3話 新しいギルド
「これが新しい冒険者カードよ。ミナト君、一応確認して頂戴」
久しぶりに冒険者ギルドに呼び出された俺はギルドマスター、クローイさんから新しい冒険者カードを渡された。
「お~!金色のカードですか!」
「わ~!リンにも見せてー!」
Aランクと表示されたそれは、金で塗装されているのかキラキラ仕様だった。今までは下位ランクからずっと銀色のカードだったんだけど、このカードを見るとランクアップした実感がわいてきた。
「フフフ。それだけAランクという存在は特別だということだ!まさかこの短期間でここまで駆け上がるとはな。これでお前は俺と同じAランク。これはノースマハの冒険者、いや西セイルスの冒険者でも抜きん出た実績と言える。お前は我が冒険者ギルドの誇りだぞ!」
ルークがそう言って俺の肩叩きながら持ち上げる。
今回の昇格はスカイドラゴンとワイバーンを討伐した功績によるものだ。ドラゴンの討伐では通常なら領内に厳戒令が発令され、軍隊の出動が要請されるほどの緊急事態になる。
「スカイドラゴン現る」の報の後、領主のルカは、バーグマン軍だけではなく、アダムス伯や周辺の領主にも早馬を飛ばし、出撃の準備を整えていたらしい。
にもかかわらず、俺達がスカイドラゴンをほぼ単独で討伐したのだ。ルカをはじめ領主達は安堵したが、今度は誰がスカイドラゴンを討伐したのか、と情報収集に追われたようだ。最初から誤報だったのではないか、という噂も広まり情報も錯綜したらしい。結局、バーグマン領内に出る前に討伐された、という報せが各領主に伝えられ騒ぎも収まったんだけど。
にしてもそこまで大事になっているとは俺自身が後で聞いてびっくりした。だって、あの時のハロルドさん「じゃあ、私の代わりに討伐してきてよ!」ってまるでふつ~の任務を任せるみたいに俺に振ってきたんだぜ?
まぁ、相手はドラゴンだし、ロイも同行するほどなんだから簡単な敵じゃないだろうな、とは思ったよ。でもハロルドさんやリンを見てたらその時は不思議と「多分、何とかなる!」って思えたんだよねぇ。
でも後で皆に話を聞いたら俺達がいかにヤバい相手と戦ってたのかを教えられて、恐ろしくて足が震えたよ!ハロルドさんも、もう少しちゃんと教えといてよ、とあの時は流石にそう思ったさ!
とはいえ、あの時、何だかんだいってもあの英雄ハロルドが、俺やリンが自分の代わりを務めてドラゴンを討伐できると思ってくれたという事なんだろう。
なんて、その討伐自体も、もう一年以上前の話だ。あの当時まだBランクに飛び級でなったばかり。そんな俺がスカイドラゴンとワイバーンを討伐したのだ。クローイはすぐに冒険者ギルドの本部に連絡したらしい。ただ俺の昇格があまりに急だったのと本部の事実確認と昇格審査に時間がかかったと言っていた。
「今度ばかりは耳を疑ったわ。まさか、討伐ランクで最高クラスのスカイドラゴンを単独で倒すなんて……。私よりあなたの方がよほどこの椅子に相応しいわね、ミナト君」
そう言って自分の座る椅子の手すりに手を置くクローイ。
「そうだな。遂にお前も俺と同じ場所まで登ってきたというわけだ。お前になら俺の後釜も十分に務まるだろう」
「そうね。私はあくまでもルークの代理。もしミナト君が良ければ、いつでもこのギルドマスターの座、譲るわよ?」
「ちょっ!?勘弁してくださいよ!ルークさんもクローイさんも!俺はつい最近も新しい役職についたばかりなんですからね!俺の身体は一つなんですから、何でもかんでも出来ないですよ!」
「ハハハ、そうだった。あの学校のな。しかし、若いうちから読み書きの基礎を身に着け、自分自身の適性と将来、歩むべき道を模索できる機会を与える場が出来たということは、非常に喜ばしい。これで将来、冒険者を志願する若者達の質も上がるだろう」
「そうね。これからも期待してるわよ、ミナト君。……あ、そういえば、あなたを訪ねてきた人がいるんだったわ」
