26話 峠越え
「それでは皆さん、出発の準備はできましたか?」
コンラッドの呼び掛けに俺達は頷く。時刻は早朝。今日はコネーハ山脈を越え、いよいよ中央セイルスに入る。テンバーの街の宿屋を出る前に最後の総点検だ。
中央セイルスにいる間、俺はフリール商会の家人「サード」と名乗る。ライとラナの名前はそのままだがコンラッドの使用人という設定だ。
移動中は行商人のコンラッドに倣い、それぞれ背負子を背負う。いかにも重そうな大きい袋だが中身は空気が入った布風船であり実際は非常に軽い。要は使用人っぽく見せる為のアイテムだ。まぁ、コンラッドのは本当に物が詰まってるんだろうけど。
「あ、そういえば、ヌシ様からミナトさん……いえ、サードさんへ預り物があったんですよ。これです」
「え?ヌシ様からですか?……て、なんですかこの箱?」
「私もよく分からないのですが、西セイルスを出たら渡してほしい、と。「タヌ男を助け出したらヤツに渡してくれ」とおっしゃっていました」
「タヌ男に?ですか……?」
コンラッドから受け取ったのは20センチ四方の小さな器の箱。開けてみるとその中には真っ黒い玉が入っていた。
「なんだろう?見た感じただの丸い玉だよな?そんなに重くもない、鉄?……じゃないな」
叩いて見るとコンコンと音がする。中は空洞なのかな?……まさか爆弾!?……にしちゃ軽い。火薬が詰まってる感じではなさそうだけど。
「……よく分からん。まぁ、タヌ男が知ってるなら、助けだしたら聞いてみるか」
箱をマジックバッグにしまい、俺達は宿屋を出て、乗り合い馬車がやって来る停留所に向かう予定だ。乗り合い馬車は歩かなくてすむが、長いこと揺られるから尻が痛くなってしまうのが欠点だな。
「よし、それじゃ、みんな出発だ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは街の東門。門番の衛兵が街を出る旅人の身分証の照会をしている。
「ふむ……。ツインズ商会のコンラッド、フリール商会のサードに使用人のラナ、ライ……それに従魔が一匹……と。これで以上か?」
「はい、よろしくお願いします」
「人数に間違いはないな……、いいだろう、通れ」
俺達は怪しまれる事もなく無事に手続きを終え、山越えをするべく、コネーハ山の山道に足を踏み入れた。
「森に囲まれた山道。鳥のさえずり。そして、気が重くなる坂道!ミサーク山道を思い出すなぁ!山越えなんだから山道は当たり前だけど」
「ええ。西セイルスと中央セイルスを分断するように南北にコネーハ山脈が横たわっています。南はソフィア海の海岸線近くまでせり出しているため、移動するには山のどこかを越えねばなりません。山越えのルートはいくつかありますがその中でもっとも標高が低くて通りやすく、整備されているのがこのルートなんですよ」
なるほど。確かに馬車も通れるようにするためか、山越えといっても傾斜は比較的、ゆるやかだ。これならミサーク山道の方が大変だ。
「傾斜はゆるやかですが、そのかわり高さに対応するため、所々つづら折りになっていたりして距離は伸びます。もう少し登れば歩行者用のルートもありまして、そちらであれば多少、道は急ですが短い距離で山越えができます。フリール商会の家人は普段そちらを使っているんですよ」
「では俺達もそのルートを使いましょう。いいかな、みんな?」
俺の問いかけにラナ達が頷いた。
意気揚々と乗り合い馬車に乗る予定だった俺達だが、ある事情により馬車は諦め、登山道を歩いて山越えをすることになった。
「……ねぇ、ミナト……じゃなかった、サード。乗り合い馬車に乗らなくて本当に良かったの?」
頭上でリンが尋ねてくる。しょんぼりとして元気がない。
「ん?当たり前じゃないか。リンだけ馬車に乗れないなんて、そんなバカな話はないだろ?」
「そうですよ!本当にあり得ません!あんな馬車こっちから願い下げですよ」
俺の返事にライが語気を強めて同意する。
「乗り合い馬車に従魔は乗せることができない」それが、乗り合い馬車に乗れなかった理由だ。
