌ男とラナとライ。こっちはサポート役として別の場所に潜伏してもらっていた。


 と、外からざわめきが聞こえてきた。


「ミナト様、始まったようです」


 くぐもったコタロウの声に俺も耳を澄ます。


 どうやら刑場に引き出されたのは三人。オスカーの他にセリシアって人と、その夫のマナーズ公爵のようだ。


「ウォーレン=マナーズ!その妻セリシア!元マージナイツ隊員オスカー!以上三名を王家に対する反逆罪により斬首刑に処する!」


 群衆に聞かせるためだろう、執行人の罪状を読み上げる声が俺の耳にもはっきりと聞こえた。それと同時にセイルス王国が誇る英雄の処刑という処罰にどよめきも聞こえる。


 待ってろよオスカー。すぐに助けてやるからな!


「ブロス、準備はいいか?頼むぞ!」


 するとブロスが「おう!」とばかりに気合を入れるとリンから飛び降りる。


 ブロスにはオスカーを助ける作戦があるという。内容を何回も聞いたけどその度に「まぁこのブロスさんに任せなさい!(訳リン)」と言うばかりだった。


 クイックイッと準備運動をしてスゥーッと呼吸を整えるブロス。そして……。


 ちゃっちゃっちゃ、ちゃっちゃっちゃ。


 突然、踊り出すブロス。ハサミを左右に動かし、身体を揺すってリズミカルに踊りだした。


 ちゃっちゃっちゃ、ちゃっちゃっちゃ。


「あの、ブロスさん?ちょっと、今はダンスとかをしてる場合じゃ……」


「話しかけちゃダメだよミナト、気が散るって!」


 困惑する俺をよそに不思議な踊りを続けるブロス。話しかけるなって言われても……。


すると今度は念話の歌声が聞こえてくる。


『ブ、ブ、ブ、ブロチャンです、あ、よいよい、よいよい、よいよいよい~。さ~、皆さんご一緒に~』


「ミナト!リン達も歌ってって!あ、よいよい~よいよい~」


「えぇ、お、俺も……?え、えと、あ、よいよい、よいよいよい~(汗)」


 リンにせかされるまま何故か俺も一緒に歌うハメになった。俺はいったい何をやらされてるんだ?てかこんな時に声を出してていいのか!?


