幕間 追憶
……ここはミサーク大森林の中。ここでゲッコウとフィンがキャンプを張っていた。
「あ、師匠!戻ったんですね!用事は済んだんですか?」
「ああ。お前も私が居ない間、きちんと修行していたか?」
そう尋ねるゲッコウに、出迎えたフィンは誇らしげに胸を張る。
「へへっ、バッチリですよ!レッドボアなんて楽勝っす!早くミナトを超えないといけませんからね!」
ゲッコウの質問に自信満々で答えるフィン。彼の足元には、彼が仕留めたレッドボアが転がっていた。
「ほう、なかなかの大物だ。頑張ったな、フィン」
フィンがゲッコウを師匠と仰ぎ、一人前の冒険者になるべく修行を初めてはや一年。言動こそ弟子入りした当初とあまり変わらないが、その実力はめきめきと上達してきていた。
フィンは命じられた「単独でミサーク大森林の魔物を狩る」というミッションを終えたところだった。「フィンを一人前の冒険者に鍛える」という目標は、すでにその行程の大半を終えている。
「ところで師匠。用事ってのはひょっとしてその大剣ですか?」
「ああ。これが私の新しい得物だ」
ゲッコウの背中には、大きな体躯に似つかわしい大剣が収まっている。
「お~!新しい武器ってわくわくしますよね!俺もこんな中古のアーミングソードじゃなくて俺専用の剣が欲しいんですけどぉ……」
何かを要求するように流し目を送るフィン。
「ははは、まだまだ早い。今は武器より基礎能力を高めるのが大切だ。その時がくればお前に合う武器を見繕ってやる。まぁ、今のうちに「これだ」と思う武器を定めておけ」
「ちぇっ、師匠はいつも「まだ早い」って、そればっかりなんだから……。あれ?でもそれ、かなり使い込まれてるみたいですけど、わざわざ中古品を買ったんですか?ちょっと見せてくださいよ」
大剣を受け取りじっくりと観察する。
「う~ん、前の剣と同じ片刃だし、長さもあんまり違いはないし、どうしてこの剣に替えたんですか?」
「ふふ、……これはな、今は亡き私の師匠が使っていた大剣なんだ」
「え、……ええっ!?師匠に師匠がいたんですか!?」
「それは居るだろう。でなければ誰が私に剣を教えたんだ?」
「そこはあれですよ。リザードマンのパワー!で無理やり……」
「……お前は私をそんなふうに見ていたのか?いくら力が強かろうが正しく扱う術が分からなければ、剣を持ってもなんの意味もないだろう。私に戦いの何たるかを教えてくれたのが私の師匠だ。その師匠の形見の剣なのだ。これは」
「は~。てことはかなり前の剣なんすね?その割に錆は無いし、刃こぼれもないな。まるで最近まで使われていたみたいに見えるけど……。そうだ、師匠の師匠ってどんな人だったんですか?やっぱりリザードマン?」
「いや、人族だ」
「へー、リザードマンかと思ってた。やっぱり凄い人?」
「ああ。剣においては右に出る者はいなかった」
「凄いっすね!師匠がそう言うんだから、きっと冒険者ならAランク以上の達人だったんですね!名前は何て言うんですか?」
「サイラスだ」
「サイラス?聞いたことない名前ですね。有名な冒険者は一通り調べたんですが」
「ふふ、それはそうだろうな」
一生懸命思い出そうとするフィンの隣で、ゲッコウは含み笑いを浮かべていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話はゲッコウがミナトと初めて会い、双子山に連れていった時に遡る。
「サイラスとは……。懐かしい名じゃのう」
ゲッコウからの「サイラスという名をご存知ないか?」との問いに、まるで卵を乗せたような白い頭の老人は白い髭をしごきながらそう言った。
その前日、ミナトというテイマーの少年に会った。地下組織に狙われていた彼らにゲッコウは自身の家を譲った。双子山のヌシと呼ばれる老人に会ったのはその翌日の事だ。
「それでは向こうで話すとしようかのぉ。よっこいしょ、と」
