第31話 隠蔽
短めです
20XY年 8月13日 地球連邦国 大統領官邸
「フィフスス同盟圏は確実に手を打ってきてるな。」
クリーンは珍しく紅茶を口にしながら言う。
「嗚呼、始まりの入間基地から仁川基地、北京基地に平壌基地の計4基地の襲来。しかも、アジア州に限っての事だ。やはり、時空転移装置による時空移動反応がアジア州から多く検出されているというのも関係しているのかもしれないな。」
「それは、確実だろう。統合アジア軍の軍拡20XZ年軍事白書に記さなくてはならない。」
クリーンは目を擦った。
「Xデーまで後2年程。もう、来たる時は迫っている。」
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ダルケル歴 461年 8月16日 ワルサー民衆国 首都 コスミック 首相官邸
「我々はこのお告げを世界に広めなくてならない。」
時の首相であるメーカル・サコスは官房長官であるマインツ・イシュールに言った。
「『フィフスス同盟圏の襲来』の事は世界も知らない事です。世界を救う為、我々は動かなくてはなりません。」
「嗚呼、直ちに新聞各社に伝えろ。」
地球連邦国から西側に位置するワルサー民衆国は、1年に一度だけ行う精霊を呼び出す儀式で今後の災厄等をお告げしてもらうのだが、今回は『2年後にフィフスス同盟圏の襲来』というお告げが来てしまった。
フィフスス同盟圏の襲来は二国で国家機密としていたのだが、ワルサー民衆国がその機密を発表しようとしていたのだ。
地球連邦国大使館
「やはり、精霊のお告げはフィフスス同盟圏の事を告げたのか…。」
大使であるホルス・リッカートンは顎をさすりながら言う。
「ええ、これは処分しなければなりませんね。」
「嗚呼、国家機密が明るみに出るのであれば処分は免れないだろう。」
ホルスと部下はホログラムで投影されているメーカルとマインツが居る首相官邸の映像をリアルタイムで見ていたのだった。
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同時刻 地球連邦国 ロンドン 西側機密情報局本部
ロンドンに設置されているEWCIB(地球連邦国西側機密情報局)の本部では、ワルサー民衆国のフィフスス同盟圏の公表予定を受け、ワルサー民衆国に設置されている大使館に配備されている特殊部隊の出動を命じた。
「フィフスス同盟圏の事は必ず秘密にしなければならない。でなければ、我々がこの1年間で活動してきた意味がない。」
局長である本美 真名は本部で後方支援を行う隊員に向けて言う。
「前線では大使館特殊部隊が動くが、後方からの戦略指示やバックアップは重要だ。蔑ろにするなよ?」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
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1時間後 ワルサー民衆国 首都
地球連邦国の介入により、アスファルトと道路や鉄筋コンクリートの建物が増えてきた首都で忍者のようにビルとビルを素早く駆け回る透明の男達が居た。
地球連邦国大使館特殊部隊である。
全身パワードスーツに光学迷彩モードでビル群を駆け回る。
彼等の目標は首相官邸に居る首相と官房長官の暗殺。
彼等はその目標を達する為、向かうのだった。
首相官邸 執務室
首相官邸の執務室でコーヒーを飲みながら、夕日に照らされているメーカルを窓の外から覗く2名の男が居た。
「ふぅ、1日が終わったな…。フィフスス同盟圏…どのような災厄を生み出すのk…うっ!」
シャッ
メーカルは素早く侵入する男達に気づかなかった。
彼等は、素早くメーカルの首を折る。
メーカルの首は有り得ない方向に曲がっている。
「ミッションコンプリート。帰投する。」
大使館特殊部隊は2つに分かれ、首相暗殺班と官房長官暗殺班に分かれていた。
首相暗殺班は素早くロープを使った首吊り自殺に見せかけ、近くに台となるものを設置する。
首相の暗殺は簡単であるが、官房長官の暗殺は容易ではない為、官房長官暗殺班が無事にやっているか彼等は、官房長官暗殺班が無事に帰ってくる事を思い馳せながら帰投した。
同時刻 廊下
首相官邸の廊下をマインツは他の職員に挨拶しながら歩いていた。
窓から涼しい風が流れ込む。
「ふぅ、涼しい…。」
マインツは涼しい風に心地良さを存分に感じながらゆっくりと歩く。
「こんにちは!」
すると、マインツの前から職員の元気な挨拶を貰う。
「どうも、こんにちは。」
職員は元気そうにスタスタと歩いて行った。
「元気で何よりだ…うぐっ!」
マインツは窓から何者かに引きずり出される。
「な、なんだお前らッ!」
マインツは窓から放り出され、地面へ落下する。
「うわぁぁぁっ!」
マインツは絶叫する。
「ん?」
先程マインツに挨拶した職員が後ろを振り返る。
(叫び声がしたと思ったんだけど…気のせいか。)
職員はスタスタと帰ってしまった。
ドシャ
マインツが首相官邸の駐馬場で脳漿を垂れ流し、眼球が飛び出ているおぞましい光景を露呈している。
そして、マインツが数秒前まで居た廊下がある建物の上でニヤリと大使館特殊部隊は笑っていた。
30分後
カッカッカッ
1名の警備員がいつものように駐馬場を警備していた。
今日もいつも通り、何もなく終わると彼は思っていた。
「…なんだあれ…大きいな…?」
警備員は何かがあると思ったのかおもむろに近づく。
警備員は落下物である駐馬場で息絶えていたマインツを発見する。
「う…う、うわぁぁッ!」
警備員は腰を抜かし、盛大に倒れ込む。
警備員の悲鳴を聞き、他の警備員も駆け付ける。
カッカッカッ
「どうしたッ!?」
警備員は倒れ込む1名の警備員の前に1名の遺体がある事に気付く。
「こ…これは…マ、マインツ官房長官じゃ…ないか…。」
駆け付けた警備員は驚きを隠せない。
「キャアアアッ!」
首相が居る執務室の方から悲鳴が聞こえた。