確かに従魔にはロイのような大型の従魔もいる。それなら乗れないのも仕方がない。しかし、リンのように乗車には全く問題がない従魔も乗せられない、同乗するのを嫌がる乗客もいるから無理だ、どうしてもというなら馬車の後を歩いて付いてきてくれと断られたのだ。いつも俺の肩に乗っているから長距離移動も問題ないが、リンは片足が不自由だ。日常では持ち前の元気パワーで何でもこなしているが、長時間歩かせる事はできない。
さらに馬車を待つ乗客から「魔物を乗せようなんておぞましい!おお、嫌だ!」等と言われ、カッとなった。俺はその乗客と言い合いになり、危うく衛兵の世話になるところでコンラッドに強引に引き剥がされた。リンをおぞましいと言われて腹もたった。
今でこそバーグマン領では従魔も同伴で泊まれる宿屋や馬車もある。しかし、それもルカが当主になってからの事だったんだよな。リンもアダムス伯の馬車に当たり前のように同乗していたから、受け入れられるのが普通のような気がしていたけれど、まだまだ他の地域では違うんだと悔しい気持ちになった。コンラッドからして「私もリンさんが従魔だった事をすっかり忘れていました。申し訳ありません」と平謝りしてきたくらいだったしね……。
「……リンにあんな事言う奴は許せない。……あんな奴らと一緒に馬車に乗るくらいなら私は喜んで歩く」
俺の後ろを歩くラナの声が聞こえる。声に怒りが籠もっていた。
「ラナ、ライごめんね」
「……リンが謝る事ない。リンは私達の家族だもの」
「リンさん!あんなの気にしちゃ駄目ですよ!」
「……うん!ありがとう!ラナ、ライ!」
そしてリンに乗っていたブロスがぴょんと飛び降りると、ワキワキと身体をリズミカルに動かしたり、ハサミをえいえいと上下にふった。
「あははっ!なに、その踊り?おもしろ~い!ブロスもありがとね!」
どうやらリンを元気づけようとしてくれたようだ。みんながリンを励ましているのを見て、とても嬉しくなった。と同時にラナもライも俺達を家族だと認めてくれてると思うと、じんわりと目頭が熱くなった。
「さすがサードさんのご家族。みんないい子たちですね」
「ええ、とっても」
コンラッドの何気ない一言に、涙が落ちないように上を向きながら答える。と、笑顔だったコンラッドが表情を改める。
「さてサードさん。これから一日かけて山を越えるわけですが、周囲の警戒を怠らないでくださいね」
え、なんで?と思ったがしばらくした後、俺達はその意味を知ることになる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くっそぉ!このガキがぁ!」
怒鳴り声を上げ斬りつけてくる男の剣を木刀で弾き飛ばし、返す刀で男の脇腹に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐわっ!?」
倒れ込む男の影から、新たな男が襲いかかってくるが結果は同じだ。振り下ろす剣をかわしてカウンターをくらわせる。一度も剣を交えることなく、男も地に伏した。その後方で何かがキラリと光る。木の陰から矢を構えた弓使いが俺を狙っていた。
「サード!」
「分かってる!水魔弾!」
「ギャッ!?」
水の弾丸が木陰から俺達を狙う弓使いの腕を射抜く。さらに続けざまに一発。別の木の上に潜んでいた敵が落下していった。
「くそっ!こいつらヤバいぞ!ひけっ、ひけー!!」
リーダーらしい声に、襲ってきた奴らが蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げていく。倒れていた連中には目もくれず、あっという間に俺達の前から逃げ去った。
「もう大丈夫だよ」
「ふぅ……お疲れ様、リン」
ようやくひと心地が付き、大きく息を吐く。
「大丈夫ですか?サードさん。皆さんお怪我はありませんか?」
俺達と距離をとって戦っていたコンラッドが戻ってきた。当然のように傷一つ負っていない。荷物も無事だ。
「俺達は大丈夫です。コンラッドさんの方は?」
