異性の友達
わたしは水川夏帆。高校一年生だ。
わたしには仲のいい男友達がいる。
「あー、やっと昼休みだー」
「四時間も座ってるのつらいよな」
「だよね」
今わたしの横で話している彼がその男友達、ユータだ。
ユータとはもう半年ほどの付き合いになる。
彼とは席が隣同士だったこと、お互い中学の時は関東に住んでいたことでよく話すようになった。
その頃のわたしは引っ越してきたばかりで、新しい生活に不安を抱えていた。
彼もわたしと同じように不安だったらしい。
同じ境遇のわたしたちはすぐに意気投合した。
初めは授業の合間や休憩中に話す程度だった。
けれどやがて放課後や休日も遊ぶようになった。
慣れない学校で唯一落ち着ける時間だったし、純粋に二人で居ることが楽しかった。
いつしか、わたしは彼のことが好きになっていた。
今は昼休み、わたしたちは屋上に続く階段に腰掛けていた。
ここには普段誰も来ない。
わたしたちはいつもここでお昼を食べている。
教室だとあらぬ噂が立ってしまうからということで、彼がここにしようと言ったのだ。
……わたしは別にそういう噂が立ってもいいのだけれど。
それにしても男女が隠れて一緒にいるのもどうなんだろう。
ユータはそのことは気にしてないみたい。
彼の感性がずれているのだろうか、それともわたしを意識していたり……。
いやないない。
前にわたしといると落ち着くって言ってたし。
好きな人相手に落ち着けるほどユータは大人じゃないと思う。
「そういえばさ、ユータは最近いい感じの子とかいないの?」
聞くのはちょっぴり怖いけど、勇気を出して聞いてみる。
「うーん、いないな。あー彼女ほしー」
いないのがわかってうれしいけど、なんか複雑。
「夏帆こそどうなんだよ。……そういう男子いたりするの?」
なぜかわたしの顔色を伺うように尋ねるユータ。
そんなに気になるのかな。
わたしがほかの男子と付き合ったら、わたしと遊べないとか考えているのだろう。
それはそれで嬉しかったりする。
「うーん、いい人かぁ」
ちら、ちらとユータの様子を見る。
いい人。つまり好きな人。付き合えそうな人。
「……いるっちゃ、いるかなぁ?」
少し声が上ずる。やだ、意識してるってばれてないよね?
「え、まじで? 誰?」
焦ったように、食い気味に聞いてくるユータ。
よかった、気づいてはいないっぽい。
「えーっとね」
どうしよう、言ってしまおうか。
ユータだよと、わたしの好きな人はきみだよと。
最近はほぼ毎日遊んでいるし、今日もこうして二人だけで昼休みを過ごしているのだ。
付き合うとまではいかないと思うけど、わたしの気持ちは受け入れてくれるかも……。
いや、だめだ。ユータはわたしのことをただの友達としか見ていない。
それにここで告白して今の関係が壊れるのが怖い。
せっかくユータと、好きな人と友達でいられるんだ。
友達だからお昼を一緒に食べたり、放課後に遊んだり、こうして二人で話すことができる。
付き合えなくても、二人でいられればそれでいい。
それでわたしは満足だ。
少し息を整える。ふぅ。
「ユータだよ」
「えっ……」
「な、なーんてね! だまされた?」
「なんだよ嘘なのか! だ、だまされたー! ははは!」
「あははー、ひっかかった!」
「ははは!」
笑いながら、悔しがるふりをするユータ。
気のせいかいつもよりオーバーリアクションな気がする。
ふたりでひとしきり笑いあった後、ぽつりとユータがつぶやいた。
「……でもちょっと、残念だなあとか思ったり?」
「え?」
何それどういうこと?
今の話の流れだと、わたしがユータを好きじゃなくて残念ってことだよね?
それってまさか……。
「な、なーんてな!」
「なんだー嘘なの? あはは!」
「ははは! さっきの仕返しな!」
「あ、あはは!」
ぎこちない笑いになってしまう。
ちょっとがっかり。でもこんなのなんともない。
だってわたしは今、ユータの一番の友達なんだから。
一緒に遊んで、笑って、話して。
これからもそれは変わることはないだろう。
笑い声をあげていたせいで、わたしはユータのつぶやきを聞き逃していた。
「……ていうのも嘘なんだよなぁ」