そう呟くように話しつつ家を出た老人は、ゲッコウを双子山へと誘う。それに導かれるようにゲッコウもその後に続いた。
「サイラス……そういえばそんな名前を名乗っとったのぉ」
老人の先導で双子山を登っていく。昨夜、ミナトはこの山に入り、幻を見たというがゲッコウが辺りを見回してもそれらしき物は見られない。
「幻術が気になるか?安心せい、お主には見えぬよ」
ゲッコウの気持ちを察したようにその老人が話しかける。見た目は仙人と錯覚しそうになる程で、どう見ても老境の人物であろう。だが、それに見合わず足色は速い。そんな彼にゲッコウは師匠であるサイラスとの出会いから共に過ごした日々を話した。老人はほうほう、と実に楽しそうにゲッコウの話を聞いていた。
「……失礼ながら御老人、貴殿は我が師匠とどの様なご関係で?」
「どのような……。そうじゃな、苦楽を共にした仲間……とでも言うべきかのぉ。まぁ、奴にはだいたい「苦」ばかりをを味わわされたがな。奴はわがままで乱暴でおまけに酒癖が悪い。奴には散々、振り回されたからな。それはお主も一緒じゃろ?」
「それはまぁ……」
ゲッコウは思わず言葉を濁した。確かにサイラスは自己中心的なところがあった。弟子になったゲッコウに昼夜とわずあれこれ雑事を言いつけるし、わがままで理不尽だと思う要求も多かった。さらに酒癖が悪かった。たまに街の酒場行けば酔って他人に絡むし、その挙げ句に口論になって大喧嘩になる。衛兵の世話になったのも一度や二度ではなかったのだ。
「ほっほっほ。隠さずともよい。それでお主は、ハロルドに会いに来たんじゃろ?」
「師匠に言われたのです。「俺が死んだあと、何かあればバーグマン家のハロルドを訪ねろ」と」
「ハロルドのぉ、冒険者でバーグマン家の当主か。しかし、もう随分と前に死んでおるぞ?」
「師匠はこうも言っていたのです。「もし、あいつが死んだと聞いても信用するな。あいつは殺したって死ぬようなタマじゃない」と」
ゲッコウがそう言うと老人は可笑しそうに笑った。
「あやつらしいのぉ、自分こそ殺しても死にそうもなかったくせに」
ニコニコと穏やかな表情を崩さない老人をゲッコウはじっと観察した。ゲッコウは自身の観察眼に自信を持っている。彼の人生の経験、そして師匠の世話を焼いているうちに相手が今、何を求めているかが分かるまでになっていた。
しかし、この目の前にいる一見穏やかそうに見える老人が何を考えているのか、彼の洞察力をもってしても探ることが出来なかった。
山を登るうち、いつの間にか霧が現れ、周囲にたちこめていた。霧は山を登るごとに濃くなっていく。気がつくと濃い霧に隠されたように、目の前を歩いていた老人の姿がかき消えていた 。
歩みを止めたゲッコウが背中の大剣の柄を掴む。この山には良くない噂が絶えない。それに突然現れた霧だ。油断なく周囲の気配を探る。
と、霧の向こうから一人の男が音もなく現れた。
「やぁ、良い霧だね」
にこやかに笑う男。端正な際立った顔立ちの男はまるで警戒することもなく、臨戦態勢を崩さないゲッコウに近づいていく。
「こういう時、迂闊に動けばかえって悪い結果を生む。そして、この状況にも冷静でいられるのは君がそれだけの経験に裏打ちされているからだね」
「……貴殿は何者か?ご老人はどうした?」
「老人?ここに居るのは私一人だよ」
いつでも抜剣できるよう構えを崩す事なく、ゲッコウが問う。彼が刃を閃かせれば瞬時に頭から真っ二つに出来る、それほど至近距離にまで、男は近づいていた。
「いやぁ、その隙のない構え、その気迫、惚れ惚れするね。さすがサイードの弟子だ」
ゲッコウは背筋に寒気を覚えた。臨戦態勢をとっているにも関わらず、何もできずに懐まで飛び込まれたのだ。どれだけ圧をぶつけても何事もなかったように受け流されてしまう。例え抜剣してもこの男なら苦もなくかわしてしまうだろう。そんな予感がゲッコウを支配しはじめていた。
