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28話 謎の支援者



ローザリアにあるフリール商会に着いた俺達は、コンラッドに一般的な商品が置かれている店舗とはまた別にある建物に案内された。こちらは、先程の店舗とは違い、入口に立派な門があり、警備員も立っている。門がゆっくりと開くとまるで貴族の屋敷のような豪奢な造りの建物が姿をあらわした。


 一般向けのお店は沢山の商品が整然と並べられていたけど、こっちは一つ一つの品が目立つよう、余裕を持ったスペースで陳列されてる。じっくり商品を品定めできるような配慮か、内装も落ち着いた感じで、豪奢というより落ち着いて鑑賞できるような……。なんだかまるで芸術品を集めた美術館にでも来た気分だ。


「ねえねえ、サード、すごいね!高そうなキラキラした物がいっぱいあるよ!あ、あのツボきれいな絵が描いてある!あの首飾りなんてエリスに似合いそうじゃない?あ、あれはリン知ってるよ、あの服ドレスって言うんでしょ?前にエリスが着てたよね~!」


「あ、うん、そうだね(確かに綺麗だけど値段がなぁ……。えっ?付与効果もないのに金貨200枚!?……うーん、確かに品質は文句なさそうだけど、社交界で渡り合うお貴族様用だよなぁ……。俺には無理無理!)」


 と、財布の紐と相談するまでもない俺達の背後から、落ち着いたバリトンボイスが聞こえた。


「サード様でございますね?ようこそフリール商会へ。歓迎致します。主人がお待ちでございます。さぁ、こちらに」 

  

 振り返るとスーツを着用し、白手袋をつけた上品な出で立ちの店員が俺達に丁寧に頭を下げている。

 

 わ、わお。この美術館みたいな店に相応しい雰囲気の店員さんだな~。その人の案内で俺達はさらに店の奥へと向かう。


「こちらになります」


 店員が支配人室と記された扉を開けると、壮年の男性がにこやかに俺達を出迎えた。


「サードさんですね?遠路はるばるローザリアへよくいらっしゃいました。わたくしはフリール商会ローザリア本店の経営を任せられておりますオーガストと申します。今後ともよしなに」


 支配人室で待っていたのはこの店舗の総支配人のオーガスト。年は50位だろうか、長身で黒縁の眼鏡をかけている。第一印象は、『やり手の経営者』といった感じだ。目力と纏うオーラが「こやつ、できる!」感を漂わせている。


 丁重な挨拶と動作にも覇気のようなものが感じられるな。なんとなくだが、内に秘める気がビアトリスやベルドと似たような印象だ。


「えっと、サードです。今日からお世話になります。今は理由があってサードと名乗っていますが……」


「ええ、総帥よりうけたまわっております。そして貴方様のお噂もかねがね伺っておりますよ。何でもバーグマン家を救った英雄だとか。我が不肖の息子が世話になっておりまして、感謝の言葉もございません」


「いや英雄とか言われるとこそばゆいんですけど……。て、え?息子?てことはオーガストさんて、コンラッドさんのお父さんなんですか!?ひょっとしてビアトリスさんの息子さん?」


 思わずコンラッドを見る。うん、確かにオーガストさんって顔立ちがビアトリスさんに似てる気がする。


「ええ、そうなんですよ。父は祖母よりセイルス王国内でのフリール商会の流通を一手に任されているんです。商会の中では総帥そうすいに次ぐナンバー2といったところですね」


「へ~、すごい人なんですね!」


「いやいや、とんでもございません。サードさんこそバーグマン領再建の立役者たてやくしゃであると伺っております。ネノ鉱山から産出さんしゅつする魔鉄の評判はここローザリアにも届いておりますよ。しかも、近々ミスリル鉱山も操業を開始される運びとか。我がフリール商会も関わらせていただき有難うございます」


