第41話 超兵器を管理する者達
20XY年 11月3日 地球連邦国 コネチカット州 州都 シュールハウゼン 第1監視ビル
ここは、コネチカット州の州都に設置されている州都防衛の要を担う監視ビルである。
表向きには…。
実はこのビルは全面ガラス張りである為、監視ビルにしては異様な光景であるが、それも軍の新型監視ビルなのだろうと誰も気にはしない。
このビルは『超兵器配備委員会』の本拠地なのだ。
その最上階に設置されている委員会会議室では6人の委員会最高委員が話し合っていた。
最高委員長 ハウス・アポス
アジア州最高委員 牧野 健一
北アメリカ州最高委員 ミル・エンスト
南アメリカ州最高委員 クエスト・ウィル
ヨーロッパ州最高委員 ゴースト・フォール
南極、北極州最高委員 ヒール・ゴルメス
「統合アジア軍の超兵器配備率は約12%。ただでさえ、フィフスス同盟圏の出現がアジア州だと言うのに、アジア担当は何をしているのか?」
ヨーロッパ州担当のゴーストが眉をくの字に曲げながら言う。
「尽力しているさ。だが、ヨーロッパよりも通信網や人口も多い、技術もヨーロッパより上である為、大衆から隠す為に配備は遅れているのだ。」
アジア州担当の牧野はニヤリと笑いながら言う。
「なんだと!?」
バァンとゴーストは会議室のU字型のテーブルを拳で叩く。
「ゴースト、マキノ。趣旨を忘れたか?」
最高委員長であるハウスが一喝を入れる。
「チッ、後で覚えていろ。」
「はてはて、私はこの後仮眠を取らなければいけないのでね。」
2人の口喧嘩はハウスにより、一時中断される。
「まあ、いい。我々統合アジア軍は約12%、ヨーロッパは45%、北アメリカは56%、南アメリカは57%、南極、北極は68%であるのは重々承知している。だが、統合アジア軍はフィフスス同盟圏出現が太平洋と戦火が最初に訪れるアジアを防衛する為の超兵器は他州とは異なる。それは、委員長もわかっている筈だ。」
牧野は目を細めながら言う。
「それは知っている。しかし、予算は増大させている筈だ。上手くやってもらわねば困るぞ?」
ハウスがその頭部に取り付けられている青く光るラインがストライプとして入っている360度マルチゴーグルをより一層、光らせて暗闇に包まれている会議室で存在感を見せつける。
「それでやりくりしている。だが、それでは足りない。超兵器に関しては建設費も馬鹿にならないが、維持費も馬鹿にならない。金、金、金。全ては金でしか解決できない。」
「確か、統合アジア軍の超兵器保有は『和泉』型潜水戦艦が2隻、ハイカーラ型空母航空機が4機、『ケッシュハウンド』級潜水空母が4隻と総勢10の極小体制だろう?」
南極、北極州の担当であるヒールが声を上げる。
「嗚呼、その通りだ。統合アジア軍に特化した『和泉』型が2隻しか編入されていないのは、戦力不足であるのは誰が見ても明白だ。敵は空に艦艇を飛ばして来ると言う報告が政府からも来ている。そうであれば、海上で戦闘する戦艦より、海中も使いながら、戦闘する『和泉』とどちらが大切かは、分かるだろう?」
「しかし、1番予算を回しているのは統合アジア軍なのだが。」
「それには3ヶ月後に実戦配備されるF/Aー97 ミュールスオーリム(F/AーXX)の開発及び、試験は旧ロシアの施設を用いり、都市型施設を用いた機動試験と排気熱や風圧の計測も同施設で行った。その費用と開発費を合わせると90億ドルになる。そして、超兵器の建造は総勢10体制であるが、合わせると1800億ドルになり、これだけで1890億ドルだ。それに加え、年間軍備は増大傾向、求められる兵器の素質も年々上昇している。そうなれば、予算の増大は必然だ。」
その後の牧野の説得により、統合アジア軍は見事、軍事費増大を約束されたのだった。
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20XY年 11月6日 地球連邦国 アジア州 北海道 カムチャッカ沖
ザザザザァァァァァァァン
凍てつく寒さで肌が刺さるこの時期はこの惑星特有の魚であるシューカードはサンマやブリを二つ足して二で割ったような美味な魚である。
しかし、その代わりに凶暴で早く、小さいながら海を縦横無尽に高速に走り回る。
群れになることは少なく、団体で行動しているが、魚を集める特殊赤色ライトで海面を照らせば、途端に大人しくなり、ライトが当たる海面に集まる習性があるのだ。
そして、今日も漁用人型ロボットと無人漁船がシューカードを捕る為に航行していく。
その漁船には一つ一つにドクロマークが描かれていた。
そう、この漁船らは海賊による違法漁船なのだ。
彼等の名をシーデーモンという。
彼等は海賊といえど、RPGやアサルトライフル、手榴弾、スタングレネードにパワードスーツも保有しており、一部ではミサイル駆逐艦にミサイル巡洋艦、商船を改造した偽装空母も保有している。
シーデーモンは北海道のカムチャッカ沖で今日も横暴な海賊の腹を満たす為にシューカードを捕りに行ったのだ。
『ピッピッピッ、シューカードガ居マセン。』
1機の漁用人型ロボットが通信で探知レーダーでシューカードが居ないことを報告する。
『ンなわけねぇだろ。ちゃんと探せ。』
『分カリマシタ。シカシ、全クト言ッテイイ程居ナイノデス。』
ピッピッピッ
荒れる海の中、巨大な影がレーダーに現れる。
『何カが…。』
この声を最後に漁船らは高波に襲われ、転覆した。
その後、シーデーモンのミサイル駆逐艦が事故にあった漁船らを探すと、鉄屑が海面を散乱していたと言う。
ズズズズズズゥゥゥ…
シーデーモンの漁船らを沈めた黒い影はカムチャッカ沖の海底に潜んでいた。
グググググ…
その黒い影は鯨のようであり、鮫のようだった。
鋭い牙と黒く、装甲のように強固な鱗。流線的なボディ、尾ビレ、背ビレ。その姿はまるで、何もかも計算して造られたかのようだった。
ブクブクブクブク…
その近くに泡を吹き出しながら、『何か』が黒い影の横に接近する。
黒い影は牙を剥き出しにし、引き裂かれる…と思いきや、黒い影は『何か』に近づき、体を擦り付ける。
その『何か』は泡を噴き出しながら、紺色のいかにも、効率よく海の中を潜れるような流線的なボディに背には細長い円形の何かが取り付けられていた。
『よーし、よしよし。良い子だ、良くやったぞ。』
『何か』とは人だった。
黒い影は体を唸りながら、潜水パワードスーツに身を包んだ人に擦り付ける。
『リヴァイサン、ここでお別れだ。褒美はここのシューカードを200匹食べていい。だが、200を超えるなよ?』
潜水パワードスーツを着た者はリヴァイサンの背をポンっと叩く。
シュウウウウウウウン
リヴァイサンは一目散にシューカードを貪り食う。
その姿に潜水パワードスーツを着た者は苦笑する。
『さて、帰りますか。』
潜水パワードスーツを着た者はリヴァイサンがシューカードを200匹、きっちりと食べ終わった所を見届けて、静かにカムチャッカ沖を去っていった。