「私の師匠はサイラスだ。サイードなどという名ではない」
「ははは、それはそうだろう。サイラスは偽名なんだから」
「何だと?」
「サイラスの本当の名はサイードだ。昔はセイルス五英雄、聖剣のサイードなんて呼ばれたんだよ」
「聖剣のサイード……?……私の師匠が英雄?」
「そう。でも彼は「俺にとって英雄なんて称号は面倒なだけだ。俺は好きに生きて、好きに死ぬ」。そう言って名を変えて私達のパーティ「鋼の翼」から去った。あ、ちなみに私はハロルド。サイードとはパーティを組んでいたんだ。君の事は彼から聞いているよ。よろしくね、ゲッコウ」
そういって笑顔で右手を差し出すハロルド。
その毒気のない笑顔に警戒していたはずのゲッコウは、気がつけば自らの右手を差し出しハロルドの手を握っていた。
ゲッコウ程の実力者であれば、おのずと相手の力量を推し量る技術に長ける。その時、ゲッコウは確かに覚っていた。この人物は師匠と同じ高みにいる、と。
ややもすると優男にも見えるハロルドの手を握りしめたゲッコウは、まるでドラゴンの腕を掴んでいるかのような錯覚を覚えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど、エンゲージモンスターねぇ。それでサイードが君のせいで死んだと……それが君の心残りだという訳か」
「私は元々、蜥蜴族の者。小さな身体だった私は師匠の力により、この身体を得たのです」
ゲッコウはハロルドに自らの生い立ちを話した。
彼は蜥蜴族という種族の出身だった。力を重んじる蜥蜴族に置いて、身体が小さく力の弱いゲッコウは疎まれ、蔑まれた。
こんな村には居たくない。いつか見返してやる。そんな思いから蜥蜴族の村から逃げるように飛び出したゲッコウ。その旅先で出会ったのがサイラスだった。
同族から蔑まれ、苛められるうちゲッコウには、知らず知らずの内に相手の表情を読む力と力量を推し量る能力が身に付いていた。そしてサイラスを一目見てただ者ではないと直感したゲッコウは、弟子入りを志願したのだ。何度も怒鳴られ追い返されたが、ゲッコウは諦めなかった。
やがて追い返すのが面倒になったのか、サイラスの身の回りの世話をする条件で、何とか弟子入りを認められた。
ゲッコウには夢があった。「いつか蜥蜴族の最高到達点であるリザードマンになりたい」と。その為にサイラスの弟子、そして従魔となったのだった。
「そうか。君はサイードの従魔だったのか。確かに蜥蜴族は獣人とされているが体内に魔石を持つ種族だからね。エンゲージモンスターになれば身体を変化させる事も可能なわけだ」
「エンゲージモンスター」とはマスターが従魔に力を与える事で、従魔に様々な変化が生じた従魔の事だ。能力が向上したりスキルを覚えたり体格が変化する従魔もいる。マスターと従魔が強い信頼関係にあればあるほど、そしてマスターが与える力が多ければ多いほど従魔の能力が増す。
しかし、マスターが使えるのは生涯で一回きり。そして能力を与えたマスターは数日間は動けない。更に従魔契約は切れ、再度、従魔から契約を申し込む必要がある。強い力を手に入れてもなおマスターに従うという意志を示した強い絆で結ばれた従魔だからこそ「エンゲージモンスター」と呼ばれているのだ。
「マスターが従魔に与える力は、リスクが大きい程その振れ幅も大きい。体力、魔力、寿命、そして命……。身体を変えるのは、並大抵の物では得られないからなぁ」
腕を組んだハロルドが思案顔でうんうんと頷いた。
「振り返ってみれば私は、自身の欲の為に師匠に近づいたのです。そして確かにそれはなし得た。しかし、その結果、師匠は……」
「間もなく亡くなったんだね?」