「いえ、こちらも助かってます。……ところでオーガストさん、俺達が王都に来た理由わけって聞いていますか?」


「もちろんです。我々はサードさんの目的達成の為、お手伝いをするよう総帥より承っておりますので。期間中はこのフリール商会を拠点として、ご自由にお使い下さい」


「ありがとうございます!それで早速ですが、俺の部下を先にローザリアに向かわせていたのですが、その者からの連絡がここにきていますか?」


 速やかにエリスを救出するなら隠密行動でたどり着き、誰にも気づかれずにさっと救出するのがベストだ。その為に必要なのは城内やその周辺の情報だ。かつてシャサイと戦った時は、アニーとププがそれを担ってくれて、シャサイを倒すための情報が集まった。今回はセイルス王が住まう王城だ。難易度はあの時の比じゃあない。うっかり見つかれば俺達も無事では済まないだろうな。


「もちろんです。何度もいらっしゃってますよ。作戦の情報収集に関しては、我がフリール商会が拠点になっております。ご安心ください」


「フリール商会がですか?でも必要なのは王城の構造だとか、エリスの居場所とか、おおやけにばれるとやばい情報なんですけどそこまで関わってもらっても大丈夫なんですか?」


 オーガストは息子のコンラッドと同じくにっこりと、何とも安心できる笑顔で頷いた。


「……と、ちょうど戻られたようですね」


 ん?眼の前が急に揺らめいた……?と思った瞬間、眼の前に忍装束しのびしょうぞくを身にまとった男が片膝かたひざをついていた。


「ミナト様、お待ちしておりました」


「あっ、コタロウ!?コタロウじゃないか!?良かった。無事にローザリアに着いていたんだな!」


「はっ、ビアトリス様のご配慮により、フリール商会を拠点に活動しておりました」


 現れたのはコタロウだった。俺がエリス達を助けに行くと決まった日、作戦遂行のために必要な情報を先行して集めるよう彼に頼んだのだ。今はサードと名乗っているのでそう呼んで欲しいと伝え、進捗状況を尋ねる。


 コタロウの話によると、このフリール商会を拠点にローザリア城及び街の中の情報を集め、その情報の精査をオーガストと共にしていたらしい。


「それでエリス達の居所は掴めたのか?」 


「はっ。おおよその当たりはつけてございます。城内の地形はあらかた把握致しました。侵入ルート及び退避ルートの確認をサード様にお願いしたく……」


「おぉ~!すごいな!この短期間でもうそこまでやってくれてるのか!」


此度こたびそれがしども耳目衆じもくしゅうの失態より生じたもの。命に換えても成功させ汚名をすすぐ覚悟にて!」


「いや、俺にも油断はあった。コタロウのせいじゃないさ。君達が集めてくれる情報があれば作戦の成功率が上がるんだ。大変だろうけど頑張ってくれ」


「ははっ!実はそれについて伝えるべき事が……。城内を探っていた時なのですが、その最中、奇妙な出来事がありまして……」


「奇妙な事?」


「はっ、配下の一人が王城に潜入した時なのですが……」


 そう言ってコタロウは事の顛末を話し始めた。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 ……場面は変わって西セイルス。ミナト達がローザリアでコタロウと再会していた頃、アダムス辺境伯は管轄する西セイルスの領主達を自らの領地であるワイダ城に招集していた。


 招集の名目は「バーグマン領にて稼働を開始するミスリル鉱山から産出するミスリル及び、魔鉄に関する流通の協定締結きょうていていけつ」だ。


 バーグマン領で採掘された魔鉄やミスリルは非常に価値の高い軍事物資である。それをバーグマン家からアダムス家が買上げ、割安で西セイルス領内に流通させる。それにより全体の取引を活発化させ、西セイルスを栄えさせよう、という趣旨しゅしだ。


 ただでさえ貴重な魔鉄やミスリルが市場より安く確実に手に入るのであれば、西セイルスの領主達に不満がでるはずがない。更に外敵の侵入時にはアダムス辺境伯が中心となり、西セイルスが一致団結し事に当たる事も合わせて確認された。