「どこかで不審な声がするぞ!?倉庫内から聞こえる。早く鍵を開けろ!」


「ミナト様!衛兵に気づかれました!」


 デスヨネー!倉庫の外で衛兵が騒ぎ始めた!そりゃそうだよ!しかし、焦る俺とはうらはらに佳境に入ったのか、ますますキレを増すブロスの踊り。


「おい!開かないぞ!」「くそっ!どうなってる!?」


 外からガンガンと扉を叩く音が聞こえる。


「中から内鍵と(かんぬき)をかけました。暫くの間は大丈夫かと」


「おおっ!ナイスだ、コタロウ!」


「しかし、いつ破られるか分かりませぬ。お支度を!」


 そうは言われても、俺もここを離れられない。ブロスの踊りはますます激しくクライマックスを迎えていた。身体がキラキラと輝きブロスを中心に光の輪ができている。


 そして……。


『あ、ホイホイ、ホイホイ、ホイホイ……ホイ!!』


 ブロスはシャキーン!とポーズを決め「やりきった」とばかりに胸を張る。どうやら踊りが終わったらしい。


「お、終わった……のか?……え、えっと、ブロスさん?」


 何が何だか分からず、ブロスに話しかけようとした時だ。


 ……カサカサ、カサカサ。


『呼ンダ?』


 ……ん?念話が聞こえた。現れたのは……。


「あれ?ツチガニ?」


 なんでこんな所にツチガニが?と思った瞬間。


『呼ンダ?』『呼ンダ?』『呼ンダ?』『呼ンダ?』『呼ンダ?』『呼ンダ?』『呼ンダ?』『呼ンダ?』……。


 床にぼこぼこと穴が開き、そこから次々にツチガニが姿を現す。


「う、うわぁぁ!?」


 瞬く間に倉庫内はツチガニであふれかえり、足の踏み場もなくなってしまった。見渡す限りのツチガニ、ツチガニ、ツチガニ……。そして外から騒ぎ声が聞こえてくる。


「な、なんだ、このツチガニの群れは!?」


 混乱する衛兵達の声も聞こえてきた。どうやら外にもツチガニが大量発生したらしい。


「ブロス。君がこのツチガニ達を呼んだのか?」


 ブロスが「そうだ」と言うように、コクコクと身体を上下に揺する。そして近くの木箱にカサカサと登っていった。


 ツチガニ達を見下ろせる場所までやって来たブロスが、ハサミを高く掲げる。集まったツチガニ達もそれに倣ってハサミを持ち上げた。


「シャァー!」


「シャアアアア!!」


 ブロスが声を上げると一斉に呼応するツチガニ達。そしてブロスが今度はハサミをビシッと刑場に向けた。


「シィー!」


「シャアアアア!!」


 集まったツチガニ達が雄叫びのような声を上げる。そして一斉に行動を開始した!歩く音と甲羅が擦れ合うガサガサ音で周りの声が聞こえない。


「うわぁああ!?何だこれは!?」


「ツ、ツチガニだぁ!ツチガニの大群だ!」


「何よ!いったいどうなってるの!?」


「ひぃいい!よせ!登ってくるなぁ!!」


 人々の目の前にいきなり現れ、縦横無尽に身体を登ってくるツチガニ達に人々はパニックになり、逃げ惑う声が聞こえる。お、恐ろしい……!うじゃうじゃとうごめく姿を見ているだけで鳥肌が立ってきた。


「ミナト!ブロスってすごいよね!あんなに沢山のツチガニを呼び寄せれるんだもん!」


「ブロスってこんな事も出来るのか……」


「ツチガニの王様なんだって!だからツチガニも操れるんだよ!街の中にもツチガニをいっぱい呼んだんだって。ね、ブロス!」


 リンの手に乗ったブロスが「えっへん!」とばかりに誇らしげに身体を仰け反らせている。リンの説明によると呼び寄せたツチガニに「近くにいる人間にしがみつけ!」って命令したらしい。


 てかブロスってばパナケイアさんが変化した普通のツチガニじゃなかったんかっ!ツチガニの王様ってなんぞ!?ま、まぁ、これなら確かにパニックにはなるけど人は殺さないか。でもこの光景はトラウマになるかも。


「ミナト様!衛兵が混乱している今が好機!この隙を突きオスカー様の救出に!」


 そうだ、オスカーだ!こんな事をしてる場合じゃなかった!


「俺がオスカーを助ける。コタロウはマナーズ公爵達を頼むよ!」


「御意!」


 倉庫を飛び出し刑場に向かう。周囲は見渡す限りツチガニで溢れ、阿鼻叫喚の坩堝るつぼと化していた。湧きだしたツチガニが人間に取り付き、人々が悲鳴をあげながら必死に振りはらい、衛兵達もパニックになっている。


「いいぞ!これならいける!」


 間髪いれずにオスカー達が拘束された断頭台へと駆けつける。


「オスカー!助けに来たぞ!」


「えっ!……その声、もしかしてミナト!?」


「ああ!俺だよ!」


「リンもいるよー!」


 マスク越しだがオスカーは俺達にすぐ気付いた。リンが束縛していた拘束器具を光刃で切り裂く。


「大丈夫か!?立てるか、オスカー!?」


「うん、大丈夫だよ。ありがとう。ミナト、リン!」


 器具をはずし、手を貸して立たせる。久しぶりに会ったオスカーは少しやつれたように見える。しかし、目の奥に宿る輝きは昔と全く変わらない。


「あなた達はハロルドの手の者ね?」


 いつの間にか俺の前にセリシアが立っていた。


「はい、オスカーと一緒にセリシアさん達も連れてくるように頼まれました」


「そう。わざわざ私達までね……ふふっ、やっぱりあの人らしいわ。分かったわ行きましょう。案内を宜しくね、ミナト君」


「えっ!?どうして俺の名前を?」


「前にエリスに聞いたの。それじゃ、肩に乗ってるのが……」


「リンだよ~!」


 マスクを被ったまま元気な声で手を振るリン。


「セリシア様、自己紹介は後にしましょう!今はすぐにここを離れなければなりません!」


「その通りねオスカー、確かに時間が惜しいわ。……アナタ、走るのは平気?」


「ふふふ、任せよ。監禁されてはいたがこの身体、いささかも衰えてはおらんぞ」


 セリシアが問いかけると自信満々にニヤリと笑うマナーズ公爵。


「ミナト、僕達の体調は気にしなくていい。案内を頼むよ!」


「分かった!それじゃ一刻も早くここを脱出しよう!」


 全員を連れ、走り出そうとした時だ。


「待て!止まれ反逆者ども!」


 凛とした声に足が止まる。


「あら?何か用かしら、グレース?」


「罪人共め……このような……このような事をして許されると思っているのかっ!セイルス国民の風上にも置けぬ輩共め!」


 憤怒の表情で剣を抜くグレース。あまりの怒りの為かツチガニも彼女の周囲に寄り付いていかない。


「セイルス国民の風上にも置けぬ輩、ねぇ……」


 そう呟くと、剣を構えるグレースをものともせず近づいていくセリシア。グレースの技量があれば一振りで簡単に真っ二つにされるだろう。しかし、彼女は金縛りにでもあったように動かない。


