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27話 ローザリアの囚人



 セイルス王国の王都ローザリア。その中心に国王セイルス四世が住まう王城ローザリア城がある。無敗の精鋭、魔法騎士団マージナイツを従えるセイルス軍は、その軍事力でもって長年の因縁があった隣国ナジカ王国を併合し、その精強さは近隣諸国に知れ渡っている。


 そのローザリア城の地下。罪人の為の地下牢に、一見すると仔犬のような姿かたちの魔物が丸くなって眠っていた。酷い扱いを受けていたのか毛並みはボサボサ、身体のあちこちが腫れ上がっている。


 そして、牢の前に一人の壮年の男が訪れた。男の名はローガン。宮廷の侍従長を務めており、その手腕は高く評価される。しかし、その姿は仮初のもの。彼の正体は魔王リデルの側近カストールだ。


「ご気分は如何ですかな?チャカネ樣」


 カストールの呼びかけに、丸くなったままのタヌが応える。


「……フン。ひとが気持ちよく寝ているところを起こすとは無粋な奴カネ。お前が望むようなことは特にないカネ。それともまた拷問の続きでもして遊ぶ気カネ?電気ショックは飽きたから別のメニューを所望カネ」


「いえいえ、今回はご様子を見に伺っただけでして。うっかり死んでしまっていては、リデル様に申し訳がたちませぬゆえ。……全く、貴方様も姑息な偽りなど言わず、正直にマスターを連れてくればこの様な目に合わずに済みましたものを」


「フン。騙されるお前が悪い。あの程度を見破れんような奴が側近とは、あの男もよほど人材がおらんとみえるカネ」


「おやおや、まだそんな口が利けるとは……。さてもすばらしい胆力でございますな、さすが魔王リデル様のご子息であります。ですが、そもそも魔王たる者、口先だけの姑息なごまかしなどする必要はございません。その力と畏怖で君臨する者が魔王と呼ばれております。故にリデル様は偽りなど申す必要はありませぬ。チャカネ様はまだお父上のその足元にも及びませんな」


「そんな事、どうでもいいカネ」


「貴方様は偉大なる魔王リデルのご子息であらせられるにも関わらず、畏敬の念を向けるにはあまりにも矮小。人間如きに倒され、挙げ句にドッグウルフに転生し、人族に飼われる身となるとは……しかも何でしたか、タヌなどと名付けられるとは……。私であれば恥ずかしくて即座に命をたつところですぞ。チャカネ様、貴方様は魔族としてのプライドはお持ちではないのですかな?」


 蔑むような目でタヌを見るカストール。


 本来であれば部下の身分である男の挑発にもタヌ男には全く動じる気配はない。ムックリと身体を起こし、お座りした後ろ脚で耳をチャッチャッと掻き、その後大きな欠伸をした。


「無能者と蔑まれて育った我には、お前の言う魔族のプライドって物がとんと理解できんカネェ。『魔王の子であるにも関わらずその魔力は並以下、この様な者がいては魔王リデルの名に傷がつく』と我を他の者の目に触れさせぬよう軟禁生活を強い、自死を望むかのような環境に放り込んで置いて、今さらプライドもクソもないカネ」


「しかし、今、リデル樣はチャカネ様を評価し、必要とされております。これは貴方様が魔王の子息に相応しい能力を身に着けられたがゆえ。魔王の御子に相応しい能力スキルを得たのであれば、今こそ魔族の為に使うべきではありませぬか?あの素晴らしい魔法は、我らが魔族が人族を制圧するために使われるべきですぞ!」


「我を軟禁したあの男やお前達のお陰で、時間だけはたっぷりあったカネ。おかげで誰にも邪魔されず時空魔法の術式を編み出せたカネ。それだけは礼を言っておくカネ」


「そうでございましょう、チャカネ様。我々は冒険者共が貴方様の研究所から持ち帰った資料、それを元に術式を組んでみました。しかし、そのままではいざ発動させるには膨大な魔力と莫大な金をかけた施設が必要になる。しかしチャカネ様があの牢獄から忽然と消えた時、あの時、貴方様は強大な魔力の源など何一つなかったはずです。と、言う事はあの資料にはまだ書かれていない何かがあるはずです。違いますか?」


「当たり前カネ。あれは単なる簡略的なメモなのカネ。それに肝たる部分を他人に知られる危険がある書物に残すはずないだろカネ。大切な物はココにちゃーんと仕舞われているカネ」


