第39話 転移艦隊
2025年 9月24日 太平洋上
ザザザァァァァァァァッ
ここに大艦隊が太平洋の波をかき分けながら、航行していた。
先進2カ国が保有する空母艦隊は大規模演習の目的でこの太平洋を心地よい潮風に吹かれながら航行していたのだ。
第5護衛隊群 旗艦 空母 「いずも」 艦橋
元々はヘリコプター護衛艦であった「いずも」は空母改修中であり、施工予定が大幅に遅延してしまい、2036年に施工の予定であったが2022年に勃発した尖閣事変により、中国軍の侵攻で瞬く間に占領された尖閣諸島であったがFー35B、C型とFー15EJを中心とした航空部隊による制空権奪還と護衛艦隊による制海権奪還、特戦群を第1空挺団及びアメリカの第7艦隊が尖閣諸島を奪還した。
尖閣諸島奪還作戦では航空機26機が撃墜され、護衛艦3隻が被弾、自衛隊員95名が重軽傷を負い、13名が死亡した。
この事を受け、日本国は防衛費の増大と自衛隊を国防軍に変更した。
そして、「いずも」の施工を早め、国産空母を僅か2年で3隻建造した。
日本国は長らく平和が続いた為、尖閣事変は日本国民に多大なる影響を与えた。
左翼団体は右翼団体に駆逐され、規模は大幅に縮小した。
日本国では軍国主義団体や右翼団体が力をつけ、一部の過激な団体が中国との戦争を叫ぶなど、大変であった。
このような出来事から国防軍は総兵力56万と増大し、国防陸軍35万人、国防海軍15万人、国防空軍4万人、国防戦略空軍2万人と自衛隊時代では考えられない程、強化されたのだった。
ただし、核武装はしておらず、核三原則は核二原則に変更されたが、核に関しては日本は配備することはなかったのだ。
「いやぁ…素晴らしい光景だな…。我が第5護衛隊群とアメリカの第7艦隊。壮観だな。」
第5護衛隊群司令官である橋本 尊中将は艦橋から眺めていた。
「ええ…素晴らしいものがありますね…。」
橋本に答えたのは副司令である田中 達郎少将であった。
「しっかし…何か嫌な予感がするなぁ…。」
「変なことを言わないでください…。付近には潜水艦が待機していますし、常時レーダーはフル稼働ですよ?」
「確かにそうだが…何というか、『勘』がそう言っているんだ。」
すると、田中は笑う。
「ハハハッ有り得ないですよ。司令、ラノベの読みすぎです。」
「そんなわk。」
カァァァァァァァァッ
空が赤褐色に光り、白、黄色と変わっていく。
その場に居合わせた軍人も目を細めている。
眩い光が艦橋を襲った。
その光が晴れた後、そこにあったのは第5護衛隊群と第7艦隊が先程と同じように航行していただけであった。
「何が起きたんだ…?」
「何が起きたのでしょうか…?」
2人は口をぱっくりと開けている。
「GPSが消失!」
突如、響いたレーダー士の悲鳴。それは、艦橋をどよめきに変えた。
「どういうことだ?通信障害ではないのか?」
「いえ、し…しかも、潜水艦から地形が変わったの報告が…!」
「一体…どうなってやがる…!?」
橋本は空を見上げた。
第7艦隊 旗艦 「ロナルド・レーガン」 艦橋
橋本と同じく、第7艦隊司令であるマット・ショルダー中将は突如、差し込んだ謎の光で目がチカチカしながら、軍人の報告に耳を疑っていた。
「第5護衛隊群との通信しかとれん。どうなってるんだ…!?」
「司令!え、衛星に繋がりました!」
軍人達から歓喜の声が上がる。
「おお!やはり、通信障害だったのか!」
「ん…?お、おかしいです!これは…我が国のものでは有りません!ど、何処の国の衛星…!?」
「わかるだろう。衛星別判断信号が決まってるんだから。」
マットが言った衛星別判断信号とは2025年現在、衛星には打ち上げた国家及び所有国家や所有者が必ず、それが自らの衛星であることを示すための信号を絶えず発信しなければいけないという事が国連で決定されていた。
しかも、他国の衛星であれば接続など不可能であるが、同盟国や友好国であれば接続可能である。
しかし、その際であれば味方信号が発信されている筈だ。
それが、無いとなると何処の国の衛星なのか混乱が生じたのだった。
『…ザ…ザザ…我々は地球連邦国宇宙軍である。貴艦隊による我が多目的使用衛星に接続を確認した。しかし、貴艦隊は我が国の登録している艦艇には登録されていない。多目的使用衛星使用時には必ず登録をしなければならない。これは、国際会議で決定されたもので有り、貴艦隊はそれを無視している。その為、貴艦隊の所属を答えろ。』
マットは何を言っているのかわからなかったが、突如、無線通信で流れた為、マットは所属を言う。
「我々は、アメリカ合衆国海軍第7艦隊である。突然、光に包まれた後、貴国の衛星に接続した。我が艦隊に敵意はあらず。付近の日本国国防海軍第5護衛隊群とは友好関係にあり、同所属と考えて良い。」
マットは冷静に答えた。
『了解した。30分後に臨検用の艦艇を送る。この海域で待機せよ。』
「了解。」
この一連の会話でマットはとんでもないことが起こるのではないかと顔と態度には出さなかったが、内心では心配が心を包んでいた。
