表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/236

13話 終戦と熱狂


「兄さん、南の検問所の方が騒がしいけど、あれは賊を退治できたという事?」


 オスカーは俺の質問に少し考えた後、こう言った。


「うん、そうだね。これで検問所の賊が一掃されたから、これから村人たちは村長の屋敷に問い詰めに行くと思う。この事態はどういう事なのかって。今回の首謀者はヴィランでほぼ間違いないからね」


 オスカーの言う通り、物見櫓から眺めていると松明の明かりが北の屋敷を目指していくのが見えた。


 中央の通りでも松明や武器を持った村人たちが、次々と屋敷に向かうのが見える。


 と、南の検問所の方から櫓へ近づいてくる人影が見えた……母さんだ!


「オスカー君、トーマ君!リンリン!」


「母さん!」


「検問所の盗賊は片づけたわ。みんな無事よ!これからみんなは村長の家へ向かって、ヴィランを取り押さえるそうよ。これで村はヴィランの圧政から解放されるかもしれない……!私たちも屋敷へ向かいましょう!」


 なんだかここに来て、事態が急に動き出した。俺がこの村に来てからわずか一日、パナケイアさんの薬によって母さんの病気が治りそして、母さんの魔法が戻ってきた。それから山賊どもの一部を倒し、今、ヴィランを捕まえに行く。村人たちが立ち上がってくれたのも大きい。


「みんな、この村をアイツ等から取り返したかったんだ」


 オスカーがうれしそうにつぶやく


「ここが正念場ね。ヴィランには責任をとらせなくちゃ」


 俺たちは決意を新たに屋敷へ向かう。


 昼間、俺たちにやり込められた事で、頭に血が昇ったヴィランは即座に仕返しをしようと、山賊達を使って襲撃してきた。浅はかにも、俺たちを守るであろうグラントさんを引き離そうとして、検問所を襲わせ火事を起こしたのだ。


 山賊達は村から南にある廃鉱山を根城にしている。そこからの増援がなかった事から今回の件はヴィランの急な思いつきで、計画性のない行動だった事が分かる。しかしその騒動を起こしてくれた事で、村人の気持ちが一つになれた。


 俺が逃がしてしまったザカリーも、ヴィランの屋敷へ向かったはず。鉱山は反対方向だ。なぜ南に向かわずにヴィランの屋敷へむかったのだろうか。まさかヴィランを人質にでもしようというのか?


「いたか?」「こっちにもいないぞ」「ヴィラン!どこにいる」


 俺たちが屋敷にたどり着いた時、すでに屋敷の前には大勢の村人たちの姿があった。松明を持った人が多数いるので夜間でも明るい。どうやらヴィランがまだ見つからないらしい。そのなかにはグラントさんの姿もあった。


「グラントさん!」


「おお、話はエリスから聞いたぞ、大変だったな。お前たち、怪我はなかったか?」


「はい。グラントさんも無事みたいで、良かったです」


「実はヴィランのやつが屋敷にいないんだ……屋敷の中は全て調べた。そのその最中にヴィランの父親のイーデンが地下室で軟禁されていたのが見つかった」


「え、父親を軟禁していたんですか?」


「イーデンはヴィランの父親であり前村長だ。しかし数年前、病気により引退とヴィランが公言していたんだ。まさか父親を軟禁して地位を強奪していたとはな……絶対に許せん」


「グータ……んじゃなかったグラント、アニーは無事だった?」


 母さんがグラントさんに心配そうに尋ねた。人前では愛称で呼ばないように気をつけているみたいだけど、母さんなら、うっかり言ってそうだな……。


「ああ、屋敷の使用人たちやアニーもヴィランの仲間ではない者は、他の家に移動して休んでもらっている。詳しい状況などは追って聞くことになるが、ひとまず安心してくれ」


「ああ良かった!でもヴィラン、逃げ足だけは早い男ね。復活した私の魔法の餌食にしてやろうと思ったのに!」


「そうだな、俺も早くアゼルさんの仇を取りたい」


 グラントさんはこぶしを握り締めてそうつぶやいた。その言葉を聞いてアゼルさんの事を考えたのだろうか、母さんはふと悲しそうな表情をした。


 そういえば、俺の逃がした山賊はどうしただろう


「屋敷の中に、酷い怪我を負ったあご髭の男はいましたか?一人賊を逃がしてしまったんです。ヴィランの屋敷の方に向かったから、てっきりここに逃げ込んでいると思ったのですが」