 そう言って自分の頭をテンテンと叩くタヌ男。


「なるほど。その用心深さも上に立つ者の資質でありましょう。今一度申し上げます。チャカネ樣、貴方様はリデル樣の御子。魔王様の力におなりください」


「ハッ。散々、冷遇しておいて時空魔法を編み出したら『貴方様はリデル様の御子』だと?手のひら返しもここまでくれば立派カネ。我はあんな男に協力する気はないカネ」


「ならば力ずくをお望みか?」


 カストールの右腕が魔力を帯びる。それを掲げれば瞬時に魔法が発動し、タヌ男の身体はばらばらに引き裂かれるだろう。だがそれでもタヌ男は落ち着き払っていた。


「アホか。いくら人の心を操る術が得意なお前でも、我に従魔契約がある限り新たに契約は結べない、だから我を従わせるなどできはせんだろカネ。それに我を殺せば時空魔法は完成しないカネ。したがって今のお前らは我を死なない程度に痛めつけ、口を割らせる事しかできんのだろうカネ。さっ、もう用がないならとっとと消えるカネ」


 そう言うと前脚をシッシッと動かした後、再び丸くなる。


「そうだ、カストール、次は旨い飯を持ってくるカネ。そうしたら考えてもいいカネ~。ファ~ア」


 埒が明かないと判断したカストールは、ひとまず説得を諦め地下牢から離れていく。数歩、歩いたところで立ち止まり振り返った。


「おっと、忘れるところでございました。リデル様より伝言が御座います。……10日の猶予を与える。それを過ぎれば即座にお前も女にも消えてもらう、との事です」


「ほ~ん、好きにすれば良いカネ」


「チャカネ様、リデル様は必ずしも時空魔法に固執してはおられませぬ。王座に就きさえすればその権力でもって他国を蹂躙すればよいだけですからな。貴方様の助力があればほんの少し、それが早まるというだけの事……」


 こちらの方を見向きもしないタヌ男を、冷たい眼差しで見下ろしながら、


「御心が変わりましたらお声をかけていただきますよう。では、失礼いたします」


 そう言うと今度こそカストールはタヌ男の前から立ち去った。


「……とりあえず10日、エリスの命は保証されたカネ。後はハロルド、ミナト、お前達が何とかするカネ」


 心の中でそう呟くと、タヌ男は傷ついた身体を休めるように再び眠りについた。



 

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 地下牢を出たカストールはその足で謁見の間に向かった。諸侯との謁見にも使われる広い室内には人払いの為か誰もいない。ただ一人玉座で座っている人物を除いては。


「なかなか苦戦しているようだな、カストール」


「はい。チャカネ様はあれでなかなかに強情でして、責め苦を与えても精神の揺らぎはありません」


 玉座に座しているのはアーサー皇子。セイルス王の正式な後継者だ。しかし、その身体は魔王リデルにより支配され、操られてしまっていた。


「チャカネをマスター共々さらい、そのうえで精神を操り、従魔契約を委譲させる」これがお前の作戦であったな。そこまでは良かった。しかし、その後がいかぬ」


「申し訳ありませぬ」


「スカルロアには城の宝物庫にある秘蔵の鎧を与え、さらに大魔法を与えた。にも関わらず、バーグマン家の乗っ取りに失敗した。……そして貴様だ。多大な労力を払い召喚したスカイドラゴンを託した。しかし、結局チャカネに騙され、マスターでもない人間を連れてくるという体たらく。……いくら我と言えど我慢にも限度があるぞ?」


「恐れながら期限を10日ときっております。女も人質にとっておりますれば」


「チャカネはあれでも我の子だ。そんな事で応じはすまい。逆にそれを利用しようとしかねん。奴は時空魔法を一から組み上げるような男。魔力は弱くとも頭の回転は早い」


「左様ですな。時間をかけてもチャカネ様を説得するのは難しいかと……」


「そうだな。しかしゆっくりとしてもおられぬ。すでに我らの企みに勘づいた者が居る」


「なんと!?それはまことですか!?」


「ああ。あの小うるさい老婆がチョロチョロと嗅ぎ回っているようだ」


「老婆と申しますとあの元英雄の……」


「ああ、奴はマージナイツの創設者であり、やっかいな事にグレースの師でもある。我も宝物庫に保管してある宝物をかなり持ち出しているゆえ、そろそろ我にも追求の手がのびるであろう。王の代理を務めているとはいえ、このままでは後継者の立場も揺らぎかねん。我は一刻も早く王を継がねばならぬ。王になりさえすれば、家臣も諸侯も有無を言わせず従わせられるからな。しかし、その前にあの老婆を何とかした方が良いかもしれぬ」