 その後、領主達との会談も大きなトラブルもなく協定は無事締結され、調印式はつつがなく終了したのだった。


 ……そしてその翌日、双子山のミナトの屋敷にはヌシ様とアダムス辺境伯、そして会談に参加していたルカとトーマの四人が集まり、会談の結果をヌシ様に報告した。


「協定は無事締結されたか。まずは重畳じゃチェスター、ほっほっほ」


 そう言ってヌシ様が協定をまとめたアダムス伯をねぎらった。


「ああ。魔鉄やミスリルは貴重な鉱物。どこの領主も喉から手が出るほど欲しい物資だからな。西セイルスの結束を意図したものだが、思ったより効果があった。これもルカ殿の協力があってこそだ。感謝するぞ、ルカ殿」


「いえ。もし何らかの危機が我がバーグマン領に迫った時、アダムス軍に助けてもらえるならこれほど心強い事はありませんから」


「うむ。そしてトーマもご苦労だった。領主達は皆、お前がミナトだと認識したようだ。ミナトの演技、見事であったぞ」


「別に俺は大したことはしてねーよ。言われた通り、あんたの問いかけにひたすら「ははっ!」って言って頭を下げてただけじゃんか」


 トーマはルカに同行し、領主達の会談に参加した。ミスリル鉱山発見の立役者として、トーマをミナトとして紹介したのだ。アダムス伯から直々にお褒めの言葉を賜り、注目を集めたのだった。その間、トーマはただ頭を下げていただけだ。


「いやいや、トーマ。私はいつボロが出ないかと、内心ヒヤヒヤものだったのだからな」


 ルカも肩の荷が下りたと、ホッとしたように笑った。


「ちぇっ、俺ってそんなに信用ないのかよっ!」


「ほっほっほ、トーマよ、そう拗ねるでないぞ。一応公式の場である以上、臣下の礼というものは必要じゃからな」


「俺だってそれくらいできるっつーの!」


 そんなトーマを見てルカが苦笑を浮かべる。


「そうは言うが、会談後のオーサム男爵とのお前の会話は胆が冷えたぞ。相手はまがりなりにも爵位を持つ貴族だ。それに対しても全く敬語を使わないで話してただろう?少し自分の立場を考えた発言をしてくれると助かるのだが……。向こうが「政務官といえどやはり中身は次男ギースと同じ冒険者だな」と言ってくれたから良かったが、危うく疑われるところだったぞ?」


「ミナトみたいにオタオタしてるのもどうかと思うけどな!まぁ、でも本当にヤバイ奴の前ではちゃんとしてるんだぜ?」


「……はぁ、ミナトそっくりなのは外見だけだな。この自由さは、さすが叔母上の子と言ったところか……」


 全く反省した様子のないトーマに頭を抱えるルカ。ただ普段は天界で過ごしているトーマにしてみれば、女神に比べれば例え貴族といえど、それは沢山いる地上の人間の一人に過ぎない。『女神の従者』という立場もあり、下手にへりくだるな、とある人物からも命令されていた。


 そんな事情を知らないアダムス伯がトーマをみて、過去の自分と重ね合わせたのか楽しげに話しかける。


「ははは、しかしお前の胆の座り方は実にたいしたものだ。将来が実に楽しみだな。……まぁ、とにかく、これで「ミナトは西セイルスに居た」というアリバイ作りができたのだ。もし万が一ミナトが王宮から指名手配されたとしても、西セイルスの領主達は信じまい。更に今回の協定により外敵が侵入した際、我がアダムス軍は西セイルス領内であれば、どこにでも展開できるようになった。不測の事態に即応できる事は被害を最小に留める事にも繋がるからな。後はミナト達次第だが……」


「なぁに、ミナトはもはや一介の冒険者などではないわい。リンにしてもそうじゃ。のぉ、トーマ?」


 ヌシ様がトーマに水を向ける。


「そうだな。ミナト達にはちゃんと母さんを助けてくれなきゃこっちが困るし。あいつならやってくれるはずさ。……それでこれから俺はどうしてたらいい?他に何かすることはあるのか?」


「そうじゃな。ミナト達が戻るまでは病気と偽って、誰とも面会をしないようにすればよいじゃろう。政務官の仕事はシンアンに任せておけば大丈夫じゃ。退屈じゃろうがのんびり過ごすとよい。双子山くらいなら外出しても問題ないぞ」


