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ヒロインが現れた!

 第二回第二王子婚約者選定委員会(仮)なお茶会は、ちょっとしたハプニングがあった。ほぼ同じ顔ぶれの中に、新顔の少女が参加していたのだ。

 候補者の追加なんて普通でしょ?とお思いでしょうが、この少女、誰も顔を知らなかったのだ。


「どなたかしら?ここに呼ばれている、ということは高位貴族のはずですが、わたくし存じ上げません、リンドナーはご存知?」


 キュリアが首をかしげたように、わたしも、一緒にいたフレーミンも首をひねった。どうやら他の参加者も同様だったようで、そこかしこで、『同年代の高位貴族の令嬢ではみかけないわ』だとか、『既に婚約者が決まっていたところを破談になった令嬢なのか?』など憶測が飛び交っていた。

そしてその憶測はどんどんヒートアップしていった。新顔令嬢の所作が、あまりに大雑把だったのが原因である。こう言ってはなんだが、新顔令嬢はもう大人しく着席して微笑んでればいいと思う。ストロベリーブロンドでソーダのクラッシュゼリーのようなキラキラの水色お目目が台無しである。

 ただ、さすがは高位貴族の令嬢たちであるので、ひそひそと話しつつ、本人へは気遣わしげではあった。新顔令嬢はそのひそひそが気に食わないようではあったのだが。


 大雑把な所作で参加者の顔色を青くさせる新顔令嬢は、今回もおそらく第二王子が手配したであろうお菓子のテーブルへ駆け出した。ひそひそに対するイライラがピークに達したのだろう。お菓子に逃げたい気持ちはわたしにもわかる。……が、まだ始まっていないお茶会の菓子に堂々と手をつけるのは、完全にマナー違反だ。

 お菓子に対する礼儀のなさに、普段マナーにはうるさくないわたし(自分のマナーを言われるとドキドキしちゃうのでうるさく言えない、が本音ではあるが)でも、一言物申したくなってしまった。


「リンドナーが、行く必要ある?」


 フレーミンが心配そうにわたしを見上げる。


「この会場で誰よりも、わたしが行く必要があるのです」


 フレーミンにのみ聞こえるように言ったつもりが、お菓子に対する礼儀の無さに憤りを隠せず、少々強めに声を発してしまったようだ。

 新顔令嬢以外の参加者は、ハッとしたような顔をし、わたしに視線を向ける。わたしはその視線に、無言で頷いた。

 この時わたしは、『この会場で誰よりも(お菓子に対する愛情が勝っている)わたしが行く必要がある』というつもりで発言していた。

 しかし、こともあろうに近くにいたフレーミンやキュリアですら、『婚約者候補筆頭であるわたしが行く必要がある』ととらえてしまった、と後に聞いた。誤解もいいところである。

 それはさておき、わたしは煌びやかなお菓子テーブルに優雅に近づいた。さながら、深窓のプリンセスをエスコートする紳士のごとく悠然と。これがお菓子に対するわたしの礼儀である。

 後で聞いた話、これまた違った方向に取られてたみたいで、もうホント哀しい。


「ごきげんよう、ご令嬢。まだ始まりの口上が告げられていないお茶会。まだ手を伸ばすべきではございませんよ」


 こともあろうに、わたしが最も楽しみにしていた、あの素晴らしいクッキーを、クッキーの載ったプレートごと持ち上げようとしていたので、つい怒りをのせた声になってしまった。

 新顔令嬢は持ち上げようとしていた手をピタリと止め、いぶかしげにこちらをみつめる。『誰?』と小さく呟いたことに、冷や汗が流れる。


 え、この大きな態度、実はどこかの王族なの?それとも単に礼儀知らず?どっち?


「申し遅れました、わたくし、アルクーメ公爵が長女、リンドナー・アルクーメと申します。以後お見知りおきを。差し支えなければ、貴女の御名を頂戴しても?」


 もしものことを考えて、深く礼を取ったわたしに対し、新顔令嬢は、ぽかーん、と間抜けな音がしそうな態度を取った。


「……いかがなさいました?」


 わたしが再度声を掛けると、新顔令嬢は突然、爆笑し始めた。


「あはははは、マジか、びっくりした、悪役令嬢って、ほんとに因縁つけてくるんだね!あはははは、耐えらんない、ゲームまんま!」


 何点か、聞き逃せないワードがあったものの、それを今声高に告げることはできない。あくまで貴族として、振舞わねば。

 ワナワナと震える指先を握り締め、もう一度声を掛ける。


「ご令嬢、そのように大きな声をあげるものではございません」


 うん、叫びだしたくなるの、わかるわー…。けど、ここ、貴族社会の、トップオブトップの令息令嬢が集まってるの、こんな失態、今日の夕方には貴族中に広まっちゃうわよ、わきまえてぇぇぇ!


 涙目になりながら、再度声を掛けるか思案しているところに、颯爽と第二王子が現れた。さすがヒーロー、すごい場面でのご登場。隠れて見てたの?


「彼女はパルフェ伯爵の養女となった、キナコ嬢だ。みな、以後よろしく頼む」


 彼女の紹介をし、こちらに向かって歩いてくる第二王子。

 なんとなく分かったけど、このストロベリーブロンドのご令嬢、ヒロインに違いない。めっちゃ王子がかばってる。

 でも、え?なに?まだ婚約者にもなってないのに、まだ齢10にして、断罪エンドしちゃうの???


「……彼女は、先日の大規模茶会に突如として現れたんだ。協議の結果、子供のいないパルフェ伯爵が引き取ることとなった。」


 穏やかに、みんなを落ち着かせるように言葉を発しながら、こちらに近づいてくる。

 これはアレか。異世界転移なこちらの常識知らずな彼女を大目に見てやってくれアピールからの断罪か。異世界転移で、ゲームのこともバッチリならチート確定ではないか、さようならわたしの野望。


「だから、貴女に対する非礼を許して欲しい、リンドナー嬢」


 現実逃避しそうになっていたわたしにの前に、そっと王子は立った。


「みなを代表しての発言、心より感謝する」


 あー、はいはい、愛するヒロインちゃん(キナコちゃんだっけ?)が迷惑かけちゃってゴメンねー的な、彼女が悪いのに彼氏が謝って、周囲をイラつかせるアレですか。おけおけ、その態度、絶対崩してやる。


「いえ、参加者の中ではわたくしが一番の高位。代表して言葉を発したに過ぎません。過ぎた言、申し訳ございません」


 ふふふ、気にしてないですわ、な態度で王子に受け答えに、互いに表面上取り繕うことに成功した。わたしが矛を下げたなら、他の参加者も矛を下ろす以外の選択肢はない。つまり、キナコ嬢のマナー違反はお咎めなしとなった。

 同時に、この和やかなムード、……本日の断罪は回避、か……?


「模範となるべき姿を見せてくれてありがとう、リンドナー嬢。これからも宜しく頼む」


 キラキラな笑顔を見せる第二王子の耳が、うっすら赤かったのは、どう取るべきか思案しつつ、第二回第二王子婚約者選定委員会(仮)は進んでいったのだった。



*********************


悪役令嬢ものが大好きなんですが、ヒロインの扱いをどうするか迷うところです。

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