第21話 出現
ダルケル歴460年 6月3日 ハンディー帝国 マルコス州
ここは、第3文明圏の列強国の一角であるハンディー帝国の帝都の隣に位置するマルコス州だ。
ここでは、第一次世界大戦レベルの兵器が配備されている。
帝都になると第二次世界大戦レベルの銃が主力だが。
そんな所に第3文明圏を恐怖に陥れる生物が眠っていることなど気づく訳がなかった。
魔獣や魔物が多数出現するマルコス州では警備兵が魔獣や魔物の出現を監視することとなっていた。
そして、今日の監視当番であるウィル・マッカーとモート・ピアスの2人はいつも通り、双眼鏡で監視していた。
「最近、魔獣とか全然いないよな。」
ウィルは双眼鏡にいつもなら1匹は最低見つかるのに見つからないことに疑問を呈す。
「本当そうだよな。なんかの前触れかな?」
「変な事言うなよ!」
「そんなことないよなッ!」
2人は笑いあった。
だが、モートの言葉が本当だとはまだ誰も気づかなかった。
第2兵舎 第223部屋
ここは2人部屋で、夕飯や風呂に入り終わり、就寝の準備をしているウィルとモートの姿があった。
「ふぅ……寝るか。」
「嗚呼、早く寝y。」
ドドドォォォォーーーーーン
兵舎の北側にある山脈から爆音が鳴り響く。
「な、なんだ!?」
2人が窓を覗くと巨大な龍が居た。
「焔龍だ……。」
焔龍……。焔龍とは、魔獣の中で最強である龍の中で最強と言われている龍だ。
焔龍は1000年前に確認されてから、1度と目撃されておらず、存在自体が疑われていた。
焔龍は1000年前に猛威を振るった。
いくつもの国が滅亡した。その為、国家同士が協力し合い、超大規模攻撃魔法を発動し、見事焔龍を倒した。
その超大規模攻撃魔法の名は原子爆弾。
1000年前に地球から転移したある国の兵器であった。
爆発すると、キノコ雲が現れ、草木は枯れ、生物は住めない土地と化す。
そして、爆発後の黒い雨は特徴的だ。
焔龍は飛び立ち、その獰猛な姿を姿を見せながら、消えていった。
「こ、これは……大変な事になるぞ……!」
ウィルは静かに呟いた。
同時刻 帝都 官邸
「焔龍だと!?」
ハンディー帝国大統領であるビル・ウィグナーは目を見開いた。
「ええ、焔龍がマルコス州で出現し、帝都へ向かってるとの事です……。」
補佐官であるシェイカー・ミュールは、目を泳がせながら言う。
「直ちに軍を派遣しろ!焔龍の出現は国家難だ!」
「ハッ!」
補佐官は走って、部屋を出る。
「焔龍……果たして殺れるか……?」
ビルはそういうと、チキュウ連邦国産の酒であるウイスキーを飲んだ。
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ダルケル歴 460年 6月4日 ハンディー帝国 ミュールハイム州
ここは、帝都の隣に位置する州だ。普段は、演習等で使用されている演習場は焔龍用に改修されていた。
そして、焔龍の出現により、陸上には4個旅団が待機している。
ドゥルルルルルルルルルン
上空ではハンディー帝国空軍の主力機であるF-775W モルトス 13機で編成される第33帝都防空隊は、その大出力レシプロエンジンを最大限に稼働させながら、飛行していた。
隊長であるギュル・サッター少佐は、焔龍を撃墜せんと意気込んでいた。
「焔龍を絶対に近づけさせるなよ!帝都からは民間人や役人は疎開しているが、ここは我が帝国の最重要都市だ!決して被害は出すなよ!」
『『『『『了解!』』』』』
ギュルは魔導無線で呼びかける。
すると、目の前に焔龍が現れる。
ギャアアアアアアアアアアッ!!!!!!
焔龍の咆哮がミュールハイム州を包む。
「く……鼓膜が……破れる……ッ!」
ギュルは耳を押える。
「よしッ!お前ら!行くぞ!」
第33帝都防空隊は、焔龍を撃墜する為に向かうのだった。
一方陸上では……。
「戦車大隊は各自砲撃開始!」
「補給部隊は後方へ下がれ!」
「大砲を早く動かせ!」
総勢9650人の4個旅団は焔龍に向けて攻撃を仕掛ける。
ドォーンドォーンドォーン
まずは、ハンディー帝国陸軍主力重戦車のGT-88 クランクが100mm主砲弾を放つ。
その砲弾は見事焔龍に命中するが、硬い鱗に弾き返される。
ドォーンドォーンドォーン
「大砲を起動!各々砲撃を開始しろ!」
すると、固定式60mm砲が爆音を響かせながら60mm砲弾を吐き出す。
ドォォーーーンドォォーーーン
「弾切れですッ!」
「次弾装填!隙を与えるな!」
砲弾の着弾により、焔龍を包んでいた黒煙は一時弾切れで晴れる。
「き……効いていない……だ……と!?」
焔龍は鱗の1枚も剥がれずに静かにその場に留まっていた。
ギャアアアアアアアアアアッ!!!
焔龍は咆哮をあげると炎のブレスを吐き出した。
それは、炎と言うよりも光線のようであった。
一瞬にして、大地が捲りあがり、爆発する。
ガガガガガガッガガッ
陸上部隊は壊滅し、航空部隊はマルコス州や帝都に配備されている航空隊を総動員して焔龍を倒す為に攻撃を必死で行う。
航空部隊の20mm機銃が火を噴く。
キィンキィン
その20mm機銃は強固な鱗に弾き返される。
「MH-44を投下しろ!」
ギュルは無線に向かい、怒鳴る。
MH-44とはハンディー帝国の航空機搭載用の対地用無誘導爆弾である。
ハンディー帝国で長年採用されてきたMHシリーズの最新型だ。
第33防空隊は息を合わせて、MH-44を投下する。
全26発のMH-44は焔龍に見事命中する。
ドドドォォォォーーーーーン
一瞬にして爆炎が焔龍を包み込む。
「やったか!?」
黒煙が晴れた後に居たのは、未だ健全な焔龍の姿だった。
「何故だッ!何故、ダメージを与えられないッ!」
ギャアアアアアアアアアアッ!!!!
焔龍は突如、咆哮をあげる。
すると、焔龍の口が上空へ向く。
予想通りであった。
焔龍から発せられた炎の光線は第33帝都防空隊を包み込む。
「クソ!ここまで……か……。」
ギュルは悔しそうな声を出して、炎の光線に巻き込まれ、溶けゆく体を見つめながら、故郷を思い馳せた。
楽しく、辛い毎日が思い出される。
だが、その毎日はいつまでも続くと思っていた。
「どうしてだ……どうしてだよ……なんで……!」
炎の光線を受け、墜落する自機の中でギュルは自分に問いかける。
「く……全身が痛い……もう墜落する……ッ!」
ギュルはそういうと大地へ散った。