「そうか、久しぶりにミサーク村の様子も見たかったけど、大人しくしておくよ。地上も久しぶりだから何でも懐かしいからな、退屈はしないさ。そうだ、ミナト以外のメンバーの不在は大丈夫なのか?」


「ラナ達は普段から日中は双子山で過ごしているし問題ない。必要であれば幻術でいるように見せれば済むことじゃしの。エリスは用事で数日は戻らないということにしている」


「バーグマン軍の魔術隊もだいぶ成長してきている。最近では教官役の叔母上がおらずとも自分達で鍛錬するように指示されているしな」


「うむ。あとはミナト達が無事に帰還するのを待つだけじゃ。何かあれば後始末は頼むぞチェスター」


「任せろ。それくらいはやらせてもらう。大義名分も立ったことだしな」


 そう言うと誰とはなしに王都の方角を見る。


『無事に帰ってこいよ。ミナト、リン!』


 言葉には出さなくとも願う想いは皆同じだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 

 俺達が囲むテーブルの上には、王城の構造が記された詳細な図面がある。大まかな図ではない。驚くべき事にトップシークレットと思われる王の寝室や宝物庫の位置までしっかりと書き込まれていたのだ。これさえあれば迷うことなく目的地まで一直線にたどり着けるだろう。


 何故こんな重要品を俺達がもっているのかといえば……。


「うーん。わざわざ敵である俺達に王城の図面を渡した人物がいる、ってことか……」


「はっ。それがしにもよく分からぬのですが、配下の一人が情報収集のため、城のある部屋で気配を消し、忍んでいたところ、突然念話が聞こえてきたそうなのです。『あなたの欲しているものは本棚の上から三段目、右から五冊目にはさんであるわ。あなた達の尋ね人は地下にいる。もう時間がない。それを上手に活かして頂戴ね』と。そしてその念話の通り本棚を調べるとこれがあったと……」


 普段とは違い、なんとも歯切れが悪くコタロウが答える。どうやら相手は、俺達を侵入者と分かった上で図面を渡したようだった。


「う~む、まさに狐につままれたような話だなぁ。その人はなんで敵である俺達にわざわざ情報を漏らすような真似をしたんだろう?」


「罠である可能性は捨てきれませぬ。しかし、この図は非常に精密で正確です。そしてこの印がついているこの場所……。それがしが直に調べたところ、そこは確かに地下牢でありました」


「じゃあ、ここにエリスが閉じ込められてるってことか!?」


「おそらくは。ただ罠である事も考慮する必要もあります。もし、ここを目標にして侵入すれば、衛兵に見つかる可能性は極めて高い。しかし、これが罠でエリス様が別の牢に入れられていた場合、救出が非常に困難になります」


「う~ん、罠か真実か……」


 俺もコタロウも判断がつきかねた。これが偽りなら俺達は、敵が手ぐすねひいて待ち受ける死地に自ら飛び込む事になる。気になるのは念話にあった「もう時間がない」という言葉。明日でエリス達がさらわれてから10日目だ。その言葉通りならエリス達に危機が迫っているのかもしれない。


 くそっ!どうすりゃいいんだ!


「サードさん、僕に任せてください!僕が師匠から教わったスキルでエリスさん達の位置を探り出します!」


 名乗りをあげたのはライだった。


「ライがかい?でもどうやって?」


「これを使います」


 そう言ってライは自分がつけていたタヌ男がデザインされたペンダントを外し手に持った。たしかラナとタヌ男もお揃いでつけていたはずだ。


「このペンダントを使い、師匠の位置を探ります。「共鳴」っていうスキルで同じペンダントを身に着けている者の場所が感じ取れるんです」


 ライの話では「共鳴」はタヌ男が編み出したスキルの一つで、製作物の位置を探り出すスキル。手に製作物をもち、スキルを発動させると、同一作者の製作物が反応し共鳴する。そしてデザインが近いものであればあるほど感じ取りやすくなる。さらに地図と連動させることも出来るらしい。ライかラナのどちらかが迷子になってもこれですぐに探せるカネ、と言っていたそうな。


「師匠は僕たちの事をまだ迷子になる歳だと思っているのかなぁ?と、その時は思いましたが、まさか師匠を探すのに役に立つなんて……でも、これで師匠が城のどこにいるかわかります!」


