第5話 困惑
ダルケル歴960年 4月10日 ミュールハイム辺境
カッカッカッ
「くそ!他国に上陸されるとは!」
そういうのはミュールハイム守備隊 第3地上兵隊長であるロビン・ウエストだ。
「隊長、ヤバいですね!」
「嗚呼、早くしなくては!」
第3地上兵隊は魔導増強を使い、通常では有り得ない速度で走る。
「!?あれは!?」
ロビンが見たのはエール装甲戦闘車とレオパルト2A10だった。
ガチャ
エール装甲戦闘車から10名の地球連邦国軍兵が現れる。
「なんだ!お前ら!」
ロビンは恐怖を押し殺し、叫ぶ。
カッカッカッ
一方、10名の地球連邦国軍兵は主力小銃であるXM8を構えていた。
(くっ…これは答え方によっては国際問題になるぞ……いや、既に国際問題か。)
こう思っているのは、第886特殊部隊。通称、サーキットブレイカーの隊長であるエルハイム・ウイバレッジ少尉だ。
「私は地球連邦国軍である。敵対意志は無い。そr。」
「チキウ!?チキウ人だ!」
(は?地球人?どういうことだ?)
エルハイムの言葉を遮ってロビンは驚愕の声を上げる。
「地球人?我々は地球人ですが……何か関係が……?」
「は、はい!知らないのですね!」
ロビンは声を上げる。
ピューレサイロ王国にとってチキウ人は神に近い存在である。
ピューレサイロ王国があった場所でメルケール神話では神を倒した場所なのだから。
「メルケール神話と言う神話にありまして、人を奴隷の様に扱っていた神々を特級爆裂魔法で倒したのがチキウ人なのですよ!」
「特級爆裂魔法?なんですかそれは?」
エルハイムは特級爆裂魔法という謎の言葉に困惑する。
「特級爆裂魔法とは超大規模な爆発を起こし、キノコ雲が副産物として現れるチキウ人の叡智の結晶の攻撃なのです!」
(核か!?いや、そんなわけがない……だが、核しか当てはまらない!)
「そ、そうですか、わ、分かりました。」
「ではでは!こちらへ!」
ロビンは目を輝かせて、エルハイムを強引に誘導する。
「こ、こちら、サーキットブレイカー1。現地人と接触、なぜかは分からないがチキウ人だと言われて、強引にt。」
「では!では!」
ロビンは尚も手で強引に誘導している。
「取り敢えず、接触します。」
『わ、分かった。せ、接触してこい!』
回収チームも混乱しているようだ。
「ではでは!!!!!」
(面倒な事になりそうだな……。)
エルハイムは、肩を落とした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王都 王城
「王様!チキウ人が現れたと軍が騒いでおります!ハァハァ。」
執務官が息を切らせながら言う。
「本当かね!?どこに現れたのだ!王城へと案内なくては!」
ピューレサイロ王国の第34代国王であるカール・ピューレサイロはチキウ人が現れたことに驚愕する。
「ミュールハイム辺境だと……そして、チキウ人の目的は……。」
「目的は!?なんだ!?」
「国交締結だそう……です。」
カールは驚愕する。
「どういうことだ?チキウ人とは2500年前に友好条約を結んだはずではないのか?」
「それも言ったようですが、話を進めていくとメルケール神話に登場したチキウ人は元々チキウ人が住んでいた土地が転移してしまったことによる物では無いかということです。特級爆裂魔法等もチキウ人はカクという兵器と言っていました。チキウ人側も思い当たる節が有るそうです。」
そう、地球連邦国側には思い当たる節があった。
2021年6月7日。地球連邦国として統合された為、核兵器は必要ないとされ、廃棄処分が急遽ハイスピードで行われていた。
その時、旧アメリカが巨大な離島であるカルメール諸島に核サイロや大規模な基地を建設していた為、核サイロ以外にもカルメール諸島を観光地化する予定だった為、一大工事が始まろうとしていたのだが、突如カルメール諸島は消失した。
地球連邦国は困惑し、調査に乗り出したが何もわからなかった。
特級爆裂魔法とは核サイロから発射された核ミサイル。
カルメール諸島には何百発という核ミサイルがあった。
基地には爆撃機や戦闘機、戦闘ヘリや戦車、ミサイル駆逐艦や空母、強襲揚陸艦も配備されていた。
そうなれば、特級爆裂魔法による攻撃はカルメール諸島がそこに転移したのなら話は通じる。
カルメール諸島に配備されている核は水素の基地とも呼ばれており、核ミサイルですら軽く撃ってしまうような血気盛んな兵が沢山いたのだ。
彼等であれば、やりかねない。
「そうか、だが!早急に王都へ案内しなくては!」
「いいえ、チキウ人から来るそうです。えーと、明日には到着するそうです。」
「明日だと?有り得ない……だが、チキウ人なら有り得るか……?」
王城は混乱に包まれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ダルケル歴960年 4月11日 王都
ババババババババババ
けたたましい爆音が……ではなく、ヘリのステルス化により騒音問題は解決されている。その為、近くまで行かなければヘリの音は全く聞こえない為、王都の住民は誰も気づかなかった。
だが、近くまで来れば流石に気付くだろう。
「あ、あれはなんだ?」
「あのマークは!チキウ人じゃないか!?」
感の良い王都民は直ぐに気がつく。
外交官を乗せた大型輸送ヘリであるSBー1 デファインド6機の編隊と護衛機である攻撃ヘリのAHー64D ブロック3 5機が王城の中庭に着陸する。
王城前の警備兵もチキウ人のマークは誰でも見たことがある為、口をポカーンと開けながら上を見上げていた。
だが、AHー64D ブロック3は護衛任務を終えた為、再度SBー1の離陸時に護衛任務に着く為、一旦補給の為に上空に待機している空中給油機であるKCー46Cへ向かう。
「チキウ人だぁ!チキウ人だぞぉ!」
中庭を清掃していたメイドや執事等はチキウ人のマークを見るなり、目が輝かせて叫ぶ。
カッカッカッ
すると、すぐさまに近衛兵と共にカールが現れた。
「チキウ人の皆様朝早くからお越しいただきありがとうございます。」
SBー1から降りた護衛兵と外務省から派遣された外交官である
菊池 三郎は困惑していた。
(服装からしてお偉いさんだとは分かるのだが誰だ?)
「ええと、こちらこそありがとうございます。どなたでいらっしゃいますでしょうか?」
菊池は苦笑いしながら言う。
「も、申し遅れました!ピューレサイロ王国の王をしております
カール・ピューレサイロと申します!」
「「「「王様!?」」」」
菊池だけでなく、護衛兵までもが王様だということを知り、驚愕する。
「ではこちらへ!」
(王様、妙に目が輝いてるな……。)
菊池達は王様に案内されながら王城の中を進んでいくのだった。