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17話 眠れる獅子は目を覚ます



「もう一度だけ確認するぜぇ?……ヒック!お前らはこっちのルートでいいんだな?」


「ああ、そうだ!」


 すっかりできあがっている試験官のトラインの質問にレオが力強く答える。チェス山に入ってすぐ、山道が二つに分岐した場所にやって来た。一応、左右どちらの道も山頂に出ることができる。ここで受験者は二手に別れる事になった。


 二手に別れたのは、乱闘騒ぎによって受験者同士の空気が悪くなってしまったからだ。発端はギースだが、挑発に乗ってしまった俺にも責任がある。あの後、俺達は周囲の受験者に無理やり引き剥がされ「試験開始だという時にこんな事をしてなんになる!喧嘩なら試験が終わってから思う存分やれよ!」と怒られたのだった。


 リンからも「もう!ミナトは何の為にココに来たの?レオを助けて試験に合格する為でしょ!目的忘れちゃダメだよ!」と言われてしまった。はい、至極ごもっともです。ごめんなさい。


 喧嘩は収まったがギースとレオは、それぞれ複数箇所の打撲。俺に挑んできたギースの取り巻きは俺にぶん投げられて、それぞれ負傷するという状況で中々に修羅場だった。


 レオは回復魔法で癒やし、ギース達にもかけてやろうと思ったが、「てめぇの助けなどいらん!」と突っぱねられ、自分だけは持っていたポーションを使っていた。取り巻きも怪我をしてるのに……である。ギースって絶対人望ないだろ。俺達を襲ってきた相手とはいえ、取り巻きの境遇に少し同情してしまった。


 それはさておき、二つのグループに別れた15名の受験者だが、人数配分は俺達の方が圧倒的に少ない。メンバーは俺とリン、レオに二人の受験者を加えた五人だけだ。


「いいのかぁ?そっちは正規ルートに比べて、木々の密度が濃いし道も険しい。他の魔物が出る危険も高いんだぜぇ?やめとけ、やめとけ」


 赤ら顔のトラインにレオが胸を張って答える。


「構わない。森が深い方がターゲットに遭遇する確率が上がるからな。俺は何としても昇格試験に合格しなきゃならないんだ!それに人数が多すぎると、広い場所の無い森では戦いづらい!」


 それは俺も同感だな。人が多くても連携が取れないと、ただやみくもに犠牲者をふやすだけだ。相手はDランク冒険者にとっては格上のキラーグリズリー。森に棲むだけあって森での戦い方を熟知している。そこでは一振りで木をなぎ倒す力も、木々の間を駆け抜ける脚の速さも、ひと噛みで骨をも砕く牙を持たない人間は、格好の餌である。


 そんなキラーグリズリーを倒すためには、勝ち確の行動をさせない事が重要なのだ。レオの実力ならばそこを押さえつつ、確実にキラーグリズリーの急所に刃を打ち込む事ができるだろう、と俺はみているのだが。


「そうかい。まぁ、やってみりゃあいいさ。俺は止めたからなぁ。ウィッ。こっちは一人でお前らひよっこの面倒を見なきゃいけないんだ。何かあってもお前らでなんとかしろよ?……ああ、ひとつだけアドバイスでもしてやるか。いいか、森で魔物と戦う際はなぁ、危機に陥った時にいかにしてそれを脱せるか否かが勝敗を決める……。わかったか?ほんじゃ、俺は正規ルートの奴らについて行くぜ。約束の時間に来なければ、お前らは山で遭難した事にするからなぁ?」


「フッ、任せろ!キラーグリズリーは俺達が討伐してみせる!それじゃ皆行くぞ、出発だ!」


 やる気に満ち満ちたレオの号令とともに、俺達は山に足を踏み入れた。


 


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「いいか?手はず通り俺が隊列の先頭を行く。エドがその次だ。ミナトとジョリーナは後列で後方に気を配りながら進んでくれ」


 レオの指示のもと隊列を組んだ俺達は、周囲を警戒しながら山道を登っていく。


 パーティには俺達の他に二人の受験者がいる。一人はロングソードを携えたエド。長身でハンサムな男なんだけど、自己紹介しあった時に「エドと呼んでくれ」と、素っ気ない一言だけで、必要以上の会話は好まないようだった。乱闘騒ぎの時もまったく関わらなかったし、立ち振る舞いも冒険者というより、まるでお城の騎士のようなちょっと堅苦しい印象を抱く。持っている剣や鎧もかなり使い込まれているようにみえる。Dランクというが、もっと実力的にはありそうな気がするな。彼は「少しでもターゲットに遭遇する確率が高い方に入る」ということで俺達のパーティに加入した。


 もう一人は、ローブを身に着け、魔女が被っているような三角のウィッチハットを被った女魔術士のジョリーナだ。得意属性は風。魔法を見た感じなかなかの使い手だ。まぁ、エリスに比べるとまだまだだけど。彼女(エリス)は別格だからなぁ。何でこっちのグループに来たかと言うと、


「ん~?なんか、インスピレーションがわいたって言うかぁ。こっちの方が良さげに見えたし~」とのことだった。ん~、どこかギャルっぽい?