「え、俺をですか?」
「ええ、なんでも期待の新星のテイマーであるあなたに相談したい事があるみたいでね。別室に待たせているから会ってみて」
「は、はぁ……」
クローイに促され部屋を出る。というか、期待の新星って……(汗)。うーん。テイマーの俺に用事かぁ。俺に会いたいというのはどんな人なんだろう?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「君がミナト君?私はパメラ。君と同じテイマーよ!よろしくね!」
「は、はぁ。よ、よろしく」
待合室の扉を開けた途端、座っていた椅子から跳ね起きるように立ち上がり、駆け込むように近づいてきたのは、丸眼鏡をかけた背の低い二十代後半と思われる女の人。俺の手を両手でガッとつかみブンブンと振る。
「あなたの活躍は聞いてるわ!それでそれで!?君がドラゴンを討伐したってのは本当なの!?スカイドラゴンは空を飛ぶドラゴンよ!どうやって倒したの!?」
勢い込んで矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。その凄まじい勢いになかなか言葉が出てこない。
「あわわ……。ちょ、ちょっと待って……」
「武器は!?仲間は!?貴方の従魔はどんな子!?」
「だ、だから……ちょっと落ち着いて……!」
「リンがミナトの従魔だよ!ミナトとリンとロイで倒したの!」
リンがそう答えると女の人が驚いたようにリンを見る。
「えっ、キミ、言葉をしゃべれるのね!?」
「えへへ~!エリスとミナトに教わったの!それでね、ミナトと一緒にロイに乗ってバーッって上に登ってシャキーン!ってドラゴンを斬ったんだよ!」
「おお~、そうなんだぁ!キミはゴブリンなのにそんな力をもってるのね!凄いじゃない!」
そう言ってリンの頭をぐしぐしと撫でるパメラ。なんというかずいぶんと元気な人だなぁ。
「えっと、パメラさんでしたっけ?俺と同じテイマーだそうですけど……」
「ああっ!私ったらごめんなさい!私の相棒の紹介がまだだったわね!」
いや、「俺に何の用事ですか?」って聞こうとしたんですけど……。
「私の相棒、リッキーよ!……て、あ、あれ?リッキー?リッキー!?どこ~!」
パメラがババーン!と力強く紹介した先には……誰もいない。慌ててキョロキョロと辺りを見回すパメラ。
「……ここだ」
部屋の窓際。そこには腕を組み、背中に長剣を背負ったニヒルな佇まいの人物が立っていた。
「もう!私が呼んだらちゃんと出てきてくれなきゃだめじゃない!……ってことで、私の相棒、ハイオークのリッキーよ!」
ハイオークのリッキーと呼ばれたその人(?)は使い込まれた軽鎧を身につけている。オークっていうと豚のような風貌の顔立ちで二足歩行の魔物だ。ハイオークはその進化型って感じか?あ、そう見ると顔はどことなく豚に似ている気がする。でも体型はむしろスマートで動きにキレがありそうだ。
「リッキーは剣の達人でね、ものすっごく強いのよ!今まで沢山の魔物をバッタバッタと倒してきたんだから!もちろん剣士にだって負けた事はないわ!」
改めてその佇まいを見る。うん、一見壁に体を預け、ただ立っているだけに見える……。けど全く隙がない。俺も今までの戦いでそれなりに修羅場を踏んできたと思っている。多分、この場で斬り込んだとしてもかわされるか、受け流されるだろう。パメラの言葉が嘘ではない事が、その雰囲気から察せられた。
「へー!負けたことがないの!?すごいんだね!」
「ふふん、そうよ!リッキーに勝てるとしたら伝説の剣士サイードくらいかしらね!」
「……言い過ぎだ。パメラ」
へぇ、伝説の剣士かぁ。あ、リンが目をキラキラさせてリッキーを見ている。これは「闘ってみたい!」って時の目だ。これはまずい!
「あ、あの!それでパメラさん、俺に何の用事でしょうか!?」
ここで「いざ勝負!」なんてされたら堪らない。そもそも用件は何なんだ?
