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即席!! 8ページラブコメ  作者: 竹林
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リア充女子×平凡男子

 俺は上田。


 どこにでもいるごく普通の高校生だ。


 趣味、特になし。成績、中の中。


 特技らしい特技もない。強いて挙げるとしたら口笛くらい。


 と言っても親戚とかにうまいなって言われる程度だ。


 俺は物心ついた時から口笛を吹いていて、もう癖のようになっている。


 学校では吹かないように意識してるけど、家だと無意識に吹いていることがあるらしい。


 今は放課後。教室には俺ともう一人の女子が机を挟んで座っていた。


「ふー、ふー。やっぱり難しいなあ」


 そう言ってひたすら息を吹いているのは同じクラスの日野だ。


 整った容姿、嫌みのない明るい性格のため、クラスでは人気者である。


 彼女はいわゆるイケてるグループにいるのだが、俺はクラスでは中の下くらいの立ち位置だ。


 普段関わることのない俺たちがなぜ放課後一緒にいるかと言うと。


「息を吹く量より音を鳴らすのを意識すればいいんじゃないか」


「なるほど! やってみる」


 ふー、ふー。


「うーん、さっきよりはそれっぽくなったけどまだまだだなー。難しいね、口笛って」


 そう、口笛の練習をしていたのだ。


 一週間ほど前から彼女に頼まれ、放課後に彼女の練習に付き合っている。


「何回もやってるとコツがつかめてくるよ」


 とは言うものの、俺は幼少期から意識せずとも出来ていたのでコツなんてものはわからない。


 でも何回も練習すれば吹けるようにはなるだろう。


「今日で一週間かー。結構練習したね」


「ああ」


 そういえば。


 彼女に聞こうと思っていたことがあるのを思い出す。


「日野はなんで口笛を吹けるようになりたいんだ?」


 単にかっこいいからとか、友達の前で見栄を張ってしまったからとかだろうか。


 尋ねると、彼女は途端に挙動不審になりだした。


「えっと、なんでかって言うとその、えぇーっと、なんでだろうね?」


 苦笑いをする日野。


「いや俺に聞かれても」


「そ、そうだよねーあはは」


 少し考えるそぶりを見せる。


「実は、いつも上田君の口笛を聞いてて……。あっ、ちがっ! いつもじゃない。た、たまに聞いてて。それであたしも吹けるようになりたいなって。あのほんとそれだけだから!」


 慌てたように言う。


 何か隠していそうな気がするが、女子の心なんて俺に分かるわけもない。


「そうなんだ。ていうか俺そんなに吹いてた? 自分じゃ気づかないときがあってさ。」


「うん、授業中はないけど放課後はよく吹いてるよね? いつも上手だなあと思って……あ。友達から! 聞いたことがあって」


「そうなんだ」


 俺が口笛を吹いているのが何人かに知られているらしい。


 無意識に吹かないようにもっと気を付けないとだめだな。


 それはともかく、日野は先週から毎日教室に残って口笛の練習をしている。


 友達も多いだろうに、遊ばなくていいのだろうか。


 おせっかいと受け取られるかと思いつつも聞いてみる。


「毎日練習してるけど、友達とは遊ばなくていいのか?」


「え、うん大丈夫! それよりも上田君の方こそいいの?」


「ん? なにが」


「毎日練習に付き合ってもらっちゃって申し訳ないというか。その、私は……楽しいけど」


 最後は小さく早口で言い、ふいっと目をそらす。


 たしかに、練習に付き合わせる方は気を遣うよな。


 でも俺も口笛を吹くのは嫌いではない。


 どちらかといえば楽しい方だ。


「俺も楽しいから気にしなくていいよ」


「えっ!?」


 ばっと顔を上げる日野。目がきらっと光る。


「日野も吹けるようになるともっと楽しくなるよ」


「え」


「え」


「うーんと、あ! 口笛を吹くのが楽しいってことね!」


「え、そうじゃなかった? じゃあ日野は何が」


「私は二人で居るのが楽しいんだけど……。上田君は、どうかなって」


 頬を桃色に染め、うかがうように俺を見る日野。


 ん? なんだその表情。いったい何を考えてるんだ?


「えと、それってどういう――」


「~~っ! やっぱ今のなし! わすれて? 今日もありがとねそれじゃまた明日―!」


「え、ちょっ」


 日野は一気にまくしたて、てってけてーと教室から走り去っていく。


 日野の足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。


 さっきまでは聞こえていなかった、周囲の音が耳に入ってくる。


 野球部の掛け声、どこかから聞こえるトランペットの音色、廊下から響く話し声。


 俺以外に誰もいない教室で一人ため息をつく。


 一緒にいるのが楽しい、か。


 机に両腕を置き、そこに顎を載せる。


 さっきまで彼女がいたところに向かって声を発する。


「そんなの、俺も楽しいに決まってるだろ」


 面と向かって言うなんてこと、出来ないよなあ。

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