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33話 アラバスタ



「わぁ……。す、素敵な礼拝堂……。こ、こちらにパナケイア様の像が……?」


「はい。ここは礼拝堂と診療所を兼ねてます。領主であるルカ様が支援して下さって、これだけ立派な建物ができたんですよ」


「り、領主様が……えっと……すごい、です」


 ちょっとキョドり気味なアラバスタ。彼女は過去に存在していたヨディナ王国の元聖女だ。年齢は18歳。昨夜は彼女を癒やしたあと、俺は気を失った。目が覚めたのは次の日の昼前、その間はずっと彼女がつきっきりで看病してくれていたらしい。


 アラバスタの身体の方は、俺のヒールにより癒やされていたようだが念のために、ビアトリスからもらったキュアポーションも飲ませた。これでもうアラバスタは大丈夫だろう。


 俺達の目の前にはレンガ造りの荘厳な礼拝堂がそびえている。俺の新しい住まいの屋敷の隣に並行して建っている礼拝堂。どちらも外観は既に完成し、内装もほぼ終わった。あとは開館の式を行い、引き渡すだけの状態になっている。


「じゃあ、中も見てみましょうか。案内しますよ」


 俺とリンはアラバスタを伴い、礼拝堂に入る。


「これは……」


「おー!前よりすっごい豪華だね!それにあの窓、すごくきれー!」


 初めて中を見たリンが歓声をあげた。礼拝堂には教会のように長椅子が規則正しく配置されており、床も傷一つなくピカピカだ。奥には教壇のような台と祭壇には女神パナケイアの像が佇み、その後ろには採光のため、色とりどりの光を讃えたステンドグラスをあしらった巨大な飾り窓が取りが取り付けられている。


 パナケイアさんが降臨して以降、ここを訪れたいと言う人が目に見えて増えた。それは実際にパナケイアさんをその目で見た人達から人づてに伝わっていく。


 まるで池に投げいれた石が起こした波紋のように、バーグマン領の人々に伝播していき、巡礼したいと言う人が増え続けている。この礼拝堂が建った事で、そういう人達の声にもやっと応えることができるのだ。


 礼拝堂に安置されたパナケイアの像は、ノースマハの新進気鋭の芸術家ハイローの手によるもの。彼は降臨の場に居合わせた領民の一人で、パナケイアさんの姿を見て感動し深く帰依した一人だ。


 彼が自分の作品をぜひ安置させて欲しいと俺に願い出た為、彼のアトリエに行ってみた。パナケイアさんの姿からインスピレーションを得たというその像は、俺から見ても神々しく、女神パナケイアの姿を体現している渾身の一作だった。そんなわけで俺も即決で了承し、晴れて礼拝堂に安置する運びになったのだ。


「私の作品が礼拝堂に安置される事になろうとは……!ああ、パナケイア様!私は生涯でこれ程、幸福だった事はありません!あの神々しくも、どこか可憐な御姿!そして包み込むような暖かき慈悲の御心!そして我々のような者にまで向けてくださったあの笑顔!このハイロー生涯忘れる事はございません!」


 礼拝堂に安置された自身が作り上げた像の前でむせび泣いているハイローを見ていると、改めて降臨の影響の大きさを感じた。


 実は彼、周囲からはちょっと変わり者として見られていた。彼は彫刻もやるけど絵も描く。その絵がなんというか妙に現代的なんだよね。絵画的な絵ではなく、デフォルメ的というか漫画的というか、日本人の描くような絵で、あまりの懐かしさに胸がきゅんとしてしまった。俺はもう見る事の出来ない懐かしい日本……。まぁ、そんな感じの絵を描いているおかげで、彼は周囲からなかなか認めてもらえなかったらしい。でも、俺の心にはバッチリ響いてしまった。


 今、彼にはウィル率いる騎士団の団旗のデザインをお願いしている。こちらの要望は伝えてあるからきっとナイスな仕上がりになっているだろう。今から楽しみだな。


「アラバスタさん。この礼拝堂には診療所も併設しています。診療所で、俺達が治療をしていたんです。回復魔法……ほらアラバスタさんにも使ったヒールと薬草とかで……。いや、簡単な治療しかしてなかったですけどね」


「えっ!?」って感じでアラバスタが俺をみる。何か驚くことあったかな?


「あ、それでミナトさんはその御布施で……」


「いいえ。元々お金はもらってませんよ。元々ここに来る人は、治癒院に通うお金がない人達なので」


 するとまたアラバスタが驚いたように俺を見た。話してみると時折、会話がどもったりキョドったりする。彼女はコミュニケーションが苦手なのかも?