「あ、そうだったわ!ミナト君!私はね、今テイマーズギルドを設立しようと活動しているの!だから是非ともミナト君にも協力してもらいたいのよ!」
「へ?テイマーズギルド?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……するとパメラさんは、テイマーとその従魔が誰にも遠慮なく過ごせるギルドを立ち上げよう、としていると」
「そう!テイマーの為のテイマーズギルド!テイマーが気兼ねなく訪れる事が出来る施設!私はギルド設立の為に、名のあるテイマーを訪ねたり、色んな領地のギルドを回って協力を求めてるの!」
パメラが誇らしげに胸を張る。
「ミナト君も自分の従魔が不当な扱いを受けた経験があるでしょう?大切な仲間なのに、宿屋には一緒に泊まらせてもらえない。街の人からは「魔物」扱いされて罵倒されたり、お店からも入店を断わられることもある。だから私たちテイマーの為のギルドを作りたいの!」
確かにリンが街の人から嫌悪の目で見られたり、嫌な言葉を投げつけられた事もある。魔物だからと馬車の乗車を断わられた事もあった。
冒険者になってもテイマーは「従魔が居ると不便だから」とパーティは組みづらい。だからどうしても単独で任務をこなすことが多い。俺自身、即席パーティ以外は組んだ事がない。けどギルドにいる冒険者パーティでもテイマーが加入していることは稀だ。でもそれはテイマーが劣っているからでは決してない。人々の偏見と恐怖がテイマーを不遇職に追いやっているとも言える。
従魔だって大変な覚悟を持って契約を結んだはずだ。なのに魔物と同類に見られ蔑まれる事も多い。従魔は大切な相棒なのに肩身の狭い思いをしているテイマーも多いはず。
なら、彼女の言う通りテイマーが気軽に訪れる場所があってもいいじゃないか。うん、そうだ。絶対にあるべきだ!
「素晴らしい考えですパメラさん!俺もテイマーとして賛同します!是非テイマーズギルドを作りましょう!」
「協力してくれるの!?ミナト君!」
「はい!俺もテイマーや従魔への領民の理解には頭を悩ませていたんです。テイマーズギルドを設立して、領民の従魔への理解と地位向上をはかりましょう!」
「うん!ありがとう!」
満面の笑顔で再び俺の手をガッチリと掴み、喜びをあらわにするパメラ。
そうだよ!テイマーが肩身の狭い思いをしないようにするには呼びかけるだけじゃダメだ。テイマーとして俺も行動しなきゃだよ!バーグマン領は領主ルカがテイマーでもあり、従魔への理解は他の領主に比べて深い。でもそんな場所でもまだ従魔に対する偏見はないとは言えない。そんな風潮を打破する一手としてギルド設立は悪い手ではないんじゃないか?と思ったのだ。
「テイマー為のギルドか……発想は面白いが現実問題としてなかなか難しいな」
そう口を挟んで来たのは待合室にやってきたルークだ。
「なぜですか?ルークさん」
「まず、資金面だ。テイマーに絞ったギルドというのはそもそも需要がない。テイマーは剣士や術士、薬師といった冒険者パーティの中でもかなり少数派だ。剣士のみのギルドや術士のみといったギルドはない。現状で全て冒険者として一括りにされ、冒険者ギルドで管理されている。メジャーな剣士や術士のギルドがないのにテイマーのギルドが各地にあっても利用される事が極めて少ないだろう」
ルークの意見にクローイも頷く。
「それにギルドには業務を行うための建物が必要だし、敷地もいるわ。テイマーのギルドなら従魔を安全に収容するための大型施設もね。そして何より大切なのはルークも言ったように運転資金よ。ギルドを経営するには人が要る。その人件費、そして施設にも維持費がかかる。冒険者ギルドの主な収入は依頼人からの報酬の一部を徴収したもの。テイマーだけのギルドにわざわざ依頼をする人間はそう居ないでしょう。ギルドを作っても経営は恐らく成り立たないわね。そこまで見通しが立っているのかしら」
「そ、それは……」
パメラが口ごもってしまった。
「お前がテイマーや従魔の地位向上の為に動いているのは分かった。しかし、ギルドは継続性が何より大切なのだ。立派なギルドを作っても数年で廃業となれば評判は逆に落ちる。テイマーズギルドは成功しない。他のギルドマスターにもそう言われたはずだ。違うか?」
ルークやクローイの言い方はきついけど、彼女を真摯に思いやっての言葉なのだろう。二人の気持ちが伝わってくる。
「ギルドマスターとして、私もテイマーの生きづらさはわかっているつもりよ。でも確実に上手くいかない事業に協力するわけにはいかないわね」
