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殿下とヒロイン

「リンドナー様の様子が、変わったみたいですね」


 ストロベリーブロンドを揺らし、楽しそうに話しかけてくるのはキナコ・パルフェ伯爵令嬢だ。


「……ね、言った通りになったでしょう?」


 意味有りげに微笑む彼女に、ため息しか出ない。


「もっと早くに『こう』なるんじゃなかったのか?」


 苦々しくキナコ嬢に問うけれど、聞かれた彼女は何処吹く風だ。


「なぁに、誤差の範囲ですわ、アイザック様」


 キナコ・パルフェ嬢。本名を大沢 妃菜子と言うそうだ。彼女は、数年前の大規模茶会に突如として現れた異世界転移者なのだそうだ。

 曰く、この世界は『ゲーム』と呼ばれるもので、自分はその『ゲーム』の主人公である、名前はプレーヤーが任意につけることが出来るのでこんな日本名なの、と語った。

 当初は頭のおかしい不審者の侵入だと思っていた。けれど、あの警備の中突如として現れ、そして王族しか知りえない情報を知っていた。さらに、未来のことまで語り始めた彼女を、放置する事も、他国へ放り出すことも出来なかった。不敬で捕らえることもできたが、彼女のもたらす『未来』の出来事は、無理やり吐かせたところで意味がないようだった。

 彼女は、後継のいない伯爵家の養女となってもらった。王家に忠誠心の篤いパルフェ伯爵ならば、彼女を監視しつつ保護する事が可能だったからだ。

 神託のように彼女が告げる『未来』。国の中枢部は彼女の存在に沸いた。彼女との関係を強固にしようと、僕との婚約を提案する者もいた。

 そんな中、キナコ嬢は『お茶会に参加したい』と言った。事実上の婚約者選定会に参加の意向。中枢部は大いに盛り上がりを見せた。


 お茶会での彼女の行動は異様だった。何故そんなことをするのか、理解できない。異世界からの転移でマナーを知らないから……だけでは意味が通じない。彼女を咎めると、『必要なことなの』と言って笑った。

 事実、彼女の振る舞いと、それを諌めたリンドナーの行動を対比して、中枢部はリンドナーを仮の婚約者とすることに頷いた。未来の神託があるにせよ、彼女の行動はそれ以外でもあまりに突飛だったのだ。王室の信頼のために、今すぐキナコ嬢を婚約者に据えることは避けられた。


 キナコ嬢は、リンドナーに興味があるようだったが、僕としては、婚約者として関係が構築できていないリンドナーと中枢の思惑が絡む彼女が絡むのがイヤだった。彼女がリンドナーに絡もうとするたびに割って入るを何度か繰り返していると、キナコ嬢は笑いながら僕に言う。


「私の言う通りにしてれば、全て上手くいくわ」


 彼女が言うようには中々ならず、僕はずっとヤキモキしていた。けれどようやく実が結び始めたようだ。


「……さて、最後の仕上げをしましょうか」


 近頃のリンドナーの態度が変わった。出来る限り僕の傍に寄って来ようとし、にこやかに笑う。留学中の友人たちや側近候補たちがため息をつく程、リンドナーは僕の傍にやって来た。前までは脱兎の如く逃げて怯えていたのが嘘のようだ。リンドナーと話せるのは、誰かと話しているところに割って入るだけだったのが、この変わり様。何があったのか、とても気になる。


 決戦は春の訪れを祝う学生全員参加のダンスパーティーだそうだ。キナコ嬢から様々な指示が出る。僕にも考えがあるのだが……そう不満を漏らしても、『リンドナー様にはそれでは伝わらない』と一蹴される。彼女曰く、僕の考えは分かり辛いそうだ。こんなにも分かりやすいと思うのだが。


 春が近づくにつれ、学生たちの気分もウキウキと沸き立っているようだった。誰に誘われるのか、なんてそわそわしているものもいるそうだ。

 リンドナーはどう思っているのだろう。ダンスパーティーはもうすぐだった。



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