 と、レオを先頭に慎重に森の中を進んでいた時、リンの念話が聞こえてきた。


『ミナト、この先に魔物が居るよ。キラーグリズリーじゃないけど、どうする?』


「おっと、レオ、魔物がお出ましだそうだよ」


 そう、告げるや否やレオは、俺たちに指示を出す。しかし、そのあとがいけない。


「よっしゃ!ミナト、俺が先頭で魔物を引きつけるからお前とジョリーナは左右に別れて、エドは後方に回れ!一気に行くぞ!おりゃあぁぁぁ!」


「え、えええ~!?ちょっ、ちょっと待てよ、レオー!!」


 そう言うが早いが、レオは獅子のごとく雄たけびを上げ、引き止める俺を無視して魔物に向かって突進していった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「いやー、リンの気配探知ってすげぇな!あんなに簡単に魔物を見つけられるなんてなぁ!ミナトの回復魔法も貴重だし、やっぱりあの時、無理やりにでもパーティに加入させるべきだったなー!」


 焚き火を囲みながらレオが心底悔しそうに言う。キラーグリズリーを捜索しながら山道をゆっくりと登った俺達だが、何度か魔物と遭遇したものの、ターゲットであるキラーグリズリーの発見には至らなかった。


 陽も傾き、辺りも暗くなってきたため、捜索は一旦打ち切り、明日の朝一から再開しようと言うことになり、木々が途切れた広場にキャンプを張り、一夜を明かすことになった。火を起こし、食事の支度をする。火を嫌がる魔物が多いため、火はできるだけ大きくする。


 昼間より夜のほうが活発になる魔物も居る。キラーグリズリーは、夜でも活動する個体もいるようだから視界の悪い夜間は動かないのが鉄則だ。


「……よし、これで治療は終わったぞ」


「おっ、すまんな。おおっ!傷が綺麗に癒えてるな!さすがミナト!」


 昼間の戦闘で負傷したレオに回復魔法ヒールをかけてやる。レオの戦闘スタイルはとにかくイケイケドンドンで敵に突っ込んでいくから生傷が絶えない。その姿勢が相手を怯ませ、隙を作りやすくなっていると言えなくもないけど。


 とにかく今日は英気を養いつつ休養する事にしたのだが、ジョリーナが携帯食料をほとんど持参していないという事実が発覚した。どうも彼女はすぐにキラーグリズリーが見つかると思っていたらしく、荷物になる食料は当日分しか持ってこなかったらしい。


「だってぇ、今までのクエストでも長くて二日(ふつか)ぐらいだったし~。今回もすぐに見つかると思ってたんだから仕方ないっしょ?」


 あまり危機感を抱いていない様子の彼女に、呆れ顔を向けているのはエドだ。


「昇格試験には明確な終了時間は知らされていない。二日以上かかったら手持ちの食料が尽きる。そのあとはどうするつもりだったのだ?」 


「そりゃあ、周りから貰えばいいじゃん?こういう時こそ助け合いが大切じゃん?」


「想定外の事態であればやむを得んが、こんな事はあらかじめ想定できるケースだ。食料品は重量があり嵩張るもので、他人に与える程の余裕はない。そんな心根で試験に受かるとでも?」


「え~、エドちん冷た~い!ヒドくな~い?」


 エドが冷たく言い放ち、むくれるジョリーナ、この二人、相性はあまり良くないのかも……?とハラハラした俺だが、


「はっはっは!二人とも喧嘩は良くないぜ!そういう時もある!なぁジョリーナ。心配無用だ、ほら、俺の食料を分けてやるよ!」


「わぁ!サンキュー、レオ!」


「いいってことよ!困った時はお互い様だ!エドも想定外の事態の訓練だと思えばいい!冒険中に持参した食料を落とすことだってあるだろう?現地調達できるのも才能さ!」


 レオが助け舟を出し、ジョリーナもキャッキャッと笑いだす。テンション高えな、この二人。ジョリーナはレオとは気が合うのか。ツーカーで盛り上がっている。


 今回は俺もマジックバッグを使わず、必要物資をリュックに詰めて試験に臨んでいた。他の受験者と差をつけないようにする事とマジックバッグを知られないようにする為だ。


 ……ああ、ミサーク防衛隊の隊員時代を思い出すなぁ。あの時も「最初からマジックバッグに頼らず、スキルがない想定で他の隊員と同じ目線で活動するように」と隊長のグラントからマジックバッグ禁止令が出されたっけ。