「継承の儀には様々な下準備がいりまする。セイルス王は既に……。ですが、そこまであの老婆が踏み込んできますかな?」


「それはわからぬが、英雄と呼ばれる輩は好奇心が過ぎるきらいがある。我が王座に速やかに就くためには小石であろうと取り除かねばならぬ。それはお前の務めだ、カストール。だが儀式など戦時には長々とする必要もあるまいて。混乱のうちに粛々と進めるだけだ。まぁ、その機会はじきに訪れよう。配下の魔族ももかなり王都に入り込ませておる。もうすぐだ……」


「はい。ようやく我らの宿願が叶いまする」


「あの忌まわしい大厄災によりミネルド大陸全土が崩壊してはや数百年がたつ。ミネルド大陸にいた魔族はほぼ全滅し、残ったのは他の大陸に渡っていた僅かな者だけ。ちりじりになっていた魔族を再びこの地へ集結させ、この地を新たな魔族の都にする。我が王に就くのはその手始めだ」


「はっ!我らもその日を待ち望んでおりまする!」


「無駄に時間はかけられん。10日が過ぎればチャカネと女は殺せ。時空魔法は惜しいが、魔法はなくともこの国には精強な軍がある。周辺諸国に侵攻し、フォルナ全土を戦乱の炎で焼き付くしてみせよう」


 


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 タヌ男と共にやって来たエリスは直後、タヌ男とは別の地下牢に幽閉されていた。


 自分達はおそらく王都に連れてこられたのだろう、ということは察しがついた。タヌ男のマスターではない事がバレた際は危うく殺されそうになったが、「エリスに何かすれば永遠に時空魔法は完成せんが良いのカネ?」と言うタヌ男に救われ、この地下牢に入れられたのだ。


 でも、ラナが捕らわれなくて良かった。自分がいながらあの子達を守れなかったら、ミナトに合わせる顔がなかったもの。


 魔封じの腕輪をつけられ、牢をぶち破る事も出来ないが何とかしてタヌ男を助けて、この王都を脱出しなければ……。考えるのよエリス。そう、きっとチャンスは来る。


 しかし、日に何度か衛兵が粗末な食事を運んでくる以外の人間が牢を訪れる事はなかった。もちろん自分たちを攫った男があらわれる事もなかった。


 それから二日ばかりが過ぎた時だった。


「あらあら、なんだかどこか懐かしい魔力がするな、と思って来てみれば。牢屋には似つかわしくないお嬢様だこと」


 エリスの目線の先には、身なりの良い老婦人が立っていた。


「貴方は……?」と問おうとするエリスを制するように口許に人差し指を立て微笑む老婦人。


「大声をだしては駄目よ。衛兵に感づかれてしまうわ。……突然、地下から強い魔力の鳴動が起こったから何事かと思って様子を探ってみれば、随分と似つかわしくない人物が囚われていたものね。これもあの男の仕業かしら?」


「貴方は一体……?」


「あら、ごめんなさいね。考え事をすると周りが見えなくなっちゃって。私はセリシア。元英雄の大賢者セリシアと言ったほうが分かるかしら?」


「大賢者セリシア!?……という事は貴方はお父様の!?」


「ふふっ、やっぱりハロルドの娘ね。という事はあなたがエリスかしら?それでどうしてあなたがここに?」


「それは……」


 一瞬、騙されているかも知れないという考えがよぎったが、しかし、眼の前の老婦人が嘘をついているようには感じなかった。エリスはその直感を信じ、ここに連れてこられた経緯をセリシアに話した。


