プロローグ
かつての日本は男社会と表現されていたようにどの産業、どの業種、どの仕事においても常に男性がリードし、国を引っ張っていた。しかし、数十年前に日本の研究者が地球を取り巻く新エネルギー『マナ』の存在を発見したことでこの国の有り様は大きく変わっていく。
日本は独自にマナの研究を進め、やがてマナに直接作用を及ぼすことのできる少女たちがいることを突き止めた。研究は第二段階へと移行し、主に彼女たちの持つ力とその利用可能性について探る研究が進められた。それと並行するかたちで時の政府は力を持った少女――魔法少女の発掘と育成にも力を入れるようになり、魔法研究は加速度的に進展する。
日本政府はマナの分布状況の調査を行い、魔法少女の能力開発を推進し、産業への応用可能性の研究を進め、将来を見据えた新たな国の仕組みづくりを行った。そして、マナを源泉とする産業構造の改革を国の長期的な基本政策に掲げるようになった。政府が目指すこの一連の改革は〝新世紀エネルギー革命の始まり″または〝新世紀産業革命の幕開け〟と呼ばれるようになった。
日本政府はマナと魔法少女の調査・研究を進めながら、序々に諸外国との距離を置くようになっていった。近代において急速に進んだグローバル化は日本の産業を弱体化させ、日本の独自技術の海外への流出を招いた。徒党を組んだ諸外国の数の圧力により、日本は産業・スポーツ・文化など、様々な分野においてその優位性を一方的に失わされ、世界一の働き者と呼ばれた日本人はその血と涙の結晶を他国に搾取され続けた。そのような理不尽な国際社会に対抗するため、日本は独自のエネルギー革命を模索し、現代版の鎖国政策とも言われる外交政策をとるようになったのである。
時の総理大臣は将来的にエネルギーと食料の自給率を100%にすることを宣言し、出生率の大幅な向上と犯罪件数の急速な低減を目標に掲げ、世界から核の恐怖を根絶すると声高に叫んだ。いずれも『マナ』と『魔法少女』を基盤とする産業構造の変革によって描ける新たな未来予想図だ。この一連の研究・技術開発・社会変革の最終目標は日本発の世界革命ということになるだろう。そして、その第一歩はこの日本において着実に踏み出されている。すでに日本の国防、治安維持、消防、医療の四分野は魔法少女と切っても切れない関係にある。その他の分野に関しても退役した元魔法少女たちが主要な役職を占め、彼女たちの強烈なリーダーシップで全てが動いている。もはや男社会という言葉はこの国のどこにも存在しない。今やこの国を引っ張っているのは紛れもなく日本全国にいる現役の魔法少女たちと、過去に魔法少女であった者たちなのだ。