「へ~!タヌ男もスキルを教えた甲斐があるってもんだな。是非やってみてくれ、ライ!」


「はい!いきます……「共鳴」!」


 片手にペンダントを手に持ち反対の手を地図に触れながらスキルを発動させると……。突然、地図の一点に光が灯り、瞬くようにゆっくりと点滅する。それは王城の地下牢の一室を指し示していた。


「凄い!凄いぞ、ライ!ここにタヌ男がいるんだな!」


「はい。師匠がまだペンダントを身に付けていればですが……」


 それを聞き、俺は自分が身につけていたペンダントをライに差し出した。


「ライ、このペンダントでもやってみてくれ!これと同じデザインの物をエリスも身につけているはずなんだ!」


 ライは頷き、俺のペンダントを手に取り、再びスキルを発動させる。すると別のフロアの地下牢、印がついた場所から反応があった。


「ここだ!ここにエリスが居るんだな!印の付いた場所から反応があったということは……」


 コンラッドに視線を移すと彼は力強く頷いた。


「はい。念話の声の主は、偽りを言っている訳ではありませんでした。どのような事情があるのかは分かりませんが、我々側の人間であると判断して良いでしょう」


「よし!これで情報は全て集まったな。時間がない、今夜決行だ。いいな、コタロウ!」


「御意。それではお伝えした通り、このルートの侵入路を押さえておきます。決行は深夜。それまでに出立の支度を整えておくようお願いいたします」


「いよいよだね、リンも頑張る!」


「……絶対タヌ男とエリスを助けるから。ね、ポン太?」


 ラナが声をかけるとポン太が勇ましい声を上げて応える。


「僕も師匠から教わったスキルで役に立ってみせます!」

 

 リンもラナもライも長旅の疲れも見せず、やる気を漲らせている。ブロスもはさみをカチャカチャ鳴らし、意気込んでいるようだ。


  ……そして、その陽が落ち、夜のとばりが王都を優しく包み込んでいく。街から徐々に明かりが消えていき、人々が眠りについた深夜。俺達はフリール商会を出発し、ある貴族の屋敷へと足を向けたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「……ここが地下通路への入り口か、とてもそうは見えないけどなぁ」


「はっ、しかし間違いございません。ここを通って城内に侵入いたします」


 俺達はまず、王城に近い貴族の屋敷の庭へと忍び込んだ。メンバーは俺とリンに加え、ラナとライ、それにブロス。そしてドッグウルフのポン太に案内役のコタロウの7人だ。


 夜間、王都といえど周囲は暗く、あかりがなければ足元が覚束ない場所もある。しかし、そんな事は俺達にとって全く障害にはならない。リンとポン太、そしてコタロウは夜目がきき、暗闇を苦にしない。ライは魔力の目で物を見るため、闇夜であろうが関係ない。ラナはポン太に乗っている為、歩く必要がないのだ。


 更に俺以外は全員隠密スキル持ちだ。俺?……ないよ。でも俺はリンに操ってもらえばスキルの恩恵を受けられるからいいの!


 庭の片隅に古ぼけた納屋が立っている。普段は滅多に人が来ないであろう、その小屋の扉を空け、そっと中に侵入した。中には様々な物が雑然と置かれている。しかし、よく見ると片隅の床に正方形に仕切られた場所があった。その床は取り外しができ、持ち上げると地下へと続く階段が現れた。両手を伸ばせば壁につくくらいの幅があり、その先は深く、ずっと先までつづいているようだ。


「ここが王城からの避難通路か……」


 実はこの屋敷の所有者はアダムス家だ。アダムス伯は王の親族であり、彼ほどの身分になれば城から屋敷への秘密の通路が確保されている。もちろん、危機が迫った時の緊急事態用であり、使用された事はこれまで一度もない。


 コタロウはアダムス伯から事前に、侵入経路の候補としてここを教わっていたようだ。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか。みんな、必ずエリスとタヌ男を助けだそう!」


 俺の声に一同が頷く。そして俺達は土の匂いが漂う地下通路を降りていった。

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