第16話 艦観式
20XX年 4月19日 アイルランド基地 「ジェラルド・R・フォード」
バババババババババババババ
大型輸送ヘリであるMiー26Pはその巨躯を見せつけながら着陸する。
Miー26PはMiー26シリーズの最新型だ。
SBー1より巨大で70名もの兵を輸送可能。
吊り下げ輸送であれば、小型旅客機程は輸送可能だ。
そして、Miー26Pの最大の特徴は二重反転ローターと推進用プロペラを採用している事だ。
これは、SBー1を巨大化させたような機だと思われがちであるが、本当は違う。
Miー26シリーズはP型まで改良に改良をされてきた為、その形は初期型と大きく異なっている。
ステルス化と高速性や高機動性の付与、チャフやフレアを掛け合わせた欺瞞弾の搭載等で外見や中身まで変わっているのだ。
「ここが、今回の艦観式で視察団の皆様が観覧する艦です。」
佐藤は先に降りて、説明する。
「ここは……島か……?」
カールは左右を見るが何処までも続いてそうで困惑する。
「この艦は「ジェラルド・R・フォード」です。地球連邦国の統一前に東側に存在していたアメリカ合衆国という国家の歴代大統領の1人の名前が付けられています。」
佐藤は淡々と説明する。
「これ程の艦を建造するには、途轍もないお金が必要です。チキュウ連邦国の軍事費は幾らほどに?」
アールは聞く。
彼女は大蔵省代表。何百、いや何千という艦艇を保有する地球連邦国は軍事費にどれだけの金額を使っているのかが気になったのだ。
「軍事費は現在、1兆7000億ドル(200兆円)……いや、貴国の通貨で約200万白金貨でしょうかね。」
「「「「「「「「……!?」」」」」」」」
視察団一行は言葉が出なかった。
簡単に言えば1白金貨は1億円だ。
200万白金貨などエビデンス共和国ですら90万白金貨程である。
しかも、エビデンス共和国はGDPの2割を軍事費に当てている。
対して地球連邦国はGDPの1割程である。
つまり、本気を出せばこの惑星など簡単に占領可能なのだ。
占領する理由と占領するメリットは無いのだが。
「ではまもなく始まります。露天艦橋へ向かいましょう。」
視察団一行は仮設露天艦橋へ向かう。
露天艦橋
『まもなく、第2回艦観式を始めます。』
こうアナウンスが流れた直後、地球連邦国マーチが各スピーカーから流れる。
その戦意をかきたてる音楽は艦内を包む。
すると、艦隊がすぐ横を航行する。
原子力空母の「クレイグ・ハリソン」を中心とするジュネーブを防衛する第1防衛艦隊だ。
この艦隊は巡洋艦である「アドミラル・ウシャコフ」級の後継艦である「サブラミナル・ファウスト」級巡洋艦を唯一編成しているとして有名である。
『あちらより、現れましたのは地球連邦国の首都ジュネーブを防衛する為の艦隊である第1防衛艦隊です。』
その逞しい姿を見せながら、第1防衛艦隊は「ジェラルド・R・フォード」の横を航行する。
『続いて現れましたのは第1防衛艦隊に続き、第2~第3防衛艦隊です。』
「おおッ!」
カールは思わず声を上げる。
「ジェラルド・R・フォード」の後ろから第2~第3防衛艦隊が現れる。
その姿は地球連邦国マーチと重なり、途轍もなく力強かった。
第2~第3防衛艦隊は2隻の原子力戦艦を編成している事で有名だ。
その艦の名は、「大和」と「アイオワ」だ。
56cmレールガンであるREー03を搭載、威力は風圧でミサイル艇やコルベットは大破してしまう程だ。
このレールガンは以前第2試験艦隊で試験されたレールガンを改良した高威力レールガンだ。
「大和」が艦隊の先頭を航行し、艦隊の後ろを「アイオワ」が航行していた。
「うぉ!凄いッ!」
カールは興奮している。
「あれ程の艦艇を建造できるとは……。」
シャベルは口をぱっくり空けながら言う。
第2防衛艦隊と第3防衛艦隊は第1防衛艦隊と合流し、「ジェラルド・R・フォード」の前後左右に付く。
ザァァァァァァーーーッ
その大艦隊の隙間を縫うように駆け回る16隻の小型艦が居た。
『我が艦隊の隙間を駆け回りますのは、不審船や領海侵犯を行った船舶を取り締まる無人高速ミサイル艇である「キャルロス」級高速ミサイル艇です。』
「キャルロス」級高速ミサイル艇はその高機動性を発揮し、ウォータージェットエンジンをさらに加速させて駆け回る。
しかも、無人艦である為、有人艦では不可能な航行が可能であるのだ。
住居スペースや食料庫をそのまま弾薬庫として使用出来るのだから。
「おお……凄い速度だ……ッ。」
カールは仮設露天艦橋から身を乗り出す。
ザザザザザァァァァァァーーッ
大艦隊の前方から突然艦隊が現れる……と思ったら突然消えたのだ。
「……!?あれは……なんだ?」
カールはその艦隊の姿に疑問を呈す。
『前方から現れましたのは第6隠密艦隊です。第6隠密艦隊は光学迷彩を纏っている為、隠密活動が可能となっております。ただし、光学迷彩を纏う代わりに消費する燃料は桁違いです。』
第6隠密艦隊はその隠密さを保ちながら近付いてくる。
アナウンスでも伝えられたが、光学迷彩はとてつもないエネルギーを消費する。
それを維持する為には途轍もない技術力が必要である。
パワードスーツレベルの光学迷彩であればそれ程エネルギーは消費しないが艦艇というレベルになると光学迷彩を維持する為には莫大なエネルギーが必要とされるのだ。
エネルギーに関しては核融合炉搭載艦であれば問題無いのだが、核融合炉は巨大である。
核融合炉の小型化は昔から言われてきたことである。
だが、技術力が足りない為、巡洋艦レベルの艦艇にしか小型核融合炉は積めないのだ。
ましてや、隠密艦隊である為、いちいち空母を引き連れる訳にも行かず、小型艦を何隻も編成しているのだ。
だが、それは核融合炉搭載艦の巡洋艦である「神通」により解決していると言われているが。
ザザァァァッ
第6隠密艦隊は大艦隊の隙間を縫い、Uターンする。
「なんという機動性だ……!?」
シャベルは目を見開いている。
ザッザザァァァッザッ
突如、海面から黒い何かが浮かび上がってくる。
『我が艦隊の海面から現れましたのは第3潜水艦隊です。』
そう、海面から現れた黒い何かは潜水艦であったのだ。
第3潜水艦隊はその名の通り、潜水艦を主体とする艦隊である。
旗艦は原子力潜水艦の「シーウルフ」級原子力潜水艦の後継艦である「ファイヤーウルフ」級原子力潜水艦の「ファイヤーウルフ」である。
補給は潜水補給艦である「フォルティール」級潜水補給艦や潜水母艦である「ポイント」級潜水母艦が付く筈であるが、今回は潜水補給艦や潜水母艦は編成しない形で登場したのだった。
その後、自衛隊マーチ等が演奏され、地球連邦国軍の強大さを視察団一行は思い知るのだった。