挿絵(By みてみん)




「えっと、アラバスタさんの時代は、回復魔法は貴重だったんですか?お金をとって治療する施設があったり?」


 そう聞くと彼女はコクコクと頷いた。


「まぁ、別に俺も特に慈悲深いとかじゃなくて、それがパナケイアさんへの信仰につながるからやってるんですよ。まぁ、人助けですかね。実のところ割と打算的なんですよ」  


「そ、そんなこんな事はありません!立派な心がけだと思います!」


「おわっ!?」


 突然大声をだしたアラバスタにびっくりする。それに気づいたのか顔を真っ赤にして「あ、す、すいません!すいません!」と謝ってきた。


「ははは。大丈夫ですよ。ところでアラバスタさんはこれからどうするつもりですか?……もしあてがないようでしたら、俺からお願いがあるんです。この礼拝堂の(おさ)になってもらえませんか?」


「えっ!?私がですか!?む、無理です無理です!!」


 これ以上ない程、慌てた表情でわたわたと手を降って拒否するアラバスタ。


「でも、聖女であるアラバスタさんならきっとこの礼拝堂をお任せできると思いまして。生活するための設備も揃ってますし、診療所も聖女の貴女なら……」


「む、無理です!私が人と話すなんて!」


「じ、じゃあ、診療所は?回復魔法が使えれば、話をしなくても何とかなるし……」


「ダ、ダメですダメです!だって私はまだ回復魔法を習得できてないんですから!」


「え、そうなんですか?」


「ミ、ミナトさんがそう思われているように、聖女は回復魔法ができて、と、当然と思われています……!でも、私はできなかった。人々を癒やすこともできない。ミオ様のお言葉を聞いて、ようやっと他の人に伝えるのだけで精いっぱいだったんです!それでも前任の聖女様が私を……っ。素質があると、推して下さったおかげで、わ、私が次の聖女になる事ができて……!」


 俺は責めてるつもりはなかったんだけれど、アラバスタは涙ぐみながら一生懸命早口で説明する。

 

 その時だった。


「自分を責めなくとも良いのですよ。聖女アラバスタ」


 礼拝堂にどこからともなく声がひびきわたった。


「ミナト!見て、像がキラキラ光ってる!」


 リンが指さす先。なんとパナケイアの像が自ら発光していた。それはまるでパナケイアさんが降臨した時のような輝きをはなっている。


 ということは……。


「お久しぶりですね。ミナト、リン。元気にしていましたか?」  


「うん!ミナトもリンも元気だよ~!」


 やはり声の主はパナケイアさんだった。パナケイア像から声だけを俺達に届けているみたいだ。


「あ、ああ、あの像から声が……?まさか……!?」


 キラキラと光る像と俺を交互に見つつ、アラバスタが恐る恐る聞いてきた。


「そう。このお声はパナケイア様……。俺が仕えている女神様です。俺は女神パナケイアの選定者なんですよ」


「え……、ええー!?女神様!?み、ミナトさんも女神様とお話ができるんですか!?」


「ええ。念話だったり、代わりの使者が来たりする時もありますけど」


「ひ、ひえっ……!み、ミナト様、まさかパナケイア様から直々に任命された選定者様とは……!知らずご無礼の程なにとぞ、お許しください!」


 顔面蒼白になったアラバスタが頭を下げる。


「ミナト様はやめてくださいよ。そもそも選定者だから何が変わる訳じゃないですし。それにアラバスタさんだって聖女じゃないですか」


「で、でも、私はまだ回復魔法も覚えていない未熟者です!その聖女を名乗るなんて……おこがましく……!」


 そう言ってうつむくアラバスタ。やっぱり聖女といえば回復魔法か。アラバスタは素質はあるようだけどさ。女神ミオの声も聞けていたようだし。


 と思っているとパナケイアの像がまた煌めきだす。


「……アラバスタ。では回復魔法が使えれば良いのですね?……そうですね、ミナト。あなたに授けたスキル「エリアヒール」をアラバスタに譲渡してはどうでしょう?」


「あ、なるほど!そうすればアラバスタさんがエリアヒールが使えますね!もちろん大丈夫です!この魔法俺には使いこなせなかったし……」


「え、何故です?ミナト??」


 俺の返事に驚いたのか、パナケイアさんが普段の口調で聞き返してくる。


「あの、俺、何回か試してみたんですけど、いつも魔力使い切っちゃって倒れちゃうんですよ。周りにいる全員を回復しようとすると、ものすごい勢いで魔力が吸われていく感じになって……?う~ん。とにかく、俺の回復魔法は対象に触れてないとイメージが上手くできないんです。せっかくパナケイアさんに授けてもらったのに……」