「いや、そんな男はいなかったな。だが、そんなに怪我が酷いなら、ヴィランと一緒に逃げられないんじゃないか。ヴィランは味方でも自分の為にならない者は平気で捨てていくやつだぞ」


 確かにあの怪我では、ヴィランについて行く事すらできなさそうだった。


「オスカー、トーマ。物見櫓からは何か見えなかったか?」


 と、グラントさんは俺たちに尋ねた。


「俺は、上から見ていましたが、何も……あ、リンが、川の方で布がついた物が動いている、と言っていたような……」


 村人がたくさんいるので、目立たないように俺の服の中に隠れていたリンがうんうんと頷く


「川の方で……?布が?」


 グラントさんは腕組みをしながらしばし考えていた。その時オスカーが顔をパッと上げて言った。


「グラントさん、川で布がついた物って、それってもしかしたら船の帆の事じゃないですか?」


「船の帆……!そうだ、船だ!おい、みんな!屋敷の近くの船着き場に村長の緊急用の船が停まっているか、確認してくれ!ヴィランはそれで逃げたかもしれん」


 その後、船着き場の様子を見に行った若者の報告で、繋いであった緊急船が無くなっていたという事が判明した。船ならば歩かなくてもいい。もしかしたら、ザカリーも一緒に船で逃げた可能性もあるな。


「どうします?追いますか?」


「いや、追わなくていい」


 若者の問いかけにグラントさんは首を振る


「夜は危険だ。魔物が徘徊しているかもしれん。それに村長の船は緊急用の小型船だが、村の船の中では一番の速度が出る。他の船では追いつけまい」


「では、どうしましょうか?」


「うむ。もうすぐ夜が明ける。明るくなったら村の状況を確かめよう。元警備隊や若い連中に協力してもらって山賊の残党がいないか確認してくれ。それが終わったらここに、村の皆を集めるように伝えてほしい」


 分かりました!と言い、若者は村人たちに伝達するため走り去っていった。


 村長宅にヴィランも山賊達もいないと分かり、村中の張りつめた空気も徐々に和らいでいった。その後しばらく残党の捜索などが行われたが、村に残っていた山賊は見つけられなかった。


 これ以上の成果はない。と判断したグラントは今日の事件を村の全員に報告することにし、捜索の打ち切りを宣言した。


 集合の合図と共に村人たちが村長の屋敷前に集まってきた。

 

 

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 「皆さん、今日は朝から集まっていただき感謝します。昨夜の襲撃事件について隊長のグラントより報告させてもらいます。隊長!」


 昨夜、グラントさんと一緒に行動していた若者が声を上げる。村人たちの前にグラントさんが進み出る。村人が集まったのを確認したグラントさんが報告をはじめた。


「みんな、もう知っていると思うが、昨晩、南の検問所とエリスの家が山賊に襲われた。襲撃してきた人数は二か所合わせて十人。だが、我々はその撃退に成功した!」


 グラントさんの力強い口調に、村人たちから歓声がおこった。その声が収まると、再びグラントさんが話し始める。


「今回の襲撃の首謀者は、村長のヴィランとみて間違いない。彼は村長という村をまとめ、村を守るという己の使命を忘れ、あろうことか山賊団と手を結び、今まで村人を苦しめ続けてきた。今回も己の自尊心を守るだけの為に検問所を襲い火を放ち、エリスの家を襲った。子供と女性の家をだ。これは村長の取るべき行動ではない。最早、ヴィランには村長である資格はないのだ!」


「そうだ!そうだ!」「ヴィランを追い出せ!」「あんなやつは村長じゃない!」


 村人たちが口々に同意し、こぶしを突き上げる。


「本来ならヴィランを縛り上げ、責任を追及するところだが、ヴィランはこの村から逃げだした。逃げた先はネノ鉱山の山賊達の根城だろう。我々は今回、山賊共を追い出すことができた。しかし、村人たちの中にはヴィランが、このまま大人しく引っ込んではいないと考える者もいるだろう。まだ山賊達が全滅したわけじゃない、ヴィランに加勢した山賊団が攻めてきたらどうするんだ、と思う者もいると思う」


