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王子様に会いました

さて、わたしことリンドナー・アルクーメ公爵令嬢が前世の記憶(ほぼ役に立たない)を思い出してから約一ヶ月。日常は劇的に変化……、しなかった。

日々つつがなく、貴族としての勉学、淑女としてのマナー、刺繍にダンス、乗馬などして平穏な日常を過ごしていた。過日行われた第二王子の婚約者候補選定委員会(仮)の結果が届かないことから、わたしは選外だったのかしら?ってことは、全部思い過ごし?と一息つきかけた矢先に、その招待状は届いた。


「……王宮で行われる大規模茶会?」


 これはイベントなのかしら。

まだ社交界デビューもしていないわたしにも届いた招待状。聞けば、近隣の王子たちや同じ年頃の高位貴族令嬢令息も参加するそうだ。勿論招待とは名ばかりで、不参加はムリであろう。


サブタイトルに『王子様がいっぱい』ってあったけど、これって平民から見れば公爵令息どころか貴族令息はみんな王子様だから、第二王子とその側近たちを指してるとばっかり思ってたわ。でもそうよね、制作日本なんだから、王子様と言えばリアル王子、国のプリンスよね。まさか本当に王子様だらけなゲームだったなんて……。


 記憶を取り戻したわたしの感覚は庶民に近い。根底には貴族的思考はあるものの、どうしても前世の感覚が混じる。何が言いたいかっていうと、そんな高貴な皆様とのお茶会なんて胃が痛い。それでも、この茶会に懇意にしている令嬢も参加することに安堵するしかないのだ。


 青い顔をしたわたしを気遣って、侍女のサリーがリリーにカフェインレスのハーブティーとクッキーの手配をさせている。心配げにわたしの言葉を待っている。


「サリー、お茶会ではお気に入りの髪型に結ってくれる?リリー、クッキーは多めがいいわ」


 お茶会参加の意向を示したわたしに頷くサリーとは対照的に、リリーは首を横に振る。


「お言葉ですがお嬢様。先程の休憩時間にもそうおっしゃって、フィナンシェを召し上がりましたので」


 クッキーは別腹よ!と訴えても、リリーはクッキーの枚数を増やしてはくれなかった。


「お嬢様には、クッキーのお腹、ケーキのお腹にプリンのお腹、チョコレートのお腹にアイスのお腹……いったいいくつのお腹があるんでしょう?」


 先程まで心配してくれていたサリーが、表面上は笑顔で、その下には冷たいものを感じる表情で問いかけてくる。どうやらここ一ヶ月でウェストが3センチ大きくなったことを咎めているのだ。


「お嬢様。肥えたことを『大きくなった』とはいいませんよ?」


 育ち盛りな10歳ですもの、大きくなった、が正しいと主張したい。


「このままですと三ヶ月後にはまん丸公爵令嬢の出来上がりですね♪」


 リリーが楽しげに、まん丸~まんまる~と唄いだした。二人がかりはズルいと思う。

 そんな考えが顔に出ていたのか、サリーが、


「正しい注意をすることを、ズルとは言わないのですよ、お嬢様」


 たしなめられた。さすがサリー、伊達にずっと仕えていない。

 しぶしぶクッキーの追加を諦め、お茶会に関する準備を進めるわたしなのであった。



*********************


 大規模茶会は、王宮のメイン庭園で開催された。美しい花々に囲まれ、青々とした手入れされた木々に、感嘆の言葉しか浮かばない。そこに陛下や王妃、第一王子に第二王子、近隣諸国の王子様方、見目麗しい貴族の皆様、可愛らしく天使のような令息令嬢。皆様煌びやかに整えられた様相に、きらきらしくて(造語)目がつぶれそうです。

 格言うわたしの両親、アルクーメ公爵夫妻も、そりゃあもう素敵です。ダンディーで威厳あるお父様はチョコレートブラウンの髪を撫で付けた髪型で、べっ甲飴のような黄金の瞳、すらりとした長身です。お母様はマシュマロのような白いもちもちとした肌で、クリームソーダ色の瞳、添えられたさくらんぼのごとき唇は、お父様を魅了してなりません。チーズケーキを思わせる柔らかな色合いの髪は、本日軽やかに下ろしております。こんなに素敵で美味しそうな両親にわたしで、本当に申し訳ありません。