「第5護衛隊群にもこの事を伝えよ。録音はしているだろう?」
「ええ、録音した会話も同封で連絡します!」
30分後
ザザァァァァァーーーン
第7艦隊と第5護衛隊群に6隻の地球連邦国籍の艦艇が近づく。
『こちら、地球連邦国海軍第1臨検部隊。こちらからはヘリを出す為、甲板を開けよ。』
「ヘリ…同じ文明だというのか…?」
マットは驚きを隠せなかった。
それは、臨検部隊側も同じであった。
地球連邦国海軍第1臨検部隊 旗艦 「マートロス」 CIC
「こりゃ、数年前のうちらと同じだなぁ…。」
第1臨検部隊長であるハーク・モール1等海佐は艦に設置されている多目的カメラからホログラムで投影された映像を見ていた。
「しかも、日本国とアメリカ合衆国。統一前みたいですね…。」
副隊長である小倉 圭人2等海佐は顎に手をやりながら言う。
「そして、日本の方は自衛隊から国防軍…。平行世界なのか?」
「その可能性はあるかもな。平行世界から来たなんて面白いもんだ。だが、向こうにとってはこちらが平行世界から来たと思うだろうがな。」
ハークは半笑いで言った。
第7艦隊 旗艦 「ロナルド・レーガン」 甲板
「こりゃ…統一前の「ロナルド・レーガン」そっくりだな…。」
こう言いながら、カッカッと早足で歩くのは第1艦戦隊の隊長である田代 雄也1等陸尉だ。彼は、全身パワードスーツに装備されている補助AIが艦を『統一前時「ロナルド・レーガン」』と認識している事と自信がミニタリーマニアである事も相まって、態度には出さないが興奮していた。
「タシロ様、あちらの艦橋まで付いてきて下さい。」
1人の士官が誘導する。
「分かった。」
田代の後ろを6名の艦戦隊がまるで幼い子供のように付いて行った。
艦橋
「司令!第1臨検部隊第1艦戦隊と名乗る臨検部隊を連れて来ましたッ!」
威勢の良い声が響く。
「ご苦労だった。下がって良い。」
「ハッ!」
士官はそう言うとサッと幽霊のように去った。
「ところで、まず貴方の名前を聞かなければなりません。」
「おっと失礼、私の名はマット・ショルダー中将だ。この第7艦隊の司令長官を務めている。君は?」
「私の名は田代 雄也1等陸尉。この第1艦戦隊の隊長を務めている。」
田代はこういうとバイザーを上げる。
しかし、その他の隊員はバイザーを上げずに待機していた。
「タシロ1等陸尉、覚えておくよ。」
「本題に入らせてくれ。臨検を行う。」
田代がこういうと6名の隊員の他、増援にやって来た無人調査ドローンを駆使して「ロナルド・レーガン」を調査していく。
35分後
「異常はなかった。貴官からも敵意数値は0に等しい。」
「敵意数値とは何やらわからないが、分かった。」
田代がぽろっと言った敵意数値とは。それは、軍や警察が採用している頭部防衛ヘルメットを装備しているパワードスーツやバイザーのみの通信機器に装備されている敵意数値判断装置である。
これは、相手の心の状態を心拍数や表情、態度等からAIが相手の心の状態がどうなっているのか判断するモノである。
この機器は非常に重宝され、警察においては職務質問対象を簡単に見分ける事が可能だ。しかし、例外はいる為、人による見分けも必要になるのだが。
軍においては敵軍との交渉等に用いられ、交渉は相手の心の状態に合わせて、行われることが多い。
相手に有利な状態で合わせるのか、不利な状態で合わせるのかは地球連邦国ならどのような手を使うのかは分かるだろう。
「そして、隣の第5護衛隊群とやらにも別の艦戦隊を送った。異常なしとの報告があった為、これより我々は帰投する。だが、君達には帰る道が無い。その為、いr。」
「ちょ、ちょっと待て…。『帰る道が無い』とはどういうことなんだ?」
「それは、貴官らが元いた世界とはここは違うからさ。」
田代の一言に皆は驚愕する。
「ま、まぁ…そうとは思っていたが…。こう、なんというか面と向かって言われるとねぇ…。」
「確かにそうだな。まぁ…我々も…。」
「我々も?」
マットは聞き返す。
「転移国家だからな。」
「「「「「「「「「!!!!????」」」」」」」」」
驚愕が艦橋を包む。
「我々も一年前、この世界に転移した。我が国である地球連邦国ごと。薄々気がついているとは思うが、我々地球連邦国は貴艦隊が所属しているアメリカと隣の艦隊の日本が存在した惑星地球の平行世界から来たと言える。」
「平行世界…?ということは貴国は地球国家群の集まりなのか?」
「そうだ。我々が地球連邦国に統一される前と貴官らの世界とは少し世界線が異なるようだ。最も…この事を深く推測していたのは日本国の第5護衛隊群だったがな。」
田代は片耳で第5護衛隊群を臨検していた艦戦隊の事情聴取を聞いていた。
そして、第5護衛隊群はオタクの魔境とも言われており、様々な知識に特化した者達が住んでいた。
彼らにとっては異世界系の推測は朝飯前であり、光に包まれた時点から『勘』が彼等に語り告げていたのだった。
「あそこはオタクの魔境だ。奴らに推測できないことはないさ…。」
マットは呆れたように言った。