「……なるほど、やはりあの男は時空魔法を完成させるつもりね。約束を反古にしたらハロルドが黙っていないと思うけどねぇ?」


「え?でも……、父はとうの昔に亡くなっております……。それより私が連れてこられた時、双子山では突然ドラゴンが現れました。今はどうなっているかわかりますか?」


「バーグマン領での飛竜騒動ね。こちらにも急報がさっき届いたばかりよ。安心して、死者もなく無事に討伐されたみたいだから」


「本当ですか!?ミナトもリンリンも無事だったのね!良かった……」


「ふふっ、それはあなたの大切な人かしら?」


「ええ、私の命の恩人です!とにかく双子山が無事なのであれば今頃、ヌシ様やアダムス伯が対策を講じていくれているはずです」


「ヌシ様、ね。……なぁるほど。そういう事にしたのね。照れてるのかしら?まぁ、あの人らしいけど」


 合点がいったとばかりに一人納得するセリシア。


「セリシア……様?」


「なんでもないわ。辺境伯も動いているなら事態は急変するかも知れない。私も動かなきゃいけないわね。エリス、あなたは私が必ず助け出す。その時まで気持ちをしっかり持ってね」


「はい、セリシア様。相手は私達を一瞬でこの場所まで連れてきた魔法を使います。そして、何か禍々しく大きな力をこの城から感じます……!どうかお気をつけて!」


「大丈夫よ。エリス。それと私にさまはいらないわ、セリシアで結構よ」


 そういいながらセリシアは優しく微笑んだあと、フッと姿を消した。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ここがセイルス王国の王都かぁ!話には聞いていたけどやっぱりでかいなぁ!」


「すごーい!ねぇ、サード!人もお店もいっぱいあるよ!」


「そうだね。さすが国王のお膝元だ!」


 双子山を出て6日目。俺もやっとサードと呼ばれる事に慣れてきた。そして俺達は遂にセイルス王国の王都ローザリアに到達したのだ。中央セイルスに入ってからは盗賊に襲われる事もなく、行程を順調に踏破することが出来た。やっぱり「盗賊キラー」の異名を持つフリール商会の商旗を掲げていたのが大きかったのかな?


「さて、いよいよローザリアに入ったわけですが、拠点となるフリール商会の店舗までまだ歩く事になります。我々の足でおよそ二時間といったところでしょうか」


「えっ!?この街はそんなに広いんですか?」


「ええ。王都の中心たる王宮はこの西門から半日程歩かねばなりません。ここからは街の中。衛兵があちこちで巡回しておりますから、くれぐれも行動は慎重にお願いしますね」


 コンラッドの助言を聞き、俺達はローザリアの城下町に足を踏み入れた。


「は~。ずっと人、人、人……。すごいな。これが王都なのか~」


 ノースマハの街なら北門から南門まで一時間程度で着いちゃうぞ。ワイダの街でも多分、半日あれば東から西の門にたどり着けるだろうし。ローザリアってどんだけでかいんだ!?


「あ、サード見て!あれキラータイガーじゃない?」


 リンが指さす先、首輪を着けた立派な毛並みのトラの魔物が歩いている。


「あれは従魔ですね。ほら、近くのあの立派な鎧を身に着けたかたがマスターでは?」


「へー!じゃあ、あれも?」


 見ると、マスターらしき人の後をちょんちょんと付いて行く大きな鷲がいる。


「そうです。あれはビッグホークという鳥の魔物ですね。普段は上空を飛んでいるのですが、街中という事で風を起こさないよう歩いているんですよ。よく訓練されていますね」


 お~、さすが王都!ノースマハではほとんど見かけないテイマーもここではちょくちょく見かける。乗り合い馬車では嫌な思いもしたけれどここではちゃんと従魔も市民権を得ているじゃないか!……にしても何かみんな強そうな見た目をしているな!確か格付け的にはキラータイガーもビッグホークもCランク辺りだった記憶があるから当然か。


「……ダメ。あれじゃ」


 その時は、ラナがボソッと呟いた。


「えっ、何が?みんなかっこいいし強そうじゃない?」


「……パッと見は強そう。でもまだ訓練が足りない。さっきのキラータイガーは筋肉に緩みがあった。それにあんまりマスターを信用してなさそうだったし」


「えっ?そうなのかい?」


「リンもそう思うよ!多分戦ったら簡単に勝てるもん」


 ラナの意見にリンも同意した。


「ええ~?あんなに強そうなのに?」


「おそらくですが先程のキラータイガーのマスターは、貴族のご子息様ではないかと。貴族様の中にはテイマーから契約を買い取り、委譲された従魔をペットにするかたもおられますから。テイマーの中にはそれを生業なりわいにしてかてを得ている者もいます」