 そのお陰で物資を背負って大森林を駆けずり回ったり、重い荷物で足腰が立たなくなった所に魔物が襲ってきたり……。いや~、あの頃は大変だったなぁ!まぁ、そのおかげで俺もリンもめちゃくちゃ鍛えられたんだけどさ。


「そうだ、そういえばレオ。昼間の戦闘の事なんだけど。いっつもあんな感じで魔物と戦っていたのかい?」


 ふと、俺はレオの欠点ってやつを思い出した。


「そうだぜ!リーダーたる俺がまず敵に斬り込んで、みんなが攻撃する隙を作るんだ!俺のパーティ必勝の作戦だぜ!」


 レオは誇らしげに胸を張って答える。しかし、それを聞いていたエドは難しい顔をしてつぶやいた。


「レオ。お前の所属するパーティメンバーはよほど戦闘が苦手なのか?あるいは全員見習いだとか……」


「あ?何を言うんだ!俺のパーティには頼りになる奴等しかいない!エド、俺のメンバーを侮辱するつもりならお前といえど許さんぞ!」


「侮辱するつもりはない。ただ昼間のお前の戦いを見てそう思っただけだ」


「何だと!どういう事だ!」


「そーよぅ、レオすごい頑張ってたじゃんね~。お陰で楽に討伐できたし~」


「……ミナト。お前もレオの戦いぶりを見ただろう。お前はどう思った?」


 エドが「お前ならわかるだろう」とばかりに俺に振って来た。


「……うーん。確かにあれじゃ危ないかなぁ」


「どうしてだ!俺の何が危ないっていうんだ!ミナト!」


「レオは猪突猛進する癖がある。いくら強くても一人で出来ることには限界があるんだ。もし、複数の敵がでてレオだけでどうにもならない状況になった時、レオは自分の命を捨ててもいいから仲間を逃がそうとすると思うんだ」


「うんうん。わかる~!リンも昔は一人で突っ込んでミナトによく怒られたりしたんだよ~。でもリンはミナトを守りたくってさ!ね、ミナト?」


 初めて言葉を発したリンにエドとジョリーナが目を丸くした。


「!?」


「すごっ!アンタのゴブリンってば喋れんの!?マジでスゲーじゃん!?」


 エドは呆然とし、ジョリーナは驚きの声を上げる。しかし、リンはそんな事はお構い無しにじっとレオを見つめたまま話を続けた。


「まともな打ち合いができるのは、相手の実力がだいたい同じくらいかちょっと強いくらいまででね。それ以上になったらガードしてもふっとばされるんだ。もし、そんな敵に出会っても今と同じ戦い方を続けていたら、遅かれ早かれレオは死んじゃうよ。リンも同じだったからわかるもん」


 リンの話に俺も頷いた。


「レオ。俺もレオがなんで今まで試験を受けさせてもらえなかったか考えていたんだ。でも分かったわ。君は仲間を大事に思うあまり、自分の命を軽視しているんだ」


「俺が、自分の命を軽視してる?いや、そんな事はないぞ!ミナトもリンも勘違いをしているだけだ!」


「いや、それは自分で意識してないだけだ。もしくは見ないふりをしているか。……君は常に先陣をきって単騎で敵に突っ込む。敵の注意を引き付け、ヘイトを稼ぎ、その間に他のメンバーが敵を屠る。一見すると悪い戦術には見えない。積極的に盾になるタンクのような役割もあるからね。でもそれが出来るのは幾多の経験を積み重ね、相手の力量を見抜けるベテランでこそだ。はっきり言ってレオにはまだ経験が足りない。君がやっているのは匹夫(ひっぷ)の勇、つまり深く考えず、どんな敵にも血気にはやって突っ込んでいく戦闘スタイルだ。それがどれだけ危険な行為か分からなくはないだろう?」


「……」


「ミナトの言う通りだ。それにお前はひたすら自分の方だけに注意を向けさせて魔物の攻撃を自らが受けるように仕向けていた。俺も前線担当のはず。なのに俺にはまともに仕事をさせない。そんな戦い方では他のパーティメンバーは嫌気がさすか、あるいは逆に過度に依存するようになる。どちらにしても良いことではない」