「あの程度の山賊どもであれば全く問題ありませんよ。一当たりして、相手が手強いと見ればさっと逃げていく連中ですから。その代わり二度と我々を襲わないよう、少し強めに脅しつけてやりましたが」
「そうですか。脅しの割には結構な数が倒れてるんですけど……」
俺はラナ達を守る為に襲ってくる山賊を追い払う程度だったが、コンラッドはどでかい荷物を背負ったまま、縦横無尽に駆け回り山賊達を翻弄していた。20人は居たであろう山賊達は、俺達に手も足も出なかったのだ。
「気絶してる連中はほおっておきましょう。これで我々が恐ろしい事が連中にも身にしみて分かったことでしょうし、もう襲ってはこないと思いますよ。さて、もうじき山道の中間点です。そこには王家が管理する砦があるんですよ」
「あ、ほんとだ!砦が見える!」
山道の向こう、木々の中に、存在感のある砦があった。砦の壁は丸太を組んだもののようだが周囲の森の木より高く、更に高い物見のための櫓もあった。あれなら遠くの敵も一目瞭然だ。敵が攻めてくればすぐに気づけるだろうなぁ。
「平時は一部が休憩所として解放されているんです。ちょうどお昼時ですので、そこで一休みしましょうか」
コンラッドの進言に従い俺達は砦の休憩所で昼食を取ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コネーハ山道の中間点、山道の行程で一番標高の高い場所に砦が築かれている。山丿峰砦と名付けられたこの砦は敵の進攻を防ぐ防御施設である。砦には王家の直属兵が詰めており、当然ながら備え付けの弩は西セイルス方面を向いている。
いざ他国が進攻してきた際はこのコネーハ山脈が天然の壁となり、山道に陣取るこの砦が立ちはだかる事になるのだ。
と同時にそれ以外の時には施設の一部が解放され、山を登って来た来訪者につかの間の休息の場を与える休憩所にもなっていた。ここは登山者の為の登山道と馬車による車道が合流する場所でもある。
俺達は休憩所に設置されたベンチに腰掛け昼食をとった。サンドイッチや唐揚げ等々、リン達の好物を並べる。旅に備え、食事には困らないようにと作り置きした料理が、マジックバッグに山ほど入っているからね。
「……にしても、セイルス王国が管轄しているのに、山賊って出るものなんですねぇ」
「一応、山道は隣接する領主が管轄する事にはなっています。ただこの広い山を管理するとなると膨大な資金がかかってしまう。領主様といえど無い袖は振れませんから、実態はほとんど放置状態です」
たしかにバーグマン領でもつい最近まで、ミサーク大森林を警備する兵士なんて皆無だった。最近ようやく、ノースマハの街からネノ鉱山への道を警備する巡回が始まったくらいだし。それでも二人組の兵士が一日一往復する程度だ。
「それだけに山は罪を犯して逃げた者や食い詰めた者、無頼の徒等には格好の逃げ場所になってしまってもいます。ある意味治外法権の場にもなってしまっていますね。彼らの中には徒党を組み、アジトを作って通行人を襲う輩もいます」
「さっきの様な奴等ですね」
山道に入って数時間、俺達は山賊の集団に襲われた。といってもいきなり襲撃されたわけではなく、山道を塞ぐようにたっていて「ここを通りたきゃ、通行税をおいていけ」と脅すスタイル。どうやら山を越える登山者から金品を巻き上げていたようだ。
当然拒否すると「なんだと!?なら痛い目をみせてやる!」てな具合で武器を抜き、襲いかかってきた。まぁ、当然ながらあっちが痛い目をみたんだけどね。
「ああいう連中は、切り捨てても基本的に問題ありません。まぁ、後処理が面倒なので今回は命はとりませんでしたが。にしても私もまだまだ顔が売れていませんね。これが総帥であれば山賊など顔パスだったんですが……」
ちょっと残念そうにコンラッドが言う。
「え、ビアトリスさんがですか?」
「はい。総帥も若い頃から一人で行商をしていて、最初のうちは山賊に襲われたそうなんです。しかし、そのうち顔を覚えられて襲ってこなくなったらしいですよ。賊の間では「賊殺しのビアトリス」なんて二つ名がついていたとか」