「なにそれ。ただのズルじゃん、そんなの。あ、だから立派な格好した連中は見た目重視の従魔が多いのか」


 確かに行き交う中で特に見た目が派手な格好のテイマーは、見た目が良い従魔を従えていることが多い。なあんだ、貴族や金持ちのボンボンは金で従魔を買ってるのか!実力じゃなかったのかよ~!きっとそういう連中には従魔も自分の権力を誇示する道具なんだろう。貴族って奴は見栄と権力に異様に執着するからな。


 と、ふとラナが俺の顔をじっと見ていることに気付く。


「ん?どうした、ラナ?」


「……サードは本当はあんまりテイマーに向いてないと思う」


「え、そ、そうなの??」


「何で~、ラナ?サードはテイマーとしてもすごいって、ヌシ様だって褒めてくれたんだよ!?」


 リンもビックリしてラナに抗議した。


「うん……。確かにリンといる時は凄い。でもサードは叱るのが苦手だから。リンとは最初から信頼関係が出来ていたし、ウィル達は絶対的な忠誠心がある。……でも野生の魔物はそうはいかない。従魔にしたなら常に自分が絶対の上位者であることを示す必要がある。サードはそれが苦手」


 うっ。言われてみれば確かにリンに俺の命令が絶対って縛り付けた事はない。ないけど……。


「で、でもリンは叱るところなんて全くないし、ウィル達だって……」


「……リンやウィル達は特別。ハロルドの従魔達もそう。みんな強い絆で結ばれているから。……従魔の真価が試されるのはピンチになった時。普段は忠実でも絶体絶命の状況に陥った時、主人を見捨てて逃げるような従魔じゃ話にならない。……そうならない為に普段からの順位付けが大事。主人は常に絶対の存在じゃなきゃいけない。だから時にはきつくしつけるのも大切。誰かから従魔を託されたらそこを気を付けないとダメ」


「な、なるほど。身に染みます……」


 珍しく熱く語るラナ先生のテイマー講座を聴きながら俺達はフリール商会へと向かった。


 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「……ポン!ポンじゃない!?どうしてこんな所にいるの!?」

 

 フリール商会にたどり着いた途端、店先から大きなドッグウルフが飛び出してきた。


 驚くラナに嬉しそうに飛び付いてきたのは、ルカの従魔でドッグウルフのポン太だった。身体の大きなポン太が抱き締めるようにラナに飛び付くと顔をペロペロとなめる。尻尾がちぎれんばかりに振られていた。


「あはは!……うんうん、えっ?ルカが送り出してくれたの?……えっ、サードがルカに頼んだ?……それ本当なの?サードが手紙で?」


 びっくりした表情でラナが俺を見る。


「ああ。山越えをした時にね。ラナもその方が心強いんじゃないかと思ってさ」


「……嬉しい。ありがとう、サード。……ポン太、また一緒に来てくれる?一緒にエリスとタヌを助けてくれる?」


 ラナの問いかけにポン太は力強く「ガウッ!」と答えた。


「……うん、ありがと、ポン太」


 そう言うとラナはポン太をぎゅっと抱きしめた。


 俺が送り出したレターホークの手紙を読んだルカが、すぐにポン太を俺達の護衛にと送り出してくれたらしい。ルカもマスターになってからポン太と意志疎通が出来るようになったようだ。


「どうやら、ルカ様はポン太をレタードッグに仕立て、土地勘のあるレターホークに先導させて、私達の後を追っていたようです。が、最短距離で走ったため、途中で追い抜いてしまったようですね」


 レタードッグは文字通り手紙を運ぶ為に訓練された犬種だ。同じ任務を請け負う動物としてはフリール商会が所有するレターホークがいる。レタードッグの利点はレターホークに比べ送れる荷物が多いこと。そしてレターホークにこそ及ばないが、人の手で運ぶより圧倒的に速いことだ。王国内で輸送手段として認知されており、ポン太も他領主の領地を越えて荷物を運べるようルカの印が入った身分証明と通行許可証を携帯している。これで王国内をスムーズに移動できたのだ。


 ポン太が携えていた手紙には「ポン太を頼む」とだけ書かれていた。領主の手紙とはいえ、誰かが読んだ時の為の配慮だろう。でもこの短い文章でもその気持ちは十分に受け取れた。


 こうして俺達に心強い味方が加わった。そして俺達は首都ローザリアで『エリスとタヌ男奪還作戦』の決行を開始したのだった。




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