 俺の言葉にエドも同意する。


「え~、でもそうしてくれた方が、あーしは詠唱に集中できるし、助かったし~?」


「ジョリーナ、それはケースバイケースだよ。全ての敵に通用するわけじゃない。……レオ。君は良かれと思ってそうしているんだろうけど、それは危険と紙一重なんだ。今まではその戦い方でもなんとかなった。でもこれからも大丈夫な保証はどこにもない。君のメンバーはそれを危惧してパーティを解散させたんじゃないのか?」


「……知ってたのか、ミナト」


「ああ、クローイさんに聞いたよ。初めてレオに会ったときもメンバーがレオはすぐ敵に突っ込んで怪我をするって話していたから、その頃から(みんな)、心配してたと思うんだ。このままじゃ取り返しのつかない事が起こりかねないって。レオが一人で危険を犯す必要はないよ。だってそれじゃパーティを組んだ意味がないじゃないか」


 クローイさんが言っていた「レオに足りないもの」。常に最前線に立ち敵の攻撃を全て引き受ける。それは勇敢に見えるがそれは無謀とも表裏一体だ。レオに依存したパーティでは、彼が戦闘不能になれば即ちパーティの全滅につながる。大切なのは一人に頼り過ぎず、お互いが補え合える戦い方だ。特に一人前の冒険者なら連携は何より重要になってくる。


「……俺があいつらを強引にパーティに誘ったんだ。だからあいつらを危ない目に合わせたくなかった」


 暫くの間、無言だったレオがボソボソと話し始めた。


 それによるとレオは冒険者になる際、幼なじみを誘ってパーティを立ち上げた。その時、皆が順調にOKを出したわけじゃなく、「冒険者は危険だから」と渋るメンバーもいたらしい。


 加入を躊躇う仲間たちにレオは、俺が命を賭けて皆を守る、俺は冒険者として名を上げたいんだ。と説得した。その熱意に押された幼なじみ達はレオのパーティメンバーとして冒険者になる。それが前に俺も会ったメンバー達だな。冒険者になったレオは約束通り、常に最前線に立ち敵に立ち向かう役を引き受けていたそうだ。


「……俺は冒険者になって名を上げると決めたあの日から努力をしてきたつもりだ。あいつらに危険な目に合わせないよう、敵の注意を引き付けてもいる。でも、やっぱりあいつらには俺が頼りなく見えてたのかな」


「いや、それは違うぞ。レオのメンバーはそんな事でパーティを離脱したんじゃない。むしろレオを思っての事だ。それと思ったんだけど、レオのメンバーはきっと君に正式なパーティメンバーとして見てもらいたいんだと思うな」


「何を言ってるんだ?ミナト。俺はいつでもあいつらを正式なメンバーと思っているぞ!」


「パーティってさ、お互い持ちつ持たれつなんだよ。常に守るばかりじゃない。お互いに助け合うのがパーティのはずだ。きっと君のメンバーもそう思ってると思うよ。「もう、俺達も駆け出しじゃない。たまには俺達にも頼ってくれよ」って。上にいけば今までの戦い方はもう通用しない。試験が終わったら一度パーティメンバーとじっくり話し合ってみるといいよ。そうすれば絶対またレオのパーティに戻ってきてくれるはずさ」


「ミナト……」


「そうだな。上のランクで何より大切なのは、勝つことより生き残る事だ。死んでしまっては名も残せない。死に急がんでくれ。レオ」


 エドもレオの肩に手を置きながら言う。エドって一見堅苦しそうに見えたけど、レオの戦闘の仕方を気にかけてくれて、ジョリーナの食料の事も冒険者として教えてくれたんだろうし、結構いいひとだな。へへ。


「俺とリンも、色々考えたんだ。どうやったら1足す1を2以上にできるかって。俺一人じゃ出来ない事もリンが一緒にいてくれて、出来る事がたくさん増えて行ったんだぜ」


「えへへ~。リンもいっぱいミナトに助けられてるんだ!大切な仲間だもん」


 ニコニコと笑うリンにレオが視線を移す。


「……そうかぁ、ミナトにとってリンは従魔じゃなくて仲間だもんな。俺だけが突っ走っても駄目だよな……。俺は今までメンバーを引っ張ってたつもりだった。頼りになるリーダーになったつもりだった。でもそれは間違っていたんだな……。そうかぁ、(みんな)、パーティを解散してまで俺の事を止めてくれていたんだな……。ははは、そうかぁ……」