うは~。さすが元英雄。二つ名のある武闘派薬師かよ!そりゃ山賊も避けるはずだわ。
「ただ、山道にはあまり出てきませんが、山の中にはキラーウルフやマウントベアーなんて魔物も潜んでいますから、住むにしても命がけですよ。山の生活は自給自足が原則ですし、決して気楽なものではありません」
「……狼や熊の魔物?それなら私、従魔にできる。今から探しに行こう」
話を聞いていたラナが急に目を輝かせた。
「えっ、魔物はそう簡単には従魔にできないでしょ?」
「ううん……私の目を見たら狼も熊もひれ伏す、従魔にできる。それにクマを連れていれば山賊も近寄ってこないし、乗り物にもなる。……ミサーク大森林にも私の家来のクマがいるし」
「本当に?ラナ、ドッグウルフだけじゃなくて他の魔物も従魔にしてるのか?」
「……うん。クマにも乗れる。跨るとちょっと毛がゴワゴワしてるけど」
「おおぅ、マジか。いつの間に。……ははは、凄いな!クマに跨って移動とかまるでリアル金太郎じゃないか」
マサカリ担いでクマに乗ったラナを想像してみる。……ありゃ、意外と違和感ないなぁ。
「……ねぇキンタローってなに?」
「あ、ごめん。こっちの話だよ」
……確かにラナは獣系の魔物を畏怖させる「獣王の眼光」を持ってるけど……。ラナってば完全にビーストテイマーじゃん。ヌシ様が相当鍛えてくれたんだろうか?
「う~ん、ラナの話は魅力的ではあるけど、今はクマを探してる時間がないんだ。早くエリス達を助けにいかないといけないからね。分かってくれるかな?ラナ」
「……むぅ、確かにタヌ男とエリスの事が心配。それじゃ早く出発しよう」
そう言って、早く、早くと俺の服の袖を引っ張る。
「わわっ、ラナそう慌てないで。分かったよ、じゃあ出発しようか。コンラッドさん、今日はこのあと山を下りるだけですよね?それで……計画ではこの街で一泊する予定になっていますね」
「はい。ここを下れば、カノー伯爵領カイセーの街ですからね。そこで宿をとり、予定通りならばあと二日程で王都に着きますよ」
「宿、ですか……」
以前、初めてノースマハの街に行った際、宿屋で従魔であるリンは宿屋の中に入れない、と断られた。従魔は外の牢に入れられ劣悪な環境だった。乗り合い馬車の件もある、カイセーの街でも従魔に対する対応は、同じような感じではないのか。
バーグマン領内の宿屋では、領主ルカの尽力により、今ではリンのような小さい従魔は一緒に泊まれるようになっている。が、カイセーの街は他所の領地だもんな。昨夜の宿はアダムス伯の計らいで、俺たち以外の人がいない貸し切りにしてもらっていたけど。面倒くさい事になるのならもう、中央セイルスでは宿屋は極力使わず川原にキャンプでも張ればいいのではないか?
そんな俺の気持ちを見抜いたのか、コンラッドはニッコリ微笑んだ。
「ご安心ください。宿泊はフリール商会の店舗をご用意しております」
「え、フリール商会の店舗ですか?」
「はい。セイルス王国の貴族が治める各領地。その各領内にそれぞれ最低一つはフリール商会の拠点があります。店舗兼中継所であり、宿泊も可能です。宿屋ほどのおもてなしは出来ませんが、旅の疲れを多少は癒せるはずですよ」
「でも、いいんですか?」
「もちろんです。総帥からも「遠慮は無用。つべこべ言わず泊まっていけ」と伝言をあずかってますから。さぁ、それでは行きましょうか」
山丿峰砦を出て以降の山道は幸いな事に山賊に襲われることはなかった。運が良かったのもあるがコンラッドが山賊避けの「奥の手」としてフリール商会の商会旗を掲げたのもその一助になったんだろう。
商会旗は行商の商人が持ち歩いているもので、自分がどの商会に所属しているかがひと目で分かる布だ。旗とは言っているがそれ以外にも荷物を包んだり、身体に巻いて素肌を隠したりと風呂敷とかタオルの様な使われ方もしている。
フリール商会の商会旗のデザインは薬液の瓶に交わる剣が染め抜かれたもので、薬師のビアトリスらしいなと思った。