 グレースの眼前に立ったセリシア。その直後、グレースの頬を強く張った。高い音が刑場に響き渡る。突然の事に俺はただ立ち尽くしてしまった。


「……残念だわ。あなたは最後まであやつり人形のままだった」


 はたかれたグレースは何が起きたのか、といった表情で無言のまま、セリシアを見つめている。


「アーサーは私達の逃亡先を知っているはず。きっと兵を差し向けてくるでしょう。沢山の国民が家を焼かれ、命を落とす。王国は病み、他国にも攻められ死んでいくでしょうね。それでもあの男に付いていくというのであれば最早止めはしないわ。西セイルスにいらっしゃい。セイルス王国終焉の宴を始めましょう。アーサーの亡霊とセイルス国民の命を燃やす盛大な宴を、ね」


「くっ……!」


「ごめんね、ミナト君。貴重な時間を使ってしまって。さっ、行きましょう!」


 グレースをその場に残し、まだ混乱覚めやらぬ刑場を抜け出した俺達は、ツチガニで溢れ返る街中を走り抜けローザリア城に飛び込んだ。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「居たぞ!あそこだ!」


「追え!逃がすな!」


 後ろからはツチガニの海から抜け出した衛兵共が俺達を追ってくる。


 まったく、まさかここに戻ってくるなんて思わなかったぜ!


 城内に入り、広い正面通路ではなく、狭い通路に入り足を止めた。


「コタロウ!先に行け!俺とリンで追手を止める。オスカー達を頼むぞ!」


「御意!」


「ミナト!?君も一緒に……!」


 心配そうな表情を浮かべるオスカーに笑いかける。


「衛兵を少し足止めするだけさ!すぐに追いつく!セリシアさん、オスカーを頼みます!」


「ええ、分かっているわ。後をよろしくね」


 オスカー達は武器を持っていない。セリシアさんも魔封じの結界内では魔法も使えないだろう。それなら一刻も早く先に行ってもらったほうがいい。


 タヌ男の転移魔法「瞬間移動テレポート)」を使い、俺達は再びローザリア城にやって来た。瞬間移動テレポート)は便利だが、行ったことのある場所にしか移動できない。その転移場所は魔術研究所に通じる階段近く。既に研究所に通じる階段は崩壊していて、それ以外は特になにもない場所だ。そのせいか魔封じの結界の範囲からも外れていた。だからこそ警備も手薄だと踏んだが、睨んだ通りで転移場所として最適だった。オスカー達が着いたら再び瞬間移動で脱出する手筈になっている。


「さて!やるか、リン!」


「うん!任せて!」


 リンがフンス!と鼻息荒く気合を入れる。それと同時にツチガニの海から抜け出した衛兵達が殺到してきた。なかなかに任務に忠実な連中だ。


「侵入者を捕らえろ!」


 突き出された槍を木刀で受け流し、胴に一撃を叩き込む!


「グワッ!」


 くぐもった声を上げ倒れる衛兵。鎧が衝撃でへこんでいる。


「ただの木刀だと思うなよ?やられたい奴からかかってこい!」


 今回は手加減しない。オスカーを亡き者にしようとした連中に情は無用だ!


「ぐっ!?」


「がはっ!!」


 次々に襲ってくる衛兵をいなし続ける。俺の周囲には動けなくなり、倒れた衛兵が山になって転がっている。


「くそっ!弓だ!弓を引けい!」


 弓兵が弓を引き絞り矢を放つ。するとブロスの体が輝き、俺達の前に光のカーテンが出現する。矢はカーテンに弾かれ俺達には届かない。


「くそっ!矢が効かない!なぜだ、魔封じの結界内でなぜ魔法が使える!?」


 焦った衛兵がそう叫んだ時だった。


「魔封じの結界は文字通り魔力を封じるもの。しかし、アレは魔力ではない。おそらく別の力だ」


 衛兵の後方で声がした。それと同時に衛兵達が左右にザザッと別れ、道が出来る。


「アーサー……皇子!」


 姿を見せたのはアーサー皇子だった。くそっ!撒いたと思ったのに、もう追いつかれたのかよ!


「やはり来たか、小僧」


「どこかの馬鹿がオスカーを死罪にするとか抜かしたせいでな。助けに行くのは当然だろう?」


「クククッ、あんな座興、お前達をおびき出すための罠だとは思わなかったのか?」


「ハッ!当然、分かってたさ。罠があると分かってるなら発動させる前にぶっ潰せばいいだけの話だ。生憎だがタヌ男はここには居ないぜ?」


「構わぬ。あのような者共より、余程、興味深い存在を見つけたからな」


「何?」


「魔族でも魔物でも人でもない存在……、その力は魔王たる我にも匹敵する。「それ」に比べれば転移魔法など塵のようなものだ」


「いったい何の話だ!?「それ」ってなんだ!?」


「分からねば分からずともよい。お前達には過ぎたるもの。我が使ってやろう!」


 剣を抜いたアーサーが構える。空気が震え、その身体が闘気を帯びていく。


「ミナト!来るよ!」


 前回も感じた凄まじい威圧感に木刀を強く握り直した。








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