「リンドナー。先日の茶会のこともある、今日は王族の方々には挨拶程度で、あとはヘルメス侯爵令嬢とウェッジウッド伯爵令嬢と行動を共にしていなさい」


 お父様から、挨拶後は仲良しと遊んでいていいと許可が出た。先日の婚約者選定委員会(仮)の結果が出ていないから、下手に動いても面倒と思っているようだった。

 ちなみにお父様からは『ずっとウチにいていいんだよ。王族に嫁いでしまったら、滅多に会えなくなってしまうから』と、婚約者にならなくてもいいと言われている。お母様は『リンドナーちゃんの可愛い赤ちゃんは見たいから、できれば結婚して欲しいけど、婿を取って領地で暮らせばいいのよ』と、これまたのほほんとしている。

 公爵家の跡取りは10歳年上の兄と決まっていて、わたしはお父様の持つ爵位をもらい領地にとどまる案が両親の第一希望なようだ。我が公爵領は比較的安定していて、政治的にも中立、穏やかで、権力抗争とは一線を引いている立場である。第二王子の婚約者にでもなったら、自動的に権力抗争に巻き込まれかねない、できればご遠慮願いたい!という方針だ。

 こうなると不思議なのは、何故わたしが悪役令嬢ポジションなのか、というところだが……、ゲームのリンドナーは第二王子が好きだったんだろう、という事で片付けた。現実とは違うことをウダウダ考えても仕方ない。


「先日ぶりです、殿下」


 お茶会ぶりに顔を合わせる第二王子は、アイザック様とおっしゃる。

アイザック・ウィンチ様。正妃様のご子息で(第一王子は側妃様のご子息)、語学堪能、わたしの一つ年上、わたあめのようなプラチナブロンド、コーラの如く濃い茶色…黒?な瞳の持ち主だ。

 わたしは婚約者でもないため、殿下の御名をお呼びする許可は出ていない。なので本日お会いする王族の皆様方へは基本『殿下』でいい。名前を一々思い出さなくて良くてラッキーなんて思っていないんだからね、ちゃんと貴族らしく一応覚えていますとも、全員。


「アルクーメ公爵、夫人お久しぶりです。アルクーメ公爵令嬢、リンドナー嬢とお呼びしても?」


 殿下はにこやかに両親と挨拶を交わし、わたしにも話しかけてくる。


「もったいないお言葉です、殿下」


 良いですよ、とも止めてください、とも取れる曖昧な言葉でにこやかに応えるわたし。正直、距離をつめる気はないが、婚約者になるかもしれないこの第二王子を惚れさせてこっぴどくフりたいわたしは、チェシャ猫のような態度で翻弄するつもりで言葉を発したのだった。


 一瞬面食らった王子だったが、軽やかに立て直し、


「リンドナー嬢、あちらにあなたのお好きなクッキーがありましたよ」


 と、素晴らしい情報をくださった。


「あら素敵です。先日のお茶会での茶菓子も、殿下のセンスが光るセレクトでしたが、本日のお菓子も……?」


 先日のお茶会で、主催のアイザック王子は参加者の好みを調べ、自ら茶菓子を手配したと言われていた。なかなかデキる王子だな、などと謎目線の評価をした覚えがある。それと同時に、この調査力、おそらくゲームでは腹黒担当に違いないと当たりをつけていた。


「ああ、ご存知だったのですか、お恥ずかしい。先日と同じく、今回の菓子も私が用意したものです」


 殿下は軽く答えたが、本日の参加者は前回の婚約者選定委員会(仮)とは規模が違う。そんな参加者全員の好みを調べ……なんて、この王子、デキる!絶対腹黒枠だ。腹黒枠は天才と相場が決まっている、まじパねぇっす殿下。……恐れおののいたせいで思考が乱れましたわ、おほほ。

 この規模の茶会の一端を担うとは、齢11ながら、王位継承候補ナンバー1は伊達ではないと見える。陛下からの期待も篤いのだろう。絶対メインヒーローだ。


「では、さっそく殿下セレクトのお菓子を堪能いたします。お声がけありがとう存じます」


 当社比10倍の猫を被って、ご機嫌に挨拶する。勿論わたしの機嫌は絶好調だ。甘くほどけるような味わいのクッキー、あれがまた食べられるのですもの!おそらくいつものわたしの2倍(想定)は可愛い笑顔ができたに違いない。悪役令嬢の可愛い笑顔がヒーローに通じるかは分からないが、これも惚れさせてフるため!……お菓子のせいで実は自然にこぼれた笑みだなんて、そんなことないんだからね!


 殿下は口元を押さえ、軽くうつむきながら


「ん、楽しんで」


 と、言葉を発した後、そのまま立ち去っていった。

 ……、ん?なんだ、もしかしてわたしの笑顔、ヒットしたのか???耳赤くなかったか、王子?


 わたしの作戦がうまくいったような?手ごたえを感じつつ、その後もまずは両親と王族の皆様に挨拶をし続けるのであった。



*********************



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