16:家と姉だよレンくんちゃん!
エルコさんとの取引を終えた後、俺は彼女に連れられて郊外の農業エリアに向かっていた。
二人で歩いていると、やたらと他のプレイヤーたちが見てくる。
「あっ、『大商人』のエルコさんだ!」
「隣にいるのって噂のレンちゃんじゃねーか?」
「美人二人は絵になるなぁ……!」
どうやらエルコさんのほうもかなりの有名人物らしい。そんな彼女と連れ立って歩くことで、注目度も倍になってしまった……!
思わず身を竦めると、俺の背中をバシバシと彼女は叩いてきた。
「シャキっとしなさいなレンちゃん! ゲームの世界は広いようで狭いからねぇ、何かしらで有名になると嫌でも注目の的になるってもんよ。
特に昔のMMOと違って、VRだとわかりやすく視線を向けられるからね~。恐縮してても仕方ないって」
「は、はい……」
恐縮しているというか何というか、顔を覚えられたことで狩りに誘われるのが嫌なんだけどなぁ……!
断って悪態でも吐かれたら気分悪いし、なにより俺の目標は優雅なスローライフだからな。狩りは自分がしたくなった時だけでいいのだ。
そんなことを思っていると、いよいよ俺たちは農業エリアに辿り着いた。
畑付きのこじんまりとしたウッドハウスがいくつも立ち並んでいる。
「じゃあレンちゃん、この中から好きな家を選びなさいな。と言ってもまぁ家の内装は全部空っぽなんだけどね。家具はまた買い揃えなきゃダメよ」
「なるほど……じゃあ畑が大きめなあそこでいいかな」
俺が選んだのは端っこのほうにあるウッドハウスだった。
街よりもさらに数十歩離れてしまうが、その分土地は大きめだ。
さっそく家の前に行くと『この家を購入しますか? 価格は一千万ゴールド。ローンで支払う場合、頭金は三十万ゴールド必要になります』と出た。
三十万ならギリギリ払えるな。初日にたくさん買ったマーダーベアーの素材と昨日のジャイアント・センチピードの素材全部を、それくらいで買い取ってもらったのだ。
これでまたまたお金が無くなっちゃうけど、まぁ男は度胸だ! 俺はポチッと購入ボタンを押した。
その瞬間、『おめでとうございます! レンさんは家と土地を手に入れました!』と元気なメッセージウィンドウが出る。エルコさんも手を叩いて俺のことを祝福してくれた。
「おめでとうレンちゃん、これで一国一城の主ね! ジョブにクラフトメイカーを選んでる場合は畑で農作業が出来るから、フィールドで採れた薬草系アイテムを量産することが出来るわよ。
それとNPCを雇って寝ている間に作業させることも出来るから、覚えておくといいわ」
「はい、ありがとうございますエルコさん。何から何まで助けていただいて……」
「いやいやいいのよっ! なにせレンちゃんは、将来の妹になるかもしれない存在だし……」
んっ、んんッ!? 将来の妹っ!? 何言ってんだこの人!?
ギョっと驚く俺に、エルコさんはいたずらっぽい笑みを浮かべて言ってくる。
「いや~、実はアタシ……テツのリアルお姉さまなのよねぇ!
それで昨日、ウチの馬鹿弟がレンちゃんみたいな美少女のことを連れ回してたからどういう関係か聞いてみたら、『高校で知り合った女友達だ』って教えられてさぁ。
まぁつまり、これからそういう関係に至る可能性もあるってことで……うふふふふふ……!」
は……はぁあああああああーーーーーーーッ!?
あの馬鹿野郎、パーティの仲間だけじゃなくて家族にまで見栄張って嘘吐きやがったのかよッ!?
アイツめぇ……リアルで会ったらとっちめてやるッッッ!
俺は「ついにあの童貞丸出しゲーマー弟にも春が来たのねぇ」と幸せそうに笑うエルコさんを前に、乾いた笑いを出しながらそう決意したのだった。
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