 エリアヒールは発動した者の周囲にいる人達を癒やす範囲魔法で、ヒールの上位互換にあたる。ただ俺は唱えるたびに魔力が枯渇してしまいぶっ倒れてしまう。こりゃ今の俺では使えないと、使用は諦めていたのだった。


「そうだったんですか。ああ、だから今もずっとヒールを使っていたんですね」


「俺のイメージが俺の魔力以上になっちゃってたのかもしれないんですけど、加減が難しくて」


「確かにミナトの魔法はイメージですから、普通の詠唱魔法とは違った出力なのかもしれませんね。でもそれなら譲渡に問題はないですね」


「了解です。……と、いう訳なんでアラバスタさんにエリアヒールを譲渡したいんですけど、いいですか?」


「え、え!?エリアヒールを私に!?そ、そんな!わ、私なんてそんなすごい魔法もらう権利なんてありません!」


 またあわあわするアラバスタ。その後、俺とリン、さらにパナケイアさんも加わって三人がかりで説得し、ようやく口説き落とすことに成功した。


 そして、ようやっと、おずおずとアラバスタが差し出した両手をそっと握る。アラバスタから「あっ……」と言う声がもれた。

 

「じゃあ、目を閉じて。……いくよ。「譲渡」エリアヒール!」


 俺の身体の中から何かがスルッと抜ける感覚があったそれは俺の腕をつたいアラバスタの腕を通って身体へ入っていった。


「うん、これでいいはず。ステータスを確認して下さい」


 俺に促されステータスを確認する。すると……。


「すごい……。本当にエリアヒールを覚えてる……。あれほど修行しても習得できなかったのに……。私……私……」


「良かったね!アラバスタ!」


 リンが嬉しそうに声をかけ、アラバスタが泣き笑いで答える。


 皆で喜び合い、それが落ち着いた頃、パナケイアが口を開いた。


「アラバスタ。改めて貴方にお願いがあります。ミナトに仕え、私への信仰を集めるお手伝いをして欲しいのです。あなたは聖女としての適性があります。引き受けていただけませんか?」


「俺からもお願いします。礼拝堂が開かれれば沢山の人が訪れるでしょう。俺は政務官としての仕事があって以前のようにはここに来れないんです。アラバスタさんが引き受けてくると嬉しいです。大丈夫!お手伝いしてくれる人もたくさんいるし!」


「も、もったいないです!私のような者がパナケイア様から直接お声を……。わ……分かりました!パナケイア様とミナト様にそのように言って頂いた以上、断る理由がありません!ひ、非力な身ですが……引き受けさせて頂きます!」


 決意を固めたアラバスタが力強く答えた。


「ありがとう。これで安心できます。……アラバスタ。残念ですが今のフォルナに女神ミオの気配は感じられないのです。しかし、あなたの心にはしっかりと息づいているでしょう。私の聖女となってもその信仰は捨てる必要はありませんからね」


「あ!ああっ……ミオ様……!!パナケイア様、感謝致します……!」


「それでは私はこれで。私はいつでも見守っていますよ」


 その言葉を最後にパナケイアの像から光が消え、もとの彫像に戻った。


「アラバスタさん。俺からもお礼を言わせてください。引き受けてくれてありがとうございました」


「い、いえ、こちらこそ、お願いします!きっとこうする事が、わ、私の、運命だったんです!!」


「そう言ってもらえるとありがたいです。礼拝堂には生活するための施設も整っていますから、後で案内しますね」


「は、はい!ところでミナト様は、パナケイア様と随分親しげに会話されてましたが……まさか、ミナト様は仮の姿で、パナケイア様と同じく、実は、か、かみ、か、神様なのでは……!?」


「ええっ!?ち、違っ!違います!!パ、パナケイア様がとても優しい女神様で……はじめて出会った時に他の女神様に意地悪な事を言われてて……守ってあげなきゃって……あああっ!違う、とにかく違いますからね!俺は人間です。神様ではありませんからね!」


 アラバスタの勘違いを俺は滅茶苦茶否定した。アラバスタは、急にニコニコと頷いて、何かを理解したようだった。その時は分かってくれて良かった、とホッとしていたけれどその後の態度は、パナケイア様に対する尊敬と同じものが俺に向かうようになった。どうして……どうしてこうなっちゃったの?だからミナト様っ!て目をキラキラさせるのは、やめてくれってば!







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