 そう言うと会話を切り、村人たちをゆっくりと見回す。村人たちは興奮が静まり、互いに顔を見合わせていた。どうするんだ!グラント!という声も飛んできた。


 不安そうになる村人たちを見て、グラントさんは力強く笑みを浮かべた。


「だが、皆安心して欲しい。我々には今日、大きな戦力が帰ってきた!それは……」


 そこで一呼吸いれた。村人たちの期待に満ちた眼差し。そして再び口をひらいた。


「エリスだ!暴風のエリスが魔法と共に復活したんだ!」


 村人たちからどよめきと歓声がおこった。


「昨夜の山賊の襲撃もエリスの魔法がなければ、我々は苦戦を強いられたはずだ。だが風の女神が復活した事で、我々は大きなアドバンテージを得たのだ!エリス、こちらへ」


 グラントさんにうながされて、エリスさんは皆の前に立ち、そして村人に語りかけた。


「今、グラントから説明がありました。私、エリスは五年ぶりに魔法が復活しました!実は私の魔法は五年前から、何者かに封じられていました。いえ、推察するにヴィランの手の者によって封じられていたのだと考えられます」


 村人たちからやっぱり、そうだったのかと声がもれた。


「今回、私の魔法が戻って来たのは、私の息子トーマがある薬を手に入れ、持ち帰ってきてくれたからです。彼の活躍なくして私の魔法は復活しませんでした。まずは彼に感謝したいと思います」


 その言葉と共にまわりの皆から声援と拍手を受けた。「頑張ったな!」「一人でよくやった」と肩をたたかれた。薬を持ち帰ることができたのは、トーマやパナケイアさん、そしてリンの力添えがあったからだ。俺だけの頑張りじゃないんだけど、皆の賞賛に照れ笑いするしかなかった。


「山賊は一人一人はおそるるに足りません。残っている山賊団は、団長のアンガスも含め二十人程度、そしてその団長アンガスも力は強いものの、魔法の知識は乏しいと記憶しています。ですから村の人々が団結さえすれば、私たちが負けることはありません。皆さん今こそ立ち上がる時が来たのです!この村を、平和で穏やかだったミサーク村を!わたしたちの手で取り戻そうではありませんか!」


 エリスさんの演説に村人たちは興奮し、ひときわ大きい歓声と拍手で応える。


「エリスの言う通り、我々は山賊団に立ち向かう力がある!この戦いで勝利をおさめ、ミサーク村をヴィランと山賊達の支配から取り戻そう!」


 グラントさんが叫ぶ。


 おおー!と歓声が上がり


「山賊どもに村をこれ以上支配させない!」


「やろう!戦おう!平和なミサーク村を取り戻そう!」


 自分たちで山賊を追い払えた事、そしてグラントさんやエリスさんの演説が、村人たちを熱狂のうずに巻き込んだ。興奮冷めやらぬ歓声が山あいの村に何度もこだましたのだった。


 


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 


「さすがに……疲れたぁ」

 

 俺は昼過ぎに、ようやっとベッドに倒れ込んだ。隣ではリンがスース―と寝息を立てている。俺たちの家は山賊の襲撃による惨状がまだそのままだったため、村長の家をしばらく借りる事になった。さすが村長の家のベッドは立派だ。


 ヴィランと山賊達の襲撃事件は、俺たちの勝利で決着した。今回の出来事によって、ヴィラン達の圧政に苦しめられていた村人たちの中に、ヴィラン達を恐れなくても良いという、希望が生まれた気がする。そして希望が見えた事で村人たちが団結し、村を取り戻す一歩を踏み出せたのなら、こんなにうれしい事はない。


 俺もミサーク村を取り戻す為に、何かできないかな……?でも、スキルも魔法も全然使いこなせてないんだよな……。それをこれから何とかできないだろうか?せっかく転生したんだから、今度こそ……うん、今度こそ……!


 そんな事を考えながら、俺はいつしか深い眠りに落ちていた







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