フリール商会のビアトリスは名前が売れているから、その商会旗をみた山賊達には「下手に手を出すと後でどんな報復をされるか分からない」という恐怖心を抱かせ、躊躇させる抑止力になるんだそうだ。
も~、それなら最初からだしてよね~!と思ったが「私はすでに独立したツインズ商会の長なので、総帥の力は極力借りたくなかった」らしい。
そんな訳で無事にコネーハ山脈を越えた俺達は夕暮れにはカイセーの街にたどり着き、中央セイルスにその一歩を踏み入れたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「へ~、案外、街並みも西セイルスとあんまり変わらないなぁ」
検問を受けたあとカイセーの街に入った俺達。カイセーの街はアダムス家から王家に管轄が移っている。といっても街並みや行き交う人々、市場で売られている物も西セイルスとそう大差はないように見える。
大通りを歩く人達を見ると街の人々に交じり、これから西セイルスに向かうのか、革鎧で身を固めた旅人や、荷物を満載し、隊列を組んだ馬車が停まっており、山越えの為に即席のパーティを組む相手を募集している人も見かけた。
「なんかああいう光景を見ると、まるで国境沿いの街のような雰囲気ですね」
「そうですね。やはり山賊は旅人達にとって悩みの種ですから。ただコネーハ山脈で分断されているとはいってもどちらもセイルス王国ですから。文化についてもそれほど変わりませんよ。今は属国になっている旧ナジカ王国に関しても同じです」
「やっぱり陸続きだし、お隣同士だからってことでしょうかね?」
「そうですね。いずれにしても今は同じセイルス王国の国民です。王様には旧ナジカ国民に対しもう少しお慈悲の心を持って接していただけるとよいのですが……」
「セイルス王ってその、旧ナジカ国民って人達には厳しいんですか?」
「はい。まぁ、戦争により編入したいわば属国ですので、厳しい態度で臨むのも分からなくはないのですがね。……さて、それでは行きましょうか。店舗はここからすぐですよ」
「だってさ。それじゃあ、行こうか……ってラナ、大丈夫かい?」
「……大丈夫、ちょっと疲れただけ。歩ける」
山道を歩き通したせいかラナに疲労の色が見える。いくら修行を積んだと言ってもまだ10歳にも満たない女の子だ。やっぱりかなり無理をしていたんだろう。
「……むぅ~、従魔に乗ってればこれくらいは平気なのに」
「ドッグウルフに乗ってると大丈夫なのかい?」
「……うん。それなら何日でも平気。乗りながらでも寝れるし、敵を攻撃できる」
そうかぁ、ラナはテイマーだもんな。俺みたく従魔がいた方がいいか。……そうだな。もう西セイルスじゃないし、そろそろいいだろう。俺の中に一つの考えが浮かんだ。
沢山の店が軒を連ねる大通りの一角に二階建ての店舗、そして隣には大きな倉庫らしき建物がある。フリール商会の看板が掲げられた店舗では食料から雑貨、武器まで様々な商品が陳列されている。際立って大きい店ではないが陳列のスペースの使い方に無駄がなく敷地面積以上に沢山の商品が置かれている印象だ。なんか前世のコンビニを思い出したよ。
「あちらがフリール商会の店舗です。今日はここで一泊していきましょう」
コンラッドを先頭に店に入る。店舗の奥が住居スペースになっており従業員や物資を運ぶ家人が泊まる部屋がもうけられている。そして倉庫には大量の物資を積んだ馬車や家人がひっきりなしに訪れており、ここはフリール商会の物流拠点でもあるようだ。
「その前にコンラッドさんに一つお願いがあります。この店舗からレターホークは飛ばせますか?」
「はい、大丈夫ですよ。どちらに?」
「実は……」
コンラッドに行き先と目的を伝える。
「なるほど、承りました。では一番速くて、夜目の聞く個体を今すぐに飛ばしますね。あの方であればすぐに動いてくれるでしょう」
こうして俺達は中央セイルスに足を踏み入れた。王都はまだまだ遠いが必ず助け出す。待っててくれ、エリス!