「大丈夫!試験に合格して元のパーティに戻った時、今度こそレオは本当のリーダーになれるさ!」


「……ああ、そうだな!ありがとうミナト!俺はまだ歩みを止めるわけにはいかない!今度は間違えない!必ずや素晴らしいパーティにしてみせる!レオニダスの名に誓ってな!」  


 そう言って笑顔を見せるレオの顔からは、迷いがすっきりと消え去っていた。


「超イイ話んとこ悪いケド~、そろそろあーし眠くなってきたし~。話まだ続くなら見張りヨロ!」


 そう言って、あくびをしながら、俺たちに背を向けて寝だしたジョリーナ。俺たちはジョリーナに聞こえないように小さな声で話し、それから仮眠をとった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「なんであんたたちがあーしらを襲いに来たわけ~?寝込みを襲うなんてマジあり得ないっしょ!」

 

 仁王立ちで怒りを露にしたジョリーナの目の前には、縛り上げられ、転がされた二人の受験者達。よくよく見れば、昼間俺に投げ飛ばされたギース達の取り巻き達だった。彼ら話によるとどうやらギースから妨害工作を命じられたらしく夜、俺たちが寝静まる時を狙って荷物を奪取(だっしゅ)するつもりだったらしい。


 当然、そんな作戦は気配探知が使えるリンに通用するはずがない。俺達は示し合わせ寝た振りをしていたところにのこのとやって来たこいつ等を捕えたというわけだ。ジョリーナは本当に寝ていたけど。


 話を聞くと取り巻き達は元々ギースのパーティメンバーではなかったらしい。馴れ合い防止と不正を防ぐ為、試験では同じパーティのメンバーは参加できない決まりになっているからだ。しかし、ギースは自分の立場を利用して強引に二人を支配下に置いたようだ。


 そして二人から衝撃の事実が伝えられた。なんとギースはオーサム領領主、オーサム男爵の次男だった。つまりバーグマン領のお隣の領主の息子というわけだ。二人はギースと同じサウスマハの冒険者で立場上、断ることができなかったと泣いて詫びをいれてきた。今までの彼らの扱いも含め、気の毒だったので、もう悪だくみはしないという約束のもと許してやる事にした。


「あれがオーサム男爵の息子……?あの品格の欠片もないような輩が……?ありえん」


 なぜかエドが怒りの表情を浮かべ、取り巻きの二人が震え上がった時だった。リンが耳をピクピクと動かした。


「ミナト!山の向こうから声が聞こえるよ!」


「声?そりゃ魔物が居る山だもの。遠吠えくらいは聞こえるさ。ミサーク大森林でも……」


「違うよ!これは人の声!悲鳴が聞こえるの!助けてー!って」


「何だって!?」


 それと同時にリンが指差す方向の山の斜面から火の玉のような物がうち上がったのが木々の間から確認できた。


「あれは……救難をしらせる花火か!?」


 冒険者パーティは危機に陥った時のために打ち上げ花火のようなアイテムを携帯している。打ち上げれば夜でもおおよその居場所がわかるのだ。今、チェス山に入っているのは俺達のパーティ以外は一つしかない。これが意味するものは……。


「頼む、ギース達を助けてくれ!嫌な奴だがあいつに死なれると俺達が領主様に殺されるんだ!」


 取り巻き達が青い顔をして訴えてくる。


「ああもちろんだ。俺達に任せておけ!いくら仲が悪くてもピンチとなれば話は別だ。なぁ、ミナト、リン!」


「行こう、ミナト!ギース達が危ないよ!」


「ああ、あいつらとはいさかいはあったけど、同じ受験者には代わりはない。エド、ジョリーナ。これから助けにいこうと思うけど構わないか!?」


 事態が深刻な事は二人も分かっている。無言で頷いた。そしてレオが真剣な眼差しで口を開いた。


「ミナト、一つ頼みがある。今度はお前がリーダーになってくれ」


「え?俺がかい?」


「そうだ。ミナトやリンは気配探知で回りの情報がわかるだろう。俺達はミナトの指示に従う」


 レオからの提案にエドとジョリーナを見る。二人もまた無言で頷いた。


「分かった!それじゃすぐに向かおう!リン準備はいいかな?」


「任せて!敵が来たらすぐ報せるし、襲ってきてもリンの光刃でシュババババって倒しちゃうから!」


 鼻息荒いリンを見て皆の緊張がほぐれた。


 周囲が見えるようライトの魔法を最大限で発動した後、俺達は火の玉の上がった方角を目指し、山道を走り出した。










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