「そんな事、……そんな事は私だって分かってる!でも、……でも私は従魔がこれ以上つらい思いをしてもらいたくない!リッキーは私の大切な相棒なの!なのにどうして一緒にお店に入れないの!?どうして一緒に宿屋に泊まっちゃいけないの!?どうして他の人間にリッキーが罵倒されなきゃいけないの!?私はリッキーをちゃんとした仲間として見てほしいだけなのに!テイマーのギルドがあれば従魔は差別されない。私はテイマーと従魔が誰の目も気にすることなく過ごせる施設を作りたいだけなの!」
今まで抑えていた感情が溢れたのか、涙声になるパメラ。彼女もテイマーだ。俺とリンが受けた理不尽を彼女も体験しているはず。しかもリッキーはオークだ。その容姿からつらい体験をしているのかもしれない。
俺には彼女の気持ちは痛いほど分かった。
「……もういい、パメラ。行くぞ」
「でも、リッキー!私は……!」
「お前のその気持ちだけで十分だ。俺は誰に何を言われようと構わん。俺は何があってもお前を守る」
「リッキー……!」
「邪魔したな。パメラ、次の街へ行くぞ」
「う、うん」
「ちょっと待って!まだ話は終わってないよ、ふたりとも!次の街へ行く前に是非会ってほしい人がいるんだ!」
俺は去ろうとする二人を引き止めた。
「私達に会わせたい人?」
「ああ。だから今からそこへ行こう!結論はそのあとでもいいんじゃないかな?」
顔を見合わせたパメラとリッキー。そんな二人を連れだし俺は冒険者ギルドを出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
双子山に戻った俺達はヌシ様に事の経緯を話した。パメラはヌシ様を見て「あなたのような魔物は見たことがないわ!どうして人の言葉を覚えたの!?」と質問を浴びせたり、ホーングリフォンのロイに驚いたり、感動したり、更に居合わせたタヌ男を抱きしめて大喜びしてリッキーにたしなめられたりと興奮しっぱなしだった。
「素晴らしい!ここはなんて素晴らしい所なの!?会話ができる従魔がこんなにも沢山いるなんて!!」
ヌシ様達を前にテンションマックスのパメラ。何とか落ち着つきを取り戻したあと、冒険者ギルドでの出来事を話した。
「ほっほっほ。なるほどのぉ。テイマーと従魔の為のギルドか。確かにそれがあれば従魔は安心して過ごせるのう」
「そうでしょ?あなたもそう思うわよね!」
「……テイマーズギルド……それ良い。絶対に作ろう、ミナト」
ヌシ様の話に入ってきたのはタヌ男と一緒にヌシ様の話を聞いていたラナだ。
「……テイマーが従えている従魔はもう魔物じゃない。でも街の人は魔物扱いする。それでも見た目がいい従魔はまだマシ。テイマーの中にはそれが嫌で従魔を放り出す奴がいる」
「えーっ、そんなのがいるのかい?」
「……いる。今の従魔より強そうだからとか、戦いで怪我を負って役に立たなくなったから、とか勝手な理由で従魔を捨てたり、売り飛ばしたり。そんな従魔の最後はたいてい悲惨。従魔に罪はないのに」
「確かにラナの言う通りじゃ。テイマーの中にはそういう不届きな連中がおるのは確かでな。テイマーになるからには覚悟がいる。自分の相棒たる従魔も守れん、そんな奴等にはテイマーを名乗ってもらいたくはないものよ」
確かに、俺だってリンと別れるなんて想像がつかない。ヌシ様も「テイマーなら従魔を大切にせよ」っていつも言ってるしな。
「実はなミナト、ラナはそういう不幸な従魔を引き取り、この双子山で世話をしとるんじゃよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「気づかんかったか?この一年、ラナは捨てられたり、傷ついたりした従魔をこの双子山へ連れてきて世話をしたり看病したりしとるんじゃよ。なかなかの飼育員っぷりじゃぞ?」
「じゃあ、この山にはそんな従魔が沢山いるの!?」
パメラが驚き尋ねた。
「……うん。今は15いる。ほら、あそこ」
ラナが指差す先、大木の陰からこちらを窺う気配がした。てか、あの図体とシルエットは……。
「あれはキラーグリズリーじゃん!?あれ、ラナの従魔なのか!?」
「……そう。この子は最近、森をパトロールしてたら罠にかかってた。足を怪我してたから治療して世話したら懐いた」
のっそりと姿を現したキラーグリズリーは、ラナの隣に腰を下ろす。ひぇ~、キラーグリズリーはCクラス昇格試験のターゲットだぞ?そんなのを一人で手懐けたのかよ!