「あれ程自身が望んだリザードマンになれたというのに、師匠が亡くなって以来、心にぽっかり穴があいたようになりました。ふと思ったのです。「私はリザードマンになりたいのではなく、この人の相棒になりたかったのてはないか」と。師匠は、私にほとんど剣を教えてはくれませんでした。「見て盗め」が信条の人でしたから。しかし、あの人がいた時間は、村に居た時よりずっと楽しかった。師匠が私が作った料理で「旨い」と言ってくれる事がどれだけ幸せだったか、亡くなって初めて思い知ったのです。私があの契約の時、「リザードマンのようになりたい」などと言っていなければ師匠は今も……」
ゲッコウの心には「師匠を利用してしまった」という負い目が今も巣食っていた。その容姿から人族に怖がられても人を助けようとするのは、その罪滅ぼしの為だった。
「ゲッコウ。サイードが亡くなったのは君のせいじゃない。そもそもあのサイードが簡単にエンゲージ契約なんて結ぶはずがない。それに本来、彼はもっと早く亡くなっていてもおかしくなかった。彼にかけられた呪いのせいでね」
「師匠が呪いに?」
「そう。魔物爆発的発生の際、私やサイードは「鋼の翼」のメンバーと一緒に発生源のダンジョンに潜った。その際深部でサイードは、とある魔物から死の呪いを受けたんだ。これは余命一年で身体がどんどん劣化していく遅効性の呪いでね。私達のパーティには薬師もいたがその力をもってしても呪いを解くことが出来なかった」
その話はゲッコウにとって初耳だった。
「ダンジョンは攻略でき、私達は英雄と祭り上げられた。そんな中、サイードは私達のパーティを抜けたんだ。彼は死に場所を探していた。余命は一年。虚しく朽ち果てるより戦いの中で死にたいと望んだ彼を引き留める事は誰にも出来なかった。そんな彼が三年後に私の元へ現れたんだ。本当に驚いたよ。そう、君が弟子入りしていた時期だ」
「では、師匠はあの時、既に呪いで身体が……」
「ああ。でも旅立つ前はあんなに思い詰めた顔をしていたサイードが、付き物が落ちたようにスッキリとした顔をしていたからね。彼が言っていたよ。「口うるさい弟子が、やれあれを食え、これを食え、と体に良いもんばかり食わせるもんだから全然死ねねぇよ」って。とても楽しそうにね」
ゲッコウはサイラスと接するうち、彼の表情からコンディションを察する術を身に付けていた。だからそれに合わせ食材を調整し、調理していたのだ。
「それにしてもあの好き嫌いの激しいサイードが、君の出した食事は何でも食べたって言うんだからねぇ。私達からしたら驚き以外の何物でもなかったよ」
昔を思い出したのかくっくっと笑うハロルド。
「そうか……。そう言えば最初の頃、食べながら顔をしかめていることがあった。あれはやはり不味かったのか……いや、しかし……」
「サイードはこう言ってたんだ。「不味い、なんて言おうもんなら自殺しそうなくらい不安げな顔で毎回毎回こっちを見てるんだ。そんな事、言えるはずないだろ。我慢して食い続けているうちにいつの間にか、あいつの飯が旨く感じるようになってきちまった」ってね。パーティにいる時は文句ばかりで、そんな事言った事もない奴がだよ。いや~、あの時は自分の耳を疑ったなぁ」
「師匠は、我儘で、歯に衣を着せるような物言いをするような方ではなかった。その彼が食事はいつも残さずに「旨かった」と。てっきり、好き嫌いの無い方なのだと……」
得心がいかず首を傾げるゲッコウ。そんな彼を見つつハロルドは表情を改めた。
「私は君に感謝してるんだ。彼が最後に幸せな余生を送れた事にね。最後に会った時、彼はこう言ったんだ。「俺は戦い以外は何も出来んロクデナシだ。昔、何人か弟子を持ったが最後まで俺についてきてくれたのはあいつだけだった。死ぬまで一年と言われた俺が、あいつのお陰で三年も余分に生きることができた。しかし、さすがにもうダメだ。ただあいつに貰った分くらいは、あいつに返してやらないとな」って。元々、彼の身体はもう限界だったんだ。君がリザードマンの身体になれたのは、契約云々よりもきっと「互いを想う力」なんだろうね。私はそう思っているよ。私もパーティのリーダーとして最後を看取ってくれた事に感謝している。ありがとう、ゲッコウ」
