Ⅰ 白銀の魔法少女
――一瞬の閃光。
――強烈な衝撃。
――鼓膜が破れそうな爆発音。
俺の体は爆風に吹き飛ばされて宙を舞った。
そこで見たのは茜色の炎。
耳鳴りが止まらない。
次に俺を待っていたのは硬いアスファルトの地面だ。
ズダァーン!
――と体が地面に激しく打ち付けられた。
俺は頭を打たないようとっさに受身を取っていた。
飛ばされた勢いのまましばらく地面の上を転がり続けた。
地面を転がり続けることで体に受ける衝撃を逃がし、ダメージを最小限に留めた。
俺は体育会系ではない。特別に何かをやっていたわけではないが、これがいわゆる『本能』というやつなのだろうか。自然と自分の身を守るように体が動いた。
俺の体は何かにぶつかったところで止まった。ちょうど仰向けの状態で止まったので真っ青な快晴の空が目に映った。
目は見えている。だが、体の感覚がない。
音は……聞こえない。匂いもしない。
声が出せない。腕が動かない。足も動かない。
体が言う事を聞かない。
初めての体験。
何が起こったのかはわからない。だが、いくつかの推論は立てられる。
しかし、俺の意識はできるだけこの現実を認識しないように働こうとした。
視界に煙のようなものが映る。
数秒前、俺の身に起こった出来事を思い出す。
それから、今の俺の身体の状態について思考する。
恐怖――という感情が心の奥底からじわじわと沸き起こってくる。
俺は何を恐れているのだろう。
ついさっき俺が直面した出来事に対して?
それとも、俺の身に起こってしまった出来事について?
それとも、この先の俺の人生について?
いや、考えるのを止めよう。
もうなるようにしかならないのだから。
俺は眼蓋を閉じた。唯一残っていた五感である視覚までをも失ってしまったら、俺はどうなるのか。
暗い……。そこには何もない。自分がどこにいるのかさえ分からない。
俺はまだこの世に存在している。それは間違いない。こうして思考を巡らせているのだ。それが俺の生きている証だ。何もない世界の中で自分の意識だけが動いている状態――。
目を開ければこの何もない世界からは解き放たれる。しかし、目が見えるのと見えないのと、どちらのほうが恐いだろうか。もしこのまま死を迎えるだけであれば、目を瞑っていたほうが恐怖は和らぐのかもしれない。だが、生きる希望を持ち続けるためには唯一残った五感を明日への希望に変えていく必要がある。
〝まだ死にたくない〟
その強い思いとともに、俺は両目を開けて再び景色を自分の視覚に受け入れる決心をした。俺は眼前に広がるただ青々と輝くだけの無機質な情景を心に描いていたが、そこにあった色は〝青〟ではなく〝白〟だった。
雪が降ってきた。
季節はずれの。
雪国でもないこの街で。
空は晴れているというのに。
そして、俺の視界は上空に浮かぶ人影を捉えた。透き通るような銀髪がやけにこの雪景色に映える。何もかもを見透かしているかのような目で俺を見下ろしている。箒のような物に跨って、右手には先端に球体が着いている杖のようなものを持っている。身体にはローブを纏い、それら全てが白一色に統一されていて、まるで降り続ける雪に合わせてコーディネイトしているかのようだ。
そうだ。
あれは魔法少女だ。
助けに来てくれたのか?
いや、もしかするとさっきのはあいつの仕業かもしれない。
よしんば助けに来てくれたのだとして、いくら魔法少女といえども、こんな状態になってしまった人間を元に戻すことなんてできないだろう。なんせ、もう全身の感覚がないのだ。それに、何だか意識も……朦朧と……してきた。
そろそろ、考えるのも疲れてきた。
目を開けているのも……辛く……なってきた。
目を閉じれば……ほら……もう楽になれるじゃないか……。