第35話 終結
20XY年 8月15日 地球連邦国 みなとみらい宇宙基地
トロント急襲から日が明け、一晩中急襲者と戦った結果、鉄塊と肉塊が散乱していた。
肉塊にはハエやウジが湧いていた。
何処からともなく現れた鳥が肉塊を貪っている。
司令部
虫一匹入る事が出来ない司令部では紺のローブを着た男が司令部内を制圧していた。
そこには銃創が壁にびっしりと叩き込まれており、どれだけの戦いかが分かる。
司令部内の軍人は全て肉塊に変えられ、血液と体液がポタポタと滴り落ちていた。
男はこれで基地内を制圧し、宇宙エレベーターを破壊するだけだと思っていた。
だが、男の捜索の甘さが後に命取りとなってしまうのだった。
特殊作戦会議室
司令部の更に奥深くに存在する施設である特殊作戦会議室はその名の通り、盗聴等を防ぐ為に遮音性が高く、会議の内容は機器を用いても分からず、盗聴機器を使えば逆探知されてしまう。
それ程の施設だったのだ。
「敵は気付いていないようだな。」
特殊作戦会議室長の大倉 康雄大将は天井を見上げる。
「知らない…天井だ…。」
室員の誰かがそう呟いた。
「お前らはいつも知ってるだろ。そこでエヴァネタを突っ込んでくるのは辞めろ。」
大倉は一喝する。
「エヴァネタはどうでもいいですが、確か…抗生バクテリア弾が有りましたよね…?」
室員の1人が手を挙げる。
抗生バクテリア弾…それは、大型魔獣に対応して作られた短期間で敵の細胞を徹底的に破壊し、生物であれば必ず撃破が可能な兵器だ。
それは、人にも効果がある。
「抗生バクテリア弾か…効くかどうかは分からないが試すだけ試してみよう。地上部隊に通達!抗生バクテリア弾による攻撃を開始せよ!」
地上
『ザザ…ザ…地上部隊に通達する。第6特殊兵器庫へ移動後、歩兵用レールガンCDMー65により、バリアを貫き、抗生バクテリア弾を口内へ発射せよ。』
突如、響いた脳内無線LANからの通達に残存していた地球連邦兵は驚愕したが、敵を殺らなければ事態は変わらない為、一致団結し、第1兵器庫から携行レールガンでバリアを貫く部隊と抗生バクテリア弾による攻撃部隊に分かれた。
カッカッカッ
次々と地球連邦兵が動き出した。
「こちら、レールガン部隊。レールガンの取得に成功した。」
早くもレールガン部隊が動きを見せた。
『こちら、抗生バクテリア弾発射部隊。抗生バクテリア弾の取得に成功。』
危機に瀕した地球連邦兵の仕事は早かった。
ドゥルルルルルルル
任務を遂行する為、ファイズ高速機動車がその途轍も無い高速性とステルス性、静音製で男に近づく。
荷台には地球連邦兵が寝そべりながらCDMー65を構えている。
全4輌のファイズ高速機動車は男を囲みながらCDMー65を的確に命中させ、装備されている13mm機関銃を乱射する。
スタングレネード弾や徹甲弾等ごちゃ混ぜな射撃だったが、見たこともない作戦に男は驚きを隠せない。
『…な、何起きている…!?』
男は驚愕した。昨晩から殺戮を繰り返し、司令部と思われる場所も制圧した。
敵の車両は壊滅、飛行兵器も破壊し尽くした筈だった。
ヴヴヴヴヴヴッ
上空からは地球連邦兵が放った携行ドローンにより、電磁攻撃が行われていた。
地球連邦兵は手榴弾サイズの樽のような形状の物に黄色いピンが刺さっており、そのピンを抜くと変形し、4枚のプロペラが現れ、そのプロペラを超高速回転させて飛行するのだ。
現在、地球連邦兵が放った携行ドローンは1機ではなく、23機飛行している。
携行ドローンは機体下部に取り付けられている反射電磁砲を用いて、空気中に存在する電磁波を取り込み、それを反射させて強力にして放つ事が可能だ。
複数機飛行している場合はその場で連携を取り、電磁波を複数機で同時に反射させ、より攻撃を強力にする事が可能である。
バチチチィィッ
男は連射されたレールガンとドローンによる電磁波攻撃で真っ黒に染まり、白い煙を吐き出しながら膝から崩れ落ちる。
「今だッ!!!」
地球連邦兵の1人が叫んだ。
すると、地球連邦兵が男を取り囲み、熱で溶けていくパワードスーツには目もくれず、男の口を開ける。
「早く、撃ち込めぇ!」
パァァァン
レオパルト3から発射された抗生バクテリア弾は見事、男の口の中に命中する。
その衝撃で地球連邦兵は吹き飛んだが、パワードスーツにより、事なきを得る。
「やったか!?」
男は治癒魔法を用い、ゆっくりと起き上がる。
『ぐ…痛…何だ………痛い…痛い…痛い…痛い…痛い痛い痛い痛いィ…ウワァァァァァッ!!!!』
男は悶絶し、アスファルトを砕きながら頭を叩きつける。
男は頭蓋骨の破片と脳漿を撒き散らしながら、狂ったように頭を振る。
『痛い…痛い痛い…あ”ぁ”ぁ”ぁ”ッ!!!!』
今度は全身を地面に叩きつけ、身体中から体液や緑色の血液が垂れる。
パァァァン
頭が破裂し、男は勢いよく後ろに倒れた。
「や…やったのか…?」
地球連邦兵は恐る恐る原型を留めていない男の亡骸に近づく。
「「「「ウォーーーーーーーッ!!」」」」
地球連邦兵は一斉に拳を突き上げ、祝福を挙げた。
特殊作戦会議室
「遂にやったか…。」
巨大なホログラムスクリーンに投影された地球連邦兵からの映像に大倉は安堵する。
「今回の戦闘は被害が大きすぎました。フィフスス同盟圏…やはり、手強いですね。」
室員の1人がホログラムスクリーンを凝視しながら言う。
「あと2年…我々は更なる発展をしなければいけないな…。」
こうして8.14事件は終わったように見えた。
しかし、みなとみらい宇宙基地での戦闘を上回る戦闘が待ち構えているとはまだ誰も知らなかった。