穏やかな口調で話しかけるハロルド。そこには自分に代わって晩年を過ごしてくれたゲッコウに対する感謝と敬意が込められていた。
「あとひとつ、君に渡すものがある。サイードから君に渡してくれ、とね」
「……!これは師匠の!」
ゲッコウの目が見開かれる。ハロルドが差し出したのは見覚えのある一振りの大剣だった。
「ああ、サイードの使っていた大剣だよ。最後に会った時に託されたんだ。それとこの手紙はサイードから君へだ」
ハロルドから渡された手紙を開くとそこには、拙い文字でこう書かれていた
『すまん。俺の身体は限界でな。もう一緒に戦う事はできない。ただもし、俺の力が必要というならこいつを使ってくれ。こいつならお前といつでも一緒にいられるからな。ゲッコウ、お前は俺の大切な相棒だ。お前と過ごした三年間楽しかったぜ』
「サイラス……師匠……!」
ゲッコウは声を上げて泣いた。自分はずっと足手まといだと思っていた。しかし、サイラスはこんなにも自分を大切に思ってくれていたのだ。ゲッコウの流した涙がこぼれ落ち、小さな葉っぱを揺らした。
……その後、ゲッコウは大剣をそのままハロルドに預けた。まだ自分は師匠の相棒に足る力量がない。いつか師匠と呼ばれるまでになったら受け取りにくる、と。
そんなゲッコウにハロルドは暫くの間はここに留まる事を提案した。
「あの若いテイマーを見ただろう。なんとも面白そうな二人だと思わないかい?ただどうにも世間知らずなところがあるんだよ。私はここから離れられないし、君がしばらく面倒をみてくれないかな?」
そう言われて引き受けた。弟子だったリザードマンが師匠と呼ばれるようになるまで、あと少しだけ時が必要だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「師匠。どうしたんですか?ぼーっとして」
「いや、何でもない」
「俺、決めたんです!将来、使う武器!師匠と同じ大剣にします!だから師匠が今まで使っていた大剣を下さい!」
意を決した表情のフィン。
「何、大剣?しかし、体格的にお前には……」
「師匠言いましたよね?「これだ!」と思う武器を決めておけって。俺、ピンと来たんです!それに同じ武器なら師匠だって教えやすいですよね?それに俺、「筋力強化」と「重心移動」のスキルを取ったでしょ?これなら大剣だって扱えますよ!」
「まぁ、確かにそうだが……」
「なら決まりですね。一人前になったら師匠の剣を譲ってくださいよ!」
「……分かった。一人前になって私の元から独立する時にな」
「独立?何言ってるんですか。師匠も一緒に来るに決まってるでしょ?」
「……は?」
「俺が一人前になったら師匠と俺で冒険者パーティを組むんです!」
「お、おいおい」
「前にも言いましたよね?俺、師匠の相棒になりたいんです!一人前ということは正式に師匠の相棒として認めて貰えたってことでしょ?師匠に助けてもらった時からずっと思っていたんです。俺、師匠と一緒に冒険に行きたいんです!」
「フィン……」
「あ、パーティ名も考えたんです「ダブルソード」!それか「ゲッコウズ」!」
「……最初の案では他の冒険者が入れないだろう。もう一つは問答無用で却下だ」
「え~!?待ってください、今考えますから!じゃあ、じゃあ……」
必死で考えを巡らすフィンに苦笑する。
「やれやれ、弟子になったら師匠に振り回され、師匠になったら今度は弟子に振り回されるのか。つくづく心が休まらんな」
「え、何か言いました?」
「いや、何でもない。全く、パーティ名を考えるより先にお前にはやる事があるだろう?さぁ、午後の修行だ」
「分かってますよ!早く一人前の冒険者になるんです!」
勢い込んでそう叫ぶフィンに苦笑しつつ、優しい眼差しを向けるゲッコウだった。