「ほっほっほ。ラナにはテイマーの能力はもとより、調教師の才もあるようじゃ。それでな、ラナにはやりたいことがあるんじゃよ。のぉ、ラナ?」
「……うん。この双子山に保護した従魔を住まわせたい。人間の診療所はもうあるから、従魔の療養施設を作りたい。それで傷ついた従魔を治療する。従魔が安心して暮らせる山にしたいんだ」
「そうかぁ。双子山を従魔の山にね……。いいじゃないか!ヌシ様はどう思いますか?」
「ワシは別に構わんよ?もともとここは従魔の為の山じゃしの」
「あぁ、そう言われれば。元はハロルドさんの従魔が住んでましたしね」
そっか。エリスも子供の頃からこの山に来てはコー君達と遊んでたんだしな。それにラナがやりたいならそれを応援するのもいいかも。
「ミナト。もしお主が協力したいというならワシは止めはせんよ。やりたいようにやってみるが良い」
「我も特に構わん。もし我にちょっかいをかけてくるならきちんと教育を施してやるだけだ」
ロイも特に異存はないようだ。まぁ、ロイに勝てる従魔がそうそう居るわけないしな。
「パメラさん。ルークさん達の言うようにいきなりギルドを設立するのは確かに厳しいと思います。だから、まずはテイマーの為のサロンを作ってみませんか?」
「サロン?っていうとテイマーの為の社交場?」
「そうです。山にギルドの様な建物を建てて、山では従魔が自由に過ごせるようにするんです。この山なら従魔ものびのび過ごせますよ」
「……あとは従魔の為の診療所が欲しい。それと食料庫とか、雨を凌げる場所とか」
「お~、そうだね!あとね、リンは運動が出来る場所があるといいと思う!ケガしたら、治すのにりはびり?とか必要だってケイトが言ってた!」
「いいね!それ採用だよ、リン!」
「本当に、本当にそんなサロンを作る気なの?ミナト君。でもそのお金は……?」
「大丈夫です。こういう時は……」
「私の出番ですね!」
「きゃあっ!?だ、誰!?」
突然現れた男に驚き、思わずリッキーに抱きつくパメラ。
「これは申し遅れました。私、ミナトさんの専属商人でツインズ商会のコンラッドと申します!どうぞよしなに」
現れたのはコンラッドだ。彼は一年前の事件のあと、俺達を追うようにバーグマン領に戻ってきた。俺達が6日かけた行程をなんと4日で。あの混乱の中、情報収集しつつ相変わらず馬鹿でかい荷物を背負ってだ。
「サロン設立はこのコンラッドにお任せを!さっそく資金の調達を始めますね。ミナトさんは計画の立案をお願いします。それでは!」
言うが早いが、走り出すコンラッド。瞬く間にその姿が見えなくなった。
「じゃあ、こちらも必要な施設の計画を立てましょうか!パメラさんも協力、お願いしますよ」
「う、うん」
なんだか狐につままれたような表情でそう頷くパメラだった。




